モンスターハンター:オリジン   作:食卓の英雄

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お久しぶり。


傍若無人がやって来た!?

 

 

「―――イャンガルルガだとっ!!?」

 

 

『ギィャヲォォォ――――――ンッッ!!!』

 

 

 突如現れた乱入者。黒狼鳥イャンガルルガが吼える。

 

「うっ…!?」

「がぁっ…! 耳がっ…!」

「ぐっ…!」

「んんんんんっっ!!」

 

 音響攻撃。耳を劈く不協和音は、鼓膜を直に攻撃し、あまりの衝撃にみな耳を抑えて蹲るように耐える。

 一瞬チカチカと視界が明滅したような感覚が過ぎ、何とか耐えられる程度の音域になった時点で手を離す。

 目を向ければ、既に相手は次の行動に移っていた。イャンクックとは比にならない速度での突進。無防備な状態へ放たれる追撃は、凶悪な容姿と併せてとてつもない脅威だ。

 迫るイャンガルルガを傍目に、俺は振り返って声を荒らげる。

 

「来るぞ! 躱せっ!!」

「―――っ?」

「――っっ!!?」

「―――」

 

 返答は聞こえなかった。耳鳴りが酷いせいで聞き取れなかったらしい。

 らしいというのは、俺が身を投げてから暫く、僅かながらに音が戻ってきたからだ。

 

 それ故に声が届いているか不安だったが、視線を向ければ皆射線から回避している。

 当のイャンガルルガは、避けた俺たちにすぐさま追撃する様子は無く、鋭い眼光で睨みつけて地をその強靭な脚で搔いている。

 一番近いのはアラン。次にジモ、フリーダと続き、最後は先頭だった俺だ。まだジンジンと耳鳴りはするが、戦闘行動に支障をきたさない程度には回復してきている。

 

(クソッ、何でこんなところにイャンガルルガが…。いや、イャンクックが現れる時点でその点も警戒しておくべきだった。それよりも問題なのはここが村からそう遠くないってところだ。ドスジャギィの時ほど近くはないけど、空を飛ぶことの出来るこいつにとって村までの距離なんてちょっとした散歩同然だ)

 

 未だ目の前を見据えて動かないアランたち。その表情には今の音響による痛みも残っている。予知せぬ乱入者に硬直している体に、ハッとしたアランはいち早く我に返りこちらに声をかける。

 

「マサミチ! あいつのことを知ってるのか!?」

「イャンガルルガだ。イャンクックと見た目は似てるが……桁違いに強い。かなり好戦的な性格で、危険度で見るなら飛竜種と比べても遜色ないモンスターだ!」

 

 只者ではないプレッシャーからみんなも警戒していたようだが、その一声で更に緊張が増す。じりじりと動く俺たちに合わせて、首をそれぞれに向けていく。それは、獲物を吟味する捕食者の眼光だ。

 

「このまま逃げるのは…?」

「いや、それは難しい。というより駄目だ」

 

 後退しながら呟かれたジモの言葉を否定する。

 

「イャンガルルガは超攻撃的で執念深い。このまま下がれば、よしんば逃げ切れたとしても村まで追ってくる。逃げるのは、イャンガルルガの視界から外れてからだ」

「そんなぁ…」

 

 目線を外さずに伝えると、悲観的な表情になりながらも覚悟を決めたようで、背の矢筒から数本の矢を取り出した。

 

『クァオオォォォォッッ!』

「来たぞ!」

 

 再び翼を広げて一直線に走るイャンガルルガ。進路上のアランとフリーダは既に逃れ、ブレーキをかけながら嘴を俺たちへと連続して突き入れる。

 

「のあっ!?」

「ひゃぁっ!?」

 

 イャンクックに慣れたせいか、はたまた見た目の上では細身に見えるからか体感速度はより早く感じる。

 二人を分断するように放たれた啄みは、軽快な挙動に反して硬い地面を容易く穿つ。

 その隙を狙うべく、アランが腰だめにハンマーを構えて向かってくるが、手振りでそれを阻止する。

 

「やめろ!まだだ!」

「なんっ…!?」

 

 咄嗟に疑問符を浮かべたアランは、けれど次の攻撃動作に入っているイャンガルルガを見て瞠目。挙動に驚きながらも身を捻って投げ出すと、イャンガルルガは身体スレスレを薙ぎ払う。

