「はい、新しい防具」
「ああ、ありがとう」
「助かった。正直、少し危なかったからな…」
あの狩りから3日、色々な事があった。
アランにハンターの仕事や調合等といった基本的な事を教えたりした。また、この時に回復薬や素材玉といった便利アイテムが手に入った(どうやらネンチャク草は塗りつけるものではなくカプセル状にくり抜いた石同士の接合部に使うらしい)
他にも、近くに来たブルファンゴを追い払ったり、薬師に言われてケルビの角を手に入れたり、いわばハンターらしいことをしていた。
「どうだ?サイズはぴったりじゃろうて」
おやっさんは余程自分の腕が振るえる環境が嬉しいのか、いつもの厳格な雰囲気が多少なりを潜め、若々しくカッカと笑う。
「それがあれば多少はマシになるでしょう。元来、こういった物はもっと早く渡すべきなのですが…。間に合わずすみません」
エイルが頭を下げるが、おやっさん達は何も悪くない。むしろ作ってもらっているこちらが頭を下げたい程だ。何故ここまで謝っているかというと、それは2日前のブルファンゴと出くわした時だ。 アランは何とか突進攻撃を躱したが、ねじまがった牙が無防備な胴へと掠ったのだ。大したケガこそ負わなかったものの、より一層体を覆う防具の必要性が高まったのである。
それで新たに造られたのがこのチェーンシリーズ(旧)。頭装備は無いが、動きやすくそれなりの防御性能も期待出来る。試しにこれを着たまま走ってみても、重量による疲弊は当然あるが、走りにくさや余計な疲労といった物は感じられなかった。
ミーニャとエイルには悪いが、一式丸々変更となる。とはいっても、二人にとってはより精進した成果との事なので、むしろ積極的に変えるよう勧められた。
「さて、今日は何をする?」
「…そうだな、皆の意見でも聞いてみるか?困ってる事とかよ。ハンターは村の依頼もこなしてこそ…ってヤツ」
そうと決まれば早速聞き込みだ。最近気になった事や不安な事。何かおかしな事について聞くと、色々な意見が出てくる。
その中でも気になったのが、最近ランポスの姿をあまり見かけない事だ。元からあの野原には稀にランポスが居たのだが、あれから見かけた事が無く、村人も無いのだという。
爬虫類の様な物と考えれば活動を休止しただけにも思えるが……そこまでのものだとは思えない。しかし今の所実害がある訳でもなく、これは頭の片隅に置いておこう。
「マサミチとアラン!探したよ」
「ん…ストレイさん」
「いやいや、さんづけなんか要らないよ。歳もそう変わらないだろうし、今や君達は村に必要とされているからね。かくいう私も自分が管理する食料庫の惨状と日々減っていく食料には寂寥感を覚えざるを得なかった。改めてありがとうね。今現在は出来た干し肉を出来る限り保存状態の良いまま置いているよ。一応、大体の期限ごとくらいに仕分けしてあるから無駄になることは多分無いさ」
「は、はあ…」
この物腰柔らかだが勢いのある男性はストレイ。自分で言っていた通り、フィシ村の食料庫番と管理をしている。
「それで、ストレイは何の用なんだ?」
「あ、ごめんねアラン? それで本題なんだけど、君達はこの村が食糧不足に陥った理由を知っているかな?」
「何でって……確か甲虫が沢山現れて、食料庫を荒らしていったんだろ?」
アランがそう問いかけ、厳粛そうに頷く。
…確かにそんな感じだったな。狩りに集中し過ぎて覚えてなかった。
「そう!あれは食料庫の管理人として不甲斐ない出来事だった。私が離れた所にゾロゾロと大群を引き連れて…。私が気づいた時には…」
「…で?何が言いたいんだ?」
あまりに長い前置きに痺れを切らしたアランは深いため息をつきながら再度問う。その顔には「またか…」と若干辟易した様子だ。
