モンスターハンター:オリジン   作:食卓の英雄

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調査指令:イャンクック

 

 イャンクックが飛び去ったのを確認した俺達は、ひとまず村に戻ることにした。

 イャンクックがいると分かれば、万全の準備を整えるべきだろう。あのときは止むなく戦うこととなったが、基本的に種族差は大きい。回復薬や爆弾などの道具を活用してこそだろう。

 情報は村のみんなにも共有して、万が一イャンクックがこちらにやってきた場合の対処なども伝えておく。そしてそれとは別個に、さっき相対したイャンクックの行動などをジモとフリーダにも伝える。実際に行動できるかはともかくとして、知っているのと知らないのでは大きな違いだからだ。

 

「しかし、ここまで来た理由って言ってもな。どうやって調べるんだよ? それに、あのイャンクックをわざわざ逃した理由も聞いてないぞ」

 

 アイルーに貰った水を飲み干したアランが、礼を言いながら問いかける。

 

「そりゃあアレだ。イャンクックを追うんだよ。向こうでイャンクックが縄張りを離れる要因が何かある筈だ。それを突き止めればどんな理由であれ対策のたてようはある。あそこで無理にイャンクックを引き止めて、原因不明のまま放置するのが一番怖い。ひょっとしたら何か外的要因で縄張りを追い出されたって可能性も無くはないんだ」

 

 納得がいったのか、アランも頷き、フリーダが挙手する。

 

「イャンクックを追い出す程の何かが関わっている可能性もあるということだな。…だが逃げたイャンクックをどうやって追うつもりだ? 飛び去る方角は見ていたが、向こうも生物である以上そこから移動している可能性もあるだろう」

「そう言うと思ってたよ。みんなよく周囲の臭いを嗅いでみてくれ」

 

 そう言われ、鼻をよく嗅ぐ仕草をすると、違和感に気づいたようだ。特に、人間よりも嗅覚に優れているムートなんかは顔を顰めている。

 

「この臭いは…。ペイントの実だな?」

「ペイントの実?」

 

 アランが当てると、この周囲の植生に詳しくないムートが返す。

 

「ああ、ペイントの実は割ると中から色のついた強烈な臭いの液が飛び出す実だ。臭いが強いから一時はモンスター避けに使えるかと思ったが、モンスターにとっては忌避する類のものじゃないらしくてな。幸い好んでいる訳でもなかったから寄せ付けることにはならなかったんだがな…。その臭いのせいで染色にも使えないと見向きもしてなかったんだが…。まさかこんな使い道があるとはな」

「そっか、この臭いを辿って、より強い臭気のところに…」

「そう、イャンクックがいる。ネンチャク草のお陰でそう簡単に臭いは落ちないから追跡も出来るってことだ」

 

 休憩も終わり、いざ行くぞと立ち上がると、慌てて走り来るアイルーの姿が。

 

「待ってくださいにゃあ〜! ボクも連れてってほしいニャー!」

「アミザ!?」

 

 駆け寄ってきたのは、最近他のアイルー達の教師役をしていたアミザだった。その姿は普段の服と違い、アランと同じくマカライト合金を使用したアロイネコシリーズと、アイアンネコソードを背負っている。

 

「お前、いいのか?」

「いいも何も、ボクだって戦えるんだにゃ! 今までは色々とみんにゃに教えなきゃいけなかったけど…、それも大体終わらせてきたにゃ! ……本当はムートが手伝ってくれてればもっと早く終わっていたんニャけど」

 

 最後の恨み節にムートは心当たりがあるのか目をそらす。……確かにそういえばコイツは家で武器を手入れしたり、狩りに一緒に出かけてばかりで、教導はしていなかったな、と納得。

 バツが悪そうにムートはうつむく。

 

「だって、もうアミザが無理にオレに付き合う必要なんて無いのニャ。マサミチだっているし、オレと違って戦う理由がないニャ。それならあのまま、あいつらのまとめ役として村で暮せばいいと思ってニャ…」

 

