「ほれ、こいつがお前の言っとった狩猟武器だ。確かめてみい」
あの遠征から2日、朝早くに鍛冶場へと呼び出された俺はその仕上がりの速さに舌を巻く他無かった。
「おー、これがハンターの片手剣ってやつか!」
「まさかこんなに早く出来るなんて…。設計も素人が描いたようなものなのに…」
「あまり儂を舐めるんじゃあない。いくら残りモンしか打てずとも、常に頭にゃ仕事ン事が入っとるわい」
目の前に並ぶのは、モンスターハンターシリーズでお馴染みのハンターナイフ。早速手に取ってみるが、やはりと言うべきか、両腕にずっしりとした感触が伝わってくる。シンプルな造形ながらも、信頼を寄せるには足る一品で、ハンターとしての道をまた一歩進んだ感慨すらあった。アランもしっかりと握り込み、既に素振りをしていた。
「私達は師匠に使っていいって言われた鉄でね。篭手と足の防具を作ったんだ!使っていい量だと、これくらいが限界だったけどね…。…まあ、そこはちゃんと作ったから安心安全だよ!これでジャギィの噛みつきだってなんのそのだーっ!」
「ええ、ミーニャの言うとおりです。一応、盾を用いるため鉄は左部分だけになっていますが、色々と便利でしょう。これからも新しい刺激を期待していますよ」
「本当に…?」
弟子二人、おやっさんの孫『ミーニャ』と竜人族の青年『エイル』も製作に関わっていた様で、両者共に自らの作品の評価を伺っていた。
「うん、問題は無いし取り回しも難しくはない。…想像以上の出来栄えだ」
「それはそれは…」
「えっへへ、自信はあったけど、それでもやっぱ嬉しいや」
軽く振ってみるが、かなりの鉄塊に加え、腕自体も少し重く感じるが、想像した程ではなく、もう少し慣れたらある程度は使うことが出来るだろう。正直、学生の頃に握った竹刀なんかよりも楽に振り回せる。
そんな事を話していると、おやっさんが工房へと戻り手招きをする。見れば、マカライト鉱石だけが集められており、その前でおやっさんが悩ましげな顔をしていた。
「おう、このマカライト鉱石だけは何ともならん。ここにあるもんじゃ扱えん。どうしても火力が足らんのだ。残念だが、何か加工できる方法が出来るまではコイツはただの石ころだな」
マカライト鉱石を手に取り眺めるおやっさんの目は本当に無念そうで、こっちも気落ちしてしまう。ゲームのフレーバーとしては、マカライト鉱石を加工する為には燃石炭が必要だったが、そんな所まで同じらしい。一応、充分な設備が整っていたりすれば、燃石炭に頼らずともいいらしいが、それはこの村には期待出来ないだろう。
「いや、ここまでしてもらったんだから充分です。確かに残念ではありますけど、今はこのハンターナイフがあればそこそこのモンスターならいける……と思います」
「……そうか。まあ、他になんかあったら言えや」
そう言い残すと、おやっさんは寝床に入る。直ぐにイビキが聞こえた事を見るに、どうやら寝ずに仕上げてくれたらしい。
「…ありがとうございました」
一礼して、鍛冶工房を後にする。二人に手を振り、アランと共に俺の家へと向かう。
「今日はどうするんだ?一応、俺は外出することを言っといたから、夕までは怪しまれない。本格的な冬ももう近いし、やるなら早めがいいと思うぞ?」
「ああ、それは思ってた。…うん。まだちょっと慣れないが、早速今日にでも行こう。出発は昼からだ。それまでは練習して少しでも慣らす。そして、村のみんなに認めさせる」
今日、この世界での革命が始まる。今までとは違い、生物の命を奪い、それを村の糧とする為に。ハンターとしての第一歩は、まずそこからだ。
「じゃあ解散!練習は…何か不手際があってもカバーできるようにおやっさんの鍛冶場の裏でやること。俺は狩りに役立てそうな道具を見繕うからまた後で!」
―――…
「おし、緊張して失敗とかはするなよ?」
「大丈夫だ。あの斧と違って、モンスター専用の武器も、ちゃんとした知識もある。今の俺達を止めるなら怪鳥でも持ってこいってもんだ!」
時間は飛んで昼飯時。昼飯時とは銘打っているものの、今は食糧が乏しい為に朝晩の二食のみだ。
