無職転生 - 異世界如何に生きるべきか -   作:語部創太

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 ストック切れた(絶望)。


第六話「マセガキ」

 ジャスティン──お父さまが帰ってくる。

 お母さまが手紙を見て嬉しそうに教えてくれた。

 宮廷魔術師のお父さまが王都に出発してから半年が経った。

 私がお母さまから魔術を教わり始めてから半年が経ったということでもある。

 

 気付けば、この世界に産まれて1年が経っていた。

 

 

 

---

 

 

 

「……ただいま戻りました、ハニー」

「おかえりなさい、ダーリン!」

「パパ、おかえり!」

「ソフィアも、ただいま……」

 

 疲れきった顔をしていたお父さまが、お母さまと私を見てホッと安心したような笑顔を浮かべた。どうやら宮廷魔術師って仕事は、そうとう疲弊するらしい。

 メガネの下に真っ黒な隈を見つけたお母さまが宮廷のお偉いさんたちに怒鳴り込みそうなほど立腹してらっしゃる。愛しのダーリンをコキ使うとは何事か! ってものすごい剣幕だ。フフッ、怖い。

 

 お父さまが必死に宥めて何とか抑えてる。ギューッと抱き締めて耳元で「愛してる」なんて囁いちゃって、まぁプレイボーイなパパだこと。

 今度は違う意味で顔を真っ赤にしてるお母さまをお姫様抱っこしてそのまま2階へ──

 

 あるぇ? パパ、ママ、娘のこと忘れてない?

 いやまあ、ここで水を差すほど無粋ではないつもりだけど? こうも綺麗サッパリ忘れられてると、さすがに私もちょっと不機嫌になったりしちゃったりですね。

 まあいいや。私は1人寂しく魔術の練習でもしてましょうかね。

 

 

 

 ……………………ほほぅ。いつもはキリッとしてカッコイイお母さまが、あんな蕩けた顔で喘ぐなんてねぇ。

 お父さまも、インテリ系な見た目に反して意外と肉食なのね。

 

 えっ嘘、そんなところまで舐めちゃうの?

 うわぁ、いくらなんでもそれは……いや、お母さまめっちゃ気持ち良さそうにしてる。

 アレ本当に気持ちいいの? ひょっとして私の両親の性癖、歪んでない?

 

 …………そろそろ終わり、かな?

 いや~、ええもん見せてもろた。頑張って自力で歩けるようになっといて良かった。

 階段を上がるのは死ぬほど疲れたけど、眼福となる光景が見れて俺は大満足だよ。

 両親がこれだけイチャイチャしてるんだし、もうすぐ弟か妹が産まれてもおかしくないな。

 できれば妹が良いな。むさ苦しい男を見るより可愛い女の子見てた方が目の保養になるし。

 

 というわけで、思う存分ハッスルしてくれたまえよ。我が両親。

 

「――――ァン♪ まだするのぉ?」

「すいません。半年間、ずっと我慢していたもので」

 

 ……………………いや、別に今じゃなくてもいいんだよ?

 ソフィア、そろそろ魔術教えてほしいなー、なんて。

 

 

 

---

 

 

 

 さて。

 火聖級魔術師であるお母さまから半年間に及ぶ教育を受けた私の、輝かしい成果をお見せしよう!

 

 まず火系統の魔術。初級を習得。

 自分のベッド燃やしかけた時から教えてもらえず。

 トラウマになってしまったのか、お母さまから「絶対に火の魔術は使っちゃダメ!」って言いつけられてる。

 小さな子どもが安易に使ったら、うっかり自分の身体を燃やして死んじゃうかもしれないからね。

 仕方ない。これは事故を起こした自分が悪いと思って諦めよう。

 …………せめて、5歳になる前くらいには中級を教わりたいなぁ。

 

 次に水系統の魔術。初級を習得。

 火系統の次に覚えたのが『水弾(ウォーターボール)』だった。

 これでも前世はお掃除屋さんだからね。

 毎日のように水と洗剤を使ってたから頭の中にイメージするのは簡単だった。

 ちょっと油断すると高圧洗浄機みたいに指から勢いよく水が噴射される。『弾』というか『ビーム』みたいになってる。

 最近は暑くなってきたので、冷涼感を取るためと魔術制御の練習を兼ねて、作った『水弾』を凍らせる練習をしてる。

 

 風系統魔術、土系統魔術。どちらも習得できず。

 頭の中でイメージしようとしても、全然形にならないんだよね。

 詠唱すれば発現はするけど、その後に発射するまでの間でかき消えちゃう。

 理由として考えられるのは、ずっと家に引きこもってたから。

 風は窓を開けた時に多少感じる程度だし、土はほとんど触ってない。

 そもそも土って掃除する時は「汚れ」として認識してたから、わざわざその「汚れ」を創り出そうって気にならないんだよね。

 

 風系統の魔術は外で遊ぶお年頃になれば習得できるかもしれないけど、土魔術はひょっとしたら習得そのものが難しいかもしれない。

 まあ、これは性分というか才能だと思って諦めよう。

 ひょっとしたら何かのきっかけで使えるようになるかもしれないしね。

 『()()()()()』だよ、うん。

 

 

 

---

 

 

 

「――イタッ」

 

 書斎で読み書きを練習している最中、目の前に座っているお父さまが声を漏らした。

 ペンを止めて顔を上げると、指から血を流してしかめ面をしている。

 

「けが?」

「紙の端で軽く切っちゃってね」

「だいじょーぶ?」

「うん。すぐ治るよ」

 

 治療魔術でも使うのかね。魔術ってホント便利。

 ……そうだ。試しに私も治癒魔術を使ってみようかな。

 お母さまが使ってるのは何度か見たことあるけど、自分で使ったことはないんだよね。

 あの人、割とおっちょこちょいだから料理中に指を切っちゃうことがあるんだけど、その度にすぐ『ヒーリング』唱えて治しちゃうんだよね。

 最初は心配してたけど、最近はもう「また怪我したのか」としか思わなくなっちゃった。

 

 思い立ったが何とやら。お父さまの指に向かって手を伸ばす。

 えーっと、なんだったかな。詠唱文忘れちゃった。

 まあいいや。なんか適当に唱えてムムムーッて力を籠めればいいでしょ。

 失敗しても子どものおまじないってことにしちゃおう。

 

「いたいのいたいの、とんでけー」

 

 なんか出来た。

 伸ばした手が光ったと思ったら、お父さまの指に薄くついていた切り傷が綺麗に塞がった。

 

「治癒魔術? いや、詠唱が全然違うような……」

 

 やっべ。

 お父さまが難しそうな顔でウンウン唸り始めた。

 なんか適当にやったら出来ちゃいましたー、なんて言えない。

 

「……………………エヘッ!」

 

 とりあえず、笑って誤魔化そう。

 

「ソフィアは優しくていい子だねー!」

 

 誤魔化せちゃったよ。

 

 鼻の下を伸ばして私の頭をよしよし撫でてくるお父さまはその後、娘に嫉妬した奥さんに引きずられて2階にある愛の巣へと消えていった。

 いやホント、元気すぎない私の両親?




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