無職転生 - 異世界如何に生きるべきか -   作:語部創太

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 明日の投稿は無理そうです。
 会議……やだ……誰か代わって……。


第七話「祖父の襲来」

 早いもので、この世界に来てもうすぐ3年になろうとしていた。

 

 とりあえず四系統の初級魔術は習得できた。

 屋内で中級以上の魔術を使うとルーデウスみたいに壁に穴が開く。

 かといって外出しようとするとお母さまが必死の形相で止めてくる。

 なんでや。

 私、別に前世で引きこもりじゃないから外に出ても良いのよ?

 

「ダメよ! 危ない人に攫われたらどうするの!」

 

 アッハイ。

 ということで、今日もおとなしく家で魔術の練習。

 せっかくなので、ただ魔力を使い切るのではなく魔力操作の練習もすることにした。

 

 水弾を、大きくしたり小さくしたり。

 桶を離れたところにおいて的当てしたり。

 矢や剣みたいな形にしてみたり。

 冷やして氷にしてみたり。

 喉が渇いたら手に作った水を魔力操作だけで口に運んだり。

 

「オゴボォ!」

 

 勢いが強すぎて溺れかけた。

 とまあ、何回か失敗したけど。

 数ヶ月練習して、だいぶ慣れてきた。

 

 火は禁止されてるし、土は汚れるのがヤダ。

 風は目に見えなくて操作しにくいので、とりあえず水で魔力操作の練習をする。

 そしたら、それを見ていたお母さまがこう言った。

 

「ソフィアは水系統が得意なのね」

「そーなんだ」

「じゃあ、中級魔術の練習をしましょうか」

 

 家の壁に穴を開けるおつもりですか、お母さま。

 

 

 

---

 

 

 

 お父さまが帰ってくるらしい。

 ニコニコと上機嫌なお母さまと一緒に手紙を読む。

 

 「もしかしたら客人を連れていくかもしれない」?

 誰だろう。宮廷魔術師の同僚さんかな。

 …………ひょっとしてロキシーだったりして!

 原作キャラ――それもメインキャラと対面できたら、嬉しさのあまりダンスしちゃう!

 

 なんてね。ロキシーがシーローン王国の宮廷魔術師になるのはしばらく先のはずだし、今はルーデウスの家庭教師をしてる時期じゃないかな。

 なんで分かるかっていうと甲龍歴に当てはめて推測してるんだけど──っと、玄関から声が聞こえる。

 お父さまが帰ってきたかな?

 

 歴史の勉強を中断して椅子から飛び降りる。

 お出迎えしようと思い玄関にポテポテ走っていくと、お父さまの他に見たことない筋骨隆々の中年男性がいた。

 

「……ただいま戻りまs」

「愛しの孫娘よ! おじいちゃんが来たぞぉ!!」

 

 おもいっきり抱き上げられた。

 え、いや誰? お会いしたことありましたっけ?

 困惑しながらお母さまを見ると、苦笑いを浮かべている。

 

「お義父様、お久しぶりです」

 

 …………これ、私のおじいちゃん?

 ジャスティンと似てなさすぎじゃない?

 

 

 

---

 

 

 

 サンドモール家当主カイロスは、剣神流と北神流の上級を修めたシーローン王国でも名の知られた剣士だ。

 

 その気性は豪胆にして実直。

 戦場では華々しい戦果を上げ、一時期はとある王子の親衛隊の一員として尽力したこともある。

 周囲の期待以上に結果を出し続けたことが評価されて現国王パルテンから勲章を授与される。

 まさに『男の中の男』『騎士とはかくあるべき』と評される人物。

 現在の職は将軍。王都で新兵を指導・教育する任に就いている。以前は国境付近での守護任務に就いており、後にクーデターを起こすジェイド将軍と出会った。両者は時折酒を呑み交わすほど懇意にしている。

 

 というのが、『カイロス・サンドモール』ことおじいさまのことらしい。

 はえ~、すごい人なんですねぇ。

 とても、孫娘にデレデレして頬ずりしてる人と同一人物とは思えない。

 

「ソフィアちゃんは可愛いでちゅねぇ~」

 

 うん。やっぱりお父さまの父親だ。

 鼻の下を伸ばしてる顔がそっくりだもん。

 筋骨隆々の体育会系と、メガネをかけて細身のインテリ系。

 タイプはまったく違うけど、よく見れば柔らかい目元や笑った時にできるえくぼの位置が同じだ。

 

 それにしても、なんと締まりのない顔か。いくら孫だからってそんなニヤけるほど可愛いかね。

 前世の祖父祖母だってそんなにデレデレしてなかったと思うんだけど。

 あとヒゲが痛い。蓄えて整えて立派になるまで育てた自慢のヒゲなんだろうけど、頬ずりされるとモサモサするわチクチクするわで痛いからやだ。

 

「おヒゲ、やー!」

「な…………なん、だと!?」

 

 あんまり頬ずりがしつこいもんだから抵抗したら、この世の終わりみたいな顔をされた。

 

「ワシの、威厳溢れる自慢のヒゲが……」

「まあまあ、子どもの言うことですから」

 

 お父さまが苦笑しながら慰めてる。

 その…………ゴメン。そんな落ち込むとは思ってなかったんだ。

 ただちょっとチクチクして嫌だなーってだけで。

 だから、そんな床に両手を着いて嘆かなくても……。

 

