恵み深い人々の村
数ヶ月前に新しく増築された門を通り抜けると、まるで故郷に帰ってきたような気持ちになる。帰ってきた俺たちを暖かく迎え入れてくる大人達に、今回の狩りの話を聞くために集まってくる子どもたち。
時間帯は既に日も傾き、赤く地平を照らしていた。そんな時間なものだから、家々からはいい香りが漂ってくる。疲れた体には中々堪えるようで、アランも腹の虫を鳴かせている。
今すぐにでも休みたいところだが、それはもう少しの辛抱だ。
「そら、竜車が通るぞ。どいたどいたー」
次いで門を通って現れたのが、何とか手懐けたアプトノス二頭が牽く竜車。色々とチャレンジして、俺達が乗れるようなスペースと戦利品含めたモンスターそのものを運ぶための荷台の二両が連結されており、アプトノスをジモとフリーダが上手く誘導している。
俺とアランの役目は、ここに来るまでの警戒と、門を空けてこれらを通すためだ。
慣れたもので、声をかければ村人も道を開けていく。門を通りきったのを確認してから閉める。向かうのは、真っ直ぐおやっさん達のいる工房だ。
何せこいつは、これまで狩ってきた中でも大物だからな。
「うわ、何コイツー?」
「怖ーい!」
竜車で運ばれているその姿は、真白のブヨブヨとした塊であった。鱗も甲殻もなく、またのっぺりとした頭には大きく裂けた口しか見えない。だがしかし、よく見ればそれがどのような姿をしているかを理解することが出来るだろう。
大地を踏みしめる強靭な脚に、腕と一体化した翼。寒冷地帯や密林に生息する、電撃を操るれっきとした飛竜種。フルフルだ。
イャンクックを討伐してから活動範囲は広がり、ゲリョスやロアルドロス、ダイミョウザザミといった大型モンスターをも討伐しており、着実に成果を上げていた。
これらのモンスターを相手取るに、当然装備も整っている。マサミチが身に着けている防具は刺々しい桃色の甲殻を重ね合わせたイャンクックの防具、クックシリーズであり、飛竜にも例えられる堅牢な防御力で使用者の体を守ってくれる。
腰に備えるは、特殊な加工を施されたブナハブラの羽を刀身に、鍔に頭、盾に甲虫の大顎を幾重にも張り合わせた飛甲虫系の片手剣だ。しかし、通常のそれとは違い、刀身の模様は鮮やかな赤。イャンクックから入手した火炎袋を材料に、火属性を得たのがセクトセロルージュだ。
斬りつけるたびに相手に火属性のダメージを与えるそれは、これまで戦った殆どのモンスターが火属性を苦手としているためかなり重宝している。今牽引されているフルフルも、その例に漏れなかった、というわけだ。
「…にしても、俺とは相性最悪だった…!」
「ゲリョスの時も聞いたな。これを期に、別の武器も使えるようにしてみたらどうだ?」
狩りの様子を思い出しては、アランは苦々しい顔で吐きこぼす。竜骨大を素材とするサイクロプスハンマーとて強力な武器であることには変わりはないのだが、何しろ相手は打撃に耐性のあるフルフルだ。今までは最大の火力として活躍してきたアランだが、こればかりは仕方ない。
とはいえ、彼の着用しているずんぐりむっくりとしたゲリョスシリーズは、フルフルの最大の武器である電撃を殆どものともせずに受け止めることが出来、更に密林にある毒の池すらも無効化していたのだが、攻撃が吸収されるという微妙な手応えのせいでそちらが顕著に出ているのだろう。
寄ってくる子どもたちに話を聞かせながら、フルフルの遺骸に目を向ける。
「目標にまた、一歩近づいたな」
どれだけ奇怪な見た目をしようと、生物的には同じ飛竜種。その大型モンスターを狩猟できる程度の実力は着いている。そう実感させてくれるのだ。
俺がしみじみとそう呟いていると、向こうも準備が整っているらしく、フルフルの遺骸は鍛冶場裏手の広場に安置された。
このフルフルは、その素材を以て俺達の糧になってくれることだろう。
「お帰りみんな! 今回のモンスターはどんな感じだった?」
「この…なんとも言えない奇妙なモンスターはまさか…飛竜ですか?」
既にマサミチ達の存在は伝わっていたのか、工房から竜人族の青年と人間の少女が顔を出す。
ミーニャとエイルだ。二人共、煤で汚れた仕事着のまま汗を拭っている。
「飛竜にしちゃちょっと特殊だけどな」
答えると、早速とばかりに使えそうな部位などを測ったり、強度や状態について話し合っている。そのあたりは実際に加工する彼らを信頼している。
けれど念押しはしておく。
「そいつは雷のブレスを吐いてきた。ゲリョスやイャンクックみたいな特殊な内臓器官がある筈だからそこは気をつけてくれ」
「うん! ダイジョブ!」
「承知してますとも」
