クククッ、逃さねぇぜシェリー 作:きりりん
俺は黒の組織の構成員。コードネームはない。
コードネームはないが俺には特殊な力がある。
そう、
気がつけば既に組織の一員だったわけだが、そこまで使い捨ての下っ端ってわけじゃないんだ。
今の俺の仕事はある研究者の女の監視だ。
そう、宮野志保であり、シェリーであり、いずれ灰原哀となる女だ。
俺の目的もこの女である。
今がまだ原作開始前であることを確信していた俺はジンからの信用を得るために必死で働いた。
ウォッカのように側付きになってしまうと本末転倒なので組織に忠実でありながらコードネーム候補になれるくらいに有能であることを示さなくてはならない。
そして俺の目的のためならば原作などどうなってもいい。
どこかの抑止力のように世界の修正があるのかどうかはわからないが、今のところ俺は組織の中でうまく立ち回っている。
まぁ組織の壊滅が目的でもなく、
黒の組織だからやってる事はブラックなんだけど、下っ端じゃなければ仕事量は意外とブラックって程でもない。
てか仕事内容がブラックだけど勤務状況はホワイトだった場合って灰の組織とかにならないのかな。
まぁそんな組織だけどがんばって働いた結果、ついに念願のシェリー監視任務につく事ができた。
ちなみにまだ姉である宮野明美は生きているし赤井秀一も潜入していない。
別にそれはどっちでも良かったんだけど、できれば早くシェリーに心を開いてもらわないといけないから姉が生きている時期のほうが簡単だもんな。
「はじめましてシェリー。今度から俺がジンに代わって君のところに来ることになった」
「…そう。用件がそれだけなら出ていってちょうだい」
「ふむ、俺じゃないほうが良かったのか?なんだったらジンに言って戻してもらうこともできると思うが?」
「やめて!あいつが来るくらいならあんたのほうがマシよ」
「あれ?ジンのほうがいいのかと思っちまったよ。ちなみに君に何かするとかないから安心してくれ」
「どういうつもり?あなたもただの監視でしょう?」
「あー、いや、組織の一員には変わりないんだが、俺は俺で目的があってな」
ちなみにシェリーは監視がジンじゃなくなってホッとしていた。
あんまりにもそっけないからジンに代わるぞ?って脅かしちゃったけど交代するつもりなんてまったくない。脅かしてごめんよ。
組織の一員だが別で目的があるって言えば、俺がただ組織に忠実な人間ではないと思ってくれるはずだ。
実際に俺は
ただ組織の目的と俺の目的は対立しないってだけだ。
そして俺はシェリーを
とりあえず彼女の好感度を稼ぐためにがんばりますか。
「シェリー、相談なんだがお前の姉はどこかに逃がすことはできないのか?」
「唐突な質問ね。それなら何度も私から言ったけど聞いてくれないわ」
「お前に対しての人質であることは理解しているんだろう?ならば目の前で人質をぶら下げられるほうの気持ちは理解しないのか?」
「危険だからここから逃げてって言っても私は大丈夫だからとしか言わないわね。あなたからも説得してくれないかしら」
「そうだな。お前の姉にここにいられると俺としてもあまり都合が良くない。一度話をしてみるか」
「ふふ、脅したりしないでよ?」
結構な頻度で俺がいるためシェリーとは普通に話ができるくらいにはなっている。
そしてシェリーの姉の心配をして逃したほうがいいとアドバイスするなど組織の人間では考えられない事だ。
こういった言動がシェリーの警戒心を薄れさせる事になる…と思う。
ちなみに俺にとっては宮野志保だろうが灰原哀だろうがどっちでもいいのだ。
まぁこうやって冗談交じりだったり姉の説得をできるかどうかは別としてやってみてくれと言われるのだから効果は出ているのだろう。
シェリーも研究自体はちゃんとやっているので特に虚偽報告とかする必要もないし、ジンから俺に代わったことで精神的にも余裕が出てきているので状況は良くなったと言える。
ちなみに俺は「
組織の中で「姉という人質を置いておくならまだ近くのほうがいい」というシェリーの気持ちはわかるが、このままだと宮野明美の死亡フラグを折る事ができない。
まぁ俺の目的の中に宮野明美の生存自体は関係がないので死んでもいいんだが…
「やぁ宮野明美さん。ちょっと話でもしないか?」
「あなたは…しほ、シェリーの監視役の人よね?私に何か用かしら?」
