クククッ、逃さねぇぜシェリー 作:きりりん
そのため、黒の組織の流れをある程度先に進めてしまってからご都合主義のコナン時空でサブキャラたちを出していこうと思います。
「なっ……なんなのよこれ…?」
私は今1冊のノートを見ている。それも隠れ家にある彼の部屋に忍び込んで…
この隠れ家に来て彼と一緒に過ごすことが多くなったけれど、未だに彼の
私が彼に言われてやったことなんて『地下にある録音設備で指定された言葉を言う』だけしかない。
他には歌を指定されたこともあるけれど、あれはおそらく気分転換させようとかいう類のものだろう。
今までずっと研究所生活であまり最近の流行りとかには詳しくないからか聞いたことのない曲だったけど、気に入ったから誰の曲か聞いても教えてくれなかったのは理由がわからなかった。
それはいいとして、私に教えてくれないってことは言えないような目的…もちろん組織の人間でもあるから真っ当な目的ではないだろうことは覚悟しているつもり。
そしてそれを知ることで阻止することはできなくても少しでも遅らせることでもできれば…と思い色々と考えていたけどまったく予想もできなかった。そのため、私は彼の留守を狙って思い切った行動に出ることにした。
それは…『彼の部屋に無断で侵入し何か手がかりを探す』ということだ。
この隠れ家には部屋ごとに鍵なんて付いていない。当然私に充てがわれた部屋も鍵なんてないけれど、私はほとんどこの隠れ家で過ごしているからあまり関係がない。
ただ彼の場合は違う。組織からの命令で海外に行ったりもするのに、部屋に入られることがあるとは思わないのかしら?信用されてると思えたらいいけど、もしかして試されてるの…?
こっそり部屋に入ってみたけれど、初めて見た彼の部屋の中はあまり物が多くなかった。そのわりには服とか散らばっていたけれど…脱ぎ散らかしているわけじゃないみたいだけど、どうしてこういうところは雑だったりするのかしら?そういえば食事とかもあまり気を使ってなかったわね。とりあえず散らばっている服は気になったので畳んでおいて…
机の上にはパソコンが1台置いてある。この中を見れば有用な情報が手に入るかもしれない。ただパスワードはかかっているだろうし、下手な事をしてそれが見つかるわけにもいかない、
なので別の何かがないかと机の引き出しを開けたら、1冊のノートだけが入っていた。
気になってそのノートの中を見てみれば、そこにはびっしりと人名が書き連ねられていた。その名前を見る限り国籍も性別も様々なようだ。中には仮名のようなものもあり、もしかしたら彼にしかわからないようにしているのかもしれない。
何よりも恐ろしいのは、その名前の横にチェックマークが付けられている名前と付けられていない名前があるということ。
最初のほうの名前の横にはチェックマークが並んでいる。つまりそれは、この人物がもう存在しないだろうという事がわかってしまうから嫌な気分になる。
そこから次に彼が狙おうとしているだろうと予測できる人物の名前は…『野原しんのすけAを呼ぶ5才児』と書かれている。どうして5才の子供が…と思ってしまうが、彼は裏切り者だけでなく敵対組織への対応もしているらしい。そして名前の後ろに書かれていたAを呼ぶという部分…このAという人物をおびき寄せるためだけに5才の子供を利用しようという企みなんだろうということが伺える。
沈鬱な気分になりながらそんなノートをパラパラとめくっていったら、名前ではない単語を見つけることができた。きっとこのキーワードは彼の計画名それ自体か、本来の目的に近づくための計画名と思われる。
やっと得ることができた手がかりに胸を撫で下ろし、ふと彼の事を考える。
彼とは私の監視役として研究所に来た時に初めて会ったけれど、元々その噂だけは聞いていた。
それでいて情報の取り扱いにも精通しており、本来なら殲滅する予定だったはずの敵対組織を傘下に収めて利用するといった事までやってのけるそうだ。
彼はその情報によってなのか裏切り者を見つけることに秀でているらしく、それまでまったく裏切るような素振りもなかった相手に突然裏切り者の烙印を押すらしいのだ。
その後実際に調べてみると情報の横流しなどの証拠が出てくるから組織内の監視としても信用されているとの事だった。
これも噂程度だけど、一度は幹部として誘いがあったにも関わらずそれを蹴ってジンの部下として動いているという変わり者という話も聞いたことがある。
嘘か本当かはわからないけれど『裏切り者を粛清する時は喜々として手を下す』とか『どれだけの事をしたのかわからせるために家族を目の前で殺してから本人を絶望させて、それを見て笑っている』などといった話も聞いたことがある。
