「やっぱもうちょい攻撃手段が欲しいよな〜」
裏手の調合所にて、食欲のそそる香りを放つモスの肉を焼きながら狩りを思い返す。
いくら手投げ弾がモスを倒せたとはいえ、如何せん一発の威力が低い。素早く線の細いジャギィには当てにくいし、複数匹も倒せる程となるとどれほどの量が必要になるか…。
せめて使い捨てじゃない武器が欲しい。あのナイフは確かにナイフとしては大振りだけれど、モンスターと戦うには些か長さが足りない。いや、そりゃ工夫したりちゃんと扱えば出来るんだろうけど、怖いし、そんな技量もない。
「上手に焼けました〜!っと。……うん、大丈夫そうだな」
モスの肉は流石というべきか、見事にこんがり焼けている。久しぶりの美味しそうな肉に思わず唾液が出る。
「ごくり……」
そのまま齧り付きたい衝動に駆られるが、我慢して切り分ける。流石に一気に食うには少し大きい為、小分けにする。
と言うことで、前から持っていたナイフで六つに分け、岩塩から削り出した塩で味付けする。
因みにこの岩塩は俺が付近の川周辺で見つけた物だ。どうやら今までにも見かけてはいたようだが、用途は思いつかなかったらしい。……流石に一見岩に見えるこれを食べようとする発想は無かったか。
「頂きます」
あのモスへの感謝を込めて合掌。1kg位しか取れなかったけど許してくれ。多分大半はジャギィがきちんと食ってると思うけど…。
「〜〜〜っ!」
噛むとじゅわりと溢れる肉汁。肉ならではの程よい弾力が歯の上で弾む。ジューシーで肉厚、口の中に広がる香りで食べいている途中だと言うのに食欲が止まらない。
「うまい…」
塩だけの味付けで、焼き加減も曖昧な肉だが、久しぶりのマトモな肉だ。今このときの俺は涙すら流していた。村での生活に文句を言うわけではないが、やはり肉と言うものは人生においての重要な立ち位置にあるのだと言うことを実感させてくれる。
…別にベジタリアンとかを否定してる訳じゃないぞ?あくまで俺の所感だ。
「うまっ…うまうま」
自らの欲望に従いよく噛み締めながら次の肉を頬張る。これならいくらでも食べられそうだ。そして狩りの失敗で落ちた気分などもはや見る影もない。
「今度こそこれを皆にも食べてもらわなければ…!」
決意を新たにする。美味い肉の味を知っている俺ですらこんな簡易的な調理で心が震えるのだ。村のみんなは心臓が止まるのではないだろうか?これに比べればヨリミチウサギなんぞ木屑同然の味だ。
「………余っちゃったなぁ」
俺はそこまで食える訳では無いのだ。それに久しぶり過ぎる肉に胃が驚いている。400gほど残ってしまった。
「保存は……出来ないな」
今の設備では無理だ。あらかじめ作っておくべきだった…。と打ちひしがれる。かといって…
(この肉を捨てるなんてとんでもない。それに殺したモスすら侮辱する行為だ)
ならばどうするか。やはり罠にするか…他の人に分けるか。……だが、今はあまり良くない。無断でこんなことをやっていると村長にバレたら、外出禁止になってしまうかもしれない。せめて一定の成果を出さなければいけないだろう。
せめて狩りに否定的じゃなく、協力してくれて、それでいて口の固い信用できる人物なんて……。
「おーいマサミチ、ここからなんだかいい匂いがするんだが…………その肉、肉だよな?……それ、何だ?」
居たわ。
――――…
「――いやぁ〜、美味かった。こんなに美味いのはガキの頃ぶりだな。腹もいっぱいだ」
少し名残惜しそうに手元を眺めながらも、アランは満足そうに頷いた。やはりモンスターを狩猟する等という考えは無かったらしく、このモス肉は革命的な旨さだった様だ。
もっと無いのか?と目で訴えるアラン。どれだけ食い意地が張ってるんだ…?まあ確かにあの美味さはこの村じゃ反則みたいな味だから分からなくもない。
「いや、ジャギィに殆ど奪われちゃってね。持って帰れたのはこれだけだよ。丸々持って帰れたら……そうだな、二十キロ位は取れたと思う」
「二十キロってどんくらいだ?」
「あー」
そうだった。この世界ではまだ目や手で量っており、正確な単位など無いのだ。
