無職転生 - 異世界如何に生きるべきか -   作:語部創太

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 真面目で堅物な男ほど、好きな人や愛する家族が出来たらデレッデレになると思う。


第四話「決意」

 転生して半年と少しが経った。

 

 ここが『無職転生 - 異世界行ったら本気出す - 』の世界だということは分かった。

 小説の内容を一言一句すべて覚えてるわけじゃないけど、だいたいの世界観や歴史、設定なんかは覚えてる。

 お父さまとお母さま――ジャスティンとレオナの出会いなどの昔話も聞くことが出来た。感動しすぎてちょっと泣いた。そしたらお腹が減ったと勘違いされてご飯が出てきた。

 

 この世界がどういう世界なのか。そして今ここがどこなのか。それが分かっただけでも大きな進歩と言えるだろう。

 じゃあ次に何をするか。それはズバリ、当初の予定通り『どう生きるか』を考えること――では、ない。

 

 まずは選択肢を増やそう。私はそう考えた。

 この世界を生きる上で必要なこと。それは剣と魔法、そして読み書きや算術といった教養だ。

 とにかく出来ることは全部、好き嫌いなくなんでもやらなくちゃいけない。

 

 得意不得意はあるだろうけど、それを知るためにもとりあえず一通りやってみなくちゃいけない。

 自分の長所を見極めて、それから生きる道を選べば良い。

 最初から焦りすぎたことを反省して、私は勉学に励むことにした。

 

 

 

---

 

 

 

 ということでやってきましたのは書斎。お父さまの自室だ。

 

「ぱーぱー」

「おやソフィア。どうしたんだい?」

 

 ハイハイしながら書斎に入ると、しかめっ面をしながら分厚い書物を読んでいるお父さまがパッと笑顔になった。

 笑顔というか、もうデレデレしてる。どうやら娘が可愛くてしょうがないみたいだ。

 ……フフーン! まあ美人のお母さまの血を受け継ぐ私が可愛いってのは当然ですけどね?

 まだ短いながらも生えている私の髪は、お母さまに似て明るい黄金色らしい。「将来はハニーに似た美人になるね」「やだダーリンそんな美人だなんて……」と話しながら2階に上がってギシギシアンアンやってるバカップルの片割れが、私の目の前にいる。

 

「おはなしー」

「はいはい。今日はなんの本を読もうか?」

 

 可愛らしくおねだりすれば、お父さまが私を膝の上に座らせて本を読んでくれる。チョロいもんだぜ。

 書斎には数十冊の本が置いてあり、子供向けのおとぎ話が書いてある本もあるらしかった。

 まずは読み書きを覚えよう。そう思った私は毎日お父さまにおねだりして、本の読み聞かせをしてもらってるわけだ。

 

 お父さまも文字を覚えさせようとしてくれているのか、ちゃんと読んでいる箇所を指差してくれる。

 おかげでこの半月で、文章を読むのは問題ないレベルまで習得できたと思う。書くのは……ペンがまともに握れないからしょうがないね。もう少し成長したら練習しよう。

 前世では字が汚かったし、今世では綺麗な文字を書けるように努力しよう、うん。

 字が汚い女の子なんて需要ないからね。

 

「じゃあ今日はこれを読もうか」

 

 そう言ってお父さまが本棚から取り出したのは、手帳くらいの厚さの本。

 表紙には『転移の迷宮探索記』。

 

 ……………………ゼニス・グレイラットが捕らえられ、救出に向かったパウロ・グレイラットが死亡する場所だ。

 

 

 

---

 

 

 

「――――ァ? ――フィア。ソフィア?」

「っ!?」

 

 パッと顔を上げると、心配そうな顔をしたお父さまがいた。

 

「どうしたんだい? 気分でも悪いのかい?」

 

 自分で自分の顔を触ってみると、ビッショリと汗をかいていた。身体中の水分が抜け出たみたいで、脱水症状の前触れみたくクラクラする。

 

「のど、かわいた」

「じゃあ、読み聞かせはこのくらいにしてお水を飲みに行こうか」

 

 この本はまだ早かったか。そう呟いて『転移の迷宮探索記』を本棚に戻すお父さま。どこに戻したかを見て確認しておく。

 

「…………ぱぱ?」

「なんだい?」

 

 私を抱きかかえるお父さまに質問をぶつけてみる。

 

「もし、ぱぱの、ぱぱとままがいなくなっちゃったら、かなしい?」

「……………………さっきのお話で、不安になっちゃったのかな?」

 

