こういうハンター生活好きな人に届けー!
年が明け、ピークは過ぎたものの、残暑も続くこの頃。青々と茂る草木を踏み越えて4人の行程は続く。
これまでも竜車や荷台を牽くことがあったため、付近の見回りと同時に、少しずつ村から道を繋いでいた。直接的な縄張りや狩り場などの開けたスペースには繋がっていないが、物資の輸送という目的とバレる危険性から、これでも十分に役割を果たしている。
何より、こうして安全に引っかかることなく荷台を牽けているのがその証拠だろう。初期の頃は、整備などされていない地形に車輪を取られ、荷物や素材、時には乗っていたアイルーが転げ落ちていったものだ。
じゃり、じゃり。
土を踏みしめる音と虫の鳴き声が木霊する。木々に覆われ、日差しの割には涼しく感じる。空からの視線を防ぐのも役割の一つだ。
双眼鏡で痕跡がないかと確認しているマサミチに、アランは尋ねた。
「あいつの居場所の予測はつくのか?」
「いや、それは分からない。でも、とにかく執念深い相手だ。昨日してやられたばっかの獲物を逃がしている以上、リベンジの機会を窺って近辺にまだいるに違いない」
「…そんなに執念深いのかよ」
アランが呆れたようにため息を吐き、ならば尚更村に通しちゃいけないなと決意を新たにしている中、ムート達が低木の影から姿を現した。
「この辺には大型モンスターはいないニャ」
「向こうの方にはランポスはいたけど、影響を受けてるせいか、ソワソワしてるみたいだったにゃ」
アイルー2匹の優れた五感を生かした索敵と、遠目の痕跡を見逃さない望遠鏡。この二つがあればこれまでよりも早く敵の存在や場所を察知することができ、この2匹がいる間は何度もお世話になったものだ。
「…よし、次だ」
マサミチとアランはこの近辺の森の地形などとうに知り尽くしている。
通常時のモンスターの縄張りや素材、逃走ルートでは死活問題だからだ。何度も何度も反復し、時には抜け道や整備をしていただけに、どの道がどこへつながっているかなども一目瞭然。
「この辺にあいつ程の大きさのモンスターが安心して水分補給できる場所は少ない。昨日の今日だ、必ず痕跡が残っているだろうし、あいつも生き物。水飲みに訪れる可能性はありえる。順に回っていこう」
「だな」
このあたりにいないのならば、ポイントを変えるまで。落胆も焦りもしない。一刻を争う今だからこそ、出くわしてもいないのにこんな所で精神を消耗させるわけにはいかないことを、二人と二匹は心得ていたのだ。
そうして、予め決めていたプラン通り、視線を遮りながらポイントへと目指す。
何度か開けた道を避けて迂回し、それでもルートとしては着実に水場を回っていく。
村に近い場所から痕跡がないことを確認すると、少しずつ出現地域に近づいてくる。
「…ダメだな。足跡も鱗片も何も無い。こっちには来てないようだ」
だが、都合3つの水場を回ったものの、イャンガルルガの姿は愚か、付近に来ているという痕跡すら得ることは出来なかった。
「もしかして移動してるのか?」
「まあ、まだ候補自体はある。次が一番可能性は高いと思ってるけどな」
先日の遭遇から、最も近く、それでいて大きな水場を見てマサミチが判断する。ここは続く木々から少し開けた位置に存在しており、草食竜などの代わりにランポスなどの肉食モンスターの水場となっていた。イャンガルルガならばそれらを意に介さない程の力を持っているので、ここを訪れた可能性が一番高かったのだが、アテが外れたようだ。
「いないものは仕方ないか…」
「待った、何か来るニャ!」
ムートが察知した瞬間、全員が武器に手をかけ、ポーチの位置調整を完了させた。この切り替えの速さは数ヶ月にも及ぶハンター生活において、幾度に死地を経たことによって培われたものだった。
そして、茂みからいくつかの影が飛び出してきた。
「ランポスだ!」
それは、この近辺ではしょっちゅう見かける鳥竜種。ランポス。昨日も退治したが、これだけの数が一体どこからやってくるのやら。
「ここも調べる以上、放置もできねえか。ちょうど四頭、一人一頭だな!」
アランが雄叫びを上げ、飛び出したランポスに向けてハンマーを振り上げた。
マサミチは最後尾の一体に狙いをつけると、その意図を組んだ二匹が残りのランポスにあたる。
アランがサイクロプスハンマーを振り下ろす。かち上げられ、平衡感覚を失っていたランポスの頭に吸い込まれると、パキリ、と妙にあっさりした音とともに頭蓋を砕き絶命させた。