前に一度誤ってダイミョウザザミの水袋を破いてしまったときは、みんな揃って水浸しになってしまったことがある。水だったために大事には至らなかったが、もしそれが毒袋や火炎袋であったなら、大変なことになっていただろう。それを踏まえているのか、二人は十分に慎重さを持ちながら、それでいて大胆な解体に乗り出していた。
「おう、帰ったか」
「おやっさん!」
「弟子は………また獲物に夢中か。全く、まだ仕上げが残っておるというのに…」
「アハハ…」
どうやら、二人は仕事を中断してアレに群がっているらしい。ご立腹なおやっさんに曖昧に頷きながらも、それでいておやっさんもそこまで怒っているわけではないらしい。
「そうだ、おやっさん。帰ってきて早々悪いんだけどさ、俺の武器の整備をお願い出来ないかな。自分でも手入れはしてたけど、やっぱり結構酷使したからな」
「フム…。ま、ええじゃろう。急ぎか?」
「いんや、ここしばらくは何も無さそうだし、ドスバイトダガー改もあるから、ゆっくりでいいよ」
イャンクックを狩猟したドスバイトダガーもあれから更に強化し、ドスバイトダガー改となり、純粋な攻撃性能だけで言えばセクトセロルージュよりも高い。最も、この近辺のモンスターの多くが火属性を苦手としているため、自然とセクトセロルージュを酷使する形となってしまっていた。
「後回しでいいんじゃな。それで他の連中はどうする?」
「俺は少し前ミーニャに見てもらったばっかだからな。遠慮しとくよ」
「私は弦がちょっと緩んできてて…」
「俺も頼む」
上からアラン、ジモ、フリーダの順だ。アラン以外はみんな整備する方針らしい。
そんなジモとフリーダもまた、新たな装備に身を包んでいた。
ジモは水獣ロアルドロスの防水性な素材を用いたガンナー用の防具、ルドロスシリーズを纏い、同じくロアルドロスの素材から作られた水属性の弓、スポンギアを使っている。
水袋が組み込まれたスポンギアは射出の度に矢に流水を纏い、水属性に弱いモンスターであれば効果的なダメージを与えることが可能だろう。…最も、スポンギアを使い始めてから水属性を弱点とするモンスターには出会えていないのだが…。
フリーダの武器はシックルソードという特殊な刀剣に似た形状を持つ双振りの剣、デュアルタバルジン。
主な素材は鋭利に削り出した竜骨に、ゲリョスの皮をあしらえた代物だ。
毒袋を使ったこの双剣は斬りつけた相手に継続的な毒を付与し、どのような相手にも一定の効果を上げることが可能だ。刀身から柄にかけて使われたゲリョスの皮はその耐毒性から、使用者であるフリーダへ毒を通さない役割を果たしていた。
その一方で、防具は依然としてシャギィシリーズのままである。両の手に剣を持ち、素早い動きを必要とされる彼は動きやすさや攻撃のしやすさを重視しており、着慣れたそれを使っている。
その変わり、地底火山にて採掘していた鉱石の一つ、熱に特殊な反応を見せる鎧石とマカライト鉱石を融かし合わせて造られた鎧玉。
これを燃石炭を使用した高温の炉で昇華、その気体を防具に蒸着させ素材同士の結合を強めることで、防具の形状や重量はそのままに防御力を高めているのだ。
と、気づけばこちらにまでいい匂いが漂ってくる。何とも食欲を唆られる香りに、アランはそわそわとしながら匂いを追っている。それに苦笑するも、すぐに己の腹も鳴り、空腹状態であったことを思い出す。
「やることもやったし、そろそろ飯にするか」
「おお! 実は結構前から腹減ってたんだよなぁ! 今日はどんなメニューかね。お前たちも来るか?」
「ああ。こう旨そうな匂いを垂れ流されては自分で飯を作る気にもならない」
「メルトの料理美味しいからね…」
次に向かったのは村の中央部。かつては憩いの場として開かれたその場所には、今や立派な飯処が出来上がっていた。
これまでの間に色々と村が発展したのは言うまでもないが、その中でも著しい発展を見せているのが、メルトという女性とアイルー達が始めた料理だ。
前にアランもその練習に付き合っていたが、食への追求は彼女達の心に火を着けたらしい。日夜色々な食材を様々な調理をしたり、味付けとなるもの、相性のよい食べ物同士なども考えてレシピを作っている。
更に調理に必要な道具なども次々そろえ、専用の包丁や鍋などをおやっさんに造ってもらうまでに至っている。それだけ本気で研鑽している料理なのだ。不味いわけがない。
オーブンな入り口を越え、テーブルに座っては料理を心待ちにする者、料理を貪り食う者など様々だ。
薄暗くなった空間に篝火が煌々と燃える。その中へズンズンと進み、中央の円形テーブルに腰掛ける。ふうと一息つく間に、俺達が入ってきたことに気づいた一人が厨房へ「おーい! アラン達が来たぞー!」と声をかける。
