目覚めは突然。にゃーにゃーと騒がしいモーニングコールと共に意識は覚醒した。
「ニャ、起きたかニャ」
目覚めたばかりの視界を覆うもふもふの影。それは俺に対して何か言葉を投げかけ、てしてしと俺の体を叩いている。
それは人間の子供ほどの身長で、人語を介しているが、人間ではない。全身に生え揃った体毛と、三本一対の計六本のおヒゲ。現実世界の猫の様な外見のその生物の名は
「アイルー…?」
「オレ達を知っているかニャ。なら話が早いニャ。竜が暴れていると思ったらニャんと上から二人の人間が転がり落ちてくると来たニャ。それをオレが見つけてここまで運んでやったのニャ。感謝するニャ」
俺を触っていたアイルーがフンスと胸を張って簡潔に経緯を話す。そうだった。確かバサルモスから逃げるために崖から飛び降りて、そこからの記憶がない。気を失っていたらしい。
「っそうだ、アラン…俺と一緒にいたもう一人は!?」
一緒に転がり落ちた筈の相棒の姿が脳裏に浮かぶ。飛び降りる前の時点で頭を強く打っていたんだ。あんな衝撃を受ければ無事とはいかないだろう。
「まあ落ち着けニャ。そっちの方も無事だニャ。より酷い傷もあったけど、誤差の範囲だニャ。お前様よりも早く起きて今頃道具でも確認してるところニャ」
アランが無事だと分かり、ひとまず安堵。辺りを見回す余裕が出来た所で気がついた。
見覚えのある岩の配置。周囲を岩壁に囲まれた小空間。そしてケルビの皮の敷物や枯れ木にかやく草を使った焚き火。
間違いない。俺達が拠点としていた小部屋だ。
「ここって…」
「ここはオレ達アイルーの住処のうちの一つだニャ。越冬には不向きだから別の場所を探してる途中だけど、こうなったら仕方ないニャ。ありがたく思えニャ」
「…いや、ありがとう。感謝してる」
まさか本当にここに以前住んでいたとは。アランの予想が的中した形になる。何という偶然。いや、この厳しい自然の中で俺達の様な非力な種族が生きていくには知恵が必要だ。ならば彼等の用いるような安全な場所こそが俺達の安地でもあるというわけか。
「この世に偶然なんてない、あるのは必然だけ」とは誰が言ったものか。
兎にも角にも、拠点が同じなのは正直有り難い。俺達の現状、道具はあって困るものではない。
痛む体を起こし、防具を脱がして行われたのであろう処置を見つめる。頬や胸、足などにも細かい傷はあるが、殊更酷いのは咄嗟に庇った右腕だろう。
ドスジャギィの際にも盾を掲げて酷似した傷が開いてしまっている。それ以外にも打撲痕や擦り傷、大きく腫れていたりと、目に見えて傷の具合が分かる。
もし日本にいた頃の俺ならば痛みに呻いて顔を歪めていた事だろう。だが今の俺はハンター業での怪我にも少しは慣れた。それでも痛いものは痛いが、活動は可能だ。
そしてもう一つ、口ぶりからして複数なのであろうアイルー達の処置がよかった。患部には擦った薬草が巻かれ、にが虫やアオキノコなど体に良さそうな物が近くに転がっている。これをふんだんに用いて治療してくれたのだろう。
「俺はマサミチ。お前の名前は?」
「オレの名前はムート。ここのアイルー達のリーダーをやってるニャ」
――これが俺達とアイルー、初めての邂逅だった。
「さて、お前様も起きたことだし、とりあえず外の仲間たちも集めるニャ」
ムートはそう言うやいなや、ニャオーンと猫のような鳴き声(恐らくアイルー語なのだろう)を上げると、狭い出入り口から一匹二匹三匹とアイルー達が姿を現した。彼ら、或いは彼女らはにゃあにゃあとアイルー語で何かを発しながら近づいてくるが、生憎と俺には分からない。
「体は大丈夫かって言ってるのニャ」
「そうか。じゃあ大丈夫だってのと感謝してるのを伝えてくれないか?」
再び俺に背を向け、またもアイルー語で会話するアイルー達。言葉こそ分からないものの、仕草からして…喜んでいるのか?
