モンスターハンター:オリジン   作:食卓の英雄

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昨日、モンハンライズを買いました。面白いですな。


家に帰るまでが遠足だよね。何もないとは限らないから

 じゃり、と降り積もった枯れ葉を踏みしめる。冬も近いこの頃になると運動をしてもあまり喉が渇かなくていい。その分だけ節約できる。そう思いながらぐびり、と水を摂取する。これで当分の間は喉の渇きに悩まされることはない。

 

「アラン、そろそろ出よう」

「ん、ああ。休憩も終わりだな」

 

 鉱山でザックリと鉱石を頂いてからは行きに使ったルートを辿り、荷物を零さないように注意しながらなるべく早く駆ける。使えそうな骨の選別や、道中の虫を取ったりして、少し予定より遅くなってしまった。

 無論、警戒も忘れない。急いでいたせいでモンスターに気づきませんでした、じゃ笑い話にもならない。荷車を牽いていない俺が今は先行している。

 そして見つけた。ルートから少し逸れた広場に、行きには確認出来なかった筈の穴が複数空いていたのだ。

 

「あれは……」

「何の穴だ?俺の顔よりはデカイけどよ…」

 

 もう少し近づくか?との提案を断り、即座に、それでいて静かに出発を催促する。もし俺の考えが正しいのなら、今すぐに離れないと不味い。

 行きの道に見つけた怪鳥の鱗。いつの間にか現れた複数の丸い穴。ここまで揃えば、モンスターハンターをある程度やっているプレイヤーならすぐに気がつくことだろう。最初に怪鳥の鱗って言ってる時点でもう正体なんかはバレバレだと思うけど。

 あの穴はイャンクックが自身の好物であるクンチュウをほじくり出した痕跡に違いない。それも、かなり新しい痕跡だ。古い痕跡と見間違うことは、まず無い。足跡や鱗片ならば分からなかったかも知れない。しかし、この世界では小さな穴程度ならすぐに塞がってしまうのだ。モンスターや動物が踏み固めてしまうのか、それとも地面から出てきたモンスターの体でそのまま土を戻すのかは分からない。が、あの程度の穴ならば直ぐに気にならなくなる位の物でしかないのだが、ほじくり出されたとなれば、土が戻らないのも頷ける。

 穴を掘るモンスターは他にもいるのだが、それでもこんなふうにはならない。それに植生や気候、土地などの観点から考えても、この主がイャンクックである可能性が最も高いだろう。

 

「お、おい。確かに急いだ方がいいのは分かるけどよ。ちょっとアレ怪しいんじゃないか?」

「アレが何かはもう分かった。…十中八九、イャンクックの捕食痕。それもすぐさっきのだ」

「いあん…?ああ、怪鳥のことか!…ってことは近くにいるのか」

 

 アランは一瞬疑問符を浮かべるも、前にも言っていた為に直ぐ理解したようで、強張った表情を浮かべる。行きの道で飛竜ではないと安心していた姿からは考えられない。

 

「いや、そりゃ当たり前だろ。普段温厚なモスやアプトノスだって、気が立ってれば襲ってくるんだ。それがあの大きさの竜だ。それも火を吹くって話だからな。狗竜よりも危険だろ」

 

 どうやらイャンクックを過小評価していたわけではないらしい。…てっきり、対面したこともないから甘く見ていると思っていたのだが、そこら辺はしっかりしてるみたいだ。まあ普通侮りはしないよな。ゲームをしていたということで無意識的に下に見てたみたいだ。反省反省。

 

「それで、どっちに行ったとかは分かるか?」

「いや、足跡が途切れてる。多分飛んでいったんだ。そう長くは飛べない筈だから空からくる事はないだろうが……」

 

 辺りを見回しても、木々が生い茂っている為にそう遠くまで見ることが出来ない。かといって、見晴らしのいい道を通ればその分発見されるリスクが跳ね上がる。こればっかりはどうにも出来ない。大人しく発見されないことを祈りながら急ぎ戻るしかないだろう。

 

「よし、さっさと行こう。この場に留まっても、肝心の居場所が分からないんじゃジリ貧だ。…一応、ほんの少しの足止めなら出来なくもないしな」

「………」

 

 そう声を張り上げるが、アランからの返事はない。不審に思い見ると、自らの口を押さえて屈み込んでいた。

 