 驚きに目を見張るお父さま。幼児の突拍子もない質問だったけど、難しい顔で少し唸った後、ちゃんと答えてくれた。

 

「……そうだね。パパの家族がいなくなったら。それがママでも、ソフィアでも。

 おじいさまでも、おばあさまでも。そして兄上たちでも。

 パパはすごく。すっごく悲しくなると思う」

 

 でも。だからこそ。そう言って私の目を見るお父さまの瞳は、決意の炎で燃えていた。

 

「そうならないために、パパは頑張ってるんだよ」

「…………そっか」

「うん」

「ぱぱ、だいすきー!」

「パパも、ソフィアのこと大好きだよー!」

 

 自分の不安を押し隠すように、お父さまとギューッてした。

 

 

 

---

 

 

 

 そうだよね。家族がいなくなったら悲しいよね。それが仲の良い家族だったら、なおさらそうだよ。

 なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。

 

 過去に未練がない? そんなわけないじゃん。

 ()の就職が決まった時に笑顔で祝ってくれた父さん、母さん。毎日3人で囲んだ食卓。

 学校で嫌なことがあって泣いて帰ってきても笑って慰めてくれた。どう解決したらいいか教えるだけじゃなくて一緒に考えてくれた。

 

 こっちの両親と同じくらい()のことを愛してくれた両親のことを、なんで忘れていたんだろう。

 ()が死んだと聞いて、どう思ったんだろう。どんな表情を浮かべたんだろう。

 親より先に死ぬ。そんな最大の親不孝をどうして見逃していたんだろう。

 

 もし()が、父さんが死んだって聞いたら。母さんが目の前で廃人のようになったら。

 泣き喚くだろう。嘘だって叫ぶ。現実を認めなくて自暴自棄になる。愛する家族を失うってのは、そういうことだ。

 

 ルーデウス・グレイラットは、それを体験することになる。

 自分を庇ったパウロが死に。救ったゼニスは物言わぬ人形に。

 それでも、彼は乗り越える。ロキシー・ミグルディアに慰められて。

 シルフィエット。ノルン。アイシャ。リーリャ。エリス。

 愛する家族、大切な友人たちと共に幸せを掴む。ガムシャラに努力して、自らの手で掴み取る。

 

 すごい、すごいよルーデウス。

 異世界行ったら本気出すとか、前世でニートだとか。そんなの関係ない。

 誰かのために努力して、挫折を経験して、それでも進んで、最後には報われる。

 そんな主人公。だから()はこの物語が好きだったんだ。

 

 …………転移の迷宮。

 それは、ルーデウスの生涯で最大の失敗。パウロは死ぬ。

 ルーデウスが一生背負っていかなくちゃならない罪の意識。

 それでも幸せだったんだろう。最期には満足できたんだろう。

 でも。たった1つ。それさえなければ、ルーデウスはもっと幸せになれたはずなんだ。

 

 サンドモール家。家訓は「家族愛」。

 だったら、私が取るべき道は1つだ。

 

 今世こそ、親不孝をしないこと。

 長生きして、魔術師として大成する。お父さまとお母さまが自慢に思えるような娘になる。

 

 そして、ルーデウスや両親みたいな暖かい家庭を作る!

 ……………………には、男と結婚とかその先の、そういう諸々をしなくちゃいけないんだけど。

 

 イケメンだったらワンチャン……いや、無理だな。男の裸とかそそり立つ肉棒なんて、見ただけでオエッてなる自信がある。

 やっぱり女の子だな。女の子とイチャラブして幸せな家庭を築いていくことにしよう。

 

 跡取りは、いずれ産まれてくる弟か妹に任せる。他力本願だけど仕方ないね。

 

 

 

---

 

 

 

 さて。

 生きる目標が決まったなら、次はそれに向けて努力しなくちゃいけない。

 

「……ねえ、ぱぱ?」

「どうしたんだい、ソフィア」

 

 お水を飲ませてもらいながら、お父さまをジッと見つめる。これぞ必殺、娘の上目づかい! 効果、パパはなんでも言うことを聞く!

 

「まほう、べんきょうしたい!」

 

 おねだりすれば、大抵のことはヨシ! って言ってくれる。お父さまが娘にダダ甘なのはこの半月で確認済みよ!

 

「う~ん…………」

 

 あら、感触悪くない?

 ひょっとして上目づかい失敗した? 邪心が出ちゃったかな。

 

「教えてあげたいのは山々なんだけど、パパはもうすぐお仕事に行かないとだからねぇ」

 

 

 

 そういえば言ってましたね、そんなこと。

 




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