「まぁちょっとね。とりあえず向こうの喫茶スペースで話そう」
「で、私に用って何?シェリーの事なら私にはわからないわよ」
「あぁ、別にシェリーの話じゃない。君の話だね。シェリーが君を心配しているのは知っているだろう?君は比較的自由を許されている身ではあるが、それはシェリーのおかげとも言える」
「ええ、もちろんわかっているわ。シェリーがずっと研究している間も私は大学生活を満喫できてた。そして私自身が人質としてシェリーを縛っていることも承知しているわ」
「ならばなぜ状況を改善しようとしないんだ?俺にとっては重要な事ではないがお前次第でお前もシェリーも状況がかなり変わるというのに」
「確かにその通りね。ただあなたもわかっているでしょう?組織の手はそんなに短くない。どこに逃げてもあの子の負担にしかならないならまだ近くにいたほうがお互いに安心できるわ」
うーん、どうしたもんかな。これは逃げろって言ったところでまったく聞く気はなさそうだ。説得が成功するとはまったく思ってなかったけどさ。
結局その日はそのまま帰り、また監視という雑談して仲良くなる任務を続けていた。
ある日ジンから指示がありシェリーの監視を外れ別の任務につくことになった。
シェリーには「しばらく離れるがまた戻ってくる。何かあれば勝手な行動はせずに俺に言え」と伝えてある。
どこまで信用してくれるかわからないが今の俺にできることはこれくらいしかない。
任務自体は簡単なものだった。裏切り者の粛清だ。
黒の組織が世界中のいろんな企業やマフィアと結びついている以上、そこで裏切るやつってのは当然出てくる。
金が目的だったり別の組織に鞍替えしたり足を洗いたいから逃げるやつだっている。
厄介なのはFBIやCIAなどといった組織が潜入し裏切り工作なんかを仕掛けてくる場合だ。
今回はそんな中の1つの企業での権力争いが原因だったみたいで警察組織なんかは関係なさそうだった。
問題はその裏切り者が1人じゃなかったところだな。しかも各国に散らばって逃げたせいで追いかけるのに苦労した。
ちゃんと裏切り者は始末したがかなり時間がかかった。まぁかかった時間のほとんどは移動時間だったんだが…
「……俺だ」
「ジンか。指示のあった裏切り者は全員始末した。これよりアジトに戻る」
「わかった。だがその前にもう1つお前にやってもらいたい事がある。あの方からの指示で潜入させていた例の組織を傘下に収める話し合いをお前に任せる」
「了解だ。いつも通り
「そういうことだ。こっちは組織に
「わかった。話をつけて急いで戻る」
ジンに裏切り者を始末したこととアジトに戻ることを報告したんだが別の仕事を任された。
てか、やっぱ
これシェリー逃亡フラグじゃないよな?とにかく急いで用事終わらせて戻るか。
日本へと戻りすぐにシェリーの元へと向かおうかと思ったが、もしかしたらまだ間に合うかもしれないとジンとウォッカを探す。
いた!けど宮野明美撃たれる寸前じゃん!
あ、撃たれた。
ジンとウォッカが立ち去ってから急いで宮野明美に近づく。げっ!あのちっこいのコナンじゃないのか!?
やべー!早く逃げないと!
「…あなたは、帰ってきてたのね」
「とりあえず生かしてやる。この薬飲んでしばらく眠ってろ」
「志保のことお願いしてもいい…?」
「お前が心配することではない。さっさと寝ていろ」
少し離れた場所で応急処置をしてから宮野明美を背負って車へと乗せ、足のつかない医療設備がある場所へと向かう。
さて、思わぬ偶然で宮野明美を助けることができたがどうするかな。
ひとまず治療させ、昏睡状態ではあるが命に別状がない状態まで寝かせておくか。
起きて勝手な行動をされても厄介だ。こいつには「生きている」ってだけで十分だろう。
しかしもう
こうなったらやれるだけやってみるしかないな…
しばらくは新しい指示もないので宮野明美の様子を見ておき、容態が安定してきたので別の場所へと移送させる。
これで組織にも見つかることはないだろう。シェリーへの証拠として写メをパシャリ。
この俺に姉の看病させやがって。この借りは高くつくぞシェリーよ。
やっと一段落ついたのでアジトに行き、ちゃんと俺はここにいますよーとアピールしてから研究所へと向かう。
あれ?なんかバタバタしてる?ねぇ、シェリーは?消えた?どゆこと?