「えー、とだな…。今アランが食ったのが400グラムだから……。うん、今の量を後五十回食える位の量だな」
「そんなにか!?」
目をかっぴらいて驚くアラン。やはり一頭であれだけの食料が取れるとなるとかなり違うらしい。
「それだけあれば食糧問題も…!」
やはり食い意地だけではないらしい。アランもこの問題を解決しようと奔走していた一人だからこそ、より光明を見出せるのだろう。
「しかし、どうやって狩るんだ?お前も知っての通りモンスターは比較的弱い個体でも侮れない。今回マサミチが倒したモスですら、石のように硬い頭で突進してくるんだ。まともに当たれば暫く使い物にならないだろうに」
そう。草食モンスターの中でも最も警戒心の薄いモスですらその様な武器を持っているのだ。聞いた話によると、前に調達組が興奮したモスと出くわした時は、斧が石のような頭に弾かれてしまったのだという。強い衝撃を受けた事で気絶したモスだったが、その斧の刃はボロボロになったらしい。
もっと大勢居るのならばモス位は数で囲めば何とかなるにしても、果たしてモンスターを狩るという事に賛同するのはどれだけ居るのだろう?人間はモンスターに敵わないという固定観念がすっかり染み付いている彼らはモンスターを狩れるのだろうか。
調達組とて例外ではない。いくら外で資源を集めているとはいえ、モンスターに立ち向かえるわけではない。せめてもう少しこの考えや武器が揃わないと厳しいだろう。
「ああ、だからまずは色々と準備したい。その為にも少し出なきゃいけないんだけど、一人じゃ効率が悪い。悪いけど手伝って欲しい」
「…何だ、その位だったら全然いいぞ。いきなり狩りに行くと言われると思ってたからな。少し拍子抜けしたくらいさ」
そう言われると助かる。というかモスで手持ちのものじゃ足りないって分かったからな。流石にそれほど無謀じゃない。…まあ、モンスターに挑むこと自体が無謀だって言われたらそこまでなんだが…。
「それで、今から行くのか?」
「いや、明日行く。それまでにしっかり用意しといてくれ。色々と必要な物もあるだろうしな。それと……」
「分かってる。他のみんなには言わないさ。俺だって村長達にどやされたくはないからな」
「ならいいんだけど……。じゃあな。明日、早朝にここで」
「おう、じゃあな!」
―――…
アランの退出後、俺は真っ直ぐに鍛冶場へと向かった。剥ぎ取りに使ったナイフの手入れと、ピッケルを作ってもらうためだ。
偶々近くに落ちてたなぞの骨(本当に謎)があるので、それを柄にして作ってもらいたい。
この村では金属は貴重で、本当に必要な部分にしか使用せず、それも元々ある金属を使いまわしているというのが現状で、正直ナイフが残っていたのすらかなりの幸運だったのだ。
よって、この村には余分な資源なんて無い。これから必要な物は全て自分で調達していかなければならないのだ。
「なるほどな。つまりは素材は集めるからそれを加工しろ……という事じゃな……」
「えっ…駄目だったか?」
「いんや、それは儂としても歓迎するわな。正直このまま死ぬまで使い古しを叩くだけかと思っとった時にコレだ。おう、大歓迎だ。しかしまあ、一つ条件をつけさせろ」
いつものように険の強い眼差しでこちらを見つめる。いくらこれがデフォルトで慣れたとはいえ、少しヒヤッとする。
「その、条件って?」
「……ほれ、ウチに弟子が二人いるだろ」
あ、なるほど。なんとなく読めてきた。
「儂ももう年だ。そりゃ生涯現役のつもりだが、それだけじゃ先には繋がらん。あのバカ弟子共は若くて腕がいい。まだ未熟じゃが、それも経験を積めば気にならん。だからだな…、その作業にはあいつ等にもやらせてくれやせんか」
うむ。そりゃこんな絶好の機会を逃す筈も無い。
「分かった。取れるかどうかは分からないけど、出来るだけたくさん持って帰るよ」
「おう、バカ弟子共には儂からキツく言っとく。………まあ、程々でな」
おやっさんの言うとおり、明日は安全第一で資源を集めるとしよう。
……多分こんな感じでいいはず