無職転生 - 異世界如何に生きるべきか -   作:語部創太

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 左手の親指の爪が剥がれたけどボクは元気です。
 痛いのやだ…………(´・ω・`)。


第十四話「才能」

 今日も今日とて、朝早くから剣術の稽古をする。

 木剣を持った状態で、おじいさまの攻撃を避け続ける訓練だ。

 右に左に、上と見せかけて左から。

 とにかく襲いかかってくる剣から逃げ続ける。

 

 たまに、おじいさまの代わりにマーカス兄さまが相手になることも。

 マーカス兄さまの剣は一直線で、剣速もおじいさまより遅い。

 予備動作さえ見切れば簡単に避けることができるようになった。

 ただ、おじいさま曰く「日に日に剣の重さと速度が増している」そうだから、油断は禁物だ。

 

 一方のおじいさまは剣の速さもさることながら、とにかく攻撃の種類が豊富だ。

 さっきまで2回フェイントしてから攻撃していたのが、いきなり3回目のフェイントを入れてきたり。

 逆に、明らかにフェイントだと思わせる緩慢な動きから急加速、一気に薙ぎ払ってきたり。

 同じ動きでもそのどれが本命の攻撃なのか見極めないといけないから、とにかく見て考えて瞬時に判断する力が必要になる。

 

 それでもこの半年ほど。

 攻撃を喰らうのは2日に1回あるかないか。この少なさは、私の密かな自慢だったりする。

 自慢だったりしたのだが……

 

「わぷっ!?」

 

 バシャンッと。

 顔面に水の塊が当たる。

 思わず怯んで目を瞑ってしまった、次の瞬間。

 

「あいたー!」

 

 スコーンと。

 額に鈍い痛み。

 目を開けば、おじいさまがニヤリと笑って木剣を肩に担いでいた。

 

「視野が狭いのぅ」

 

 今日だけでかれこれ10回は木剣に小突かれてる。

 ドヤ顔する祖父がそれはもう憎たらしい。

 魔術師の力を借りてるくせにドヤ顔してるとか大人げないにも程があrムキー!! 次は絶対に避けてやるからな!

 

「もう1回!」

 

 グッと腰を落としておじいさまの一挙一動を見逃さないようにする。

 

「ソフィア、頑張ってー」

 

 相対する私たちから少し離れた位置にいるお母さまが、杖を構えながら声をかけてくる。

 さっきから私の回避する方向へ的確に水弾を撃ってくる役割をしている。

 

 剣士と魔術師の両方を同時に対処するための訓練。

 今日始めたばかりだけど、これが難しい。

 おじいさまの方に意識を向けると水に濡れるし、お母さまの方を対処しようとすると、一瞬の隙を縫っておじいさまの斬撃が飛んでくる。

 あっち見てもダメ。こっち見てもダメ。

 ちょっと混乱してきた。

 

「考えるだけでなく肌で感じること。

 それも水神流の基本だぞ!」

 

 考えるな、感じろってか。

 たしかに見て考えて動くよりも、反射的に動いた方が考える時間が省けて回避は早くなる気もする。

 それじゃ、試しにおじいさまの剣を直感で避けてみることにしよう。

 

 おじいさまが最初に繰り出してきたのは上段から振り下ろす一撃。

 ()()()()()()()。ので、左にズレて回避する。

 

 でも、これはフェイント。私が避けた方向に曲線を描いて剣が降ってくる。

 ()()()()()()()。ので、身体を回転させながら後方に回避する。

 

 さらに次。振り下ろした剣を今度は斜めに跳ね上げるように斬りかかってくる。

 ()()()()()()()。ので、更なる追撃を避けるように大きく右に跳ぶ──

 

 水が来る。

 

 視界の端に一瞬見えたお母さまが杖を降る姿。

 自分の着地点にお母さまの水弾が来る。

 ()()()()タイミングでの攻撃。

 

 でも、分かったところでもう遅い。

 すでに私の両足は地面を蹴ってしまった。

 身体は空中、もう今は着地と同時に水弾を喰らうのを待つしかない。

 

 本当に?