 驚いた。ただ面倒なことを任せてだらけていると思っていたからだ。そんなムートに、アミザは優しく声をかける。

 

「そんなわけないニャ。はじまりはムートに誘われたことニャけど、他に出来るのが見つかったからって放り投げるほど薄情でもないニャ。それに、あのとき以来ずっと一人で塞ぎ込んでたムートに頼られた時はすっごく嬉しかったんだニャ」

「アミザ…」

 

 それは恐らく、彼らがモンスターを相手にし始めた理由となるものだろう。考え直して見れば、俺達はこいつらの事情を知らない。

 モンスターを狩る理由も、それに文句や疑問一つ持たずついてくる理由も。そしていくら物珍しかったからといって、よくわからない人物を助けたこともだ。人の言葉を話せる理由だって、はぐらかされたまんまだ。

 

「……なあ、お前たちがモンスターを狩る理由って」

「……そろそろ話すべき時かニャ。不誠実なままじゃいられないにゃ。とはいえ、オレ達の目標は遥か遠くニャ。()()()()()()()()()()()()()()()()()話す訳にはいかないニャ」

「成る程、つまり、この件を解決したら話す。そういうことでいいんだな?」

「そう捉えても構わないニャ」

 

 結局、先ずはイャンクックをどうにかするって事だ。むしろやる気が出てきた。

 

「あ、そういえば、ボクも参加して良かったにゃ…?」

 

 今更ながらに、了承を取っていないことに怯えるアミザ。今のの後で「留守番しておけ」なんて血も涙もないことが言えるわけがない。

 

 休憩ももう終わりだ。道具を入れた袋を締めて立ち上がる。

 

「ああ、寧ろ頼もしい仲間が増えてありがたいよ」

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 彼ら一行は茂みを気にもせず踏破し、匂いの行き着く先へと足を進めていた。

 空腹も疲れも問題はない。既に何度も探索し、脳内に道を覚えている彼らは似たような景色の中でも迷わずにその方向目指していく。

 

 時折匂いが移動するが、それも人間よりも優れた嗅覚を持つアイルーの二人が即座に把握し、その距離を縮めていく。

 

 そして、より匂いの強い位置が見つかった。今まで通ってきたような狭い道でなく、大型モンスターすら活動できるような空間。間違いない。ここにあのイャンクックがいる。

 

 茂みに姿を隠し、様子を窺う。歩行を止め、息を殺すと、森の静けさがよく分かる。木々が風で揺れ擦り合う音。どこかから聞こえる小鳥の囀り。僅かな身じろぎすらいやに大きく聞こえるその状況で、マサミチは何か違和感を覚える。

 

(何だ…? 何かが、足りない…?)

 

 森を構成する何かが欠けているような気がした。みんなにも意見を求めようと振り返ったが、その瞬間みんなの息を呑む音が聞こえた。

 

「来たぞ……!」

 

 その言葉に咄嗟に視線を前に戻す。俺等の見ている先から、のっしのっしと闊歩するイャンクックが姿を表した。

 匂いの発生源はそこで、傷ついた甲殻や翼の付け根の禿げた鱗から、間違いなく同一個体だと確信する。

 

「あれがイャンクック…。ドスランポスよりずっと大きいニャ」

 

 この中で唯一、イャンクックを直に見ていないアミザが感嘆の声を上げる。けれど怯えや萎縮した雰囲気は感じられず、ただの感想の範疇の緊張だ。

 そりゃあ、ショウグンギザミと比べれば格下ではあるが…。覚悟は決まっているみたいだ。

 

「ねえ、何か変じゃない?」

 

 どう攻めようかと思案していると、ジモがその異変に気がつく。弓使いとして状況観察能力に優れているからこそ気がついたのだろう。

 

「何かを警戒している…?」

「もしかして、俺達か?」

 

 どことなく挙動不審というか、キョロキョロと辺りを見回しては歩き、周囲の匂いを嗅ぐ仕草も見える。

 アランが俺達に手傷を負わせられたからだと推測するが、それにしてはやけに不自然だ。

 

「やけに焦っているな…」

 

 そう、焦っているのだ。いくら傷つけられたからといって、見えてもいないのにそこまで焦るようなことがあるのか…?

