シンの家は渋谷周辺にある設定で
修正済みです
5月20日 昼休み
「おい蓮、あれ見ろよ。テストの結果が張り出されてるぜ」
昼休みに昇降口の前を通りかかると、生徒たちが集まって自分の成績を確認していた。秀尽はクラスによっては進学組なので、成績を気にする生徒は多い。
今回の成績は……中間よりやや上だ。
「ふむふむ。これなら仲間にも示しがつくな。どれどれ、他のみんなは……アン殿は真ん中ぐらい。リュージは……ダメダメじゃねえか。勉強会の意味あったのか?これ」
シンの順位は……学年3位だ。
「シンのやつ3位じゃねえか、やるもんだなぁ。お前も負けんなよ」
5月20日 放課後 間薙 シン
授業が終わった。……が、すぐ帰る気にならない。家に居ると色々考えてしまって気持ちが落ち着かない。何処か、もう少し落ち着いて本を読めるところを探したい。さて、どうしよう。
靴を履いて、どこへ行こうか悩んでいると、昇降口の前で台車を押そうとしている女子生徒を見かけた。積んであるのは園芸用の土や肥料だ。一袋でも数十kgありそうなのに、胸の高さまでずっしり積み上がっている。どうやら重すぎて動かないらしい。
手伝った方がいいだろうか……。
「う…うごか…っ!」
「…………大丈夫か?」
思わず呆れて声をかけると、女子生徒は少しはっとした様子でこちらを向いた。
「ごめんなさい。邪魔だったかしら」
「いや、そんな事はないが……。動かせないのに、どこまで持っていくつもりだ」
「お、屋上まで……」
「もう少し自分の力を考えて積んだ方がいい」
「失敗だったなあ……。少し降ろしに戻らなくちゃ」
「……その必要はない。危ないから少し離れててくれ」
崩れないように気をつけて、台車ごと持ち上げた。前は見えないが周りのものは気配でわかる。歩くぐらいなら支障はない。
「え……えぇっ!?」
「これでいい。早く済まそう」
屋上
ドアに引っかからないよう気をはらいながら屋上に出る。階段が少し軋んでいたが、穴が空くような事はなくて一安心だ。何処に置けばいいか迷ったが、奥の方に積まれた土を見つけたのでその横へ台車を降ろした。
「ほんとに上まで運んじゃった……。ありがとう、やっぱり男の子って力持ち!」
「次からは運べるように気をつけてくれ。この土は何に使うんだ?」
「ふふ、気になる?そこのプランターで野菜を育ててるの。前はある先生が育ててたんだけど……。休職しちゃったから、私が代わりにお世話してるんだ」
「屋上でか。少し流行ってるらしいな。雑誌で見た」
「東京じゃ土地が足りないからね。やってみると楽しいよ?……この場所も好きなんだ。静かなところで一生懸命お世話をしてると、とっても気分が落ち着くから」
「ああ。……いい場所だな」
確かに、静かでいい場所だ。校内の喧騒とは全く隔絶されていて、聞こえてくるのは遠くからブラスバンド部の楽器の音、運動部の掛け声程度。……青春を感じる音だ。室外機の音は少し邪魔だが……気になるほどではない。
もしかすると、ここなら落ち着いて本を読めるかもしれない。
「ここにいていいか?」
「うん、もちろん。あ、でも、ここ立ち入り禁止……。……そうだ!」
「一緒にこの子たちのお世話しない?そうすれば、先生に見つかっても言い訳できるし。都合がいい時だけでもいいから」
「そんな事でいいのか?なら、よろしく。俺は間薙 シンだ」
「そういえば自己紹介まだだったね。私、奥村 春。早速だけど、手伝って貰おうかな。まずは……」
春と土いじりをした……。
「ふう、今日はこれぐらいにしておこうかな」
「そうだな……もう日も暮れる」
「二人でやると捗るね。土を取り替えるだけのつもりだったけど、苗植えまで終わっちゃった」
「何の苗なんだ?」