マサミチは飛びかかりをステップで避けると、盾で頭を殴りつけて柔らかい腹を斬り裂いた。怯んだ隙に流れるように刃を叩き込むと、すぐにふらふらになったランポスが悲鳴を上げて倒れ伏す。
ムートとアミザは、互いに小さな体を活かして撹乱しあい、アミザが頭部を殴り、ムートが肉を断つ。
今回、イャンガルルガの狩猟にあたって、この二匹は装備を変更している。
イャンガルルガの最大の弱点が水だということで、ムートはルドロスの端材から保水性を増強させその爪を刃としたルドロスネコネイルを。アミザはダイミョウザザミの鋭い鋏の端材から作られた、ザザミネコバサミを。
撹乱と勢いのある攻撃に押されたランポスは、背後の増援に気がつくことが出来なかった。
「ふん!」
「そらっ!」
死角からの強襲と怯んだ瞬間に喉元に叩きつけられたオトモ達の攻撃に、ランポスの体は力を失い崩れ落ちた。
肉は臭くてあまり食べられたものではないが、それでもいつもならば牙や爪、鱗などは重要な資源となる。現に、何度も討伐した今では探索版の槍の穂先などにも使われているくらいだ。
だがしかし、今はそのような余裕はない。悪いと思いながらも、その亡骸を放置せざるを得なかった。
「しかし、水を飲みに来た…って言うには警戒してなかったぞ?」
「…ああ、それは俺も気になった」
「最初っからずっと走りっぱなしで出てきたからニャ」
「焦ってたみたいですかニャ?」
そう、本来水飲み場にやって来るというのは、それは隙を晒すことと同義。いかにランポス達が捕食者側といえど、上には上がいる。それもボスがいない小規模の群れならば尚更だ。
茂みに隠れて獲物を狙うような狡猾さがある種としては、そんな場所に現れたにしてはおざなりな気がしていたのだ。
微かな違和感。ここのランポスには何度も相対しているからこその小さな引っ掛かり。今回はそれが功を奏した。
「っ!」
何かに気づき、咄嗟に身を翻して体を投げ出すと先程まで立っていた位置に爆炎が上がる。
「上だ!」
アランが上を指差すと、そこには陽の光を遮って羽ばたくイャンガルルガが、次の火炎弾の準備をしていた。
「くそっ」
「うにゃにゃにゃにゃにゃ〜!?」
連続して放たれる火球。手の届かない上空から不意に放たれたそれを死にもの狂いで避けていく。爆風が肌を掠め、髪を揺らすが体は決して止めない。
何とか炎弾の雨を凌ぎ、当たりには焦げ臭い香りと黒く焦げた地面が散乱する。イャンガルルガは、空中から滑るように地上すれすれを飛んでマサミチ達を蹴散らさんと強襲した。
「来るぞ!横に躱せ!」
「またかよ畜生!」
「うにゃにゃ、聞いてたけど速いにゃ〜!」
「泣き言言うニャ!回避するニャ!」
地を狩るように滑空するイャンガルルガをそれぞれに避けると、イャンガルルガはようやく地に足をつけこちらを睥睨する。
「この野郎、ランポスを片付けた直後に奇襲とは卑怯なやつめ…」
「違う。多分だが、誘い込まれた」
「そんなことあるのニャ?」
「…予測だが、前出くわした時もランポスを狩った直後だった。……状況の再現か、俺達がランポスを獲物としていると勘違いしているのかは分かんないが、こうして獲物を狩った直後のやつに奇襲する頭がある。否定はしきれない。何より、それならランポスが脇目もふらずに突っ込んできた理由にもなる」
「…うにゃ、もしかしてコイツに追いやられたのかにゃ」
「頭がキレるとは聞いちゃいたが、それほどかよ…」
地面を搔き、ぎらつくような瞳でこちらを見据えると、交戦の意思を高らかに告げた。
「咆哮来るぞ!」
「耳塞げっ!」
『ギィヤォオオォォ―――――ン…!!!!』
事前に判っていたために、予め全力で耳を抑えて抵抗する。それでも心胆を寒からしめるほどの暴威であったが、耳も抑えられず、不意打ちで食らったあのときほどではない。
多少耳が遠くなるが、それでも後にはひかない程度だ。即座に戦闘行為に移行できる。
「前の様には行かんぞ!」
「オレ達も行くニャ!!」
アランが駆け出し、イャンガルルガも迎え撃たんと地を走る。双方真正面からぶつかるかと思いきや、アランはすんでの所で斜めに前転してやり過ごす。
ブレーキをかけたイャンガルルガの振り返った頭部へと、渾身の力を込めた一撃を思いっきり叩きつけた。
「どんどん行くぞ!」
そのままニ連、三連とハンマーを振り回し、それも噛みつきによって阻まれる。腕に掠ったそれに怯んだアランのカバーにムートが走る。
四足歩行から飛び上がり、ジャンプの勢いをつけてルドロスネコネイルで斬りつけた。
