モンスターハンター:オリジン   作:食卓の英雄

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めっちゃ空いた!


迫る猫玉にご注意を

 時はあっという間に過ぎ去り、空を闇夜で覆った帳が尾をたなびきながら青空に支配を明け渡す。

 マサミチ達が出発してから、三日目の朝を今迎えようとしていた。

 寝床は乱雑に纏まり、アイルーたちと一緒に身を寄せ合ったお陰で寒くはない。獣臭さが気になったとはいえ、許容範囲内。というよりは自らも似たような状態のため人のことなど言えないだろう。

 

 ふわぁ〜!と大きく欠伸をかいて背伸び。朝の冷えた空気が肌をうち、寝ぼけたままの体を覚醒させる。まだ寝たいという本能を理性で閉め出し、いつの間にか消えていた焚き火に薪を焚べる。

 無論、それだけで火は着かない。だからこそ、そばに置いていたシダのような草――火薬草を手に取る。慣れた手付きで千切り、それと同時に木でこすり合わせて衝撃を加える。すると細かくなった火薬草は火種を生み出し、あっというまに燃え盛る炎へと変化する。一本の燃える薪となったそれを入れれば、焚き火の完成だ。

 

 動きを察知したのだろう。何匹かのアイルーは目をごしごしと擦りながら体をもたげ、その一方でアランはぐっすりと眠っていた。

 

「まったく」

 

 そう独りごちるが、昨日は自らも疲れているというのに、自分のために食料調達などを頑張ってくれていたと思えば、何も言うことが出来ない。

 よっと立ち上がり、怪我していたはずの右腕の袖を捲る。昨日までは裂傷と青あざで大きく腫れていたが、今は細かい裂傷はもう皮膚が再生しかかっており、腫れも結構引いている。

 モンハンで回復効果があると明記されているものを服用し、よく休んだのが功を奏したのだろう。未だ痛みは残るが、動きに支障をきたすほどのものでもない。あの高さからほぼ落ちるような速度で出来た傷が、たった一日でこれほど良くなっているとは思わなかった。

 流石はハンター御用達のアイテムだ。これは他の道具の効果も気になるところだな。とまあ、それは置いといて朝飯の時間だ。

 

 水たまりに泳がせておいた魚たちを引き上げ、手早く鱗と内臓を取り出す。あとは棒か何かに突き刺して焚き火で焼く。単純だが、これが手っ取り早い。

 魚の焼ける香ばしい匂いがこの小空間に充満し、一匹、また一匹と身体を起こしていく。全員に朝飯が行き届いたとき、ようやくアランは目を覚ました。

 

「ごちそうさまでした」

 

 朝食を終え、少しの間体を慣らして本格的な準備に移った。細かい傷が増えてきたチェーンシリーズを丁寧に一つずつ装備し、ナイフの手入れと道具の確認。

 革でできた留め具をしっかりと締め、ポーチに薬草など最低限の持ち物を入れて各種道具などを身に着けていく。背中のホルスターの位置も調整し、武器と重ならないようにピッケルを差し込む。紐を通した皮袋にはポーチに入りきれない道具を詰め込む。ポーチに入らないサイズのものや、ポーチのアイテムがなくなったらここから補充する予定だ。

 戦闘中はこの皮袋は使えないが、現実的に考えればこんなものだろう。

 

 この装備を見て、ムートたちは何かを察したのだろう。骨の処理を中断してこちらに寄ってくる。

 

「…今まで世話になったな」

「お前たちがいなかったらオレ達は死んでたかもしれない。ほんとにありがとう」

 

 その言葉ですべてを察したのだろう。アイルーたちは顔を見合わせると、慌てたように立ち上がってきた。

 フィシ村の人以外では、初めて交流した種族だ。別れたくない気持ちはもちろんある。出来れば、村に来ないかと誘いたいくらいだ。だが、アイルーにはアイルーの生活がある。かれらから言い出しでもしない限り、俺が無理に誘う訳にもいかないだろう。

 

 そう思って、言葉少なに身を翻したのだが…。

 

 じー。

 

「ついてくるな……」

「…全然隠れられてないぞあれ」

 

 普通に着いてきている。俺たちが一歩進むごとにかれらもこそこそと歩み、振り返れば慌てた様子で岩陰に身を隠す。だが、複数で纏まっているから耳や尻尾などが思いっきり露出している。

 

 ススス…、ススス…。ピタッ!ピタッ!………ススス…、ススス…。ピタッ!ピタッ!

