モンスターハンター:オリジン   作:食卓の英雄

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久しぶりだな!タイトルを「モンスターハンター:オリジン」に変えました。


孔雀の輝きを求めて2

「なあ、これはどこまで続いてるんだ?」

「…さあ、俺にも分からん。地表から考えるとそこそこ深いのは確かなんだが」

 

 ゴツゴツと無機質な足元を自前の松明で照らし、奥深く暗闇の先へと掲げる。煌煌と周囲を照らす炎は弾け、膨らみ、揺られては岩壁に光を反射させていく。

 

 緊張からか会話もすぐに途切れ、直に互いの息遣いが響く。この静寂の中ではそれだけでさえ耳に残るほどに大きく感じ、ガチャリガチャリと鳴り合う防具が常に存在を主張している。

 果たして、どれほどの時間が経過したのだろう。十分か、はたまた一時間か。どちらにせよ、今それを知ったところで意味はないものだ。

 

「ん?」

 

 そこでふと、歩を止める。途端に聞こえるのはやはり静寂。背後ではいきなり立ち止まった事に戸惑っているのが感じられるが、今は構っていられない。

 すぐに耳を澄ませて音を拾う事に注力する。

 

 コォオオォォォ……

 

 聞こえた。風の切る音。空洞音に近しき微かな物音は、しかし確かな実態を持っていた。

 

「おい、一体どうし」

「…風だ」

 

 アランを手で制し、再び耳を澄ませる。

 

 コォォオオオオオォォォ……

 

「…聞こえたか」

「ああ、聞こえた」

 

 それもさっきよりハッキリと。この場所、俺たちが今立っている道では風を感じていないのにも関わらず聞こえたそれは、自分たちの目線の先、曲がりくねった通路の先からだった。

 

 そうと決まれば決断は早い。終わりの見えない道に辟易としていた二人は新たな風に喜んで駆け出した。

 足場の悪い中、半ば滑るように角を曲がって、視界が開けた。

 

「おお…」

「これは、すごいな」

 

 見るものを唸らせる自然の都。上空にぽっかりと空いた大穴から射し込む月光がこの地下空間を幻想的に映し出す。

 青白い岩盤と地上では見かけない特異な植物。シダ科と思われる巨大な草が崖沿いに生え揃い、それを求めて草食種が歩みを進めている。

 薬草やキノコ類など見覚えのある素材に見当をつけ、段差や隆起の多い大地へと今降り立った。

 一拍遅れてアランも飛び降り、しげしげと興味深そうにあたりを見回している。

 

「まさか山の中がこんな空間になってるなんてな……」

「ああ、元々火山だったものが落ち着き、その間に生命力の強い生き物が棲み着いたんだろう。この地面も……ほら、少し掘れば灰が出てきた」

 

 さらさらと手の中で砕け落ちる地面の表層。大工のおっちゃんが言っていた、その爺さんの爺さん世代にはまだ噴火していた事から、この光景が創り出されたのはつい最近の事だということが伺える。そのわりにはしっかりと生態系が形成されているが、モンハン世界の生物はかなり強からしい。

 

「よし、繋がってるのは確認したな。もう日が落ちてしまっている。月がよく出てるとはいえ暗いのに変わりはない。これ以上は止めておこう」

 

 空を飛ぶブナハブラが煩わしい羽音を立てながら通り過ぎるのを尻目に、早速もと来た道へと引き返す。アランはもう少しだけこの美しい光景を瞳に収め、横穴へと入っていった。

 

 行きで大体の距離感を掴んたのか、今度はそれほど緊張することもなく話も弾み、気がついたら地表へと抜け出ていた。

 

 ようやく戻ってきたという実感と共に、これまで感じていなかった疲労がどっと襲いかかってきた。確かに思い返してみれば慣れない山道と朝からずっと通して歩き詰めだった。

 緊張から解放されたせいか、足が途端に震え始める。この有様では、何れ出くわすことになるかもしれない飛竜とは戦えないだろう。

 

「もっと鍛えないとな」

 

 そう小さく呟くと、アランが俺の肩を叩く。

 

「今まで先行してもらったんだ。開けた道くらい俺にやらせてくれ」

「あ、ああ。任せた。…悪いな」

「気にするな。今までも俺はお前に借りを作ってばっかだから、この程度はしないとな」

 

 山の表層はここに来た時点から変化なく、しかし暗闇では全くの未知にも感じられた。月明かりに照らされた影が視界をよぎる度、過敏と言われても仕方ないほどに反応を返す。よく見れば、来たときとは違って上空にブナハブラが滞空しているのが見えた。あの地下洞窟にも見かけたが、どちらが住処なのだろう。それとも、上が空いていたからここもテリトリーの一つでしかないのだろうか。

 

 揺らめく影を警戒し、僅かな違和感一つ一つにも注力した。緊張は勿論のこと、新たな地が掻き立てる不安がそれを引き起こししていたのだ。結果的に、それが功を奏したのだろう。

 

「よし、マサミチ。危険なモンスターの影もない。こっちに来て大丈夫だ。……ああいや、飛甲虫には気をつけてくれよ?」

「ああ、分かってる。そっちこそ…?」

 

