紙で4巻までしか買ってなかったので、思い切ってkindle版で買い揃えちゃいました。
~ロキシーだって本気です~の方も買ったので、じっくり読み進めていこうと思います。
「やばいやばいやばい!!」
『アメリア』は大いに焦っていた。
シーローン王国の辺境の男爵の娘である自分が、同じ国の名門貴族サンドモール家に仕える侍女――メイドとして働き始めてもうすぐ1ヶ月が経とうとしている、そんなある日。
朝起きたらすでに日が昇り始めていたのだ。
メイドの朝は早い。
太陽が昇る前には目を覚まし、主たちが起床する前に館内の清掃を済ませることが、1日のうちで最初の仕事となる。
特にサンドモール家は武人の家系ということもあり早起きする人間が多く、当主カイロスなどはまだ薄暗いうちから庭に出て自己鍛錬に励む。
だからこそ、サンドモール家の執事やメイドといった使用人たちは何が何でもカイロスが起きてくるまでに清掃を済ませようと躍起になっている。
……今のところ、それが成功したことは数えるほどしかないが。
カイロス様、頼むからもっと寝ていてください。
全使用人の切実な願いは、今日も届かない。
とにもかくにも。
使用人が寝坊なんて言語道断。
寝坊には減給や、最悪の場合には解雇といった厳しい処罰が与えられる。
アメリアは寝坊した。
大慌てで身支度を整え廊下を全力疾走する。
同室のメイドはなぜか自分を起こさずに出勤していた。
疑問に思ったが、切羽詰まった事態はその疑問に思考する時間を奪っていく。
ひたすらに走る。髪を振り乱しながら静まり返った廊下を駆け続ける。
「廊下を走るんじゃありません!」
「す、すいません!?」
突然の怒号に慌てて止まる。
目の前に仁王立ちで立ち塞がっているのは、アメリアが神と魔物の次に恐れるメイド長『グレース』だった。
「さて、遅刻した理由を聞きましょうか?」
「寝過ごしました! 申し訳ありません!」
いつもより2オクターブほど低い声と問いかけに、顔を青ざめさせながら頭を下げる。
眉間に皺を寄せていたグレースは、数秒ほどアメリアを睨みつけた後、呆れたようにため息を漏らした。
「…………このことに対するお話は後でにします。
とにかく今は朝の仕事をこなしてください」
「は、はい!」
終わった。
アメリアは絶望した。
「お話」とはつまりそういうことに他ならなかった。
この1ヶ月頑張って働いてきたのに、たった1回の失敗ですべてが水の泡だ。
父の顔を思い出す。昔良くしてくれたカイロス様の下で働けるように頼みこんでくれた父のことを。
せっかく行儀見習いとしての仕事を取ってきてくれたのに、たった1ヶ月でクビになってごめんなさい。
ワタシはなんて親不孝な娘なんだろう。
「廊下の窓サッシを全部拭きあげてください。急いで!」
「はいぃ!!」
大慌てでバケツと雑巾を手に取る。
ひぃぃぃぃんっと情けない声が漏れそうだったが歯を食いしばって耐える。
「私もお手伝いしていいですかっ!」
「ええ、そうですね。時間がありませんからお願いします」
「はいっ!」
どうやらメイド仲間も手伝ってくれるらしい。
どこかフニャフニャした可愛らしい声とグレースが指示を出す厳格な声を聞きながら、アメリアは必死でサッシを拭き続ける。
「このぞーきん、借りますね!」
「ひゃい! お願いしましゅ!」
バケツから雑巾を取っていく小さな影を目の端で視認して――――
「…………あれ?」
ふと思う。あんな
「そういえば、貴女は持ち場の作業を終わらせた、ん……です、よね?」
グレースが振り返る。
アメリアは隣を見る。
そして2人は驚きに目を見開いた。
「えっしょ……えっしょ……」
ほんの小さな幼女が、踏み台に乗って窓サッシを拭いていた。
「何やってるんですか、
グレースの悲鳴が、早朝の廊下に響いた。
あまりの衝撃に、アメリアは泡を吹いて倒れた。
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自室にて、ソフィアは不貞腐れていた。
早起きして屋敷の掃除を手伝おうとしたら、雑巾を取り上げられて自室に放り込まれたのだ。
「あー!! 掃除がしたいぃぃぃぃぃぃ!!!」
元清掃業者の血が騒ぐ。
落ち着かなかった。
家ではレオナが全部してしまうので自分では出来なかった。
大きな屋敷ならどれだけでも人手が欲しいはず。
そう思ってグレースに許可を取ったのに、すぐ手のひら返しで「手伝いはいらない」と拒否されてしまった。
3K業界を生き抜いてきた――死んだけど――男(幼女)は、自分が必要とされていないことがストレスだった。
…………ダメなものは仕方ない。
諦めのため息をついて、ソフィアは窓を開けた。
部屋の換気をしつつ、着替える。
掃除する気満々で着た汚れてもいい服から、カイロスに買ってもらった貴族らしい服に。
そして姿見の鏡の前に立つ。
軽くしなをつくりポーズを取る。
写し出されたのは、太陽の光に反射して煌めく金髪を持つ美少女。
「……………………フヘッ」
イヤらしい笑みが漏れた。
この可愛らしい幼女が自分だと思うと、ドヤ顔で誰彼かまわず自慢してやりたい気持ちが湧きあがってくる。
前世では醜く恋人の1人も出来なかった男は、美少女に産んでくれた両親に感謝した。
そろそろ朝食が出来る頃だろう。
さっきまで不貞腐れていたのは何だったのか。
少女は上機嫌で鼻歌を歌いつつ、軽い足取りで部屋を出ていった。
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主たちが食事を摂っている間に、使用人たちは各寝室内を清掃する。
グレースとアメリアは今日担当だったソフィアの部屋に入り、またしても腰を抜かすことになる。
埃1つない室内。
綺麗に整頓された私物。
まだ3歳の子どもなら、部屋を散らかして当たり前。その常識を打ち砕く室内。
屋敷内の誰の私室よりも綺麗なのではないか。
この屋敷に迎え入れられてまだ数日とはいえ、群を抜いて綺麗な室内にグレースは言いようのない薄気味悪さを感じた。
「はぇえ……アイテッ!」
気が抜けた声を出したアメリアの尻を強く叩きながら、グレースはため息をついた。
2人は部屋のどこにも手を付けず退室。他の部屋を清掃しているメイドの応援に向かった。
ちなみに。
着ていた服を自分で洗濯担当のところまで持って行ったソフィアは、食事の席で貴族の立ち居振る舞いについてお小言を頂戴することになった。
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