6月6日 昼休み
「はい、これ」
昼休み。真に生徒会室まで呼び出された俺は、この前とは別の弁当箱を差し出されていた。
「これ……とは?」
「貴方が食べたいって言ったんじゃないの。お味噌汁の入ったお弁当よ。汁物対応で保温式だから、すぐ食べられるわ。……まさか、その約束も忘れた、だなんて言い出すんじゃないでしょうね」
「……ちゃんと覚えてる。だが、本気で作ってくるとは……」
「何ですって?まさか、いいカッコしたくてあんな事口走ったわけじゃ……って、そんな器用じゃなさそうね」
「どういう意味だ」
「まあまあ……昨日のニュース、もう見た?」
恐らく、怪盗団のニュースの事だろう。斑目一流斎という人物の謝罪会見が、渋谷の街頭ビジョンでも放送されていた。あいつらは上手くやったらしい。
「ああ。昨日の午前中に街頭ビジョンで見かけた」
「あら、貴方もあそこにいたの。斑目一流斎の名前は、貴方も知ってるでしょ?」
「雑誌で名前を見かけた程度だ。作品は、その時見たサユリしか知らない」
「そう。ちょっと聞きたいんだけど……喜多川 祐介って名前、知ってる?」
……まさか、あのポンコツ尾行に突き止められたのか?そんなことが……しかし、数を打てばということもある。
大きな動きをしないという事は決定的な証拠は得られてないんだろうが、これはもう……。とにかく、とぼけておくか。
「……洸星高校2年、喜多川 祐介。件の斑目一流斎の弟子で、美術界の期待の新生……という触れ込みだったな。そいつがどうかしたのか?」
「昨日、坂本くんたちと一緒にいる所を見かけたの。前回の被害者と今回の被害者……。怪しいと思わない?」
「 確かに、気にはなる。だが……そうだな、怪盗団に救われた者同士、気があったのかもしれない。学年も同じだしな」
「……三島くんみたいに?」
「三島みたいに。あいつらはみんな、どうしようもない環境から救われたんだ。どんなに傾倒してもおかしくはない」
「それも、そうかもね」
「お前はどう思う。追い込まれて、一つの逃げ場もなく、破滅を目前に救いを差し伸べられたら」
「……私は……」
真が答えに窮していると、慌てた足音と共にドアが開く。軽く息を切らした春が、弁当の包みを抱えて飛び込んできた。
「ごめんなさい、遅くなっちゃった」
「春。これで揃ったわね、急いで食べましょう」
6月6日 夜 セントラル街 雨宮 蓮視点
双子に呼び出されてビッグバン・バーガーへ来た。カロリーヌにせがまれたのでダメ元でコスモタワーバーガーを注文したら、なんと注文が通ってしまった……。
とてもじゃないが食べられる気がしない。胃袋が破裂して死ぬ気がする。この身の末路に思いを馳せ、辞世の句を考えていると、背後から聞き慣れた声で名前を呼ばれた。
「……ん?蓮、奇遇だな」
「……シンか……助けてくれ……。バーガーに……バーガーに殺される……!」
シンはよく状況を理解出来ていない。少し困惑した表情をしている。悪いが、シンなら胃袋が破裂しても死ぬ事はないだろう。ここは何とか押し付けて……。
「お待たせしました」
「挑戦できたのか…!?」
「お客様がちょうど1万人目にご注文いただいた方になりますので!……ん?あ、貴方は……!いつもの、ご用意できてます!」
店員がシンを見て身構える。知り合いだろうか……。
「今日はここで食べる。運んできてくれ」
「すぐにお持ちします!」
「な、なんだこれは!囚人のものより、更に倍近く大きいぞ!?」
「本当に食べ物なのですか?これを食べられるなら、我ら一人程度入ってしまいそうです」
「恐ろしい事を言うんじゃないジュスティーヌ!」
「これは俺用の特別品、『ギャラクシアンエクスプロージョンバーガー』だ。毎日朝晩にコスモタワーバーガーを食べてたら、店長が特別に用意してくれた。コスモタワーバーガーに比べれば少し値は張るがな」
「これを毎日二個ずつだと!?むむ……囚人!お前が負けては我らの沽券に関わる!同じものをもう一つ頼め!」
「無茶ですカロリーヌ。我らの役目は囚人の処刑ではありません」