 

 と、何かを察知したのか、イャンクックはピンと耳を立てて動きを止める。すわ気づかれたかと緊張に背筋を凍らせる中、イャンクックは突然明後日の方向に走り出した。

 

 バレたわけではないようだ。そう安堵すると同時に、その原因を確かめる。

 イャンクックは走り寄った地面をじっと見つめると、その大きなくちばしで地面を削り取った。そのまま穴の中にまで口を大きく開けて突っ込み、何かを食らう。

 

「…ミミズを食らっている」

 

 すかさず望遠鏡で観たフリーダがその正体を言うが、まさかあれだけのためにあれほどの様子を? 信じられない気持ちで眺めるが、突如、その広間に影が差す。

 

「もう一体!?」

「なっ」

 

 今の個体より少し線の細いイャンクックがそこに舞い降りたのである。

 

「二体を相手取るのは厳しいぞ…」

「あの巨体が同時に暴れまわるのは避けたいな」

 

 正に望まぬ来訪者だが、それでも不可能だとは言わない。ぐっと武器を強く握りしめ、闘志を見せる。

 だが、俺達の予想に反して、イャンクックは驚きの行動をとった。

 

『クァアアアアァァァッッ!!!』

『キェアッ!?』

 

 俺達の見ている先で、後から訪れたイャンクックへと襲いかかったのだ。小柄な方のイャンクックは突進に押し負け、地面に倒れて藻掻く。続けて放たれる火炎液の直撃を食らったイャンクックは、へりくだるようなか細い悲鳴を上げながら、ほうほうのていで逃げ去っていく。

 

『クァァァアアア!!』

 

 対して、退けたイャンクックは飛び去る同種に勝ち誇るような仕草を取っている。

 

「どういうことだ…? 互いに温厚なイャンクックだぞ」

「縄張り争いか?」

 

 再び、周囲へ気を配るイャンクックだが、今の状況下ではチャンスと言わざるを得ない。

 

「仕掛けるなら今だ」

「分かってる。いくぞ!」

 

 全くの同時、俺達は茂みから姿を晒して走り出す。アランを中央にして、俺、フリーダ、ムートは左右に。後方ではジモが構え、アミザはそのどちらをもサポート出来る位置にいる。

 突然の奇襲に驚くイャンクックが、それでも種としての優位性からか戦意を露わにする。

 

「一番槍は頂きニャ!!」

 

 真っ先に懐に飛び込んだムートが、ジャギィネコナイフで足の甲殻を斬りつける。人より身軽な早業に感嘆を覚えつつ、負けじとこちらも剣を振るう。

 

 三方向からの斬撃に身をよじったイャンクックの額に、アランの強烈なハンマーが振り下ろされる。だがイャンクックも負けじとついばみや羽ばたき、回転攻撃でこちらを払い除けようとする。

 

「よっと!」

「聞いた通りの攻撃だ」

 

 それも情報を共有していたお陰で危なげなく回避出来た。時折誰か一人を標的にして攻撃をしかけるが、そこへはジモの正確な射撃がダメージを与える。

 火炎液も予備動作を見て安全に躱し、僅かな隙にも幾筋もの剣閃でもって返す。

 

「いけるぞ!」

 

 足に気を取られたイャンクックの振り返りに、最大威力のハンマーの一撃。繰り返し脳を揺さぶられたイャンクックは平衡感覚を失い倒れる。

 

 そこからはみな一心不乱に攻撃を開始する。アランは今まで放てなかった連続スタンプを繰り出し、フリーダは雄叫びをあげて双剣による超連打。ムートとアミザも合流して背中の甲殻を削る。

 

 その隙に俺は、一度戻ってあるものを担ぐ。

 

「大タル爆弾を置くぞ!」

 

 そう告げると、苛烈な攻撃の最中であっても中断して距離を取る。設置した俺が退避したのを確認すると、矢が大タル爆弾を射抜く。

 

