◇◇◇◇
「へーいサンラクくーん。今月の一四日にシャンフロで征服人形によるバレンタインイベが開催予定らしいんだけど、当日何か予定ある?」
「すまん、その日は発売延期になってたPVの時点でクソゲー臭ハンパない俺的注目作を購入して遊ぶ予定だから俺パスするわ」
「それ買う前に眼科に通う予定入れた方がいいんじゃない?」
「ご心配なく。VRゲームは視力低下する要素ないんで」
「あー、ごめん。脳外科の方だった」
「精神荒んでるっぽいから精神科でメンタルケア受けてこいよ」
◇◇◇◇
「…………ちっがーう!!」
仮想世界からログアウトして現実世界にログインした私は、VR機材を外してベッドから起き上がり、頭を抱えながら叫んだ。
違う違う違う。そんなつもりじゃない。
心にもない言葉がスラスラと出てくる自分の煽り力の高さに自己嫌悪する。
――自己嫌悪終了。過去は振り返らない!! 私は刹那に生きる女!!
「私は今日も美しい! メンタルリセット!! リセーット!!」
……いやしかしまあ、我ながらなんともテンプレな天邪鬼ムーブをしているものだなと、呆れを通り越してもはや惚れ惚れする。
うん、全人類は私に惚れるべきだと思うナ!
「ほんっとに……違う。……そうじゃないんだよねぇ」
耳が熱を帯びているのを自覚しながら、私以外誰もいない部屋で独りごちる。
何故毎回サンラク君、もとい楽郎君と会話すると煽り合いになってしまうのか。
考えてもよくわからないので多分何もかも楽郎君が悪い。全部君のせいだ。
「私は悪くない!! だって私は悪くないんだから!!」
売り言葉に買い言葉。山と言えば川。右と言えば左。
私と彼の間は絶えることなく言葉の弾丸が飛び交う紛争地帯である。
なんでこんなことになってしまったんだろうか。
まぁ振り返る過去がないのでよくわからないんだけど。刹那で忘れちゃった!
「まぁいっか! とりあえずクソゲーに夢中で当日は家から出ない事はわかったし、瑠美ちゃん経由で自宅は把握してるし、あとは――」
あとは、そう。当日に渡すモノのピックアップとチョイス。
頭にクソゲーが刺さった真人間から脱線してなお暴走を続けるリニアを停車するにはどうすればいいのか。
うーん、これは難問。というか解ける人いる? いなそうじゃない?
流石の私でも年代モノの洗脳を解く方法は専門外だからなぁ。
だからこういう時は人に聞くに限るよね。
三人寄れば文殊の知恵。一人の好士より三人の愚者。蛇の道は蛇っていうし、恋路はその道のプロや先駆者の意見を参考……参考……。
「………………あれ、私の知人に参考人いなくない?」
堅物がWメロン装備で転生した女は論外だし、エイトちゃんはアイドルだから恋愛禁止だし、瑠美ちゃんに聞くのは何か違うし。……これ、詰んだのでは?
黄金の脳細胞をフル稼働させるも妙案は浮かばず。
そもそも前提条件の時点でハードルが高いんだよねぇ。
うーん、跳べないハードルならくぐるよりいっそぶち壊せば……?
あれこれ思考を巡らせていると、携帯端末が軽快なメロディと共に振動する。この時間に掛けてくるのは
「おそよーモモちゃん。どしたのカナ?」
『永遠、実はお前に頼みたいことがある』
「モモちゃんが私にお願い事なんて珍しいこともあるもんだねぇ。シャンフロでのお願い?」
『いや、リアルでの頼みだ。今月一四日撮影予定のモデルが病気で急遽入院することになってな。当日休みであるお前にその代役を頼みたいのだが』
「私以外に空いてる子はいないの?」
『スケジュールに空きがあるモデルは何人かいるが、雑誌の表紙を飾るには力不足でな』
「表紙、表紙かー。うーん……ちょっと考えさせて」
楽郎君に渡すプレゼントはまだ絞り込めてないけどまあ何かしらを選ぶからいいとして、問題はそれを渡す場所。
自宅にサプライズで突撃するのも手ではあるけど、もう一捻りが欲しいところ。
というか仕事をね! 急に投げられても困るんだよね!!
モデルなら体調管理くらいちゃんとしないと駄目でしょ!!
私の後継者的なモデルをそろそろ業界は見つけて……いや?
いないのであれば、私が育てればいいのでは……?