すると奥から、浅黒い肌に金の瞳。前髪をバンダナで上げ、両手でお盆を持った女性が現れた。
「今回もお疲れ様! いいタイミングで来たね! 丁度出来上がったばかりだよ!」
料理のために髪を短く切り揃え、溌剌と言葉を繰り出す彼女こそが、ここの主人であるメルトだ。
お盆の上の料理を順番にテーブルに置いていく。何ともいい香りが鼻腔を突き抜ける。空腹こそが最大のスパイスとはよく言ったものだが、それが彼女の腕前で更に引き立てられる。
何故頼んでもいないのにこうして料理が出てきたかというと、彼女が訪れた村人みんなに振る舞っている…という訳ではない。
店でもあるまいし、そのような真似は出来ない。強いて言えば、予め予約していた者がローテーションすることで皆が食事を楽しめるようにしている。
が、俺達はちょっと違う。というのも、そもそも外へ行って主な食材を取ってくるのは俺達なわけで、そのお礼と、狩りという大仕事へ行く俺達が出発する前と後に、腕によりをかけて料理を作ってくれるのだ。
と、話が脱線した。目の前に並べられた料理の数々をメルトが説明してくれる。
「左から『サシミウオとキノコの蒸し焼き』、『ハリマグロとサシミウオの刺身』、『ヤオザミ出汁の山菜汁』、『特産キノコソースのブルファンゴステーキ』だよ。冷めないうちに食べちゃって!」
待ちきれないとばかりに目を輝かせるアランに心の内で同意しながらも、まずはとジョッキに手をかけ音頭を取る。
「それじゃ、フルフルの狩猟を祝って――――乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ガツンと、木製ジョッキを打ち合わせ、その勢いのまま中身を煽る。
ジョッキに注がれているのは酒ではなく果実水。しっかり加熱した水をもう一度冷やし、同じ容器の中に果実を入れて味をつけ、砂糖の代わりにハチミツを入れたものになる。
果実水で喉を潤した俺達は、直ぐ様目の前の料理をかっ食らう。
「旨えっ!」
「このサシミウオ、身がホロホロ解れて…! んんっ、中にも味がしっかりと…」
「…! これは本当にブルファンゴか? ファンゴ肉はもっと癖と固さが目立っていたように思っていたが…」
「特産キノコもブルファンゴもどっちも癖があるからね。相性が良かったよ。固さの方は、事前にハチミツを塗り込んでいたお陰だね。噛み切りにくいって話は出てたから、マサミチに聞いたらハチミツがいいかもってことだったから、試してみたんだ」
「いや、それにしても本当に旨い。ザザミソ汁も……まあ、これも一種の味噌汁でいいかな。本当に旨い。疲れた体に沁みるよ」
本当にどれも美味しい。元の世界でもそう食えないような豪華さだ。
そうして俺達が舌鼓を打っていると、不思議そうにメルトが問う。
「あれ、ムートちゃんとアミザくんは? 一緒に行ったんじゃ?」
「ああ、あいつらは―――「置いてくなんて酷いニャー!」「アミザが全然起きなかったのが悪いニャ!」…来たな」
叫びながら、そこへ駆け込んできた二匹のアイルー。白い毛並みを逆立て叱咤するのがここのアイルー達のリーダーであるムート。
そんなムートに言われながら、べそをかいて走るミケ模様のアイルー。サブリーダー的な立ち位置にいるアミザだ。
二匹はそれぞれロアルドロスの素材から作ったルドロスネコシリーズとゲリョス素材のゲリョスネコシリーズに身を包んでいたが、こうして毛並みがわかる通り、脱いでから向かってきていた様だ。
「酷いニャ。ボク達が眠っている間に始めてるニャンて…」
「悪い悪い。でもこれまで殆ど寝ずに頑張ってたから、無理に起こすのも忍びなくてなぁ」
「ほら、気を取り戻して。君たちの為にマタタビを使った奴もあるから」
「マタタビかニャ!? クンクン…こ、これはっ、なんて上質なマタタビ…!」
大袈裟にリアクションするアミザを尻目に、ムートは既にガツガツと口に運んでいる。
「そうだマサミチ! 今回はどんな相手だったんだ!?」
それらの初動も終え、ある程度落ち着いてくると、そんな声が上がってくる。
見れば、その言葉にみんなも興味津々といった様子でこちらに顔を向けている。外へあまり出ない彼らにとって、自分たちでは到底太刀打ちできないモンスターと戦ったという話はかなりの娯楽性に満ちていた。
そう期待されては、断ることもできやしない。
「そうだな、今回戦ったのはフルフルっていう奇妙な姿をした飛竜でな――――」
そうして、過去の記憶を思い返しながら言葉を紡ぎ始めた。
これが、彼らの新しい日常である。
料理描写とかは勘弁してください。
そういうモンハン飯を味わうのが見たければ、しばりんぐ様の「モンハン飯」や皇我リキ様の「モンハン食堂」をご覧になってくださいな。