ペルソナ5 混沌の反逆者   作:結露

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7.清掃活動

5月23日 夜 ブチ公前

 

「先に言っておくが……俺はお前たちがパレスに潜入するのには同行しない」

 

 

現実世界に帰還し、異世界について粗方の説明を終えたあと。シンはそう告げた。

 

 

「なんでだよ。協力すんじゃなかったのか?」

 

「俺に頼るしか能がないなら、今すぐ解散するんだな。俺はそんな奴らに手を貸すつもりは無い」

 

「お前たちがそうじゃないのはさっき確かめた。だが、まだまだ力が足りないのも事実。だから、俺はお前たちが強くなる為に力を貸してやる。その力で何をするかは好きにすればいい」

 

「具体的には、どうするの?」

 

「そうだな……。攻撃の躱し方、防ぎ方、当て方の基本動作。戦闘中意識しておく部分。近距離での効果的な駆け引きなど、技術的な事なら教える」

 

「だがその前に、まず総合的なレベルが低すぎる。これは経験を積むしかないが、日々の戦闘も意識してこなせば多少は身につくのも早いだろう」

 

「お前たちの成長次第で、それぞれに合ったスキルも教えてやれる。習得できるかは努力次第だがな」

 

「ふふ、腕が鳴るな」

 

「あまり大人数だと一度には無理だ。俺の体は一つしかない。……今日はもう遅い。連絡してくれれば時間は空けておくから、今夜はもう帰るぞ」

 

「うん。よろしくね、シン」

 

「ああ、取引だからな。今後ともよろしく、だ」

 

 

 

 

 

5月27日 放課後 屋上

 

放課後。授業を終えた俺はすっかり日課になった屋上での読書をしていた。当然荷物運びの手伝いを終えた後でだ。春は黙って土いじりをしていたが一段落ついたようで、椅子に座る俺に声をかける。

 

 

「ねえ、清掃活動の班分け、もう見た?」

 

「いや、まだだ。……春とは学年が違うのが残念だな。行事で別になる」

 

「ところが……。じゃーん!」

 

 

春はプリントを広げる。春の班のメンバー欄のようだ。

メンバーは……。

 

班長 新島 真

間薙 シン 奥村 春 三島 由輝

 

……全員顔見知りで揃うとは。こんな偶然もあるものだ。……三島の事は……よく知らないが。

 

 

「今年は縦割りになったんだって。これだけ生徒がいてシンくんと一緒の班なの、凄いでしょ?仕組まれたみたい」

 

「シンくんと一緒でよかった。私、友達も少ないから心細かったの」

 

「俺も春と一緒で良かったと思う。知らない相手だと面倒だ」

 

「こうなると、楽しくなってきちゃうね。……そうだ。確か昼過ぎで終わりだった筈だから、ご飯でも食べに行こうか。……この前、急に都合悪くなっちゃったし」

 

「いいな。楽しみにしてる」

 

 

 

 

 

5月30日 午前 井の頭公園

 

ゴミ拾い当日。知った顔しかいないと思えば、特に嫌な事はない。

……少し早く来すぎたか?生徒はまだまばらにしか居らず、普段の静けさが残っている。陽光を返し輝く水面が綺麗だ。

春は、今日は車で来ると言っていた。……どうやらまだ来ていないようだ。

 

 

「おはよう」

 

 

不意に背後から声をかけられた。澄んだ空気に浸っていたら、うっかり近寄られた事に気づかなかった。

振り向くと、大きな寸胴鍋を引きずったジャージ姿の真がいる。

 

 

「おはよう。随分早いな」

 

「運営側はそれなりに準備もあるから。今日、同じ班だったわよね。よかったわ、目の届くところにいてくれて。……ところで、この前の……あれから聞いてなかったけど、あの後大丈夫だったの?ほら、報復とか……」

 

「変な言い方だな。……この前?尾行の話か?俺は気づかれてない。報復をされるような間柄でもないしな」

 

「違うわよ、この前の男の。……ねぇ、まさか本気で覚えてないっていうつもり?」

 

「……悪いが思い出せない。もしかして、本の話か?どのタイトルだ?」

 

