kindle版のマンガ読むためとはいえ、長時間PCの前に座るもんじゃないね。スマホで読もう。
……………………寝ながら見てたら、顔面にスマホ落ちてきた。
第九話「メイドの弁舌」
城壁をくぐると、そこは大都会であった。
なんて、昔の文豪みたいに言ってみたけど。
見上げるほどの城壁を通り過ぎれば、雑踏と喧騒が待っていた。
大荷物を馬車に乗せた商人。
呼び込みをしている宿屋や食事処の店員。
中でも多かったのが、武装した人。
冒険者だ。
そういえば、シーローン王国の周辺には迷宮が多いんだっけ。
ロキシーも宮廷魔術師になったきっかけは迷宮を踏破したからだったし。
一口に冒険者と言ってもいろんな人がいる。
武器屋の前で値札と睨めっこしてる人もいれば、昼間からアルコール臭い息でガハハと笑ってる人。
可愛い宿屋の店員に声をかけられて鼻の下を伸ばしてる若いお兄ちゃんもいる。
「…………ソフィア?」
どうしたのお母さま。手が震えてるよ?
膝の上に乗せた私をギュッと抱きしめるお母さま。
うーん。私が聖級魔術を失敗した辺りから、ずっとお母さまの顔色が良くないんだよねぇ。
……………………まさか失望された?
あれだけ教えたのに聖級魔術を使えないなんてって思われてるんじゃないだろうか。
いやいやいや、まさかそんなわけないよね。
聖級魔術の習得がどれだけ難しいかって1番分かってるのはお父さまとお母さまだろうし。
ルーデウスが規格外だっただけで、そもそも3歳で上級魔術が使える時点で私も相当すごいと自負してる。
そのルーデウスだって聖級魔術を覚えたのは5歳。私にはあと2年残ってるし、それまでには確実に覚えてやりますよ!
「……ねえ、ソフィア?」
「なーに? おかーさま」
「『豪雷積層雲』の詠唱文なんて、どこで覚えたの?」
あっ。
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あぶねぇぇぇぇぇ!
危うく
冷や汗ダラッダラだよもう。背中がグッチョリ濡れてて気持ち悪い。
いや違うんですよ。魔術の詠唱ってこう、めちゃくちゃカッコイイじゃないですか。
練習しちゃうんですよ。お風呂場とか自室とかでこう、シャワーヘッドやシャーペンを杖に見立てて高らかと魔術の詠唱をうわああああああああああ!!!!
高校生で中二病発症してた黒歴史の扉を開くところだった。危ない危ない。
この記憶は墓場まで持ってこう、うん。永久に思い出しちゃいけない記憶だ。
それでも詠唱文を思い出すのは大変だった。
あれでもないこれでもないって必死に記憶の引き出しを開け続けて、何とか思い出した。
……………………噛んだけどね。
噛んだけどね!
チクショウ!
「きっと書斎の机上に置いてあった私の手記を見たんでしょう」
お父さまがそう言ってくれたおかげで難を逃れた。
というかお父さま、水聖級魔術の詠唱文なんてメモしてたのか。
いずれ使えるようになりたいとかかな。
……ひょっとして、意外と野心家だったりする?
というか、そうか。
魔術の詠唱がメモされている手記か。
見たいな。是非とも読ませてもらいたい。
原作で明らかになってない詠唱文とか結構あるんだよね。
作品の1ファンとしてはそういうの知りたいなーなんて思ったりしちゃったり。
「――着いたぞ!
今日からココがお前たちの我が家だ!」
おじいさまが声を張り上げた。
お父さまのカバンをこっそり漁れないか狙ってたら、目的地に着いちゃったらしい。
チッ、手記探しはまた今度にしておくか。
内心で舌打ちをしながら、新しい家を見ようと馬車から外に顔を出す。
「…………おっきい」
えっ、想像してたよりも大豪邸じゃん。
よく例えで東京ドーム何個分ってあるけど、これは少なくとも1個分以上ありそうな大きさだ。
ここ王都でしょ。そこにこんな大豪邸構えるってどんな大貴族だよ。
……もしかして、サンドモール家ってすごいの?
