クククッ、逃さねぇぜシェリー 作:きりりん
「この度はご迷惑をおかけして誠に申し訳ありませんでした」
「いえいえ、お気になさらず。こんな事が起こるなんて誰にもわからない事ですから仕方がないですよ」
「…そう言っていただけると助かります」
前回森由紀子が逮捕されてしまったわけだが、俺が依頼していた仕事が消えたわけじゃない。元々森由紀子個人に頼んだのではなく、所属するデザイン事務所に依頼をして担当したのが森由紀子だっただけなんだから。
つまりデザイン事務所的には仕事の依頼を受けたにも関わらず、その担当者が同僚である橋本清美を殺害したことで逮捕されてしまったという面目丸つぶれな状況になってしまったわけだ。
しかも俺は仕事を依頼したてのご新規さん、新しい顧客に対してマイナスイメージを持たれてしまっているというところから平身低頭で謝っている状態だ。
まぁ俺は別に不祥事なんてまったく思ってないわけだが…どちらかと言うと予定通りだ。
何せ今森由紀子の代わりとして目の前で謝っているのは同じデザイン事務所に所属し先輩でもあった河合静香だ。
だが決して凡骨
白衣を着て汎用人型決戦兵器の研究してると思いきやさらしを巻いて一心不乱に太鼓を叩いていたり、海に嫌われるという悪魔的な実を食べて手足を咲かせたりといろいろやっている人のほうだ。
「いろいろと大変だとは思いますが、依頼を取りやめるつもりはありませんよ。ですのでもう謝るのは止めにしましょう?河合さんが引き継いでいただけるようですし、これからよろしくお願いしますね」
「本当にありがとうございます。清美だけじゃなく由紀子までいなくなってしまって、これからどうしたらいいのか…」
「そう心配することもありませんよ。あなたは何もしていないのだから、胸を張って仕事に打ち込めばいいんです」
どうやら森由紀子の事件がまだ尾を引いているようだな。まぁ考えてみれば同僚が2人突然いなくなったわけだし当然か。
しかも殺人事件だもんな。このあたりはあんまり描かれてないところだから知らなかったが何事もなかったかのように過ごしてたらおかしいか。
森由紀子の事件の直後にあまり怪しまれる行動をするわけにもいかないので、今日のところは引き継ぎの顔つなぎだけの予定だ。
サンサンクリーニングのア○リスフィールお母さんのように少しずつ好感度を上げていけばそのうち楽しめるようになるだろう。
「それでは今日のところはこれで失礼しますね。由紀子さんの事は大変でしょうが、元々期限なんてあってないようなものなので落ち着いてからでも連絡をください」
「わかりました。これからよろしくお願いします」
さて、これで森由紀子の一連の顔つなぎはできたことだし、これからどうするかな…
いい加減パイカルの事をシェリーに伝えないといけないような気もするが、どうすれば都合がいいか悩むところだ。
一応前もって和葉ちゃんに「今度東京で毛利探偵事務所に顔出そうと思うんだけど、服部くんと被ってもいけないからお土産何渡したか聞きたいんだ」ってことで服部平次のアドレスをゲットしてある。
それだけだと言い訳として弱かったのでシェリーと一緒にまた遊びに行ってもいいか聞くためという名目も付け加えてあるが…
そんな事を考えながらシェリーが待つ隠れ家へ戻ろうと思っていたら、ウォッカから電話がかかってきた。
用件は「お前が考えた計画の第一段階が無事に終わったぞ」ということだった。つまり世界中スパイ大作戦がついに本格的に動き出したということでもある。
クククッ、それじゃあいよいよ俺も本気で動き出すとしようか…
そのためにはシェリーにも協力してもらう必要がある。今まではただ匿ってきただけだが、ここからはシェリーの協力なしでは難しい部分もあるからだ。
本人の意向も考慮するがきっとシェリーなら喜んで協力してくれるはずだ。今まで積み重ねてきた好感度はきっとそれなりの高さにあると信じている!