「うぐぐ……!ならば、それは絶対に残すなよ!それすら出来ないようなら懲罰房行きだ!」
「そこまで言うなら二人も食べてみる?」
「更生をするのは貴方です」
「貴様に付き合ってやってるんだからな!」
ずるい。覚悟を決めるしか無さそうだ……。
「おお…やり切ったぞ」
「貴様にしてはよくやった。褒めてやろう」
「かなりギリギリだったようですが、胃袋を破裂させなかっただけ良しとしましょう」
苦しい……胃袋に肺を押し潰されてる気がする。軽く妊婦の気分だ。
横を見ると、シンはとっくに食べ終わせてこっちのテーブルを見ていた。
その視線は俺じゃなくて双子に向いている。
「……待て。この二人は……」
「おお、そういえば貴様は誰だ?囚人の取引相手か?」
「服装から察するに囚人の学友でしょうか。私たちに何か?」
シンは二人を見つめている。そういえば、この三人はお互いに反応を見せないが、何か通じ合うものがあるのだろうか。
シンは二人を観察した後、ぽつりと呟いた。
「…………臭うな」
「な……っ!」
「…………!」
「……カロリーヌ、帰りますよ。囚人、早く送り届けなさい」
「臭う…そんなに臭うのか……?シャワーは毎日浴びてるのに……」
二人は店の外に出ていってしまった。……特に何も臭わなかったが、シンは鼻もいいのか?
「蓮、今気づいたが魔力の臭いがする。異世界に行ってきたのか?」
「臭うってのはそれだけ?」
「それ以外には、特に気になる臭いはないな」
「ずっと二人を見てたのは?」
「珍しい服装だと……。お前とはどんな関係だ?」
「ああ、そう……」
呆れた。もしかするとシンは祐介に負けず劣らずの天然なのかもしれない。
「それより、夜の渋谷に子供二人だけは危ない。早く行ってやれ」
「うん」
6月14日 放課後 屋上 間薙シン
「二人とも、ちょっとお願いがあるんだけど」
屋上で何時もの様に過ごしていると、珍しく真が屋上へやってきた。
心做しか、いつもより雰囲気が張り詰めている。
「どうしたの?マコちゃん」
「ま、マコちゃん……?……あのね、今からここで人と会う約束があるの。二人には悪いんだけど、少し席を外してくれないかしら」
「別にいいけど……大丈夫?何だか顔が怖いよ」
「……ええ、ありがとう。私は大丈夫。話をしてる間、生徒会室で過ごしてもらっていいから。終わったら呼びに行くわ」
屋上へ繋がる三階の階段の前で、怪盗団の三人とすれ違った。真と約束をしたのはこの三人か……。
「おい。真に呼び出されたのはお前らか」
「……シン。屋上に居たの?」
「真にバレたのか」
「残念ながら」
「言っておくが、バレたからと言って手荒な真似はするなよ。もしそんな事をして俺の期待を裏切れば、取引は終了。全員命はないと思え。……お前たちがそんなことをするとは、思ってないが」
「もちろん穏便に済ませるさ。にしても、どんな関係?」
「ただの友達だ。……進展があれば報告してくれ」
「心配なんだ」
「うるさい」
「マコちゃんに呼び出されたの、お友達?」
「ああ。校則違反がバレて説教らしい」
「大変ね。マコちゃん怒ると怖そうだもの」
「まったくだ」
6月15日 放課後 三階廊下
授業を終え屋上へ向かう途中……生徒会室の前で壁にもたれかかっている真を見つけた。……様子がおかしい。昨日の話の内容は聞いてないが、何かあったのか?
「真。どうかしたか?ここ数日様子がおかしいぞ」
「シン……なんでもないわ。心配かけてごめんなさい」
「最近噂になっている渋谷の犯罪集団を追っているらしいな。一介の高校生が手を出していい話じゃない。放っておけ」
「大丈夫。それとは関係ない事だから」
「……本気で困ったら、相談してくれ。必ず何とかしてやる。もし話しにくい事なら、春でもいい。力になってくれるはずだ」
「本当に大丈夫。後で愚痴でも聞いてくれればいいわ。……それじゃ」
真は去っていった。……これは、蓮たちにも話を聞かなければならないな。
「……バレてる、わよね……。でも、相談できるわけないじゃない……!またあんな事になったら……」