 

「隙がない…!」

 

 イャンクックであれば多少のチャンスになり得た攻撃が、イャンガルルガはあまりに早い立て直しのせいでペースを狂わされる。ただ素早い相手というのはドスランポスなんかでも経験済みだが、イャンガルルガの素早さはそういった類のものでなく、行動後の隙を埋めるようなそこにある。

 

「慣れるまでは回避に専念しろ!」

 

 俺が周囲に行き渡るように声をかけ、みな首を縦に振る。と、その意志を確かめる隙もなくイャンガルルガの突進が迫る。

 

 慌てて横に転がり通り過ぎざまを一閃。けれど腰の入っていない斬撃は強固な外殻に阻まれ弾かれる。

 

 その僅かな隙もイャンガルルガは見逃さない。突進が終わったと見るや間髪入れずにこちらを狙った嘴による打突。

 速度では劣ると判断し、背中を向けず、予備動作に入る瞬間をを見て左右に回避。右手をつき体勢を立て直すと、立ち上がる勢いを乗せて柔い顔面に向けてドスバイトダガー改を振り抜く。

 目元に急な攻撃を食らったイャンガルルガは一瞬たじろいだかのように見えたが、躊躇いなく眼の前の存在を排除しにかかる。

 

「…のあっ!?」

 

 イャンガルルガにとっては軽い身じろぎに過ぎないそれも、人の身では行動を阻害される。甲殻に引っかかったマサミチが掬い上げられるように腕を跳ね上げられると、そのまま轢き潰すようにイャンガルルガが猛進する。

 既の所で直撃は避けたものの、足が引っかかったのか着地を失敗する。顔を上げれば、イャンガルルガは息を吸い込んでこちらに狙いをつけていた。

 

「まずっ!?」

 

 その予備動作には見覚えがあった。

 

 古来より、人類に対する脅威として語られる竜の代表的とも言える武器。鋭い爪牙でも、巨体でもなく、それこそが彼らの特権とでも言うかのような特異な身体構造故に放たれるその一撃。

 

 

 ―――ブレス。

 

 

 これまでにも内臓器官から放出する攻撃を繰り出すモンスターはいたが、それらは放物線を描くようなものであったり、ブレスというには一撃の火力に乏しいものが多かった。

 

 類似はすれど、今ここにいるモンスターが放つのは、正真正銘飛竜種にも匹敵する豪火球。

 

 大きく開かれた口から巨大な炎の球が一直線にマサミチへと向かう。その時点でマサミチは回避することを諦め、全力の防御に回っていた。

 右手の盾を構え、出来る限り己の身を盾の背後へと隠すようにし、強く強く踏ん張る。

 

 着弾。そして轟音。しっかりと構えていたにも関わらず衝撃により腕がぶれ体は仰け反り足が地を滑る。それでも辛うじて姿勢が崩れていないのは流石というべきか。

 

 腕への衝撃はあるものの、目立った怪我はない。

 

「防具に感謝だな」

 

 マサミチは、己の桃色の防具を見てそう呟いた。怪鳥イャンクックの身を守っていた甲殻は伊達ではない。生半可な防具を優に超える防御性能を持ちつつ、自身が扱うからか炎への耐性も高く備わっている。これらが合わさり、強力なブレスを防いだ余波の影響を全くない受けていない。

 

 と、このように一人だけが攻められて他の3人が手をこまねいている訳がない。

 今の一撃でも不十分と見たか、それとも凶暴性故かはわからないが、再び着弾地点へと突進をする素振りを見せる。

 

 が、それよりも早く動きの止まったイャンガルルガに追撃の矢が迫る。これを顔で受け止めたイャンガルルガは、けれど己の苦手な水属性を纏った矢を煩わしそうに払う。

 それだけの隙があれば、他の二人も間に合う。

 

「はぁッ……!」

 

 身軽なフリーダが背後を取り尻尾に的確な連撃を当てた。突然の背後からの攻撃。それも、斬撃に対して弱い尻尾の腹を滅多切りにされたのだ。

 今までの攻撃の中で最も響いただろうそれは、イャンガルルガに僅かな驚きを与えた。だが、それだけ。強靭な生命力を誇る大型モンスターにとって、この程度気にもならない。

 だが、確かに注意を引くことは出来た。振り回される尻尾を身を屈めて回避し、即座に攻撃範囲から逃れるフリーダ。

 