鍛冶場へと向かい、武具を受け取る。アイテムなんかも整え、持ち帰るための荷車も用意し準備は万端だ。
「おう、行って来い。儂らの創ったモンがモンスターに通じると証明してやれ」
「食料を得る為……となるとアプトノス辺りでしょうか。ええ、ええ。あの体躯の一撃は草食モンスターといえど侮れません。お気をつけて」
「二人共がんばってねー!でも無理だけはしないようにね。安全がイチバン!だからね」
三人の激励を受け取り、草原へと足を向けた俺達に声をかける者がいた。
「待て。アラン、マサミチ」
聞き覚えのある声に恐る恐る振り向くと、村長が険しい顔でこちらを見つめていた。
「そ、村長…」
「……少し前から、様子がおかしいのは分かっていた。あんな事を言い出したのだ。警戒くらいする。…マサミチが一緒だとは思わなかったがな」
ふう、と息を吐き、やれやれとばかりに首を降る。
「分かっているのか。外は危険だ。一体ならどうとでもなる様なモンスターも、外では違う。食料を得られるという確証もなく、徒に身を危険に晒すだけだ。死ねば人の味を覚えたモンスターが生まれ、逃げ延びたとしてもこの村の存在を察知されかねん。そう、お前の父親の様にな……それでも行くというのか」
「……村長。今のままじゃ食糧難になるのは目に見えてる。今でこそみんなも我慢できてるけど、本格的な冬が訪れたらそれも意味がなくなる。口減らしをするくらいなら、危険でもこっちを選ぶ。何より、俺がここを守りたいって気持ちも本当だ。これが出来たら、今までみたいに震えて忍ぶだけじゃなくなる。文字通り、新しい道が開けるんだ!」
「………」
「………」
二人は睨み合うように対面し、その顔つきから譲る気は無いらしい。どれくらい見つめ合っていたのだろうか。やがて村長の顔には諦めの色が浮かぶ。
「……はあ。……親に似たのか。好きにしろ」
「ッ…!ありが「ただし!」…っ」
「やるからには、しっかりと成果をだせ。そして絶対に死ぬんじゃない。無意味だと判断したら直ぐにでも止めさせる。…マサミチもそれでいいな?」
急に話を持ちかけられ少したじろいだが、条件付きとはいえ認めてくれたのはかなりありがたい。その条件も至極当然のことであり、勿論快諾以外の選択肢はなかった。
「まだ完全に認めた訳じゃあない。後は結果次第だ」
「…………ありがとう、じいちゃん。大丈夫だ。俺も無策で行くわけじゃない。ちゃんと帰ってくるよ」
「…フン」
仲睦まじいという程ではないが、そこに確かな愛情はあった。以降、村長は無言で見送り、孫はただ手を振って背を向ける。
「…お前と村長ってさ」
「ん、ああ。そういえばマサミチは知らなかったか。俺はあの人の孫だよ。じいちゃんも言ってたけど、次期村長だった俺の父さんがさ。外に出てって帰ってこなかったんだ。そこからは今の通り、すっかり関係が悪くなっちまってよ。憎み合うとかじゃあないんだけど、なんか気まずくて」
身内での事でその関係が悪化してしまう。これは世界を超えても共通している事柄らしい。
「でも、ほら。認めてくれただろ?あの条件だって元からそのつもりのものばっかりだ。やっぱり血は争えないって奴かな。父さんも昔のじいちゃんは外に憧れてたって聞いてるし。………じいちゃんも怖いだけなんだよ。父さんの二の舞いにならないかってさ」
「……」
「だけど、俺と父さんは違う。俺にはこのおやっさん達が作ったモンスター用の装備に、知識と道具。そしてマサミチも居るんだ。目標だって決まってるから絶対大丈夫。ミーニャがいつも言ってる、安心安全ってやつだな!」
恥ずかしげもなくそう言うアランの顔は今まで以上に晴れ晴れとしているように見え、これからのモチベーションも高まる一方であった。
「…そうだ!ハンターの間では狩りに行く前に言う合言葉みたいなものがあってだな。『一狩り行こうぜ!』ってのがあるんだ」
「なるほどな。んじゃあ、俺達もやるか!」
「「一狩り行こうぜ!」」
ご愛読ありがとうございました。
食卓の英雄先生の次回作にご期待下さい――☆!
嘘です。なんか打ち切りエンドみたいな最後になったけど続きます。