 内包した爆薬の量を誇示するかの様な爆発は、こちらにまで熱気が感じられるほどだ。

 そして肝心のイャンクックの姿だが…。鱗は剥げ、甲殻にも罅が入り、翼膜にも傷がついている。

 

 そんなボロボロの姿だが、しっかりと大地に両足をつけて立っている。恐るべき生命力だ。その姿に驚いている俺たちに、仕返しとばかりに突進を繰り出してくる。

 

「ぬあっ!?」

 

 爆弾設置のために最も近くにいた俺がまず巻き込まれる。盾は構えたが、位置が悪かったのか盾が弾かれ直撃。俺は宙に投げ出される。

 

「マサミチ!? このっ!」

 

 飛びながらも見れば、アランとフリーダは十分な距離を取っていたから無事に躱し、ジモは場所を移動して矢を引き絞る。

 

「ウニャッ!」

「うおゎっ!?」

 

 吹き飛ばされた俺を待ち構えていたのは、ムートとアミザの二人組。鎧姿の俺は重いだろうに、お陰で地面への直撃は避けることが出来た。

 

「大丈夫ですかニャ?」

「ありがとう二人とも。助かった」

 

 腹の痛みを回復薬で誤魔化しながら、今も戦っている三人へ加勢に走るが、視界の端に桃色が移る。

 本来なら後回しでいいそれを、今の俺は無性に気になった。悪いとは思いつつも、今はまだ安定している戦況を見てそちらに目を向ける。

 

「これは…イャンクックの鱗か」

 

 土がかかっていたが、特徴的な桃色の鱗が落ちていた。今の攻防で落ちたのかと一瞬思ったが、あのイャンクックはこちらにまでは来ていない。

 だが、逃げ去っていったイャンクックが倒れていた場所が丁度ここだ。ならば吹き飛ばされた時に剥がれ落ちたものだろうと容易に想像できる。

 

「いや、この鱗、何だか色味が悪いぞ」

 

 触れてみれば、明確にその差を感じることが出来た。俺達が前に拾った怪鳥の鱗と比較すれば一目瞭然だ。桃色は薄く、状態もややパサついている。更に、厚さもあまりなく、ドスバイトダガーを思いっきり振るうと容易に割ることが出来た。

 

 何故身を守るための鱗がここまで脆いのか。あの大きさであれば子供というわけでもないだろう。

 よく思い出せ。あのイャンクックは細身だと認識したが、あれが痩せこけているだけだった可能性は?

 イャンクックの挙動もだ。甲虫やミミズなど、このあたりであれば何処にでもいるような餌を探すのにあれほど気を配っていた理由は?

 

 そして、縄張り意識の強いイャンクックが、わざわざその外までやってくる理由とは何か。

 

 …そういえば、行きの違和感は何だった? 静かな森。そうだ、鳥の囀りと木々の葉音は聞こえて、本来ならば聞こえて然るべき音。虫のさざめきすらなかった。

 そう、虫がいない。もとからいなかった訳ではなく、あの様子からここ最近で急激に数を減らしたと見るべきだろう。

 

 これらの条件と、季節。その全て線で繋いでいくと、途端にその全てに納得がいった。

 

 何故、イャンクックが草原に現れたのか。何故、温厚な筈のイャンクックがあれほど気が立っていたのか。何故、何故、何故。

 

 それらへの解答はただ一つだ。

 

「間違いない。イャンクックは種族単位での食糧難に陥っている…!」

 

 突き止めたそれは、自然界における厳しい現実の一つでもあった。





イャンクックの生態

大型モンスターの中では繁殖力が強く、気候が良い日がよく続いた年には大量発生する時もある。
しかし余りにも量が増えすぎて食糧難に陥る事が多く、翌年には個体数が元通りになるという。
ただし食糧難になったイャンクックは人里に現れる事もあり、こういった場合にはハンターによる掃討作戦が決行される事もある。(モンハンwikiより抜粋)

現実でも食料を食い尽くした鹿とかが街に降りてきたりして問題になってるよね。

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