「――へぶっ」
「あっ、だ、大丈夫かいウィンプちゃん!? いまお兄さんが――」
「……だいじょうぶ。へいき」
「いまウィンプちゃんの前で不審者ムーブをしたな? 処刑する」
「話しかける時に『あっ』って言っちゃう癖、ウィンプたその前ですんなって俺、前に言ったよね?」
「オイコラ、ナチュラルに気持ち悪いから『ウィンプたそ』って呼ぶなって前に言ったよな?」
「「「ああン? やんのかコラ!?」」」
くだらない言い争いから殴り合いが始まった三人組を、地面にうつ伏せになったの白髪の少女は、胡乱な目で取っ組み合いを傍観しつつ、心の中で『うごきにくい』と呟いた。
彼女は現在、濃紺のワンピースとフリルの付いた純白のエプロンを組み合わせた衣装に、彼女の白髪と同色のフリルがついたカチューシャをつけた、いわゆる『メイド服』の『クラシック』に分類される衣服を身に纏っていた。
「……、まえのふくのほうがよかった」
倒れた際にシワになった箇所をぱたぱたと叩いて伸ばしながら、彼女は立ち上がる。
「どこも痛めてないかいウィンプちゃん?『ハイエスト・ポーション』使う?」
「そんなにやわじゃないわよ。ばかにしないで」
三人組以外に人はおらず、閑散としている『蛇の林檎』新大陸支店。
その店内に置かれているカウンターテーブルに座り、少女は頬杖をつく。
小さな少女が呆然と店内を眺めていると、店の扉が開いた。
「「「ルティアさん!! お疲れ様です!!」」」
「……」
扉を開けて入ってきたのは、ルティアと呼ばれる女性だった。
彼女は敬礼で出迎える三人組には見向きもせずにカウンター席まで足を運び、今日は仕事が休みな少女の隣に腰掛ける。
「きょうはころばないんだ」
ルティアと呼ばれる女性は、入店する際によく何もないところで転倒することがあった。
「? そうですね。思い返せば最近は転んでいないですね」
「さいきん…………あっ」
思い当たる節があった少女の脳裏を記憶が駆ける。
色褪せることのない光景が。消したくない思い出が。
寄り添ってくれたともだちが。
「…………っ」
視界が滲む。
世界が揺らぐ。
嗚咽がこみ上げてくるのを少女はなんとか堰き止める。
まだ涙を流す時ではない。
まだ果たすべき使命を成し遂げていない。
現在は亡きともだちに手向ける感情はまだ、発露する時期ではない。
感情を必死に抑える小さな少女の背に、再び扉が開く音と陽気な声が飛来する。
「ようウィンプ、今日はその廉価品メイド服で特訓の時間だぜ」
「確認:目が赤いようですが?」
鳥頭で半裸の不審者然とした男と青髪の少女が歩み寄ってくる。
少女は椅子から離れて二人の元へと駆け寄っていく。
ともだちはいなくなったけれど。あいたすきまはうまりそうにないけれど。
それでもわたしはいきている。ぜったいにしんでなんてやるものか。
「……っ、わたしのめはもとからあかいわよ!」
「軽口叩けるなら平気そうだな。んじゃお手本みせてやるからしっかり覚えろよ」
「あんたのうごき、きもちわるくておぼえたくない」
「
「表情とセリフが一致してねぇぞポンコツアンドロイド」
「
「お前ら揃いも揃って、主人に対するリスペクトが皆無なんだが?」
一人と一機と一匹の、復讐に備えた復習の時間が始まろうとしていた。