お屋敷の中にドナドナされながら、私は実家のすごさに呆然としていた。
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サンドモール家の屋敷で暮らすことになって数日が過ぎた。
自分の寝室として使うようにあてがわれた部屋は、前の家のリビング以上に広かった。
ちなみにお父さまとお母さまの寝室は一緒らしい。
これからは半年に半月どころか毎日一緒にいるんだし、こりゃ弟か妹ができる可能性もますます高くなったな。やったぜ。
この数日、ちょっと忙しなかった。
貴族の礼節を勉強させられたり。
服の寸法を測られたり。
お掃除させてもらえなかったり。
おかげで全然魔術の勉強が出来てない。
毎日がちっとも楽しくない。
そもそもなんで王都まで連れてこられたのかもよく分かってない。
でもそんなのも今日で終わり。
何故なら今日は従兄の10歳の誕生日を祝うパーティだからだ!
サンドモール家が治める領地に住んでいる従兄が、10歳を迎えるのを機に王都の学校に通う。
それに併せて領地ではなく王都で誕生日パーティを開いて同年代の貴族子息・令嬢と人脈を作ろうってことらしい。
で、私もそのパーティに出席しなくちゃいけないから急遽、礼儀作法とか諸々やらなくちゃいけなくなったってわけだ。
もうすでにこの屋敷に来てるらしいんだけど、私は未だに会ったことがないんだよね。
…………会ったことない人の誕生日パーティに出席するって、なんか気まずくない?
挨拶くらいする機会はあったと思うんだけど、お互いに何かと忙しかったからか顔どころか名前すら知らない。
おじいさまだったら「これから共に暮らす家族なんだから云々」って無理やりにでも時間を作って会わせようとするはずなんだけど……。
まあおじいさまも忙しかったのかもしれないしね。
細かいことは気にしない気にしない。
とにかくパーティに出るからには、私も貴族令嬢らしい格好をしないといけない。
今まで私が着てたのはどちらかといえば庶民的な服装らしくて、
パーティに出るにはいわゆるドレスを着なくちゃいけないらしい。
採寸されてたのは大急ぎでドレスを作る為だったとか。
……………………そう、ドレスだ。
ドレスということはつまり――
実物を見た瞬間、俺の顔が引きつるのを感じた。
「やだ!」
「そんなこと言わないでくださいよぅ、お嬢様ぁ」
「絶対にやだ!」
冗談じゃない。
ドレスなんか着てられるか!
やってやる。家出してやる!
「きっとお似合いですよ? カイロス様も喜ぶと思います」
「イ・ヤ・ダ!!」
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女の身体に産まれたからには、貴族の仲間入りをしたからには。
いずれはそういう格好をするってことは分かっていた。
分かっていたけど、了承したとは言っていない。
頭では理解していたけど、心では納得できていなかった。
思えば不思議と、3歳になる今までスカートではなくずっとズボンを履いていた。
お母さまもズボン姿だったから、違和感が全然なかった。
そもそもこの屋敷に来て最初におじいさまからもらった貴族らしい服もズボンだったし。
今にして思えばアレは男装ってやつなんだろう。
本当なら貴族のお坊ちゃんが着るような服。
私がずっとズボンを履いていたからそういう格好が好きだっておじいさまが勘違いしたに違いない。
正確には、好きというより「スカートを履く」って発想がなかっただけなんだけど。
あとは、私が貴族として暮らしてなかったというのもあるだろう。
いきなり貴族になれって言われてもそう簡単に変えられるものじゃない。
徐々に慣らしていけばいい。そう判断されたのかもしれない。
まあ庶民がスカート履いてないってことではないと思うけど。
原作でも女性キャラは基本的にスカート姿だったし。
いや、シルフィエットはズボン履いてたっけ*1。
前世でも、昔は馬に乗る男性がスカート履いてたって話も本で読んだことがある。
性別に関わらず服装の自由があるってのはいいね。
今の
とにかく。
屋敷内だけなら寛大な心で許されていた我が儘だったが、
公の場に出るからには男装で押し通すってのはさすがに無理らしい。
サンドモール家全体の評価にも関わってくるとかなんとか。
「じゃあもうパーティ出ない!」
「ダメですよ! カイロス様とグレースさんに叱られちゃうじゃないですか! 私が!」
自分の保身のためにスカート履けと申すかキサマ!