無邪気に喜ぶ彼等の姿にいつぶりかの癒やしを覚えていたら、聞き覚えのある声がかけられる。
「マサミチ!起きたのか!」
アランだ。防具は脱いでおり、一番の傷だった頭には薬草による湿布が貼られている。すぐこちらに駆け寄ると、怪我の触診やら気分の良し悪しなどを聞いてくる。
それについて話をしようとしたところ、入口からまたもアイルーが入ってきた。そのアイルーはムートに何事かを話しかけ、こちらを向き直した。
「始めましてニャ。ボクはアミザ。今後とも宜しくニャ」
「宜しく、アミザ。人間の言葉が使えるのはお前達二頭だけなのか?」
俺の疑問にはムートが答える。
「そうだニャ。フツーに生きるアイルーにはヒトの言葉なんて必要ないのニャ。オレとアミザは……まあそんなコトはどうだっていいニャ。なんでこんなところに人間が来てるんだニャ?」
「俺たちはこの山で採れると思われる素材を採りに来たんだ。途中でバサルモスと出くわしたけど、まだ諦めるつもりはないさ」
ぐっと力こぶを作って見せ、それで傷が開いて声を漏らす。……まあ、流石に今は体を休めることに集中しよう。
―――…
「えーと…これは焼いても大丈夫か。あ、確か近くに特産キノコとか生えてたよな。…そう、白くて小指くらいの大きさの。それも持ってきてくれないか」
「分かったニャ。ボクにお任せニャ!」
時刻は過ぎて昼。体を休めると宣言してから実に4時間ほど経過した。その間は武器や防具の整備や調合に使い、今は全員に行き渡る様に昼飯を用意している所だ。とはいっても、こんな野外でまともな道具もない中で出来ることなどたかが知れてるが。
「ニャオニャニャニニャオゥ…。これ何作ってるんだニャ?」
「作るってほど大したものじゃないけどな。塩漬けした肉と山菜、あとはキノコで「そっちじゃなくてこっちの緑の方ニャ」…ああそう。これは回復薬だな。これが正しいやり方なのかは分からないが、アオキノコで薬草の効果を高めてるんだ」
料理を作る傍ら、手持ちの道具で調合の成果を確かめている。薬草を磨り潰した汁と細かく砕いたアオキノコを水に投入し、僅かな粘性が出るまでかき混ぜる。気持ち的に青汁みたいな感じだろうか。
携帯が可能な容器が無かったためこういった安全な場所でしか飲めないのだ。そしてまた、未だ薬草との違いを実感するほどの怪我にはあっていなかった為、効果の程は分からない。
だが、ここがモンハンを基にした世界であるならば、無意味では無いはずだ。
「持ってきたニャ!」
「おう、いいタイミングだな。それをこっちに入れてくれ」
「こうかニャ?」
「ありがとうな。量が量だから助かるぜ」
「それほどでもないニャ」
アミザは照れくさそうに鼻を掻く。料理の話に戻るが、アイルーが少食とはいえ大所帯。万が一に備えて四日分持ってきていた食料もすぐに尽きる。そのため今はこの付近で調達するしかない。
幸いなことに、食べることが可能な食材はありふれており、この寒冷期でも短期間なら問題はない。
「そういえば、アランは?何匹かのアイルーもいないみたいだが…」
「仲間を連れてどっかに行ったニャ。詳しくはオレも知らないニャ」
言い忘れていたが、人語を使えないアイルーでもある程度の意図は伝わる。円滑なコミュニケーションとまではいかないが、今の所支障は感じていない。いざとなればこの二匹が通訳可能だからだ。
外に出たというアランを待ちながら、火元には気をつける。回復薬にせよ、料理にせよ、最適な火加減、加熱が重要なのだ。そんなこんなで、アイルー達からこの付近のことを聞き出し、ついでにとゲーム知識とこの世界の情報とのすり合わせを行う。アイルー達も初めて出会った人間には興味が尽きない様で、ムート達の通訳を受け付けながらも話に花を咲かせていた。
一段落すると、外からネコの鳴き声と鎧の擦れる音が聞こえてきた。視線を入り口に移すとアラン達が何かを引きずりながら小さな穴から這い出ていた。
「悪い、遅くなった」
何でも、近くに川があったらしく、アイルー達と一緒にツタの葉を編んで網を使った漁をしていたらしい。
フィシ村では魚を取ることはまず無い。あったとして極稀に近くの川まで迷い込んだ魚を追い詰めて手掴みだ。アイルーも手伝ったというからにはそんな習慣があったのかと思えば、アランが考えたとの事。何も事前知識がない中でのその行動には目を瞠るものがある。俺なんてゲームでの知識が無く手探りだったら初日で死んでいただろうに。
「結構な量捕れたと思うぜ」
アランの話に偽りはなく、網の中には大小様々な魚が何匹も入っている。
ニシキゴイとサケ類を足して二で割ったような外見で、背部は深い青色、側面部は鮮やかな朱色、鰭の先は黄色く染まっており、カラフルな体色をしているのはサシミウオ。
明らかにマグロな見た目。マグロとして捉えるなら小ぶりなそれは顎に細く鋭い針が備わっていた。こんな上流の川にマグロという珍妙なものを目にしてしまった訳だが、今更な事だろう。
他にも様々いるのだが…はじけイワシやチャッカツオ、果てにはバクレツアロワナやカクサンデメキン等の危険な魚が多いのは何故だろう。
最も危険な二種類については魚類でなく魚竜であるため肺呼吸が出来るのが幸いか。はじけイワシ?事後だよ。連鎖しないで良かった。
兎に角、これだけの量があればしばらくは大丈夫か。ここにも小さいが水場がある。ネットごと沈めて泳がせ、必要なときに引き上げれば幾分かは保つだろう。
早速サシミウオを捌き、切り身にして焼く。村の中なら生食も考えたが、万が一がないとは言い切れない。
「よし、それじゃあ食事にするか」
「はーい(ニャ)」
本来なら、今日中には探索をして帰る予定だった。それが今は不慮の事故により予期せぬ足止めを食らっている。これが何を意味するのか。今の彼らの知ることではなかった。
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