そういった噂があるからなのか、研究者たちの間で『決して近づいてはいけない』人物と思われていたようだった。
私がそれを聞いた時は少々疑いはしたものの、嘘だとも言い切れなかった。何せあのジンが部下として大事な場面は任せるほどだとも言われていたからだ。
そんな彼が私の監視として来たときはジンの代わりとして納得できる人材としか思わなかった。他の研究者たちからは同情の視線が少し鬱陶しかったけれど、話してみると意外とまともだったというのが最初の印象だったわ。ちょっとそっけない態度をしたくらいでジンと代わろうとしたのは彼なりの意趣返しだったんでしょうね。
彼はお姉ちゃんの事を気遣ったりしていたけれど、その時は私を懐柔しようとしているとしか思わなかったから当たり障りのない返事しかしていなかった。
あまり下手な事を言ってお姉ちゃんに被害が及ぶような事だけは避けたかったから…ジンの部下なんて信用できるはずもないし。
その後彼が別の任務でいない間に諸々あって私が子供の体になって組織から逃亡し、工藤くんと一緒にいるところに現れた時は殺される事を覚悟したわ。
お姉ちゃんも死んだと聞かされ、組織から逃げ出した私を追いかけてきたんだろうけど、彼の恐ろしいところは工藤くんの正体まで見破っていたことだった。
組織にとって裏切り者である私、そして組織の試作薬で小さくなった工藤くんの事も知っている以上その場で始末されるのかと思っていたけれど、工藤くんの家で彼から出てきた言葉は私にとって信じられないものだった。
もし逆らったらと考えると私には大人しくついていくしか選択肢がなかった…せめてもの抵抗として、態度や言葉遣いだけは研究所にいたときと同じようにしていただけ。そのはずなのにそこからお姉ちゃんの生存を聞かされ、更には私を匿ってくれるとまで言い出した時は自分の耳を信じられなかったくらいだったわ。
隠れ家に連れてこられて最初にしたことがマイクに向かわされて、こんなことが彼の目的なのかと呆れたりもしていたけれど、よく考えてみればそんなはずはないと思い直した。指定された言葉によっては「嫌」って言ったらすぐに諦めてくれたし拘っているようにも思えなかったから。
この声を録る行為が何の意味があるのかはまだわからないけど、恐らく何かに利用しているんでしょうね。
それでも米花町に用がある時は工藤くんに私の無事を伝えてきてくれたり伝言があれば伝えてくれたりしてくれるのがよくわからなかった。
組織の人間として考えれば私を人質として工藤くんたちを黙らせるか消せばいいし、私はお姉ちゃんの名前を出されるだけで逆らえなくなるのだから。
そんな私の考えなんて知ってか知らずか、彼は組織で研究を続けているデータなども持ってきてくれるし、私がそれで研究していようがしていなかろうが気にもしていなさそうな感じさえする。
だからこそ余計にわからなくなってしまうのよね。組織の連中のように研究成果が欲しいようにも見えない。地下室での変な行動を抜きにすると私がしていることって、ご飯作ってお茶淹れて家事して…これって家政婦?まさかね…
私は研究者であって探偵でもなんでもないからこういうの得意じゃないのよ。推理するのではなくトライアンドエラーで答えを導き出すタイプだし…
そんな彼の情報を頭の中で整理していた私は今の自分のうかつな行動を後悔した。彼がなぜ私に対して友好的に接しているのかは未だに答えどころかヒントすらわからないけれど、勝手に部屋に忍び込んでターゲットリストだろうノートを見てしまった。
ターゲットの名前を見たくらいじゃ何も問題ないかもしれないけれど、今の私の立場は彼の気分次第で天国にも地獄にもなるという事を思い出したから…
頭の中では『彼ならこれくらいでは怒らないだろう』という気持ちがあるけれど『もしかしたら…』という気持ちもありぐるぐると回っている。
とにかく落ち着かなきゃ…ノートを元に戻して彼の部屋を飛び出し、自分の部屋に戻ってこれからどうするかを考える。とはいえ、私にある選択肢は『正直に話す』か『黙っている』しかない。
彼が隠れ家を出てからどれくらいで戻ってくるのかはマチマチでわからないけれど、それまでにどうするか決めておかないと…
それでもそのノートの中に知っている名前がなかった事を不幸中の幸いだと、ほんの少し安心してしまった私は嫌な女かもしれないわね。
結局数日経っても答えは出せず、ついに彼が帰ってきてしまった。
「ただいまシェリー。少し話があるんだが構わないか?」
「何よ突然。何かあったのかしら?」
「いいや、俺もそろそろ組織とは別に動き出そうと思ってね。それでシェリーにも協力してもらおうと思っているんだ」