「ただいまシェリー。少し話があるんだが構わないか?」
「何よ突然。何かあったのかしら?」
「いいや、俺もそろそろ組織とは別に動き出そうと思ってね。それでシェリーにも協力してもらおうと思っているんだ」
「内容によるわね…と言いたいところだけど、私に選択肢なんて無いのはわかってるわ」
隠れ家に戻ってきて早々にシェリーに協力を持ちかけただけなのに、中身を聞くこともなく協力してくれるようだ。ただなんで「選択肢がない」って言葉が出てくるのかわからんな。
もしかして断ったらマズイ事になるとでも思ってるのかな?もしそうならいらない心配だと思うんだが…
シェリーのほうも何か言いたそうだし話は着替えてリビングで寛ぎながらでもいいだろう。部屋に戻り着替えようとして、服が畳まれていることに気がついた。
あれ、シェリーもしかして部屋の掃除とかしてくれてたのかな?もしかしてさっき何かを言いたそうにしてたのはそれか…「あなた服くらいちゃんと畳みなさいよ」とかそういう類の事な気がするな。
リビングでシェリーの淹れてくれた紅茶を飲みながらお礼を言ったら謝られた。どうやら机に入れてあったノートを見たらしい。
別にアレを見られたところで何も問題ない。何せ俺にしかわからない名前だからな。
書いてある内容も『惣流アスカラングレー』とか『碇ゲンドウ』とか『ベジータ』とか書いてあるだけだ。録音に成功したらチェックマーク付けて、これから接触するであろうターゲットの名前を見てはどう立ち回るか考えたりするだけのリストでしかない。
まぁそれはそれとして、ひとまずシェリーには動き出す準備というか近い内にそういう動きをするということだけ伝えておく。
「先程言った動き出すという話だが、そう難しい事じゃない。それにすぐに何かをするわけじゃなく、今はまだそのための準備と言ったところだ」
「あなたが善意で私とお姉ちゃんを助けたわけじゃないことはわかっていたわ。地下にある
「いや、あれは俺にとっては重要な設備なんだぞ?むしろあそこが心臓部と言っても良いくらいだ」
「ふーん…」
シェリーの中ではあのセリフたちはカモフラージュ扱いになってたのか…というか、シェリーは何か勘違いをしているような気がするな。
確かに元々シェリーを狙っていたんだろうと言われればそれまでなんだが…シェリーが言うような善意100%で助けたわけじゃないのはそうだけど、その結果姉も無事で本人も狙われるような危険がなくて良い環境だと思うんだが。
「シェリー、どうやら誤解があるようだが別に無理に協力しろとは言っていないぞ。嫌ならそれでも構わない」
「そうやって表向きは甘やかすのね…あなたがいない間に自分の立場を考えてみたのだけど、改めて私はあなたに逆らえるような立場じゃないって思ったのよ」
「うん?」
「今はとても丁重に扱ってくれてることは理解しているわ。ついそれに甘えてしまっていたけれど、私が何かあなたの気分を害するような事をしてしまうとお姉ちゃんまで危険になる可能性があるのよね。だからといって何もせずに大人しくしていて、後から聞かされるくらいなら最初から聞いていたほうがいくらかマシというものよ」
「ククッ、シェリーは家族想いだな。そんなシェリーにこの
『傷つく事は恐くない、だけどけして強くない。ただ何もしないままで、悔やんだりはしたくない』
子供の体になっても自分の身を挺して姉を守ろうとするシェリーにとって、そして今もそうやって何とか動こうとしているシェリーにとって響くところのある良いフレーズだと思わないか?」
「そうね…それでこれは誰の言葉なの?」
「クククッ、シェリーにとってとてもゆかりのあるひとさ」
「私にゆかりのある…?(お姉ちゃん?いえ、違うわね。でもそうすると…まさか)」
何やら考え事をしているようだが、giveでaなreasonの中でもここはとても良いフレーズだろう?
シェリーのように直感ではなく理論で行動するタイプの人間ってのは何かしら動くために理由が必要なものだ。そしてそんなシェリーにピッタリだと思ってたんだよ。シェリーにゆかりがあるひとってのも嘘じゃないしな!
それはそれとして、俺は俺でこれからの事を考えないといけない。何せここから先の立ち回りはいろいろと慎重に動いていかないといけないからだ。
組織の人間として指令をこなしつつ、潜入しているスパイ幹部たちに気取られないように綿密な計画を立てる。まぁ現時点では面識もないから気取られるも何もないんだが…そしてそうやってスパイたちが何も知らない間に俺は俺の目的を達成していく。
そのための最後のピースになるのがシェリー、いや
シェリー本人はどうやら協力してくれる気のようだし成功は約束されたようなものだな。やはり日頃から積み重ねてきた好感度は伊達ではないようだ。
しかし逆らうとお姉ちゃんが危険になるとかそういう理屈っぽい言い訳が必要なところは研究者気質って感じがするな。
本当は宮野明美を普通に助けてあげればいいだけなんだろうけど、それをするにはリスクが大きすぎる。何せ妹が組織にいるにも関わらず
そして俺はそこにほんのちょこっとだけ
しかも俺の頭の中にはすでにいくつかの計画が浮かんでおり、これからの事を考えると楽しみで仕方がない。
「ねぇ、お茶を飲みながらニヤニヤしないでくれない?」
「ああ、すまないな。ちょっとこれからの事を考えていただけだ」
「これからの事…
「そうか?
「…そんな事ばかり考えていたらいつか痛い目を見るわよ」
ただこれから始まるであろう大規模な計画が無事達成できた時のことを考えてニヤニヤしてしまっただけなのに、なぜシェリーはそんな複雑な表情をしているんだろう。
痛い目を見るなんて心配して言ってくれるのは嬉しいが、既に第一段階は終わっているし第二段階もすぐだ。まだ伝えるわけにはいかないが第二段階が完了したら心配の種が杞憂であることを教えてあげるとしよう。そうすればシェリーも安心してくれるに違いない。そう考えるとこれからの事についてもやる気が出てくるってものだ。
シェリーとの話を終え、部屋に戻った俺は各員へ指示を出していく。この各員とは組織の構成員ではなく各国の警察組織に潜入しているスパイたちや傘下に収めた外部組織の事だ。
いくら潜入させたとはいえ今はまだ末端だろうし、時間をかけるよりもさっさと手柄を立てさせてある程度の地位まで上げてやったほうが効率が良いというわけだ。連中の手柄になる要素なんて周りを見れば山のようにあるわけだし、ただ敵対組織を潰すのではなく傘下に収めていった努力の甲斐もあるというもんだぜ。そいつらに黒い服装を指定してあるメモを持たせて取引をするよう指示し、スパイのほうにはその取引場所や日時の情報を流してやる。それだけでスパイは評価され警察は犯罪を取り締まることができる。捕まるのは傘下の組織構成員だし黒の組織の情報は持ってないから何も出てこない。そしてこの計画の肝はある単語の書かれたメモを持たせて逮捕させることにある。
「クククッ、下準備は順調だな。これで閣下の…おっと、これはまだ早いな…」
順調に進んでいく第二段階に満足していた俺は、このとき部屋の外で盗み聞きしていたシェリーに気付くことができなかった。