バレンタインのチョコの話。
※pxivにも投稿しています。
「やっほー成幸。チョコ届いた?」
「ああ、届いたよ。わざわざオーストラリアから送ってくれてありがとな」
「ううん。バレンタインだもん」
うるかからの通話を受けると、満面の笑みのうるかが映る。うるかと恋人になってから初めて受け取ったバレンタインチョコ。メールか何かで確認したのか、それが届いた数時間後の連絡だった。
チョコが届いたお礼を言うと、うるかは首を振って当然のことのように答える。そしてすぐさま顔を曇らせた。
「……だから14日に届けばよかったんだけど」
「し、仕方ないって。うるかのせいじゃないし全然気にしてないから」
うるかは死んだ目をしてそう呟いた。うるかからのチョコが届いたのはバレンタインの翌日だった。海外からの配送の途中でトラブルがあったらしい。国内での配送と違ってよく起きるというし仕方ないことだけど、遅れるとわかったときのうるかの落ち込み具合は凄まじかった。そのときもできる限り慰めたのだが、チョコが届いたことでぶり返してしまったようだ。
「ごめんね遅れちゃって……」
「だから大丈夫だって。うるかはなんにも悪くないし、外国からなんだから少し遅れることくらい普通にあるしさ」
「いつもみたい直接チョコ渡せてたらこんなふうに遅れることなかったんだけど」
「そうだな。……いや、直接渡されたの去年だけじゃないか?」
「こ、細かいことはいいじゃん! 勇気が出なかったの!」
当日に直接渡されたら遅れないのは間違いない。ただうるかから手渡しされたのは去年が初めてだ。それまではポケチョコ風に加工したチョコを机の中に入れられていた。そういってツッコむとうるかは顔を真っ赤にして反論する。ちょっと理不尽な気がするけれど、ともあれ落ち込んだ様子はなくなっていた。
「そんなことより溶けたりしてなかった? 味はどうだった? 自分でも食べてみたし、有名なお店のにしたんだけど」
「うん。うまかったよ。溶けたりもしてなかった」
「そっか……よかった。本当は恋人になって初めてのバレンタインだから気合い入れて手作りしたかったんだけど。一昨年までみたいにポケチョコみたいにしなくてもいいしさ」
うるかはチョコが無事に届いたことに安堵して、けれどすぐさま寂しげな微笑みを浮かべた。毎年手作りしていたから今年もなんとかしたいと色々と悩んでくれていた。
「いや、一昨年までだって普通に貰いたかったんだけどな。でもさすがに手作り送るのは難しかったか」
「うん。色々調べてみたんだけど手作りチョコは送れないんだって。まあ食中毒になっちゃったら大変だしね。しょーがないか」
うるかが表情を明るく変えて軽い口調でなんでもないように言う。5年間、気づかれなくてもチョコを作り続けてくれて、ついさっき寂しげな顔をしていた彼女の言葉。さすがに額面通りには受け取れなかった。だからというわけでもそれだけというわけでもないけれど。
「今年貰ったチョコ美味かったんだけどさ」
こんなことを言うのは少し恥ずかしいけど、こういうのは照れたらダメだ。躊躇わずに言葉を続ける。
「毎年うるかがチョコくれてたからうるかが作ったチョコ食べないと物足りないっていうか……うるかのチョコが一番好きなんだって気づいたよ。毎年ありがとな」
うるかを元気づけるために、そしてそれ以上に本心から思いを伝えた。ポケチョコ風に加工されたチョコでも、去年貰った手作りとは思えないほど豪華なチョコケーキでも、うるかが作ってくれたチョコの味は思い出とともに深く心に刻み込まれている。
最後まで言い切ってうるかを見ると目を丸くして固まっていた。どうしたのかと黙ってそのまま見ていると、突然一筋の涙が頬をつたった。
「う、うるか? 涙出てるけど大丈夫か?」
「え? あ、ほんとだ」
うるかが目尻から零れた涙を手で拭う。渡せないのに物足りないとか言って気を悪くさせてしまったかと思ったが、涙を拭き終えたうるかは晴れやかな表情を浮かべていた。
「ごめん、嬉しくって。今までちゃんと渡せなくても作ってて良かったなって。勇気が出なくてポケチョコみたいにしちゃってたの自分でも空回りしてると思ってたんだけど、成幸がそんなに大切に思ってくれてたなんて思ってなかった」
うるかが今までの想いを噛みしめるように言葉を紡ぐ。その柔らかな声色からは先程までの寂しげな様子はどこにも感じられない。安心してほっと息をつくと、うるかはつられて微笑んだ。
「留学してる間は手作りチョコは贈れないけど、留学が終わったら去年のにも負けないくらいのチョコ、ちゃんと成幸に贈るから」
「ああ、戻ってくるの楽しみにしてる」
「うん、待っててね!」
うるかはそう宣言すると、大輪の花のような笑顔を浮かべた。やっぱりうるかにはこの表情が一番似合っている。美しい恋人の姿に胸をときめかせながら「待ってるよ」と返事をした。