「それでだね、今回新たな食料が手に入っただろう?でも昨日の夕方、甲虫が現れたんだ。その時は幸いにも一匹だったから何とかなったけど、前の襲撃直前にも似たようなことがあったんだ。…餌場と覚えた甲虫達が来るに違いない!だから君達にはアイツらを追い払ってほしいんだ」
成程、せっかく何とかなった食糧も、襲われてしまえば水の泡。あの悲劇を再び繰り返さない為にも、これは当然だ。
「分かった。前の襲撃はいつくらいに?」
「前は最初に一匹が来た次の日、その夕前かな?多少前後するとは思うけど、そんなに変わらないだろう。どうか頼んだよ!」
そう言うや、村長宅へと駆け込むストレイ。
「何やったんだ…」
…全面的に同意する。
◇◆◇◆◇
時は進んで俺の家。以前より物が増えた仮家はブルファンゴの撃退後に村の人達の好意で立派なココット民家へと進化を遂げていた。
その中でナイフを研いでいると、アランが訪れる。
「マサミチ、起きてるか?そろそろ時間だ」
「ああ、分かってる」
いつでも動ける様に予め武具を装備していた俺は、ケルビの皮から製作した革袋を手に村外れの食料庫へと走った。
「あっ、来ました!」
「予想はしてたが、数が多いな…」
「いや、多いって…アレ何匹いんだよ!?」
上からストレイ、アラン、俺。
村人45人分の越冬の為の食料を食らっていた時点で察するべきだった。目の前に広がる光景は虫?虫!?虫!!!といった状況で、ぞろぞろとカンタロスにランゴスタが向かってくる。
「流石に数が多すぎないか…」
「いや、でもやるしかないだろ」
「お二人共ー!お気を付けてー!その群れは前回来た数を遥かに上回っています!私は後ろに退避してますのでご安心を!」
声が聞こえた頃にはもう食料庫前で待機しており、中々に騒がしい人物だと分かる。……俺と話した時はそんなことなかったんだけどな…。
「それで、何か策とかは無いのか?」
「ああ、…そうだな。流石に数が多いし内側に入るのは止めよう。外から潰す。それと、あの飛んでる奴には気をつけろ。尻尾の針に刺されれば麻痺して一方的にやられるぞ」
小型モンスターは単体では大きな脅威にはならないが、数というのはそれだけで力だ。今この場には狭い範囲に凄い密度で蠢いている。
パッと数えても10や20じゃ利かないだろう。小さな虫としての群れなら小規模でも、ここまで巨大化した虫だととんでもない軍勢に思えてくる。
「アラン!これを!」
「…何だこれ?」
「毒けむり玉だ。余り数は用意出来てないから使い時は考えてくれ!」
「毒って…大丈夫なのか!?」
「あんまり吸いすぎると不味いから、げどく草を入れてるけど、普通にしてれば問題は無い!……ハズ」
最後の言葉により怪訝な顔つきになったが、それよりも目の前の事だ。
ギチギチと硬い甲殻が擦り合わさり、耳障りな音が鳴り響く。虫特有の無機質な瞳には何の感情も見えはしない。恐らくだが俺達の事を天敵たり得るなどと思っていないのだろう。
「小さいからと侮るなよ!」
「そっちこそ!」
同時に抜剣し、刻一刻と迫る個体へと斬りかかる。狙う箇所は最も堅く鋭利な角以外。こちらに反応し飛び掛かるカンタロスを叩き斬る様に一閃。
――バチン。左手に伝わる硬質な感覚。同時にプラスチックの割れる様な音を響かせて空中で斃れる。続けて二匹飛び掛かるそれを盾で纏めて弾き飛ばし、足元の一匹は蹴って引き離す。 アランは剣を上手く当てる事が難しいらしく、どちらかというと盾で力任せに叩いている。
「〜〜!当てにくい上に面倒臭い!」
虫だからしぶとい。虫だから痛みが無い。折角引き剥がしても直ぐに向かってくるし、地を這うからそもそもの攻撃チャンスが少ない。攻撃することに専念し屈んだりなんかすると満足に動けないままにタコ殴りだ。かといって人間の蹴りの一発やニ発で死ぬようなヤワな体はしていない。連携をしてこないのが幸いか。
「クソッ!下手に斬っても断ち切れない!」
「ああっ!一気に叩ける様なのがあれば、なっ!っと」