 

 とっさに両手を下に向ける。

 両手のひらから風を作り出して、空中ジャンプのように自分の身体を浮き上がらせる。

 飛距離を増したことで本来の着地点より遠くまで跳び、水弾を回避することに成功した。

 

 さらに追撃してこようとしたおじいさまも、味方であるお母さまの水弾が邪魔で深追いしてこれない。

 そうしてわずかな余裕が生まれたことで、私は態勢を立て直すことができた。

 

 ……ヤバい。

 うっかり魔術を使っちゃった。

 いや別に禁止されてる訳じゃないんだけど、剣術の稽古中に魔術を使うのは反則じゃん?

 だから使わないようにしてたんだけど、さっきは深く考えず無意識に使っちゃった。

 

 おじいさまは難しい顔をして唸っている。

 それからなにかを確かめるように深く頷いた。

 

「……ソフィア!」

「はい!」

 

 叱られる!?

 

「剣の振り方を教える! 今日から素振りを怠るな!」

 

 マジで! いいの!?

 

「はい! 頑張ります!」

「うむ! 次からは反撃も許す!」

 

 おじいさまの木剣を避け続けて半年。

 ようやく、本格的に剣の稽古が始まることとなった。

 

 

 

 

 

 

---カイロス視点---

 

 

 

 素晴らしい。

 カイロスはソフィアを抱き上げこれでもかと褒めてあげたい衝動に駆られた。

 しかしダメだ。師匠として剣を教える時は厳格にしなければならない。

 これは初めてできた孫娘をついつい甘やかしたくなってしまうカイロスの自制だった。

 

 最初に剣を避け続ける訓練をさせた目的は、基礎体力をつけるため。

 ソフィアの幼く小さすぎる身体は、外でろくに遊ぶ機会もなかったせいか剣を振るうには脆弱すぎた。

 だから最初は剣を振らせず、剣筋を見極める方を優先させた。

 とはいえ。

 いくら最初だからと手を抜いていたとはいえ。

 

 まさかいきなり初日にすべての攻撃を見切り回避するなんて思っていなかった。

 

 ソフィアの観察眼と瞬時の判断能力は桁外れだ。

 一度見た技を決して避け間違わない。

 こちらが()()()()()()()ような錯覚に陥るほど、その両目を見開いてジッと一挙手一投足を観察してくる。

 ソフィアの鍛錬を始めてから。

 いや、おそらくはマーカスとの鍛錬を見学している時から。

 とにかくソフィアは見て学ぶことを徹底していた。

 

 そして、見てしまえば次の失敗はない。

 1つの技を見せてしまえば、そこから派生するフェイントも連撃も意味をなさない。

 逃げ方はフラフラ危ない足取りだったり地面に這いつくばったりと不格好だが、それでもカイロスの攻撃は面白くないほどに当たらなかった。

 直感的に避け方が分かるのだろう。

 右へ左へ踊るように剣を避けるソフィアの動きは日に日に洗練されていく。

 

 

 敵の攻撃を見極めて適切なカウンターを叩きこむ。

 水神流の基本中の基本。

 そのうち「見極める」ことに関して言えば、ソフィアはわずか3歳にして既に達人の域に達していると言えよう。

 

 レオナに頼んで魔術による支援も加えた。

 1対2という人数不利。しかも前衛と後衛が連携を取れている。

 ましてや上級剣士と聖級魔術師を相手にしているのだ。

 

 実戦経験を多く積んだ者でなければ、避けることは難しい。

 しかしソフィアは、たった1日で回避できるまでに成長した。

 自分の予想外のタイミングで放たれた魔術を回避した。

 まさか魔術を回避行動に使うとは。

 そのとっさの判断能力と思い切った行動力にカイロスは感嘆する。

 

 この半年間で身体も成長し、剣の素振りに耐えられるだけの身体になった。

 そろそろ本格的に剣術指南を始めても良いだろう。

 ソフィアに剣の握り方を教えつつ、明日からの鍛錬の内容を練り始めたカイロスだった。

 

 

 

 

 

---ソフィア視点---

 

 

 