水属性のそれとあまりに小さな存在の闖入に意表を突かれたイャンガルルガは僅かに嫌そうに頭を振って払いのける。小型モンスター程度ならば怯み仰け反る程の威力はあった筈だが、やはりその生命力は桁違いか。
続いて、ムートとアランを狙って連続で啄み攻撃を繰り出す。前進しながら放たれるそれは見た目よりもずっと強力で、アランは全力で横に跳んで紙一重のところで躱す。
一度見ていたのにも関わらずここまでギリギリになったのは、やはりイャンガルルガの素早さと隙の無さを如実に表していた。
「やっぱ早いなこいつっ」
「前のめり過ぎるなよ!」
一度動きに止まったイャンガルルガ。正面に避けたアランに集中しているが、これは予想内。リーチの短いマサミチは弱点である頭を叩くために側面後方から一気に距離を詰めて横面に一撃を加える。
ギョロリと眼光がマサミチを射抜くも、やはりダメージではアランの方に軍配が上がるのか再びアランに向けて啄む。
「のぉっ!?」
飛びかかり、勢いよく叩き込まれた嘴は、先程の連続啄みよりも威力を重視しているのか、地面深くにまでめり込んだ。
「今だ!!!」
引き抜くまでの僅かな隙に群がり、互いの邪魔にならないようにして攻撃を加えていく。
マサミチとアラン、左右からの重い連撃に、ムートとアミザが合間に攻撃を挟む。
自身が無防備な状態で手痛い反撃を食らったことに驚いたのか、イャンガルルガは首を竦ませて怯む。
が、それも一瞬。すぐに仕切り直しのように首をもたげてバインドボイスと共にバックジャンプ。
「ぐおっ…!? 最初よりマシだが、一瞬でこうも音を出されると耳が辛いぞくそ…」
「でも逃げたってことは攻撃は通ってるのニャ!」
「通るなら倒せるにゃ!」
「気をつけて狩猟すればやれる!」
頭部を振って向き直ったイャンガルルガは、固まった一同に向かって火炎弾を吐き出した。
だがそれも、注意深く見ていた彼らにとっては既知の動作。避ける余裕は十分にあった。
火炎弾が着弾した音を背に受けて、吐き出した姿勢の顎を盾で殴りつけ、喉元の甲殻に刃を突き立てる。
「ぐっ…!」
硬い感触。だが、それも以前程ではない。
というのも、マサミチはドスバイトダガー改を準備期間中に強化してもらっていたのだ。元々、素材自体は揃っていたが、最近の狩猟では専ら火属性が弱点のモンスターが多くセクトセロルージュを使用しており、更にそこへジモやフリーダ、アランの装備などでも時間を取るために後回しになっていたのだ。
新たな銘はドスファングダガー。外見には劇的な変化はないものの、それでも確かにその性能は向上していた。
そのまま繰り出された噛みつきを上体を捻って避ける。眼の前を通り過ぎたそれはイャンクックの嘴よりも鋭角で大きく、そんなものが鼻先を掠めたということに少しばかり冷や汗をかきながらも追撃を喰らわぬように翼側へと体を動かした。
アミザがモンスターの骨を組み合わせて作ったお手製のブーメランで遠距離からでも攻撃を加える間にも、アランは力を溜めて走り寄る。
「よし来た!」
最大の一撃を加えると、イャンガルルガの顔に当たる。これを首を動かして跳ね上げアランを仰け反らせると、その肩を踏み越えてムートが飛んだ。
「食、ら…えニャッ!!」
落下の勢いをつけたそれは、寸分狂いなく脳天に叩きつけられ、気持ちの良い音で強打する。
「ニャッ!!?」
しかし、着地したのはそのままイャンガルルガの嘴の上。見事に眼を覆うように乗っているムートに、イャンガルルガは払いのけようと暴れ始める。
「おーい、何やってんだよ!」
「うニャニャニャウミャー!?」
「何でそうなるにゃ?」
足踏みや薙ぎ払いをするイャンガルルガに堪らずマサミチとアランは距離を取り、今もたてがみに必死でしがみついているムートへ声を掛ける。
ムートはよく耐えたものだが、頭をブンブンと何度も振られてはたまらない。振り上げた頭に上へ飛ばされたムートが上空へ飛んでいき落下する。
「フニャーッ!!」
「おっと、大丈夫か?」
「酷い目にあったニャ…」
あわや落下するという所でアランがキャッチ。首元を掴まれ無事地上に降り立つ。
「それが言えるんならまだ大丈夫だな! こっちのペースで叩くぞ!」
「応っ!」
士気を高める四人と相対するイャンガルルガは、不機嫌そうに鼻を鳴らしたのであった。
まだまだイャンガルルガは倒れる様子はないようだ。
この作品はまだまだ続く予定なので今後ともよろしくお願いします