「モモちゃんモモちゃん。その撮影、
◇◇◇◇
「ハァイ瑠美ちゃん。今大丈夫かな?」
『ひゃ、ひゃい! こんこんばんはトワ様! だだだ大丈夫です! 徹夜もいけます! ハイ!!」
「まあいきなりこんな話を振られてもテンパっちゃうよね。えーっと、とりあえずさっき送ったメール、見てくれたかな?」
『勿論です! 拝見したんですけど、……えっとトワ様、流石にこの提案は私では荷が重過ぎるといいますかなんというか……』
「大丈夫! 私と一緒に雑誌表紙の撮影するだけだから! この前の瑠美ちゃんの掲載記事見たけどかなり良かったし、編集部でも評判だったみたいだよ?
『で、でもいきなりこんな大役……』
「最初は誰でもそんな感じだから! 私もそうだったけどまあ慣れだよ慣れ。豪華客船に乗ったつもりでいればいいからサ! 不安なら家族の誰か連れてきてもいいよ?」
『当日は母と父は不在で兄しかいないんですけど……』
「そっかー、じゃあお兄さん連れて行こっか。撮影現場に見知った顔がいるいないじゃ緊張感は大きく変わってくるからねぇ」
『あれ、いつのまにか撮影する方向で話が』
「じゃあ瑠美ちゃん、そういう感じでヨロシク! 当日迎えに行くから玄関で待っててねー!」
『!? え!? あっ!? ハイ!? よろこんで!?』
「それじゃ、おやすみー」
『オ、オヤスミナサイ!?』
……なんだか悪いことをしたような気がするけどヨシ!
大丈夫! 女は度胸だよ瑠美ちゃん! コネも実力のうちだから!
さぁてと、私は私で渡すプレゼントの選定でも始めますかねぇ。
「グッモーニン! 昨日はよく眠れたかな?」
撮影日当日明朝。
レンタカーを借りて楽郎君と瑠美ちゃんが住む自宅前までお出迎え。
私がここまでするのは滅多に無い激レアケースなので、感謝感激のあまりむせび泣いて欲しいところではあるんだけれど……。
「お、おはようございますトワ様!!」
「なんで俺まで……」
若干目が血走っているような危うさを感じる瑠美ちゃんと、見るからに不機嫌な楽郎君がご登場。
うん、とりあえず楽郎君の格好が
「はいおはよう瑠美ちゃん。おや? 挨拶が聞こえない不良少年がいるねぇ?」
「なぁ瑠美、やっぱり俺行かなくても」
「トワ様と私を二人っきりにしないで……! 私が尊すぎて死ぬから……! お願いお兄ちゃん……! 一っっっっ生のお願い……ッ!!」
「こんな所で一生のお願い使うなよ……」
「可愛い妹ちゃんのお願いを聞いてあげるのが、デキルお兄さんだと思うけど?」
「可愛い弟のお願い無視して突き落とした姉に言われたくねぇんだよなぁ」
「弟? ナンノコトカナ? まあそんなことより、撮影付き合ってくれたら帰りに焼肉奢ってあげるからホラ、楽郎君も乗った乗った!」
「ほらお兄ちゃん、トワ様と焼肉だよ? 一生に一度あるかないかの神イベントだよ? これはもう行くしかないよね? はい行くよトワ様今日はよろしくお願いします!!」
「ぐっ、くっそ……なんつー馬鹿力……っ!!」
抵抗虚しく車内に引きずり込まれる楽郎君が逃げないように車内を施錠。
「はいじゃあ二名様ごあんなーい! 運転中は安全の為、シートベルトをご着用くださいねー!」
◇◇◇◇
二人を乗せて現場に到着後、諸々の手続きを済ませて撮影開始。
流石に荷が勝ちすぎて表情が硬くなった瑠美ちゃんにリテイクが何回か入ったけれど、当初の予定時間内で撮影は無事終了。
今回で顔を覚えてもらったけど経験不足であるのに変わりはないから、瑠美ちゃんにはもっと場数を踏んでもらわないとねぇ。
現場での挨拶回りも程々にして撮影現場から車を走らせ、行きつけの高級焼肉店――へ向かう前に、匂いが移っても構わない服をショッピングで見繕う。
うん、見立てバッチリ完璧流石は私! 仕事に付き添ってくれたお礼代わりだから、ちゃんと受け取ってくれないとお姉さん許さないからね?
……は? いらない? どうせならジャージの方がいい?
お洒落を犠牲に成長する廃人ゲーマーはこれだから……ッ!