研究を中断したからお仕置きに閉じ込めたら消えた?なにそれこわい。
つまり灰原哀ちゃんに変身しちゃってるわけね。
おのれえええ
…落ち着け俺。まだチャンスはある。
つまり今シェリーはコナンと一緒にいる可能性が高いということか。
マジで主人公暗殺計画を立ててやろうかこんにゃろー。
しかしシェリーがいなくなった事によって組織内も少し慌ただしいな。
おかげで米花町に行く時間が取れない。
見つけた!江戸川コナンと灰原哀、そして少年探偵団が歩いている。
少年探偵団には見られたくないので別れるのを待つとするか。
本当は江戸川コナンにも見られたくないんだが、突然
「シェリー、探したぞ」
「!?あなた…どうして」
「どうしてと言われてもな。俺には俺の目的があると言ってなかったか?」
「おい!てめーどうしてその
「少し場所を変えよう。道端で大声で話すことではないだろう?なんなら君の家にするかい?
「!?なんでそれを…」
ククク、驚いているな。まぁ知っているのは阿笠博士だけのはずだもんな。
工藤新一の家へと移動し3人でソファへと座る。ちなみに対面にお子様2人だ。
「ククッ、そんなに警戒する必要はない。と言っても無理な注文かな」
「あぁ、てめーが組織の人間なんだったら警戒するなってほうが無理ってもんだ。答えてもらうぞ。どうして俺たちの事を知っているのかをな」
「悪いがその必要はないんだよ新一くん。俺は彼女を迎えに来ただけなんだからね」
「工藤くん、少し私に話させて。ねぇ、あなたなら姉の、いえお姉ちゃんが死んだ原因を知っているんじゃない?」
「…あぁ、知っているぞ」
「!やっぱり。お姉ちゃんはどうして殺されたの!?」
「悪いがそれはここでは教えられない。シェリーと二人きりならば話そう。だがそれは後にしてくれないかな」
「私を連れ戻してからってことかしら?」
「いや、連れ戻す気もないんだ。何度も言うが俺は俺の目的のために動いている。そしてあまりゆっくりしていられる時間はないんだ。できればすぐに移動したい」
「そんなことこの俺が許すわけねーだろうが。あんたにはここで洗いざらい吐いてもらうぜ」
「…君は理解しない子だね工藤新一。君は今、俺の慈悲で生きていられている事をまったくわかっていないようだ」
「は?おめー何言ってやがる」
「…毛利蘭」
「!?なんでそこで蘭が出てくる!?」
探偵なんてやってるから知らなければ気がすまないのか、それとも今なら自分のほうが有利だとでも勘違いしているのか、まぁ理解できないならば自分の状況を理解させるまでだ。
俺が黒の組織の一員であること、そして俺はジンの部下でもあること、そして毛利蘭や鈴木園子、小嶋元太たち少年探偵団、隣に住む阿笠博士、それらの名を告げればコナンの顔色は真っ青になっていった。
なにせ工藤新一であるということがバレている上に身近な人間も把握されているのだ。そしてそれを知っているのは自分を
悪いね探偵くん。もしかしたら他のコナン世界とかでは君に協力して組織壊滅を目指す
「ねぇ、あなたは私を組織に連れ戻す気はない。そしてわざわざそれを言いに来たってことは周りを巻き込むつもりもないって考えていいのかしら?」
「あぁ、それでいい」
「なら私を連れて行って。その代わり工藤くんの事も、周りにも何もしないって約束して」
「おい灰原!」
「それだけ約束してくれたら私はあなたの元に行くわ。お願い」
「約束しよう。そしてシェリー、いや宮野志保。君にも危害を加えないことも約束する」
「あなたの目的が何なのか知らないけど随分と優しいのね」
「交渉成立だ。但し、工藤新一。君の行動によっては周り全部失う事になるということを覚えておいてくれ。俺も忙しいんだ」
工藤新一は納得していないようだが、人質が多すぎて動きようがないだろう。
まぁシェリーを組織から奪うことになるから俺も下手な事は言えないんだけどな!