「内容によるわね…と言いたいところだけど、私に選択肢なんて無いのはわかってるわ」
やっぱり今まで私にさせていた事はブラフだったということね。そして組織とは別で動く…それが組織と敵対するような話なのかわからない。でも私が拒否したら誰かにしわ寄せがいく可能性がある以上、できるだけ私も関与して少しでも把握しておいたほうが得策ね。
でも本当はいつも通りに接しながらも、すぐに室内に入ったことを告げるつもりだったのに先を越されてしまった。
「あの…それでね」
「シェリー、話はリビングで紅茶でも飲みながらゆっくりするとしよう。ひとまず着替えてくるよ」
そう言って部屋へと向かっていく姿を見ながら、焦りすぎだと自分を戒める。そのままキッチンに向かいお湯を沸かしていたら、戻ってきた彼から言われた言葉で心臓が止まるかと思った。
「シェリー、部屋を片付けてくれたのか?散らかしていて悪かったね」
「っ!?そ、そうよ。勝手に入ったのは謝るわ。ごめんなさい」
「いや、構わないさ。脱ぎ散らかすわけじゃないんだが、どうにも面倒でね」
「それでね…あの、机の中にあったノートも勝手に見ちゃったの。本当にごめんなさい」
「ああ、アレを見たのか。見たところでシェリーには意味がわからなかっただろう?」
「ええ…それでね、あのノートに書かれている名前の人は…
「(そもそもキャラ名だから)存在していないな。いや、俺の心の中では生きていると言うべきか。それがどうしたんだ?」
「いえ、何でもないわ。変なことを聞いてごめんなさい」
どうして部屋に入ったのがわかったのかと思ったら、そういえば散らかっている服を見てつい畳んじゃったような…私ったら何やってるのよ!?
ただ、どうやら部屋に勝手に入った事もノートを勝手に見た事も怒ってはいないようね。それでもやっぱりというか、あのノートに名前が書かれていてチェックを付けられた人物はもうこの世にいないということは彼の返事でわかってしまった…
それにしても心の中では生きているなんて、本当の彼は命を消してしまう事を悔やみながら組織に従っているとでもいうの?彼の表情からは気持ちを読み取ることができないのは、私がそういった事に長けていないからなのか彼が一枚上手だからなのか…
そこから彼が動き出すという話を聞いたけれど、まだ今は具体的に動き出すわけではないため詳細は教えてもらえなかった。
もしかしたら何も聞かずに大人しくしているのが一番みんなにとって良い事なのかもしれないけれど、後から聞かされて後悔するくらいなら最初から関わっていたほうがマシなはず…
そんな事を伝えたら、私の心の中を見透かしたように彼から放たれた言葉を聞いて心臓が飛び跳ねたような気がした。
「ククッ、シェリーは家族想いだな。そんなシェリーにこの
『傷つく事は恐くない、だけどけして強くない。ただ何もしないままで、悔やんだりはしたくない』
子供の体になっても自分の身を挺して姉を守ろうとするシェリーにとって、そして今もそうやって何とか動こうとしているシェリーにとって響くところのある良いフレーズだと思わないか?」
しかも聞けば私にゆかりのある人の言葉らしい。まるで私の事をよく知っているかのような言葉ね。でも私に関係する人なんてそう多くないはず…そういえば彼がいつから組織にいるのかも知らないわ。
もしかしたらお姉ちゃんだけじゃなく私の両親とも交流があった可能性があるということ…?それなら私とお姉ちゃんを助けて匿っている事にも説明がつくかもしれない。もちろん都合の良い解釈だろうとはわかっているけれど。
結局その言葉を誰が言っていたのかまでは教えてくれなかったけど、その言葉の通り何もしないで「あの時こうしていれば…」なんて思いたくないものね。
それにヒントはもう手に入った。あのノートに書かれていたのはその名称だけだけれど、少なくとも場所は間違いないだろう。
決して彼と敵対したいわけじゃないし私は探偵ではないけれど、教えてくれないのならばこうやって少しずつ手がかりを見つけていって最後はたどり着いてみせるわ。
彼の立てている計画が誰にどんな被害を齎すのかわからないけれども、私にも関わらせるということはその時期が来たら教えてくれるはず。その時は私もその場所にいる可能性が高いってことよね。
工藤くんや阿笠博士たちには話すわけにはいかない…話したらあの小さな探偵はきっと首を突っ込んでくる。彼が私との約束で工藤くんたちに組織の危険がないようにしてくれている以上、余計な事を言って危険に晒すような事はできないわ。
そう、彼のノートにはこう書かれていた。
『東都ブギーナイト計画』と…………