クククッ、逃さねぇぜシェリー   作:きりりん

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19話

 

 

『新一!いますぐワシの家に来てくれ!あ、あの男がまた来とるんじゃ!』

 

「なっ!?わかった!今すぐ行く!」

 

くそっ!まさかまたあの男が来るなんて…予想外にも程があるぜ。

 

あの男はある日突然オレたちの前に現れ、オレを含む周囲の人間を人質として灰原を組織とは別のどこかへと連れ去った。そしてその灰原を実験台にしたり幼女趣味でひどい目に遭わせ、更にはオレの周辺環境を全部把握し人質として下手に動けないようにしてきた。そんな男がまた博士のところにやってきているらしい。

 

阿笠博士からの連絡を受けて、急いで博士の家へと向かいながら頭を働かせる。

 

最後にあの男に会ったのは灰原が所属していた黒の組織の幹部であるジンを偶然見つけて追跡したときだ。到着した先では『映画監督・酒巻昭を偲ぶ会』が催されており、そこで政治家である呑口重彦が突然倒れそのまま死亡するという事件が起きた。

 

当然殺人事件を疑い聞き込みなどをしようとしていた矢先に、まるでオレがいることがわかっていたかのようにあの男が目の前に現れたんだ。

 

そしてあの男は「シェリー(灰原)との約束だから止めた」と言った。どこまで信じられるかわからねーが、オレを止めるだけで見逃したところから考えるに約束というのは全部が嘘というわけではないんだろう。

そうじゃなければ今頃とっくに邪魔者として殺されていた可能性のほうが高い。まだ数えるほどしか相対したことはないが、一応取引などの約束は守るタイプということなのかもしれない。もちろんあいつの言葉を鵜呑みにすることはできないし、警戒だけはしておく必要があるが。

 

ただでさえ灰原はオレや博士たちを人質にされてしまっているから逃げるどころか何をされても拒むことすらできない状態だ。そしてオレも灰原が連れて行かれ、更に蘭たちも実質的に人質にされていると言ってもいい状態で、口惜しいが灰原の行方を探すことすら満足にできない。

 

まさかあの時言っていた「答え合わせ」のために来たわけじゃねーだろう。だが逆に考えればこれはチャンスでもある。今すぐは難しくてもなんとか灰原を助け出すための糸口を見つけねーと…

 

大急ぎで阿笠博士の家へと到着したオレは勝手知ったるとばかりに中へと入っていく。そこには博士の電話の話の通りあの男が悠々と座って待っていた。

 

「いつぞや以来だな工藤新一くん。そういえばこの前の『答え』は出せたかい?」

 

「……くっ、結局突発性の心臓発作として処理された」

 

「ククッ、そうか。彼はきっと心臓が弱かったんだろう。次は呑口議員を偲ぶ会が行われるかもしれないな」

 

ふざけるな!あれからおっちゃん経由で目暮警部に聞いても心臓発作で事件性はないって事だった…だがこいつらが関わっている以上そんなことは有り得ないんだ。それにわざわざ『答え合わせ』なんて言っていた以上オレにこの事件を解いてみろって事で間違ってないはずだ。

今だってそうだ。答えは出せたかなんて聞くってことは、こいつに止められるまでの間に得た情報で推理してみろって事だろう。

 

犯人がこいつらだって確信はある…だがその確信に至るまでのピースが足りない。こいつがあの時邪魔しなければピースは揃っていたかもしれないのに、それを邪魔しておいて答え合わせなんてなめやがって!

 

「それで何の用があってここに来た!?」

 

「ああ、ちょっと阿笠博士に作ってもらいたいものがあるんだが、そのついでに君とも少し話しておきたい事があってね」

 

 

この男の話を聞きながら何度も何度も考えたこの男についてわかっている事を頭の中で並べていく。

黒の組織の人間でありながら自分の目的のために灰原を連れ去っている。こいつ自身が持つ独自の情報網で灰原の居場所どころか、初めて会った時にはオレの正体まで既に知っていた。そしておそらく組織とは別で灰原が研究していたものを進めている。それだけでは飽き足らず連れ去っただけでなく利用しつくすと言わんばかりに灰原を弄んでいたり薬物の実験台にすら利用したりしている。だがその反面、灰原との約束だからとオレが組織に近づく事を止めたりもする。

 

今までの会話などからの予想も入ってるが、これだけじゃこの男の目的がまったく見えてこねー。最初はオレの身体を小さくしやがった黒の組織を追っていたが、今じゃこの男の目的を阻止することが組織を追う事に対しても近道なんじゃないかとも思えてくる……だが今この男の要求を突っぱねるには危険が大きすぎるのも事実だ。既にオレの周りの人間と接点を持たれており、あいつら(少年探偵団)だけでなく蘭やおっちゃんまでもこの男の本性を知らずに好意的に接しているのを見ているともどかしい気持ちにさせられる。

 

……この男はオレとも話をするために待っていたと言っていた。ならば会話の中で少しでもヒントになるような言葉を引き出すだけだ。焦らずよく考えろ工藤新一、必ずどこかにヒントはあるはずだ!