 ススピタッ!ススス…。

 

 今のを擬音で表せば、大体こんな感じだっただろう。

 

「………」

「………にゃ、にゃあ」

 

 目と目が合う。青く澄んだ瞳は見開かれ、苦し紛れの一声。

 硬直したアイルーたちの身体には草で編まれたポーチや木の実をくり抜いたポーチを腰にかけ、手には先端に骨が備え付けられたピックを握っている。

 ゲームでよく見る、典型的なアイルーの装備だった。 

 

「着いてくる気か?」

「ニャ!」

「…ホントに?」

「ニャ!」

「くそっ、意図だけは伝わるのがかえって悔しい…!」

 

 どうやらこの集団は俺たちと一緒に行動したいらしい。どうにも、あのときに立ち上がったのは別れの挨拶ではなく、この準備をするためにだったようだ。

 というか、今ついてきているのは六匹。他の…というより人語を話せる二匹の姿が見えない。

 

「な、なあ、お前達はちゃんとムート達の許可を貰ってきたのか?」

「ニャ」

 

 それはもう勿論!というように抑揚に頷いたかれらはくるりと背後に振り返り、こてんと首を傾げてはアタフタと取り乱す。

 

「まさか……」

「置いてきたのか…?」

 

 リーダー、置いていかれる。脳内にデカデカと浮かんだそれらを振り払い、慌てて来た道を引き返そうとするかれらを引き止める。

 こんな場所でも、何が起こるかわからないんだ。良くも悪くも子供っぽいアイルー達、それも焦っている状態でいかせるわけには行かない。

 にゃーにゃーと抗議するかれらを押し留めること数分、遠方から聞き馴染みのある声が風にのってやってきた。

 

「ま、待ってニャー」

「ほら、もっと急ぐニャ!アミザはもうちょっとハッキリ決められるようになるニャ!」

「ご、ゴメンだにゃ〜」

 

 アミザが情けなく走り回り、その後ろを追い立てながらムートが叱咤する。言葉の節々から推測するに、アミザが何かに迷っていたところ、それを待っていたムートまで遅れてしまった…ということなのだろうか。

 

「にゃ、というワケでオレたちも連れてくにゃ」

「いや、というワケと言われても…なあ?」

 

 俺に振られても困るんだが……。まあ、一応お互いの認識を改めておくか。

 

「あー、俺たちは今すぐ村に戻るわけじゃないぞ?一回向こうに戻って、あるものを取ってこなきゃいけないんだ。…危ないぞ?」

 

 その台詞は予期していなかったのだろう。目に見えて動揺するアイルー達。しかし、それでも竦まないのがムートである。

 

「にゃ、それならそれで都合がいいニャ。それを手伝うからそっちの村に移住させてほしいのニャ」

「移住…予想はしてたけど、また何で。言っとくが、ただの興味本位ならやめといたほうがいいぞ?」

 

 俺は善意の忠告としてそれは言っておく。ああだこうだと口煩く言うつもりはないが、実際彼らアイルーのことを(ゲームならいざ知らず)俺たちは知らない。彼らの中の常識がこちらと違うことや、生活などの文化についての交流がほぼない状態からスタートするのだ。

 同じ人間とだって完璧に共存出来ているとは言い難いし、モンスターであるアイルーとはそもそもの種族が違う。これが家畜などの扱いなら楽なのだが、アイルーは歴とした知的生命体だ。傷ついてしまうことや、なまじ受け入れられたとして今までと違う生活が合わないことだってあり得る。

 それならば元の住処の方がいいのでは。そう暗に含めた問いかけに、ムートは即答した。

 

「大丈夫ニャ!先々代が人間のことを伝えていたし、違いも解ってるニャ。それに、オレの目標には人間たちの協力が必要なんだニャ。……みんにゃ、気持ちは同じニャ」

「にゃ!」

 

 一斉に復唱し、キラキラと期待に満ちた瞳でこちらを見つめてくる。……俺一人では、というより居候の俺が決めてもいいのか…?

 

「……アラン!」

「俺かよ。うーん、俺としては食料調達の手際とかから居てもいいとは思うんだが……爺ちゃんが何て言うかだな。俺も口ぎきはしてやるけど、アピールは自分でしてくれ」

「勿論にゃ。この山岳で生き延びてきたアイルーの経験が生きるのニャ」

 

 胸を張るムート。ワッと湧く歓声。

 もう許可が出たかのように歓喜に震えへんてこな踊りを始めるアイルー達の始末は悪く、危うく崖下に落ちそうになる奴までいた。

 

 ムートとアランが一喝し、なんとかその場を凌いだが、本当に大丈夫だろうか。今から向かうのはこの山の地下深く。道中にはあのデカいバサルモスだっていた。ヘマをして逃げ回るという図がやたらはっきりと頭に浮かんでいた。

 

「よし、みんにゃ気を引き締めて行くニャー!」

 

「「「にゃー!」」」

 

 少しの期待と、大きな不安を抱えて、小さな仲間が加わった俺たちはあの洞穴へと再突入するのであった。




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