私は恨みを込めて目の前のメイド――『アメリア』さんを睨んだ。
掃除を手伝おうとした時に知り合ったアメリアさん。
ホワホワした雰囲気とどこか抜けている所が、
廊下ですれ違ったりした時に話しかけてたら、いつのまにか私専属のメイドさんになってた。
そのメイドさんがドレスとかいう凶器を手に持ち、私ににじり寄ってくる。
やめろこっちに来るな離れろ変態、
「や、雇い主の言うことは聞くもんじゃないの!?」
「私を雇ってくれてるのはお嬢様ではなくカイロス様なのでー」
「ムキー!」
無駄に大きいベッドの周囲をグルグルグルグル。
アメリアさんと対角線上になるようにポジションを取る。
この攻防を何回繰り返したんだろう。
やがてアメリアさんが諦めたようにため息を漏らした。
よし! 私の勝利――
「カイロス様も悲しむでしょうねー。
せっかく孫娘のためを思って用意したドレスを着てくれないんですからー」
「――ウグッ」
そ、それを言われると……。
ニコニコ笑って色々とお菓子やオモチャをくれたおじいさまの顔を思い出す。
本当に家族のことが好きなんだろうなって感じるくらい優しいおじいちゃん。
たまに自慢のムキムキな筋肉を見せびらかしてくるおじいちゃん。
…………おえっ。
思い出したらちょっと気持ち悪くなってきた。
「ジャスティン様やレオナ様だって、娘の晴れ姿を見るの楽しみにしてるはずなのになー」
「むぐぐっ」
前世の両親を思い出す。
ランドセルを初めて背負った時。初めて学ランに袖を通した時。就職が決まった時。
子どもの晴れ姿を拝めて本当に嬉しそうだった両親の笑顔を。
「まあでも?
他でもないソフィアお嬢様が?
着たくないんでしたら?
しょうがないですよねー?」
「着るよ! 着ればいいんでしょ!?」
卑怯だぞアメリアー!
ニヤリと悪い笑顔を浮かべたメイドを見て私は評価を改めた。
コイツはお母さまと全然違う!! 意地悪だ!!
---
「お似合いですよー、お嬢様」
「ありがとうございます……」
服を着るだけで無駄に疲れた。
姿見を見れば、すっかり貴族の令嬢っぽくなった私がいる。
緑を基調として私の髪色である金の刺繍が施されたドレス。
自画自賛するようだけど、よく似合ってると思う。
「スースーする……」
ただ、足が寒い。
ストッキング? を履いてるけどズボンよりも断然寒い。
あとなんかヒラヒラしてて動きにくい。
「あぶちっ!」
「お、お嬢様ぁ!?」
試しに歩こうと足を踏み出したら、
スカートの裾に躓いてすっころんだ。
「やっぱりスカートやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
たくさんのご指摘ありがとうございます。
もっと良い作品にできるように頑張ります。
感想、評価、ご指摘などお待ちしております。
- 追記 -
☆10評価増えてるぅ!?Σ(゚Д゚)
本当にありがたい限りです。
高評価にふさわしい作品にできるよう、さらに精進していきます。
今後ともよろしくお願いします。