 こちらへ呼びかけるアラン。その手に握る松明が岩陰の何かを照らす。揺らめく炎のせいで影が無作為に動き回り、すぐ近くの棒状のナニカをちらちらと煽る。

 一見して枝か何かに見えたが、こんな場所にそれほどの灌木はない。葉が落ちきったものが比較的緑豊かな地にまばらにあるだけだ。灰色の大地に、何の意味もない岩陰にそれらだけが密集して放置されているのは何故だ。風が運んだにしては、あまりに不自然だ。風向きからしてあの岩陰に隠れることはまずない。

 そして、外の暗さに目が慣れてきた頃、ハッキリと視えた。

 黒黒とした光沢、散乱するそのすべてが折れ曲がっており、細かい節がついている。その先端には鋭角な二又の鉤爪。―――あれはモンスターの、ブナハブラの脚だ。

 

 何故、何故そんなものが今ここにあるのか。隣にいるアランと比較しても少し大きい。あれ程の岩があったのなら、俺たちは行きで屈みながら移動はしていない。

 ブナハブラの死骸、見覚えのない岩。そうくれば連想されるのは一つしかない。

 俺はアランに向けて全力で叫ぶ。

 

「ッ、アランッッ!今すぐこっちに――!」

 

 ――だが、遅かった。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……

 

 轟音と共に地響きが鳴り渡る。俺は十分に離れている筈だが、それでもこの振動が届いている。発生源に近かったアランは、言わずもがなだろう。

 

「グァオオオオオォォォォォォォォォォォォォンンッッッ!!!」

「っっ!??」

 

 小山が咆哮する。否、それは竜だ。しかし、それを理解しているはずの俺から見てもその存在を、規模を、山としか例えられなかったのである。

 身体を芯から寒からしめるかの如き大音量。生物としての生存本能に強く訴えかけるそれに、俺はただ耳を閉ざし目を伏して耐えることしかできなかった。

 かつての巨岩の姿は無い。盛大な煙幕と共に姿を現したのは、さながら岩石の化身の如き外観。それが二足で歩行するという(現実)を、認めざるを得ない光景。無機質に見える外殻には確りと生物としての痕跡が刻み込まれ、退化した両翼には未だ小石が積もっている。

 

「『バサルモス』…。なんてデカさだ」

 

 それが彼奴の名前だ。鎧竜グラビモスの幼体であり、しかしその巨体故に大型モンスターと分類されている飛竜種だ。岩石の如き強度と質感の外殻に覆われているが故、ゲーム内での別名は『岩竜』。

 鉱石を主食とし、それから栄養を得るために特殊なバクテリアを飼っているが、バサルモスはまだ共存が上手く行っておらず、栄養の摂取が不十分になる場合があるらしい。そのため岩に擬態して小動物や甲虫種のモンスターなどを待ち伏せ、毒ガスで仕留めて捕食する。

 見覚えのない岩と、豊富な鉱石資源が眠っているであろうこの地帯、そしてブナハブラの死骸。俺が確かに注意していれば気がつけた筈だ。

 だが…こいつは本当にバサルモスか?バサルモスというには少し大きすぎる気もする。それに顔のフォルムも鋭角的で、二本の角のような部位はやや後ろにかけて流れ、鼻先正面の角のほうが僅かに大きい。これは…。

 いや、そうじゃない。済んでしまったことより、今は目の前のことに集中しろ。アランは、アランはどこだ。

 俺とは距離が離れていたからか、それとも眼中にすらないのか、バサルモスは俺にではなく不思議そうにキョロキョロと辺りを見回している。どうやら、あれは明確にアランを狙ったわけではないらしい。正確には、アランの接近を他のモンスターか何かと間違えたのだろう。

 この時代、バサルモスが現れるような地帯に人間がそう多く居るはずがない。だから、この推測は間違っていないはずだ。

 

 そう踏んで眺めていると、居た。離れた岩陰にもたれかかっている。頻繁に手元が動いているのを見るに、気絶はしていない。だが、無傷というわけでもないらしい。そのチェーンヘルムの影からは赤い血が流れ落ちている。その血が付着しているのは今まさにもたれている岩。どうやら今のに巻き込まれた上、岩で頭を強打したらしい。幸いなのは、ヘルムを装着していた為に致命的な傷にはならなかった事だろう。

 バサルモスは空を飛ぶブナハブラが気になるようで、威嚇を繰り返している。

 

(今しかない!)