 アメリアから泥遊びは禁止されてしまったけど。

 やっぱり何かコツをつかめたのか、土系統の魔術は上級まで修得できた。

 

「よし、次は『砂嵐』ですね。すぐにでも見本を見せてあげなければ──」

「王都を砂漠にするつもりか馬鹿者!」

 

 自分の得意系統を使えるようになったことがよっぽど嬉しかったらしい。

 暴走したお父さまがおじいさまに殴り飛ばされていた。

 すぐ駆け寄って回復魔術をかけてあげると満面の笑みで抱き上げてきた。

 

「ありがとうソフィア! 優しい娘に育ってくれてパパは……

 あれ? なんか重くなったかい?」

 

 おいデリカシー。

 

「女の子に向かって太ったとは何事ですか!」

 

 今度はおばあさまに風魔術で吹き飛ばされた。

 おばあさまもお母さまに魔術を習い初めてもう1年。風の初級魔術を覚えた時はすごく嬉しそうだった。

 私も風系統はまだ初級。もっと頑張らないと。

 

 でもなぁ。土系統はキッカケを掴んだし、火系統は使えない理由もハッキリ分かってるけど。

 風系統はなんで使えないのか分からないんだよね。

 別にトラウマになるようなことはないと思うんだけどなぁ。

 まあ単純に向いてないのかもしれないし、深く考えすぎないようにしよう。

 

 そうそう、回復魔術も上級まで使えるようになった。

 毎日のように怪我してるマーカス兄さまを治癒していた成果が出たらしい。

 ちなみに回復魔術をかけたマーカス兄さまとお父さまは、血縁ということもあってかよく似たデレッとした笑顔を浮かべる。

 

 お父さまはともかくマーカス兄さまの笑顔は絶妙に気持ち悪いから、本音を言えば回復してあげたくなかったりする。

 でも痛いのは嫌だからね。仕方ないね。

 私の成長にも繋がるし、仕方ない。うん、仕方ないんだ。

 …………1回、あの気持ち悪い笑顔をぶん殴ってみようかな。

 

 ともあれ、これで3系統の上級を修得できた。

 あとは火のトラウマを克服することと、聖級魔術の修得だ。

 『豪雷積層雲』は1回失敗したけど感覚は覚えてるから次は成功させられると思う。『砂嵐』はお父さまに教わればいい。

 問題は回復魔術。お母さまも上級までしか知らないし、お父さまは専門外みたい。

 ラノア魔法大学まで行けば学べるのかな? 将来は魔法大学に行かせてもらうことも視野に入れておこう。

 

 

 

---

 

 

 

 修得状況とはちょっと別件で1つ。

 おじいさまとの剣術の稽古で、とっさに風魔術を使って攻撃を避けた時。

 とっさのことだったから無詠唱だったんよね。

 

「ソフィア! あなた無詠唱できるの!?」

 

 それを見たお母さんがものすごい勢いで詰め寄ってきた。

 なんで今まで隠してたのーなんて言われた。

 

 別に隠してた訳じゃなくて、魔術の勉強中はお母さまが詠唱してるからそれに倣ってただけなんだよね。

 でも、お母さまの前で詠唱しないで魔術を使ったことの1回や2回くらい…………

 

 …………なかったかもしれない。

 マーカス兄さまに治癒魔術をかける時や水浴び用の水を汲む時なんかは普通に無詠唱だったんだけどね。

 まあ、タイミングが悪かったということでここは1つ。

 

「すごいわー! うちの娘は天才よー!」

「将来は王級、いや帝級だって夢じゃない!」

 

 お母さまとお父さま大喜び。

 おばあさまはあらあらウフフと微笑んで。

 おじいさまとマーカス兄さまはキョトンとしていた。

 魔術師じゃないと無詠唱のすごさって分からないよね。

 

 かくいう私も、ルーデウスがあれだけ簡単に使ってたからそのすごさをいまいち理解していなかったわけだけど。

 とにかく。

 両親から無詠唱で魔術を使うことを推奨されたので、私はそれに従って粛々と魔術の鍛錬に励むのだった。

 

 ちなみに火はまだ怖い。

 




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 いつもありがとうございます。

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