 この判断の早さこそが、フリーダの強みだ。冷静に状況を見て、自他の戦力差を見るや不明瞭な動きに警戒して無闇な深追いをしない。当然攻撃する機会は減るものの、それでもやはり安全と堅実さに天秤が傾く。

 事実、ランポス襲撃の予兆や規模の把握もフリーダのその判断力の賜物と言えるだろう。

 

「今だ!」

「よし来たっ!」

 

 そして、背後に僅かでも気をそらした瞬間、側面からハンマー携え走るアランが呼応した。

 抱え込むように構えられたハンマーを、走破の勢いを最大まで乗せて右下から左上へと振り抜く。

 

「ッシィ!!」

『ヒギュィアッ!!』

 

 そして、その痛烈な一撃に初めての大きな反応。掌に伝わる会心の手応えに、笑みを浮かべて次打を撃つ。

 

「頭部が柔いぞっ!」

「脚は無理、矢が弾かれる!」

 

 大声を上げて、相手の情報を共有していく。続けて叩き込まれる重量級の攻撃に耐えかねたのか、再び飛び上がってバインドボイス。咄嗟に耳を抑えて鼓膜を守るが、それでも衝撃自体は伝わってくる。

 

 体勢を立て直すための牽制の意味合いが強かったのか、即座に攻撃はされなかったが、やはり相手があのような攻撃手段を持っている以上気が抜けない。

 

 再び向き合う形になったイャンガルルガとアラン。その脇をマサミチが走り抜け、最も脆い頭部へと躍りかかる。負けじとアランもハンマーを手にマサミチの作り出した隙へと痛恨の一打を叩き込む。

 

「ならば俺は…っ」

 

 頭に二人が集中している今、イャンガルルガの視界には二人の姿しか無い。フリーダは今のうちにと斬撃の通りの良かった尻尾目掛けて双剣を閃かせる。

 

 イャンガルルガは頭にまとわりつく厄介な存在に、嘴による啄みや噛みつきを多発して排除を試みるが、少しでも攻撃の予兆を見せたら横軸に避けてそのほんの僅かな隙に攻撃を入れる。

 

 どちらも、これまでの経験から位置取りは互いを害しない距離を把握しており、その絶妙な距離感にイャンガルルガも片方に集中することが出来ない。

 

 そして、放たれる矢の雨。頭部と尻尾を避けて放たれたそれらは、翼や胴体、背に脚と迫り、肉質に応じた効果を与えていく。

 

「ん? あれ…」

 

 その中に一つ、矢が弾かれる程の強度を持ちながら、それでいてイャンガルルガの注意を引いた部位があった。

 

 背中だ。

 

 他よりも物理的な効果は薄いが、どうやらイャンガルルガにとって嫌がる要因があるらしい。

 

 ジモは回避を重点に立ち回る男衆とイャンガルルガの行動に目を向けつつ、再び背中に向けて矢を引き絞る。今度は、三本。

 

 狙いを澄ました射暴れまわるイャンガルルガを正確に捉える。弓を左右から挟む海綿質の素材により、3方向に広がった矢は水属性を纏い突き進む。

 

 一本は動き回る脚に弾かれ、一本は振り上げた翼膜に浅く刺さり、羽ばたきの衝撃で抜け落ちる。そして、最後の一本は吸い込まれるように背中の甲殻を狙い穿ち、硬質な音に弾かれながらも水を撒き散らして意表を突く。

 

 己の苦手とする水属性に、特に弱い背中に(あた)ったことに顔を顰めたイャンガルルガは下手人を探すべく首をもたげるが、意識の逸れた一瞬をつき、近接組が攻勢に乗り出す。

 

 つかず離れず、互いに隙を狙いやすい位置に陣取り、それぞれが僅かずつとは言えイャンガルルガへ攻撃を与えていく。囲まれての攻撃に煩わしく思ったイャンガルルガは、一度嘶き、強靭な脚を起点に体ごと回転させて尻尾で薙ぎ払う。

 

 だが、それは既にイャンクックとフルフルとの対峙で見ている。

 予備動作を見れる位置にいたマサミチとアランは範囲外まで即座に下がり、背後のフリーダも尻尾の下を滑るようにすり抜ける。

 

