6月19日 夜 ベルベットルーム……?
ベルベットルームに呼び出された。しかし、いつもの双子の声はせず、イゴールの姿も見えない。いつものピアノと歌も聞こえない。何だか変だ……。
硬いベッドから身体を起こしドアを掴むと、いつの間にかイゴールの席に誰かが座っていることに気づいた。……さっきまで誰もいなかった筈だが。
座っている人物は金髪の……老人だろうか。その人物はこちらに背を向けているため、詳しい判別がつかない。
「貴方は……?イゴール達は、どこへ?」
「……ようこそ。ようやく繋がった様だ。君に会えるのを、心待ちにしていた……」
声からすると年老いた男性という推測はあっていた様だ。老紳士は俺の問に答えを返さない。代わりに、小さく笑みを零しているのが聞こえる。
「なるほど……いい魂を持っている。これならば……」
……俺の声が聞こえてないのか?
「私から、君に一人……いや、一人と一匹……新たな協力者をあげよう。彼の知識と記憶は、君の天秤を大きく揺り動かす……」
「キミの反逆の心、ボクに見せておくれ……」
ベルの音が鳴り響く……。
6月20日 学校 昼休み
シンに金城の件の経過報告と相談中。
「……ってわけなんだ。パレスの場所は突き止めたんだけど、どうやって潜入しようかなと思って」
「なんかいい方法ねーか?そのホーフな経験でよ」
「そうだな……。思いつかないわけじゃないが……ふむ……試してみるか?」
シンは眉間に軽くシワを寄せ言い淀む。
「勿体ぶるね」
「まず手頃なビルの屋上に行く。なるべく高いところがいい」
「そしたら、俺がお前たちを放り投げる。それぐらいならしてやってもいい。ただ……」
「それいいじゃん。何か問題あんの?」
「ただ……。人を投げるのは初めてだ。それだけの大きさなら狙いを外して真っ逆さまという事はないだろうが、高く飛ばしすぎて円盤までの落下距離がどうなるか分からない」
「危なすぎんだろ。他にねーの?」
「正確に着弾させることも出来るが……」
「着弾……?おい、この時点で嫌な予感しかしねーぞ」
「全力で投げれば真っ直ぐ正確に飛ばせる。ただ、破裂しそうでな……。良くて船底に突き刺さることになる。やってくれるな?竜司」
「破裂ってなんだよ!突き刺さったら抜けねーよ!んで何で俺限定なんだよ!」
「ダメか……」
「円盤撃墜するのは?シンなら出来るんじゃない?」
「いや……アン殿、それは恐らく無理だ」
「どうして?」
「マダラメの時に、中庭のセキュリティをこじ開けただろ?あそこは、マダラメが『誰も入れない』って考えてたから入れなかった」
「だから、カネシロがあの銀行……自分のアジトを『絶対安全』だと思ってる以上、パレス自体を強引に崩すことはできない」
「なるほど。メメントスの壁が破壊できなかったのもそういう理屈か」
「試したの?」
「以前な」
「それ、結局突き刺されなくて真っ逆さまじゃねぇか。投げられる前でよかったぜ……」
「もし撃墜案で行くんなら、カネシロの現実のアジトを破壊させないといけないな。少しでも防備に不安が芽生えれば、パレスも脆くなる筈だ」
「金城のアジトなんてわからない」
「それにそれが成功したところで、ワガハイたちが侵入する前に別のアジトに逃げられたら終わりだ。またパレスに攻撃は通らなくなる上、カネシロの警戒は強まり今度こそ姿は見せなくなる」
「現実の場所とリンクしてないのがネックだな……」
「鴨志田と斑目は現実と入れ替わりでパレスがあったもんね」
「どこに当てれば落ちるのかもわからん。大破させればカネシロのシャドウも巻き込んで殺しちまうかもしれない。怪盗団の正義を示すことも考えると、これはナシだな」
「リスクが高すぎるな……」
「結局良い案は浮かばない、か……」
「でもよ、いざとなったらそれしか……」
「…………おい、まさかとは思うが馬鹿な事は考えるなよ。現実で金城に接触するなんて、パレスどうこうの前に殺されて終わりだ。……一つ、俺から聞きたいことがある。最近真の様子がおかしい。何か知らないか?」
「何も。私たち、普段は接点ないし」
「そうか……。忙しいだろうし、少し疲れてるのかもしれないな」
「ってかよぉ……。お前!噂になってんぞ!毎日毎日女子二人に呼び出されて、特別な個人指導を受けてるってぇ!」
「創作物の見過ぎだ。恥ってモノを知らねえのか?オマエは」
「大声で……。竜司の馬鹿。変態」
「誤解にも程がある。一緒に昼食を済ませてるだけだ」
「……そういえばお前、普段昼何食ってんだ?」
「弁当だ。ありがたいことに、毎日どちらかが作ってきてくれて……」
「そんなこったろーっと思ったよ!贅沢しやがってコノヤロー!俺にも少し分けろ!」
「竜司、うっさい!」