 

「それで……オレに話しておきたい事ってのは何なんだ?」

 

「ククッ、そう警戒する必要はないさ。そうだな……これは俺と君が実は似た者同士だったということに気づいたからなんだ。きっとこの話を聞けばきっと君も理解してくれるだろう」

 

「似た者同士だと?そんなわけがねーだろうが!」

 

「まぁ話を聞きたまえ。確かに一見すれば我々に接点はないように思えるかもしれない…だが、よく考えてみてほしい……だんだんと認めたくない事実が見えてくるんじゃないかい?」

 

オレとこの男の接点だと…?決して今のオレ(江戸川コナン)を指しているわけじゃねーだろう。つまり、工藤新一とこの男の接点といえば事件(犯罪)を起点として起こす者と解決する者、もしくは追う者と追われる者といった関係だろう。こいつらが事件を起こし、オレ(探偵)は事件が起きた時はその痕跡をパズルのピースのように丁寧に拾い集めて真実という形を完成させ解決する。こいつと共通している部分があるとすればそれしか思い浮かばない。そしてこいつらがいる限り事件は起きるということで、こいつらが捕まらない限り事件を解決するためにオレは関わり続ける事になるだろう。確かに認めたくない事実だがそれがどうしたってんだ。オレは絶対にこいつらを捕まえて灰原を助けるって決めてるんだ。

 

「ああ、気に入らねーが確かに共通点はあるな。で、()()がどうしたってんだ」

 

「理解できたようで何よりだ。俺と君には方向性の違いはあれども、その本質は同じようなもの……つまり我々はその点においてわかりあえるという事だと思わないか?」

 

「思わねーな。どこまでいってもオレ(探偵)オメー(犯罪者)はわかりあえるなんてことはねーし、オレはオメーらと違って犯罪を犯すつもりはねー!」

 

まさかオレを懐柔して犯罪者の道に引きずり込むつもりなのか!?何がわかりあえるだ!つまりはオレに犯罪行為をさせようとしているって事じゃねーか!灰原を目の前で連れ去り、周り全部を人質にしておいて何を言ってやがる!

 

「ふむ……認めたくないのか存外頑固だな。確かに君はそう思っているかもしれないが、俺からすれば大して変わらないと言っておこう……そしてそれはシェリーも例外ではない。何せ彼女もまた同じような状況だからね。無論望んだわけではないんだが……」

 

「あたりめーだ!灰原をオメーら(黒の組織)と一緒にするんじゃねー!」

 

確かに探偵なんてやってれば事件は身近にあるものだ。それは間違いねーが、事件を解決する探偵が犯罪者になるなんて物語の中だけで十分だ。そして灰原だって黒の組織にいた事は事実かもしれねーが、決して望んでそこにいたわけじゃねーことくらいわかってる。傍から見れば灰原も犯罪の片棒を担いだと言われても仕方ないかもしれない……だが、それでも喜々として灰原を利用してるオメーが言っていい言葉じゃねーんだ!

 

「確かに君の言う通りシェリーがそういう扱いを受けるのは不本意だろう。だが何を言ったところで()()である事に変わりはない。それは君だって理解しているだろう?」

 

「くっ……灰原がそう(犯罪者に)なったのはオメーらが原因だろうが!」

 

「何を言っている?アレはシェリーの自業自得だろう……まぁ今はそんな話をしたいわけじゃない。工藤新一くん、君なら自分の置かれた状況を理解できると思っていたんだが、それでもまだ認められないのかな?」

 

自分の置かれた状況だと?そんなもんオメーと初めて会った時から理解しているに決まってんだろ!わざわざ蘭や園子、元太たちの名前を出してきておいて今更何を言ってやがる。だがここで弱気になるわけにはいかねー……ほんの少しでもこの男に付け入る隙きを与えてしまえば取り返しのつかない事になっちまう。

 

「……ああ、何を言われようと(犯罪を)認めるわけにはいかねー。オレは胸を張ってあいつら(蘭たち)といるためにも堕ちるわけにはいかねーんだ」

 

「やはり相容れないか…残念だが仕方がないな。それでは話はここらへんにして、ここへ来た本題に入ろうか」

 

どうやらオレにあった話したい事というのはここまでみたいだ。正直、オレが言うことを聞かなかったら蘭たちに何かされる事も警戒していたが杞憂に終わってくれたみてーだな。そこまで必要とはしていなくて、都合の良い手駒にできたら……くらいの気持ちだったってことか?