「…………そう。それなら思い違いね。気にしないで。そんなことより、暇なら少し手伝って。この鍋、結構重いのよ」

 

 

露骨に話を逸らされた。何だか妙な感じだ。……とりあえず、手伝えと言うなら手伝おう。

 

 

 

「おはよう、シンくん」

 

「春か。おはよう」

 

「随分、大きな鍋ね。先生たちのお手伝い?」

 

「そんなようなものだ。丸喜が豚汁を作るらしい」

 

「豚汁かぁ。今日は少し肌寒いから、嬉しいね」

 

「昼はどうする。何処か行きたい場所があるなら付き合うぞ」

 

「それなんだけど、ちょっと考えてる事があるの。楽しみにしててね」

 

 

 

清掃活動中……

 

「……改めて見るとゴミだらけなのね。綺麗な公園なのに、酷い……」

 

「水質も悪い。色んなゴミが流れ込んで、すっかり濁ってる。都会の悪い面だな」

 

「今日で少しでも綺麗になればいいけど……」

 

「そうだな。全部拾い切るのは無理でも、見えるゴミが減ればポイ捨てもしにくくなる。これだけ人数がいれば、多少変わるだろう」

 

「割れ窓理論ってやつね。私たちが率先して頑張れば、周りも動いてくれるわ」

 

「流石真、知ってたか」

 

「有名な話じゃない」

 

「知らなかった……。もしかして、それもある種の改心だね!?人類、皆怪盗団!」

 

「…ごめん、ちょっと言ってること、わからない…」

 

「……そろそろ時間ね。行ってくるわ」

 

 

 

『時間です。皆さん、お疲れ様でした。各班の班長は人数分の豚汁を取りに来てください』

 

 

 

拡声器で放送したあと、真は使い捨ての器を四つ盆に乗せて帰ってきた。湯気と共に、味噌のいい香りが公園のあちこちに広がる。

 

 

「お疲れ様。これ、豚汁。器は向こうに捨てる場所があるから。心配はしてないけど、間違ってもポイ捨てなんてしないでよ」

 

「ああ。生徒会は仕事が多くて大変そうだ」

 

「しかたないわね。こういう行事の仕事があるのは、最初からわかってて立候補したんだし。それで……ねえ、私午後も片付けがあって弁当持参なんだけど、もし良かったら……」

 

「ありがたい誘いだが、弁当は持ってきていない」

 

「そうだと思って……。はい、これ」

 

「これは……?」

 

「見て分からないの?お弁当よ。一緒に食べない?もちろん、自分の分は別にあるから」

 

 

真は少し古い無骨な弁当箱を差し出した。男家族のものだろうか。

……困った。この後は春と食べに行く約束がある。断るのも気が引けるが、持って帰って後で食べようか……。

返答に困っていると、着替えて普段着になった春が戻ってきた。

 

 

「お待たせ。先に着替えてきちゃった」

 

「おかえり。春、この後の事なんだが……」

 

「そうそう、実はね……」

 

「はい、これ。天気も良かったから、ここで食べたくてお弁当作ってきたの。……迷惑じゃなかったかな」

 

 

春は鞄から大きな包みを取り出した。中身は弁当箱……というか、重箱だ。

春は、ここでようやく真が手に持った物に気づいたようで、視線を真の手元へ向ける。

 

 

「それ、お弁当?そっか、新島さんも……」

 

「ただいま。拾ったゴミ、まとめて捨ててきたよ。……あれ?みんな弁当?じゃあ少し待っててよ。俺の分、近くのコンビニで買ってくるから」

 

「あ、三島くん。豚汁貰ったら各自自由解散らしいよ。私たちはここで食べるから、お疲れ様」

 

「そうなんですか。じゃあ、僕も一緒に……」

 

「ゴミ捨て、行ってくれてありがとう。お疲れ様」

 

「…………はい、お疲れ様でした……」

 

 

春に押し切られて、三島はすごすごと竜司たちへ混じりに行った。

 

 

「さて、それじゃお弁当食べよっか」

 

「……あなた達二人で食べる予定だったのね。私も一緒でいいの?」

 

「うん。せっかく作ってきたんでしょう?みんなで食べた方が美味しいよ」

 