6月20日 放課後 クラブ
真が暴走した。慌てて後を追ったが、状況は頗る悪い。
「帰れ。これからお楽しみなんだ。……とその前に。お前ら、金払いがよくなるように男どもを少し痛めつけてやれ。こんな無茶苦茶されて大人しく返しちゃ、俺たちのメンツにも関わる」
「はぁ!?ざけんなっ!」
「おら、こっち向け!」
「ぐっ!」
一人の男が竜司の胸倉を掴み、拳を振り上げる。その瞬間、背後から轟音。ひしゃげて吹き飛んだドアが、竜司と真を抑える二人、そして金城の横に立っていた男まで巻き込んで壁に激突した。
「あぁ!?なんだ、今度は!」
「……お前が金城か」
「シン!」
部屋に入ってきたシンはスタスタと真に歩み寄り、引っ張り起こす。吹き飛ばされた男達は、重なりあって完全に気を失っているようだ。
シンから見たことない程怒ってる気配がする。今にも暴れだしそうで、正直今はもう金城よりもそっちが怖い。
「貴方……どうして来たの!?」
「つけさせてもらった。しばらく様子を見てたが、馬鹿な事をしたな。だが……こうなった以上、手っ取り早い方法を取ろう」
シンは真を俺たちに預けると、そのまま金城に近づいていく。
「あ〜あ、なるほど。お前の方がその娘の彼氏か。彼女のピンチに飛び出して来ちゃったわけ」
「どうやったのか知らねえが……とんでもねえ馬鹿だな、てめぇは!見ろよ、こいつらの怪我。嬉しいぜ?最高のカモがやって来てくれてな!」
「俺もだ。相手がお前でよかった。気兼ねなくやれる」
「まさか……。ちょっと!それだけはダメ!みんなも止めて!」
真の剣幕に俺たちは慌ててシンを止めに入る。が、まるでビクともせず、シンは全員引きずって金城に詰め寄って行く。
「彼女さんは俺のヤバさがわかったみたいだな。ま、もう遅いけど」
「シン、落ち着け!誰も怪我はしていない!大丈夫だ!」
「いくら何でも、そこまでやっちまったらやべぇって!」
「何かあってからじゃ遅い。お前たちと違って、俺はどうにでもなるからな。ここで全て片を付けてやる」
「……っ!春の菜園を手伝う約束、破るつもり!?」
苦し紛れかもしれないが、真の言葉にシンは軽く反応した。金城に伸ばしかけた手を留め、少し固まったあと入口へと翻す。……もう大丈夫そうだ。急激に威圧感が失せていくのを感じ、俺たちはバタバタと手を離した。
「……帰ろう」
「焦ったぜ、マジ……」
「おい、まさか逃げきれると思うなよ。こっちには写真が……」
金城が見せつけたスマホを、シンが振り向きざまに睨みつけた。その瞬間、スマホは突然弾けて燃え上がる。
「熱っ!……なんだよ、不良品か?おい、ラッキーだなんて思ってんじゃねぇだろうな。バックアップしてあんだ。金、楽しみにしてるぜ」
「そうか……。便利な時代だな、今は」
シンは出ていった。
「……ワガハイたちも一旦引こう。作戦会議だ」
セントラル街
「お金は私が、何とかするから…!金城の件はここまでにしましょう?」
「そりゃ無理だ。俺らだって狙われちまった」
「これ以上ひとりで暴走されて、状況が悪くなるのだけは、ごめんだな」
「いざとなれば、金城は俺が仕留める。あいつは気に食わない」
「駄目だっつってんだろ!俺たちが何とかするから黙って見とけ!」
「……冗談だ。止めてくれて、お前たちには感謝している」
「お、おう。つっても、どうすっか……。あの銀行さえなんとかなりゃあなあ……」
「竜司……!」
「銀行……?」
「あ、そうか、銀行か……!」
「役立たずどころじゃねえ!カノジョ、大手柄かもしれねえ!」
「オマエら、聞いてくれ!」
カネシロパレス セントラル街
「キツネ!?」
「『フォックス』だ…」
「静かにしろって。シャドウたちに気づかれんだろ」
「化け猫!?」
「ガーン!!」
「コントは終わりだ。とりあえず、静かにしてくれ」
「シン……。ええ、そうね……って、半裸!?しかも全身に刺青!?」
「ダメだこりゃ……」
カネシロパレス 銀行 応接室
「どいつも、金さえ渡せば何でもやる。お前らの命くらい、息をするように奪うぞ」
「クククククク……やれ!」
「数が多い!真が……!」
「真には俺が付く。安心してシャドウに専念しろ」
「ああ、頼んだ!」
目の前で戦闘が始まる。見ている限り、何ら問題はなさそうだ。
「……まさか、貴方も怪盗団だったなんてね」
「少し違うな。直接活動に手を貸してはいない。外部コーチだ」
「まったく……とぼけるのが上手いのね。後で、じっくり聞かせてもらうから」
「……ああ」
前話くらいから感じているんですが、原作のシーンに人修羅が居ると書きにくいですね……。
丸々書き写すのも気が引けて、場面が飛び飛びで読みにくいと思いますが、お許しください。