「トマトと人参。凄く成長の早い品種だから、来月には育つと思う。出来たら分けて持って帰ろう。楽しみね」
来月か……。俺はいつまでこの世界にいることになるんだろうか。早く戻らなければならないのは確かだが、この野菜が育ちきるまでは居られるだろうか。
「何だかお腹すいちゃったな……。シンくんの方が身体動かしてたし、もっとお腹すいてるよね。ご飯、食べに行かない?」
「構わない」
「よかった。電話するからちょっと待ってて。……もしもし?私です。今日、夕飯は食べて帰るからいりません。迎えの車も大丈夫です。……ええ、なるべく早く帰ります。……それでは」
「お待たせ。じゃ、行こっか」
「もしかして、随分お嬢様なのか?迎えの車なんて中々聞かない」
「……うん、ちょっとね」
奥村……。何かで目にした記憶がある。なんだったか……。
「……思い出した。春はオクムラフーズの代表取締役、奥村 邦和の一人娘だ。そういえば、父親のインタビューで春の顔も見たことがあった」
「そっか……。知ってたんだ」
「今までは忘れていた。浮かない顔だな。自慢の実家じゃないか」
「自慢できるような事ないのよ。会社を大きくしたのはお父様。私は何をした訳でもないもの」
「もっと早く思い出せば良かったな。ビッグバン・バーガーには最近毎日世話になっている」
「そうなの?ふふっ、ダメだよ、ちゃんとしたご飯も食べないと」
「値段の割りに量が多いからな。コスモタワー・バーガーはいい。あの商品は失くさないでくれ」
「あれを食べられるの!?……もしかして、力の秘密はそこにあるのかな?」
「今日は何を食べに行く?俺としてはビッグバン・バーガーでもいいぞ」
「だめ。ハンバーガーばっかりじゃ栄養偏っちゃうから」
「……そういえば、渋谷のファミレスに新装開店の看板が立ってたな」
「あっ、ビックリぼーいね?あそこならメニューも豊富だし……。そこにしよっか」
渋谷 セントラル街
セントラル街に来た。レストランに入るところで、見知った三人組が前から歩いてくるのが見える。少し疲弊している様なのと、魔力の気配が強くする所をみると……異世界帰りか。
どうやら向こうも俺に気づいたようだ。
「シン。今帰り?」
「ああ。ここで夕飯を済ませてからな」
「こんばんは。シンくんのお友達かしら」
春が蓮たちに声をかける。春の顔を見ると、竜司は目を大きく見開いて驚愕を顕にした。
「め……めっちゃ可愛い!?まさか、もう彼女作りやがったのか!?」
「やだ、そういうのじゃないのよ。少し手伝って貰っただけで……。ねえ、シンくん?」
これは……釘を刺されているのだろうか。だとすると、下手な事は言えない。慎重に言葉を選ぼう。
「ああ違うな。春は確かに可愛いが、関係性としては取引相手だ」
「そ、そうそ……えぇっ!?」
「大胆だね」
「何がだ?」
「ダメだこりゃ……。でも、ほんとに綺麗な人だね」
「チクショー!なんでこんな無愛想なのがモテるんだよっ!」
「違うのよ!?ほんとに!」
「わかったわかった。じゃあ、うちらはお邪魔だから帰ろっか。ほら、竜司行くよ」
「話したい事もあったけど……また明日にする。またね、シン」
「ちょっ、ちょっと待った!まだ話は……!」
竜司を引きずりながら蓮たちは去っていった。春をみると耳の先まで赤くなっている。今日は暑かったのか?この身体だと意識しないと環境の変化に気づけないのが不便だな。
体温を確かめようと手を伸ばすと、春は高速で後ずさった。
「春、どうした?……ああ、すまん。ヤケに顔が赤かったから……」
「な、なんでもないの!……ごめん、少し用事を思い出したから今日は帰るね」
春は少し慌てた様子で去っていった。あんなに顔を赤くして大丈夫だろうか…………なにか選択を間違えた気がする……。