「おい――」

(いや……何か、音がする)

 

 問いただそうとした瞬間、頭を下げさせられる。何が、と声を出す暇もなく、その原因が現れた。

 

『ククエェェェェッ!』

「噂をすれば…って奴か?」

 

 草木を掻き分け、森の大怪鳥がその姿を晒す。桃色の甲殻に身を包み、丸みを帯びたくちばしは一見してひょうきんな印象を与えるが、そこから繰り出される攻撃を知っている身としては気休めにはならない。襟巻きのようにも見える特徴的な大耳は集音性が高く、僅かな音でさえ逃さないだろう。

 

(こいつがいやんくっく…怪鳥であってるよな?)

(ああ…。…わかってたけど、でかいな)

 

 モンスターが大きいのは重々承知していたが、直接見るのとでは迫力が違う。今まで見た中でも一番大きいモンスターといえば、初日に見たドスジャギィ程度で、翼や甲殻を持つ大型鳥竜種であるイャンクックとでは比べ物にならない。

 イャンクックでこうなのだから、飛竜はどれほどのものなのだろう。果てには古龍に超大型生物。ゲームのハンターは色々とおかしい事を改めて理解した。あれで一般ハンターは無理がある。

 

 身じろぎ一つせずに隠れ、恐る恐る様子を窺う。当のイャンクックといえば、首を傾げながら地面を眺める。クンチュウを探しているのだろう。

 

(なあ…今なら行けるんじゃないか?)

(…いや、あの大きな耳の集音性はかなり高い。俺たちはともかく、荷車は怪しいんじゃないか?)

(でも、このままじゃ埒が明かないぜ?ここで待っても、アイツが来ないとは限らない。それに待ち続けて夜になった方が危険だ。…今ん所、あいつは穴掘りに夢中だ。草木の揺れる音に紛れて離れた方がいいんじゃないか?)

 

 確かにアランの言うことは正しい。これ以上遅れてしまえば、無事に帰れる確率は急激に低下する。ならば、こちらに注意の向いていない今こそが、逃げるチャンスなのだ。それに、イャンクックはどちらかといえば温厚なモンスターだ。縄張りや小さな生物には牙を向くが、飛竜程の執着がある訳では無い。

 

(……分かった。出来るだけ音を立てない様に気をつけろよ)

 

 そこからは慎重に。ゆっくりと、足場を選び、軋む荷車を引く。一つ物音がする度に心臓が跳ね上がり、怪鳥へと注意を向ける。

 

「……ここまで来れば、大丈夫か?」

「いや、念の為もう少し…」

 

『グアオオオッ!!』

 

 突然の咆哮。身が竦むとまではいかなかったが、心はその限りではない。

 前からゆったりと歩み寄るのは青い体毛と硬い甲殻と棘に覆われた腕を持つ牙獣種。青熊獣アオアシラがこちらを睨みつけている。

 

「オイオイオイ…。何でこんな時に青熊獣が…」

「もしかして、俺達が採ったハチミツはこいつの餌場だったりするのか……?」

 

 偶然という線もあるだろうが、そうとしか思えなかった。きっと、俺達が採取した為に好物であるハチミツを食べられず、そこで気が立っているときにハチミツの香りを追ったら、俺達がいたと。……充分あり得るな。

 

『グルルルル…』

「くそっ…逃げるに逃げれん」

 

 アオアシラはこちらを警戒しながらも、その眼光は鋭く、荷車のある箇所へ向けられていた。

 

「アラン、そっちのハチミツを取ってくれ。それで何とか注意を逸らす」

「そんなので上手くいくのか!?」

「いいから!」

「……分かった。信じる!」

「サンキュー」

 

 アオアシラから視線は離さず、正面を向いたままアランからハチミツを受け取る。地球での熊の対処法だから通じるかどうかは分からなかったが、一応襲われずには済んだ。

 

「さんきゅ…?」

「ありがとうって意味だよっ…そらっ!」

 

 勢いをつけて後ろへ全力投球。20m程の位置に落ち、衝撃で中のハチミツが地面へ溢れ、甘い匂いを漂わせる。

 

『グォオ?』

「今!」

 