「三島は……いや、何でもない。春もこう言ってる。一緒に食べよう」

 

 

 

 

 

「……美味い。すごい。真、これは自分で作ったのか?」

 

「そうよ。私の家、家族は仕事で忙しいから、普段から自分で用意してるの。毎日やってれば嫌でも上手くなるわ」

 

「とはいえ、自炊は手間がかかるだろう。勉強と生徒会だけでも忙しいのに、よくそんなスケジュールをこなせるな。無理して身体を壊すなよ」

 

「ほんとに凄いね。この前のテストだって、相当いい順位だったでしょう」

 

「奥村さんだって成績はいい方じゃないの。それに、私は生徒会長、見本になる立場だもの。不甲斐ない成績だと、他の生徒に示しがつかないわ。……奥村さんも、良ければ食べて」

 

「いただきます。……わぁ、とっても美味しい!」

 

 

真の弁当はお手本のようによく出来た弁当だった。彩りも栄養も考慮されていて、しかも食べやすいバランスですいすい口に入っていく。

味は当然ながら、文句の付けようがない。

 

 

「何だか、私のお弁当見せるのが恥ずかしくなっちゃった。私のも、食べてくれる?」

 

「当たり前だ。作ってきて貰った物だ、食べたいに決まってる」

 

 

春の弁当は……野菜中心に作られた三段弁当だった。俺が食べる量に合わせて作ってきてくれたんだろう。メニューが豊富で、どれから手を付けようか楽しみになってしまう。

 

 

「……入ってるのは全て季節の食材だな。これだけ揃えると、大分高くついたんじゃないか」

 

「ううん。実はね、使ってるお野菜は全部私が育てたの。だから、量の割にお金は全然かかってないよ」

 

「これが全部手作りなのか?凄くよく育ってる。美味い。屋上にない野菜もあるが、これはどうした?」

 

「お料理は小さい頃から習ってるの。お野菜は、家に温室があるんだ。そこで旬の野菜は育ててるから。……といっても、店で売ってる物に比べれば味も形も悪いけど……」

 

「そうじゃない。俺が美味いと思ったのは、野菜の味を活かした調味と工夫を、全ての料理で感じられる点だ」

 

「素人が手作りした野菜は、売り物に比べるとどうしても味に癖が出る。それをここまで上手く調理するとは……。作った野菜に余程の愛情がないと出来る事じゃない」

 

「確かに、育てるのにも長い時間と手間がかかるものよね。生半可や気持ちで育てられるものじゃないわ」

 

「そんな……。私は好きでやってる事だから」

 

「俺は、それは凄い事だと思う」

 

「ありがとう。新島さんも、お返しにどうぞ。たっくさん作ってきたから」

 

「ええ、いただくわ。……美味しい!何だか気が引き締まる味ね」

 

 

 

「二人とも、ご馳走様」

 

「お粗末様」

 

「食べられない物とかなくてよかった。まさか、全部食べちゃうなんて!」

 

「ほんとよね。どんな胃袋してるのかしら」

 

「作ってくれるならいくらでも食べるぞ」

 

「それは嬉しいけど……程々にね?」

 

「それにしても、二人は料理が上手いんだな。丸喜の豚汁もよく出来ていたが、お前達の弁当には及ばない」

 

「最近は汁物対応の弁当箱も売ってるけど……。食べたいなら、作ってあげましょうか」

 

「それ、いい案だね。その次は私も持っていくから」

 

「楽しみにしてる。二人の味噌汁なら毎日だって飲みたいぐらいだ」

 

「それって……」

 

「い、意味わかって言ってるの……?」

 

「…………?弁当はお預けか?」

 

「……ああ、うん。だよね」

 

「貴方本ばっかり読む癖に、どうしてそういう事には疎いの……?」

 

 

 

「それじゃ、私そろそろ行くから」

 

「私も。迎えの車、着いたみたい」

 

「そうか。豚汁の器は捨てておくから、置いておけ。弁当の礼は……何か考えておこう」

 

「楽しみにしてるわ。じゃあ、またね」

 

「また屋上でね。さようなら」

 

 

二人は去っていった。……礼といっても、何がいいだろう。今度、杏にでも相談してみるか……。

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