 仕方ない。ここは可愛い孫娘として、おじいさまを癒して差し上げなければなるまい。

 原因はお前だろとか言ってはいけない。

 えー、では。お父さまを骨抜きにしてお母さまを嫉妬させたこともあるこの魅惑のロリボイスで1つ。

 恥ずかしいから、今回は特別だよ? おじいさま。

 

「じいじ、だいしゅきー♪」

「天国はここにあった」

「お義父様!?」

「戻ってきてください! まだ旅立つには早すぎるでしょう!」

 

 ……………………効果抜群すぎた。

 

 

 

---

 

 

 

「ソフィア。お勉強の成果を見せてほしいんだ」

 

 お父さまが、いつになく真剣な顔で私に頼みごとをしてきた。

 勉強の成果? 別に構わないけど。

 というか、いつも帰ってきたら自分から見せに行ってる気がする。褒めて褒めてーって感じで。

 お父さまに頭を撫でられるの、気持ち良くて好きなんだよね。

 

 最近はお母さまと一緒に手紙も書いてるし、何が出来るようになって何が苦手かはお父さまも把握してるはず……。

 いや、そうか。やっぱり娘の成長は自分の目で確かめたいんだ。

 普段なかなか一緒にいられないしね。たまの休みに帰ってきた時くらいはいっぱい褒めてあげたいってところか。

 

 まあ? ソフィアちゃんは天才ですから? お父さまにいーっぱい褒められることもやぶさかではないというか?

 しょうがないなぁ! そこまで言うなら私の成長を見せてしんぜよう!

 

「うん! がんばる!」

「それじゃ、ちょっと外に出ようか」

 

 

 

---

 

 

 

 はぇ~、空気が美味しい。

 なんだかんだ、ずっと家の中にいたから外に出たのはこれが初めてだ。

 うん。雨上がりだということもあってか、土と草の匂いがする。

 ここにカビ臭さがあったら高圧洗浄機振り回して汚れを削り落としに行くんだけど。

 臭いって感じはしなくて、気分がスゥーッと爽やかになるような心地よい匂いだった。

 

 おじいさまと一緒の馬に乗りながら辺りを見回す。

 それこそアニメやマンガであるような、昔の農村って感じの風景がそこにはあった。

 とはいっても、畑に作物が実ってる様子はない。

 たしか今はまだ寒い季節で作物が育ちにくいから、もっと暖かくなってから植えるんだってこの前お母さまから教わった。

 

「へぶちゅっ!」

「おぉ、冷えるのか? ならこれを羽織るといい」

「じいじ、ありがとー」

 

 ふと感じた肌寒さにくしゃみするとおじいさまが羽織っていた外套を私にかけてくれる。頭までスッポリくるまって、てるてる坊主みたいだ。

 

「似あう?」

「おぉ、ソフィアはなんでも似合うとも!」

 

 うーんこの親バカ。いや祖父バカ? そんな風に褒められたら調子に乗っちゃうよ?

 イェーイ、ソフィアちゃんカワイイヤッター!

 

「――ここら辺でいいでしょう」

 

 別の馬に乗っていたお父さまが止まる。

 ちなみにお母さまもお父さまと同じ馬に乗っていた。

 2人で「昔を思い出すね」なんてイチャイチャしてたの知ってるからな? 相変わらずアッツアツなことで。

 

 馬から降ろされたのは、何もない平原。村からちょっとした丘を1つ超えるほど離れた場所だ。

 

「ソフィア。これを使って」

 

 お母さまから渡されたのは、いつも魔術の練習中に使ってる杖。お母さまが冒険者時代に使ってたモノだ。

 …………? なんかお母さま、少し緊張してる?

 変なの。練習の成果を披露するのは私なのに。

 教えてきた先生として、生徒がちゃんと力を発揮できるか心配なのかな?

 大丈夫! ソフィアは強い子ですよ。ちゃんと普段通りの実力をみせつけてやりますとも。

 

「それじゃぁソフィア。準備が出来たら、自分が使うだけの魔術を放つんだ」

「はい!」

 

 おじいさまは腕組みをして。

 お父さまはお母さまの肩を抱きながら。

 お母さまは不安そうに両手を胸の前で組みながら。

 

 私が魔術を使う瞬間を待っている。

 大きく深呼吸をする。前世の祖父祖母が住んでた田舎みたいな、自然の香りをお腹いっぱいに吸い込む。

 緊張は無し。

 やる気は満タン!

 

「――行きます!」

 

 両親に、そして初めて会ったおじいさまにカッコイイところを見せてやる!

 私は思いっきり、空に向かって杖を振り上げた。

 

 

 

---

 

 

 

 その日。村近く、王都までの街道を歩いていた行商人。

 彼は、後日王都で会った友人たちにこう言った。

 

「通り雨が止んだと思い、荷物に被せていた雨避けの布を外した。

 そうしたら、今度は大嵐がやってきたもんだから積み荷がビショビショに濡れてしまった」

「でも、大嵐だったのは数分だけ。

 すぐに雲が晴れて、あの雨はなんだったのかというくらいの快晴。

 まるで何かに化かされたような、不思議な体験だったよ」

 




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