 ハチミツが落ちた途端、こちらへの警戒心は失せ、一直線にハチミツへと駆け出すアオアシラ。それを見届ける間もなく、ガラガラと音を気にすることなく全力疾走。

 

「うおおおぉぉぉぉおおっ!!」

「ふんっ…!ぬありゃぁぁあ!」

 

 さっきまでの忍び足など忘れたかの如き荒々しい走り。一人で牽いていた荷車も二人で押す。折角集めた素材が少しこぼれ落ちるが、そんなことは気にしていられない。

 

「はあっ…はあっ!……撒いたかっ!?」

『グルォ、ブグオオオォ!』

「…全然駄目だ!もう食い終わるぞ!」

 

 人間には充分な量でも、ハニーハンターには不足らしい。

 

「何か秘策とかは!?」

「悪いがイャンクックの方にしか無い!」

「ちくしょう!」

 

 そうしている間にも、彼我の差は縮まっていく。素の走力の差に加え、大荷物を抱えているのだ。荷車の為三次元的な機動も出来ず、追いつかれるのは時間の問題だった。

 

 あわや追いつかれるかと思った瞬間。

 

『クエエエエエェェッッ!!』

『グルァオッ!?』

「んなっ!?」

 

 イャンクックだ。木々の隙間から突然乱入し、無防備なアオアシラの側面に体当たりを食らわせる。大質量のぶつかり合いはお互いに地を削り、小さな凹凸を整地しながら倒れ込む。

 

「うおぉっ、何か知らんがよし!」

「縄張り争いか!?」

 

 アオアシラの咆哮、或いは木をなぎ倒す音に反応してか、イャンクックは向かってきていた。そして見つけた侵入者の内、より危険度の高い方を狙っただけだ。

 

『グルルオァァォ………』

『クエエェッ』

 

 格上からの不意打ちにアオアシラは完全に萎縮。先程の覇気は消え失せる。それを一瞥し、今度はこちらに目を向ける。やはり人間はあまり見ないらしく、警戒はしているが、少しでも動けば今にも襲ってきそうな雰囲気を漂わせている。アオアシラに気を引かせるのは出来そうもない。

 そこで、念の為と持ってきていたポーチを投げつける。それはくちばしに当たり、気の抜けるような音と共に落下。

 

『ククェ?』

「お、おい、刺激するなって」

「…不発かよ!」

 

 地面に落ちるポーチを不思議そうに眺めるイャンクック。興味はそちらに向いたとはいえ、狙った効果とは程遠い。

 一瞬だけ視線を彷徨わせるが、俺達を捉え、一歩前に踏み出す。その瞬間――爆発音が響き渡った。

 

『キュクエエエェェ!』

 

 同時、イャンクックは甲高い悲鳴をあげ、体を持ち上げてふらふらと放心したように立ち止まる。

 

「な、何だ!?火の息か!?」

「今の内に逃げろっ!巻き込まれるぞーっ!!」

「は?え」

「早くっ!本当に少ししか持たないから!」

 

 状況を把握出来ていないアランを叱咤し、慌ててこの危険地帯から逃げ出す。駆け出した数秒後には背後から暴れまわる二体の雄叫びや大質量の物体がぶつかる轟音と共に木々をへし折り猛るイャンクックの姿を確認した。

 

「うおおぉっ!?後ろから凄い音がするんだがっ!?」

「振り返るな!とにかく走れえぇぇーーっ!」

 

 背後の喧騒も見ず、ただがむしゃらに村までの道を追う。遠くに上がる黒煙も無視し、荷が跳ね落ちても拾わない。恥や外聞などはかなぐり捨て、ようやっとして、視界が開けた。

 

「村だ…!も、もう走れん…!」

「ハァッハア…!けふっ…。さ、流石にもう大丈夫だよな…」

 

 念の為と背後を振り返り、大きな影や音も無い事を確認し、大きく息を吐き、心底安心したような面で村の端―おやっさんの鍛冶場の裏へと荷車を停めた。

 完全に脱力し、地面へ倒れ伏す。ゴツゴツとしていて決してリラックス出来る地面ではないが、今はとにかく休みたかった。

 

「おう、そろそろだと思ってたぞ」

 

 息が整った辺りで、声を掛けられる。

 

「「おやっさん!!」」

 