お互い思っている事は同じで、この厄介な存在に悪態をつく。潰せど潰せど向かってくるカンタロスは、文字通り全滅するまでその動きを止めることはないだろう。
「アラン!後ろだ!」
「――危なっ!」
大きく身を翻して躱すと同時に背後のランゴスタへと剣を振るうが、素早く空を舞うそれには当たらない。
「嫌なとこついてきやがるな…」
この虫達が奏でる不協和音はすっかり俺達の気力を奪い取り、その粘液で剣先が滑り始める。
「ぐっ!」
盾による防御を抜け、鋭い角が腹へと迫る。新調したチェーン一式が無ければ危なかった。お返しに体重の籠もった逆手で地面へと縫い付ける。
一旦距離を取るが、今のは危なかった。数が多すぎて注意も散漫になる。
「…マサミチ!一人でも耐えれるか!?」
「何かあるのか!?」
「ああ!本当に少しでいい!」
「分かった!」
群れの中に渡した三つの毒けむり玉が投げ込まれ、毒々しい紫の煙が立ち上るのが見えた。毒は彼らの体を蝕み、時間が経ってはキイキイと断末魔を上げ始める。これは密集し過ぎた弊害だ。場所によっては残留する煙を浴びてランゴスタまでもが地に落ちていた。
その隙に立ち位置を移し、待ち構える。さっきはああ言ったが、流石に無視してくる奴はどうしようもない。出来る限り自分に集める為に残りの毒けむり玉を自分から遠いカンタロスへと投げつける。 もはや倒す事よりも侵攻を遅らせる事に注力し、背後へは通さない。
また一匹、また一匹と斬り捨てていると……後ろからザッザッと土を踏み締める音。
「待たせたな!」
「アラン!そいつは…?」
アランが手にしているのは、以前山へ鉱石を取りに行った時、そこで見かけた何かのモンスターの大腿骨だ。
「オラァッ!」
ブオン!
片手剣よりも鈍い風切り音と共に、数匹のランゴスタがまとめて叩き潰される。流石はモンスターの骨と言うべきか、強度は尋常じゃないらしく次々とランゴスタ達を跳ね飛ばしていく。
「考えたな。俺も負けてられない!」
モンスターハンターにおいて片手剣の利点とは何か?大剣やハンマー程の一撃の火力は無く、ランスやガンランスの様な防御性能も無い。ボウガンの様に遠距離から多種多様の攻撃が出来るわけでも無ければ、狩猟笛の様な特殊効果も無い。利点である手数だって双剣には敵わない。
では片手剣の特徴とは何か。双剣には劣る身軽さと、無いよりマシな盾。そして最後。
右手に盾を着ける最大の理由はこれだ。利き手に盾の方が防御や打撃に使いやすい事もあるが、利き手ならば道具を満足に使用できる。
「よしっ!」
近くに成っていたはじけクルミを空飛ぶランゴスタにブチ当てる。衝撃を受けたはじけクルミはその名に違わず硬い種子を弾き飛ばし、ランゴスタを撃墜する。流石ランゴスタといえど散弾の素材にもなるこのクルミには敵わなかった様だ。
そうして俺は空のランゴスタを、アランが地のカンタロスを討伐する。これを続けていると、いつの間にやら動いている虫は居なかった。
現場は酷いもので、砕け散った甲殻の破片や飛び散る体液、そしてその地を埋め尽くす程のおびただしい数の死体が広がっていた。
「……疲れた」
「視覚的にも物理的にも嫌な奴だったな」
流石にこのままにするのも気が引けるので、大丈夫そうな死骸と細かくなった破片を仕分けてストレイへと話しかける。
「二人共、あれだけの数の甲虫を退治していただきありがとうございます」
「いや、村のためでもあったからな…」
「お礼と言っては何ですが……お風呂、入ります?」
ストレイが気まずそうに目を逸らす。お互い確認すると、俺達はどちらも甲虫の体液を被っており、見るに耐えない姿となっているらしい。
「「…お願いします」」
いずれは自分の家にも風呂が欲しいものだ。
「ところでこの甲虫達……もしかして美味しいんですかね?」
「おい、止めろよ。マジで止めろ!」
「……冗談です」
マジな目つきだったと言っておく。
この風呂はストレイ作なので普及していません