 距離を取ったマサミチは息を整え、今の攻防の手応えをこぼす。

 

「っふぅ…、何とかやれるか?」

「疲弊さえしなけりゃ十分……と言いたいところだが、行動が早い上に強え。少しでも気を抜いたら素早さに翻弄されてそのままやられかねないぞ」

 

 そう、今のところはこちらに致命打となる攻撃は食らっていないが、それは強靭な生命力を持つモンスターとて同じこと。一発でもまともに喰らえば大怪我必須のそれを、避け続ける体力とその緊張感。同じ条件なはずがない。

 

 額から垂れた汗を拭うと、駆け寄るフリーダが背に手に持つデュアルタバルジンに目を落として告げた。

 

「相当斬りつけたが毒が回った様子がない。余程毒に強いか、あるいは完全に無効化しているか……だ。悪いが毒によるダメージは期待しない方がいい」

「そうか、イャンガルルガに毒は効果がない…」

 

 すっかり忘れていた。

 

 今までは毒でサポートも出来ていたフリーダ、だがそれは今は望めない。

 

 軽く言葉を交わし、人の留まった所へとイャンガルルガが動き出すのを見ては再びバラバラに避けて反撃の一打を与えていく。

 

 風圧や音響など、厄介な面も多いが、それでもみな直撃だけは避けている。一撃の重いハンマーで頭部を叩き、双剣と片手剣による削り。そしてジモの弱点を突く援護。このまま堅実に攻め続ければ、勝ちの目も見えてくるだろう。

 

 そう心中で溢した瞬間、それは起こった。

 

 再び尻尾回転を繰り出したイャンガルルガ。わずかに反応の遅れたマサミチが盾を割り込ませるも、けれど靭やかに振り回された尾の鞭の威力に耐えきれず背後に飛ばされる。

 

「うおっ!?」

「のわっ!」

 

 その先は既に避けていたアラン。勢いが止まる。

 そこまで勢いが乗っていたわけではなかったが、それでも鎧を着た人間一人。不意に接触しては動きも阻害される。

 

(まずい!)

 

 そう思い、咄嗟に盾を構え直したが、こちらを吹き飛ばしたイャンガルルガは、既にその身を翻していた。

 

 視線の先は、一人離れた位置で弓を構えるジモ。

 

「え、こっちぃ!!?」

 

 やられた。

 

 イャンガルルガは、周囲を取り囲んで攻め続ける三人よりも、その後ろで援護射撃を繰り返すジモを厄介に思ったらしい。

 今の回転で周囲を薙ぎ払い、孤立したジモへと飛びかかる。

 

 その姿を目視するや、弓を畳んで全力で疾走する。

 それでも、イャンガルルガの方が速い。空中からの飛びかかりを何とか地面に飛び込んで避け、慌てて立ち上がって逃げようとするも、イャンガルルガの喉から破鐘の様な咆哮が吐き出された。

 

「〜〜〜ぃッ!!?」

 

 動きが止まる。鼓膜と本能に訴えるその音響に耐えかね、ジモは両耳を塞いで屈み込んでしまう。

 

 しまった! そう思うよりも先に体はイャンガルルガへ向けて走っていたが、距離を離されたのが悪かった。このままでは到底間に合わない。

 

 こんな時のために閃光玉を求めてポーチへ手を突っ込むも、焦りか、それとも走りながら故か、うまく引っ張り出すことが出来ない。

 

 そうして、ようやく立ち直ったジモが回避行動に移るよりも一歩早く、イャンガルルガはそのまま後方宙返りしながら刺々しい尾を打ち付けた。

 

 

「―――ジモッッ!!」

 

 

 そこへ、割り込む存在がいた。

 

 

 鬼気迫る表情でジモを体ごと突き飛ばしたフリーダは、咄嗟に両の手の剣を交差させて防ごうとしたが、勢いに乗ったそれを止めることは出来ず、あえなく直撃。

 

 宙に打ち上げられた体は緩やかな放物線を描き、背後の木へと激突して止まった。

 

 強く握られていたはずの双剣は打ち上げられた衝撃で手から離れ、体はピクリとも動かない。

 

「っ、フリィーーダッッ!!」

 

 代わりに、アランの悲鳴がこの森に響き渡った。




どけ!!!俺はお兄ちゃんだぞ!!!
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