 出迎えたおやっさんの上半身は裸で、老年ながらも引き締まった肉体を見せつけていた。その傍らには彼の弟子二人組が揃っていた。

 

「お疲れ様です。驚いた…まさかこれ程の量を持ち帰るとは」

「二人共おかえり!それで、あの山まで行ったんでしょ?どんな感じだったの?モンスターはいた?怪鳥が遠くに見えたけど大丈夫だった?」

 

 弟子二人はどちらかといえば外の事や素材に興味が惹かれている様で、少し複雑な気持ちになるが、こんな二人だからこそ協力してくれたので文句は無い。むしろ、これから仕事を頼む側からしたら中々に頼もしい。

 

「ああ、ただいま。かなり大変だったんだぞ?こう、なんか色んな石が取れて、その帰りに怪鳥が来て、追いかけられたらボンッてなったら、青熊獣とグワシーって取っ組み合って……」

 

 身振り手振りを交え、興奮した様子でアランは語るが、残念ながらその手の才は無かったらしい。

 

「ま、とにかく今は体を休めとけ。鉱石が取れたんなら後は儂らでやっとくわい。馬鹿弟子!呆けてないで選別じゃ」

「はい、お師匠」

「はーい。後で教えてねー?」

 

 それぞれ鉱石の入った籠を持ち、鍛冶場へと引っ込んでいった。

 

「ふぅー…にしても、最後のアレは何なんだ?その、手投げ弾だったか?それを投げたら怪鳥があんなになったやつ」

 

 残りの素材を俺のテントへ運ぶ帰り道、アランが不思議そうに尋ねた。

 

「ん…アレか。イャンクックはな、あのデカイ耳の通り、めっちゃ耳がいいんだよ。それで、急にあんな感じのでかい音を立てられると、その聴力が災いして、混乱した後に怒り狂って手当たり次第に襲うようになるんだよ。まあ、上手くいくかは賭けだったよ」

「青熊獣……アオアシラだって、俺らよりもハチミツを狙うなんて知らなかった。きっと、村長やおやっさんでも知らないぜ?」

「まあ、な。…ハンターのお陰だよ」

 

 上機嫌に、そう面と向かって褒められるのは少し照れくさい。今言ったように、これはゲームでの設定ありきの事で、もしかしたら、気まぐれで俺達を狙っていた可能性もあった。そう考えると、かなり危ない橋を渡り続けていた気もする。

 

「ハンターって何だ?」

「モンスターを狩ったり、危険な場所の物を集めたり。……まあ、普通の人では出来ない、色々な事をやる職業だよ。それがあったから、あの手だって取れた」

 

 本当に、モンハンをやっていて良かった。もしこれでやっていなかったら、生活には全く慣れず、まともな貢献すら出来ない。そして当然、あの窮地だって切り抜けられなかっただろう。

 

「じゃあ、マサミチはハンターを目指してるんだな」

「は?」

 

 ふと言われた事に理解が追いつかない。ハンターを目指している?誰が?……俺が?その反応を見て、アランは言葉を続けた。

 

「だってよ、こんな事を知ってるしさ。これからモンスターを狩る予定があるんだろ?鉱石だって、武器の為って言ってたしよ。そんな感じで色々工夫しててよ。なら、ハンターになりたいんじゃないのか?」

 

 寝耳に水だったが、そう言われると確かに。俺がやろうとしていることはハンターそのものだ。食料が欲しいだけなら、ここまではしない。

 

「……それもそうか。…うしっ!俺はハンターになる。この村初のハンターに!」

 

 そう声を出して宣言する。それは存外、気持ちのいい事だった。

 

「よし!俺もそのハンターって奴になってやる!」

 

 アランも声高々に言い切り、ニカッと笑う。

 

「…お前までやらなくていいんだぞ?」

「別にいいだろ?モンスターの脅威だって、無いわけじゃない。村を守る為にも、そのハンターって奴は必要だろ?それに、ハンターになれば退屈はしなさそうだからな!」

 

 日も傾き、じきに帳も降りようとする中に、二人の男はハンターになるという決意を誓ったのであった。

 

 




「因みに、あの怪鳥を狩猟出来て、やっと一人前らしいぞ」
「マジか…ハンターってすごいんだな…」

この後、こんな感じのやり取りが交わされたとの事。
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