ウィンプと着せ替え隊の小話的な

1 / 1
ふくしゅうの時間

「――へぶっ」

「あっ、だ、大丈夫かいウィンプちゃん!? いまお兄さんが――」

「……だいじょうぶ。へいき」

「いまウィンプちゃんの前で不審者ムーブをしたな? 処刑する」

「話しかける時に『あっ』って言っちゃう癖、ウィンプたその前ですんなって俺、前に言ったよね?」

「オイコラ、ナチュラルに気持ち悪いから『ウィンプたそ』って呼ぶなって前に言ったよな?」

「「「ああン? やんのかコラ!?」」」

 くだらない言い争いから殴り合いが始まった三人組を、地面にうつ伏せになったの白髪の少女は、胡乱な目で取っ組み合いを傍観しつつ、心の中で『うごきにくい』と呟いた。

 彼女は現在、濃紺のワンピースとフリルの付いた純白のエプロンを組み合わせた衣装に、彼女の白髪と同色のフリルがついたカチューシャをつけた、いわゆる『メイド服』の『クラシック』に分類される衣服を身に纏っていた。

「……、まえのふくのほうがよかった」

 倒れた際にシワになった箇所をぱたぱたと叩いて伸ばしながら、彼女は立ち上がる。

「どこも痛めてないかいウィンプちゃん?『ハイエスト・ポーション』使う?」

「そんなにやわじゃないわよ。ばかにしないで」

 三人組以外に人はおらず、閑散としている『蛇の林檎』新大陸支店。

 その店内に置かれているカウンターテーブルに座り、少女は頬杖をつく。

 小さな少女が呆然と店内を眺めていると、店の扉が開いた。

「「「ルティアさん!! お疲れ様です!!」」」

「……」

 扉を開けて入ってきたのは、ルティアと呼ばれる女性だった。

 彼女は敬礼で出迎える三人組には見向きもせずにカウンター席まで足を運び、今日は仕事が休みな少女の隣に腰掛ける。

「きょうはころばないんだ」

 ルティアと呼ばれる女性は、入店する際によく何もないところで転倒することがあった。

 まるで何か見えない物に(・・・・・・・・・・)足を引っ掛けて転倒する様を、少女は何度も見ていた。

「? そうですね。思い返せば最近は転んでいないですね」

「さいきん…………あっ」

 思い当たる節があった少女の脳裏を記憶が駆ける。

 色褪せることのない光景が。消したくない思い出が。

 寄り添ってくれたともだちが。

「…………っ」

 視界が滲む。

 世界が揺らぐ。

 嗚咽がこみ上げてくるのを少女はなんとか堰き止める。

 まだ涙を流す時ではない。

 まだ果たすべき使命を成し遂げていない。

 現在は亡きともだちに手向ける感情はまだ、発露する時期ではない。

 感情を必死に抑える小さな少女の背に、再び扉が開く音と陽気な声が飛来する。

「ようウィンプ、今日はその廉価品メイド服で特訓の時間だぜ」

「確認:目が赤いようですが?」

 鳥頭で半裸の不審者然とした男と青髪の少女が歩み寄ってくる。

 少女は椅子から離れて二人の元へと駆け寄っていく。

 ともだちはいなくなったけれど。あいたすきまはうまりそうにないけれど。

 それでもわたしはいきている。ぜったいにしんでなんてやるものか。

「……っ、わたしのめはもとからあかいわよ!」

「軽口叩けるなら平気そうだな。んじゃお手本みせてやるからしっかり覚えろよ」

「あんたのうごき、きもちわるくておぼえたくない」

同意(オイオイ)契約者は変態機動(流石に言い過ぎでは? )

「表情とセリフが一致してねぇぞポンコツアンドロイド」

憤怒(は? ):インテリジェンスの化身である当機(わたし)がポンコツ? クラスⅧ武装の使用許可申請」

「お前ら揃いも揃って、主人に対するリスペクトが皆無なんだが?」

 一人と一機と一匹の、復讐に備えた復習の時間が始まろうとしていた。

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。