◇◇◇◇
「えっと、今日は本当にありがとうございましたト、――ク、クオン様! とても貴重な経験をさせていただきました!」
「どういたしまして。んふふ、瑠美ちゃんにはこれからもーっと経験積んで、ゆくゆくは私みたいになってもらうからね?」
身バレ防止の変装と偽名の二重工作で存在を隠蔽しながらの夕食。
今日は運転するのでお酒は飲めないのがアレだけど、まあ珠にはこういうのも悪くないか。……あー、いやどうせならモモちゃんでも連れて運転頼めばよかったかも、しくったなぁ。
「お前が二人とか勘弁してくれ……想像するだけで胃が痛くなってくる」
「大丈夫? 胃薬あるよ? 飲む?」
「いらんわ。それよりその肉くれ」
「このロースは私が丹精込めて焼いてるお肉なので駄目でーす。あ、はい瑠美ちゃん、お肉焼けたよ」
「はわっ、あ、ありがとうございます!!」
「オイコラ焼肉奉行様、さっきから俺一切れも肉を食せていないんだが?」
「さっきのお店での発言を反省して、心機一転心を入れ替えてお洒落に無頓着じゃなくなるなら考えないこともないけど?」
「…………」
「楽郎君の微塵も隠そうとしない拒絶の意思を込めた表情、嫌いじゃないよ」
「お兄ちゃん、せっかくのごはんがまずくなるからその顔やめて」
「辛辣なんだよなぁ」
瑠美ちゃん結構ズバズバ物申すタイプなんだよねぇ、気骨がしっかりしてるから鍛え甲斐があるよこれは。
「てか眼前に焼肉置いて香りによる生殺しでおあずけとか、やり方が陰湿なんだよ換気扇どこだよ」
「冬場で乾燥してる肌には丁度いい湿度じゃない? 若いからってスキンケア怠ると将来が怖いよ?」
「はっ、男子高校生の肌艶を二十代と一緒にすん――熱ァッ!?」
生意気な口を叩くお子様には焼きロースで口封じィ!!
「いまのはお兄ちゃんが一億%悪い」
「ナニカイッタカナ?」
「ナンデモナイデス、ゴメンナサイ」
「わかればよろしい」
◇◇◇◇
それから瑠美ちゃんに焼肉をあーんで食べさせたり、楽郎君が手洗いで席を離れた際に飲み物に細工をして吹き出させたりと、楽しい愉しい夕餉の時間は瞬く間に過ぎていく。
慣れない大掛かりな撮影による精神的な負担と、それを癒やす宴の振れ幅で疲れが溢れた瑠美ちゃんは私の膝枕で夢の中。いい夢見れてるかな?
「はい楽郎君、あーん」
「俺にとって最後の晩餐になるからやめろ。つーかそんな間柄でもないだろ」
「ふぅん、
「時と場合によるんじゃねぇの」
「んふふふ。やらない、とは言わないんだねぇ」
「……なんだよペンシルゴン、俺が席を外してる時に酒でも飲んだのか?」
「ちゃんとシラフですぅー! 失礼な!」
「じゃあなんでそんな柄にもない真似してんだ?」
うーん、この鈍感系クソゲー廃人ボーイ。
いやまあ私が楽郎君とは年齢が離れてるから
流石の金剛メンタルの私でも傷つくなぁ! へこむなぁ! ……だがまあそれはそれ。ここで意気消沈するなんて私らしくないのでメンタルリセット。
「世間では今日はバレンタインだからねぇ。なのに楽郎君ときたらせっかくの貴重な青春時代をクソゲーに捧げるなんてあまりにも不憫で。だから仏の様に慈悲深い私がアオハルっぽいことをプレゼントしてあげよう、的な?」
「なんで疑問形なんだよ。余計なお世話だわ」
「迷える子供を導くのも大人の役目ってね。はい、ハッピーバレンタイン」
「え、何怖い。毒とか入ってそう」
「んふふふ……! 楽郎君は私を一体なんだと思ってるのかな? んー?」
「ついさっき俺の飲み物にレモン汁大量に注ぎ込んだお前がそれ言うのか?」
「ちょっとした小粋なジョークでしょ!? あのあとちゃんと私が責任を持って片付けて飲んだんだからセーフ!!」
「……、で、中身は?」
「それ聞いちゃう? まあそれは開けてのお愉しみって事で」
「……ん、まあなんだ、ありがとよ」
「どういたしまして。お礼は三倍返しで待ってるネ?」
「ちょっと何言ってるか分からないですね」