コナンから下手に俺の事が伝わったら俺も死ぬ。
灰原哀を連れて工藤邸を出てさっさと米花町を離れる。
さて、ここらで彼女に感動の対面はさせないけど嬉しいニュースを伝えてあげるとしよう。
「シェリー。良いニュースと若干良いニュースどっちから聞きたい?」
「なによそれ。どっちでも構わないわ」
「では若干良いニュースのほうから。君はこれから俺が匿う。組織には知られる心配はないから安心しろ。君の事を知っているのは俺だけだからな」
「…あなたは組織に忠実だと思ってたけど、自分の目的のためなら組織を裏切るというの?」
「別に裏切ってはいない。研究者のシェリーはもうどこにもいない。そして居場所を知るのが俺だけとなった以上、もうその存在は誰にも知られることがないだけだ」
「詭弁ね。まぁ私としてはそのほうが助かるからいいんだけど。それで良いニュースのほうは?」
「宮野明美は生きている。てか俺が助けておいた」
「なっ!…それは本当なのね?」
まぁ疑うよね。ちゃんと証拠もあるよ。ほら写メ見てごらん。お姉ちゃんだよ。
治療されベッドで眠っている姉の姿を写真とはいえ確認できたからか、その顔はとても嬉しそうな表情をしていた。
どこにいるのかとか容態はとか聞かれたけど場所は明かせない。そして命に別状はないとだけ教えておく。起こす予定がない事は言わないが。
そして姉が殺されそうになった原因が宮野明美自身であることもきちんと伝えていく。
赤井秀一(諸星大)というFBIの人間の当たり屋行為から始まりいいように利用され潜入の手伝いをし、それが判明して排除対象になってしまった事なんかを脚色しつつね。
実際組織からしてみたら宮野明美の行動はただの裏切り行為であり、粛清案件なのだからフォローのしようがないんだよな。
ちなみに俺がなんで宮野明美の治療や匿ったり、今も灰原哀を組織から匿ったりできるかというと、宮野明美が起こした10億円強奪事件のお金は俺がもらったからである。
本当ならばコナンに渡るはずだった鍵はコナンに会う前に宮野明美を回収したことで俺に渡った。
後は金の力でいろいろと根回しや買収などで隠れ家とか設備ゲット!しただけだ。
宮野明美が生きているのは自分で強奪してきたお金があったからなのでマッチポンプっぽいが結果的に良かったんじゃないかな。
「そろそろ教えてほしいんだけど。私はあなたに何をすればいいの?」
「ん?もうすぐ隠れ家に着くからそこでわかるんじゃないかな」
「あなたの行動はよくわからないのよね。私が目的に必要なんだろうなとは思ってるんだけど、身体目的じゃなさそうだしお姉ちゃんの生殺与奪まで握られて私が逆らえない事はわかってるんだから教えてくれないかしら」
まぁ俺には俺の目的があるとはずっと言ってたけど、それが何かなんて誰にも言ってないもんな。
身体目的っていうか、身体も入ってはいるんだけどそっちの意味じゃない。
しばらく車で走り続け、ある町の隠れ家に着いた俺たちは家の中に入る。
そのまま地下室へと入っていき、様々な機材を見た灰原哀は驚きの表情を浮かべた。
「…ここで何をするのかしら?」
「ククッ、これを見てわからないか?」
「…マイク、よね?」
「そうだ、ちょっとそこに立て。高さが足りないな。台になるものを…と。これでいい。マイクに向かってちょっとこれ読んでみてくれ」
「なにこれ…黄昏よりも昏きもの、なんなのこれ?」
「次こっち読んでみて」
「たぶん私は3人目…ねぇ、ほんとなんなの?」
「もうちょっと抑揚ない感じで!」
「…たぶん私は3人目」
「次これいってみよう!」
「おたるーだ、だいすきー…」
「違う違う、もっと元気よく天真爛漫な感じで!」
「いやよ!こんな恥ずかしい事言いたくないわ!」
「まぁライムは早すぎたか。とりあえずシェリーには?いや志保には?灰原哀ちゃんには?これをやってもらいます!」
「まさか、あなたの目的って…」
「そう!君にこれらのセリフを全部全力で演ってもらう。ちなみに拒否権はない」
「…うそでしょ」
「クククッ、(終わるまで)逃さねぇぜ。シェリー」