 

だが次にこの男が要求してきたのは『風邪と同じような症状を引き起こす』薬という使いみちのわからないものを阿笠博士に作らせることだった。自分のところ(組織の研究所)で作らないのは、それが組織の目的ではなく以前言っていたこの男自身の目的に使用するからだろう。だがこいつが言う薬なんて何に使うつもりなんだ…?くそ、こいつの考えが読めねぇ…

 

どう転ぼうとろくな事ではない事には間違いない。それにそんなものをわざわざ阿笠博士に作らせる意味もわからない……こいつには組織の研究者もいるだろうし、独自のルートでもそういった研究者を抱えているはずだ。確かに以前、この男は高性能のネクタイピン型録音機なんてものを博士に作らせている。だが今回は薬だ。それを作らせようとしているのが引っかかる。

 

いや待て……さっきのオレを手駒にしようとしていた会話を思い出せ。オレとこの男にある『事件(犯罪)』という名の接点……そして灰原も加担する側へと引き込まれている……だが灰原の時も今も会話の中で強制はせずに、まるで周囲に銃を突きつけている状況を理解させておいてから自発的に動くように仕向けている……

 

まさか……!そういえば以前もこいつは灰原を薬漬けにして実験台にしていると言っていた……ってことは……

 

「おい!その薬を灰原に使うんじゃねーだろうな!?」

 

「ほう?よくわかっているじゃないか。その通り、この薬はシェリーに使用するものだ」

 

くそっ…やっぱりか!オレがこいつの手駒となればそのまま命令すればいい、そして断ったとしても次は直接薬を作るように言われた博士のほうに()()ことになるだろう。そうなってしまえば博士は灰原を蝕む薬物を()()()()作ったという精神的な枷ができてしまう。せめて博士にそんな枷が付けられる前にオレが背負うくらいしかできることはない……そして灰原の負担を少しでも軽くするためにオレにできる事なんて1つしかない。

 

「それならオレが代わりにやってやる!だからもうこれ以上アイツに手を出すな!」

 

「残念ながら君ではシェリーの代わり足り得ないな」

 

どういうことだ…オレじゃダメで灰原ならいいっていう基準がわからねー。オレも灰原も、二人とも灰原の作った薬で小さくなってることは同じだ。性別、年齢…違うものはもちろんあるが、推理しようにも判断材料が圧倒的に足りていない。

 

こいつがオレをも取り込もうとしていた事から、何かに利用しようとしているのは確実だろう。灰原もオレたちを人質とされている以外に、こいつの犯罪の片棒を担がされる事で罪の意識を植え付けられているのも間違いないはず。オレや博士にやろうとしている事を灰原にやっていないなんて楽観的な希望は持たないほうがいいだろう。

 

灰原についてはそうやって丁寧に反抗心を折っていき、更には実験台とする事でまさしく余すことなく利用しようとしているといったところか……風邪に似た症状ってのを悪用するのであれば、現時点で既に何かしらの薬物を投与されているが抵抗しているであろう灰原を更に肉体的にも精神的にも弱らせて更に懐柔しようとしているってのだって考えられる。利用しようとするのであれば強制的にさせるよりも協力的にさせたほうが良いってのは疑うまでもない話だ。今までこの男から直接聞いている話をまとめれば、灰原はその知識を利用され、実験台として利用され、女としても利用されている……

 

まさしく骨までしゃぶり尽くすような悪魔の所業だ。

 

本当ならばそんな灰原を更に追い詰めるような薬を作るなんて話は断る以外の選択肢なんて有り得ない。だけど…悔しくて腸が煮えくり返るような気分だが、今のオレじゃあこの男に対する抵抗手段がないのも事実……オレが身代わりになるって言ってもこの男はそれを良しとはしない。この差はなんだ?そこがわかれば小さな光が見えてくるかもしれねー。

 

「てめーらが何を企んでるのかオレにはまだわからねー…だが、灰原を自由にする気がないって事だけはわかった」

 

「クククッ、シェリーは今も自由にしているさ…

 

  『()()』自由にな

 

だがそうだな…これは仮定の話なんだが、シェリーと蘭ちゃんだったら君はどちらを選ぶ?」

 

ついに本性を出しやがったか!やっぱりこいつは灰原を利用しつくし、下手しなくても生かしておくつもりすらないってことか!それどころか灰原を蘭を天秤にかけてきやがった…!このどちらを選ぶってのが命を含んでいることくらい確認するまでもねーし、そんな質問に対する答えなんて1つしかない。

 

「どっちかなんて選べるわけねーだろ!」

 

「ほう、君は随分と強欲だねぇ…」

 

何が強欲だ!こいつは人の命をなんだと思っていやがるんだ!?この男の質問は間違いなく『灰原を助けたければ蘭を差し出せ』ということだ。ここでどちらを選択しても後々こいつのいいように利用されるだけ……ただでさえ灰原を犠牲にして平和を享受しているような状況なのに、これ以上追い詰めるような真似をするわけにはいかねー。

 

「さて、これ以上余計な話をする必要はないだろう。そろそろこちらの要求に答えてもらおうか。なに、これがうまく進めば近い内に君の喜ぶ物を用意してあげるとも」

 

だが身代わりすら断られた以上、せめて阿笠博士に「この男の要求してきた薬を作ってやってくれ」と頼む事で、オレの責任において薬を作ってもらうしか今のオレにできることはなかった。これは博士のせいじゃねー、オレの責任だ。

 

薬はその日には完成させられないという事で、後日オレが学校に行っている間に渡したらしい。

 

 

 

オレには1つ確信に近い予感があった。それはあの男がまたオレの前に現れるだろうってことだ。それならそれでこっちだって黙って言いなりになってるつもりはねー。例え少しずつの歩みだろうと、最後は絶対に灰原を救い出してみせる!だから……それまで無事でいてくれ……

 

 

 

 

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