 

 硬い岩盤を踏みしめ、念の為に岩陰に隠れながらアランに近づいていく。

 

「おい、アラン、アラン!大丈夫か!」

 

 慌てて駆け寄り、小声で呼びかける。アランは接近する俺に気づくと、気だるそうに岩に手をかけて身体を持ち上げる。

 

「……う、あぁ。何とか、な。血は出てるが、そんなに深くはいってない…と思う」

「……そうか、分かった。アイツは俺達の方には向いてない。今のうちに向こうまで戻る」

 

 意識ははっきりしているとはいっても、頭に強い衝撃を受けたからか足元が覚束ない。急いで肩を貸し、今出せる全速力で来た道を引き返す。

 お互いの装備の重量からか、それとも飛竜への恐怖からか。動きはかなりぎこちない。中々前に進めない焦燥感と、いつこちらが気づかれるかという不安で息が続かない。頬を伝う汗が不快感を助長させる。

 着実に一歩ずつ進めてはいる。だが遅い。既に岩竜はこちらに目を向けている。

 

 見かけたことのない生物、だが自らの狩場にいるというのなら襲わない理由もない。身に纏う金属の鎧も、この生物にとっては餌の一部なのだから。

 

「くそっ、不味い。もう気付かれた。このペースじゃあ逃げ切れないぞ」

「グォァオオオオオォォォッッ!」

 

 咆哮を上げたバサルモスは両翼を腰だめに構え、その巨体、如何にも鈍重そうな見た目からは信じられない速力でもって走り出した。

 それは小回りの利く人間であれば、離れていた事も含めて避けられる程度のものであった。だが負傷者を抱えている今では回避は難しい。

 走り寄るバサルモスはさながら重戦車。その進撃を背後に覚えながら、無理を通して速度を跳ね上げる。が、バサルモスの方が圧倒的に速い。

 

(畜生っ…、追いつかれる…!)

 

 あんな生物の突進をまともに食らってしまったらどれほどの衝撃だろうか。否、そのまま巨体の下敷きになって鎧等意味を成さないのか。

 そんな嫌な予想を振り払うも、彼我の差は縮まっていく。

 

「左だ!そっちの枯れ枝に向かって飛べ!」

 

 アランが叫ぶ。そちらに顔を向けても、見えるのは高所からの綺麗な景色だけだ。つまり、その先の道はない。ただ落ちてゆくだけだ。

 何を馬鹿な事を、とそう叫び返す暇も無くアランはその先を勧めてくる。俺が躊躇している間にも、背後の気配は一層と強まっていく。もう悩んでいる時間は無い。

 

「〜〜っ、どうなっても知らんぞ!」

 

 間一髪。後頭部すれすれに風を感じながら、俺達は落ちていった。

 

「「うおおおぉおおぉぉぉぉっ!!?」」

 

 その下は崖に他ならなかったが、小さな段差や僅かな足場、急な傾斜等が集まっており、俺達は体のあちこちをぶつけながらも転げ落ちていく。

 

「がっ、ぐうっ。痛っ、ゲホ!がはっ!」

 

 一体何m下ったのだろうか。体感の時間はかなり長かったようにも感じられるが…。

 少なくとも、あのバサルモスからは逃げ切れた。上からは獲物を逃した悔やみの遠吠えが大きく響いている。

 アランの安否を確認しようと隣を見れば、落ちたときの細かな傷は多いが、呼吸は安定している。どうやら二人共無事らしい。

 それで緊張の糸が切れた。ほっとすると同時に俺の瞼はゆっくりと落ちていき、ぼやけた視界の端に映る青と黒のストライプ。それを最後に俺の意識は途絶えた。

 

 

―――…

 

 

「ギャアッギャアッ!」

 

 アランとマサミチが気絶した後、その場には狡猾なモンスターが寄ってきていた。

 甲高く濁った凶鳥の鳴き声を伴って現れたそれは、鮮やかな青色の鱗に黒の縞模様。特徴的な朱のトサカと黄色の嘴。備わる長い鉤爪は脆弱な人間の肉体など容易く引き裂くことだろう。

 鳥竜種 竜盤目 鳥脚亜目 走竜下目 ランポス科。

 ランポス。

 群れで現れた彼等の瞳に映るのは、倒れ伏す二体の獲物。双方硬そうな外殻を持っているが、それも動かない今ならば関係がない。

 ランポス達は大きく声を上げると我先にと駆け出した。小型といえど凶悪。狡猾にして執念深いランポスの爪撃が、気絶した二人へと牙を剥く。

 

「ギィヤァッ!?」

 

 かに思われたが、その威勢は失われた。先頭を走っていたランポスに向け、何かが放たれたのだ。

 それはランポス達に何の痛痒も与えることは無かったが、その発達した嗅覚へと強烈な刺激臭を齎した。

 それはモンスターの糞を固めた代物。ランポスが顔を顰める間にもそれは放たれ、ランポス達は堪らず逃げ出した。

 それを為した者は逃げ出したことを確認すると、身軽な動きで二人へと近づいた。興味深そうに装備を眺めては、顔を輝かせている。

 

「この姿…この道具…。いいニャいいニャ。ボ…オレの夢へと繋がるかもしれないニャ。その為にも、今は安全な場所へ移動するのがいいニャ」

 

 そう呟くと、それは二人の体を持ち上げようとし……。持ち上げようと…。

 

「ぐぬぬぬ……」

 

 悔しそうに唸るのだった。




このバサルモスはもうそろそろ成体になれる個体です。だから両方の特徴を微妙に持ってたんですね。
果たして最後の人物?は一体?

是非とも感想、高評価をお待ちしております。
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