「うさんくさいにも程がある」
なんてことない、よくある夢のお話。
『ひっく……! ぐすん……!』
「………………」
俺の目の前で、名も知らぬ美少女が号泣している。
背の丈は、成人男性平均よりやや上の俺の肩くらいで、肌の色は薄い。純日本人の俺よりも数段白いということは、日本人ではなく西洋の生まれなのかもしれない。
長い髪は銀に近い白色。体を揺らす度に当たる光の角度が変わってキラキラと水面みたいに光っている。後ろでポニーテールに結んでいて、黒いリボンが髪色と対照的でよく映えている。
長い睫毛の下にある瞳はエメラルドのような色をしている。たしかターコイズブルーと呼ばれていたはずだ。勝ち気そうに少しだけ吊り上がっていて、大きくパッチリとした二重瞼だ。
『ぐすん……! どうして……っ』
そんな日本人離れした容姿を持った絶世の美少女が、俺の目の前でボロボロと涙を流しながら嗚咽を漏らしている。
そのまま涙を流しながら発した一言。
『どうしてオレの来世がこんなキモい男なんだよぉ!?』
いや、一人称『オレ』かい。
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『生まれ変われ。さもなくば死ね』
無茶を言うな。
『うるせえバーカ! お前の母ちゃんオーク族!』
何それ異世界ジョーク?
目の前の美少女は、自分を俺の前世だと名乗った。名前はフィリア。儚げな第一印象とは異なって、その中身はオレ様至上主義のクソ野郎だった。
……いや、女の子だし野郎呼ばわりは失礼か?
『どっちでもいいよ。オレの前世は男だったしな』
あっ、そうなん? じゃあゴミクズ以下の豚野郎って呼ぶね♪
『……今ので確信した。やっぱりお前、オレの来世だわ』
悪口で確信されたくなかった。
で? フィリアさんとやらの目的はなんでしたっけ?
『神の奴が、徳を積めば来世でも良い思いさせてやるって言うから!
頑張って聖女を演じて、魔王を倒して、崩壊してた王国を立て直して!』
あらそうなの。偉いねフィリアちゃん。
いや、動機は不純極まりないけどさ。来世もチヤホヤされたいよーって気持ちは分からんでもない。
『そ、それなのに!
来世を確認するために《夢渡り》の魔法を完成させて使ってみたら!
なんでお前みたいなキモブタがオレの来世になってんだよ!』
それを俺に言われましても。
クーリングオフ期間はとうに過ぎておりますので、担当部署の方に確認してもらっていいでしょうか? そう、それこそ神とか名乗ってる奴にですね。
『魔王を倒したあたりから、アイツ出てこねえんだよ!』
ガッツリ騙されてますやん。
『嫌な予感がして確認したらコレだしさぁ……。もうホント泣けてくる。グスン』
ハハッ、テラワロス。
『なに笑ってんだクソ野郎!』
だって、そりゃぁねえ?
自分の私利私欲のために頑張って、それが報われないって気付いたら癇癪起こして、責任のない来世の自分に罵詈雑言の嵐でしょ?
なんだそりゃ、小学生かよ。
ワガママばっかりが通ると思うなよ。
『なんだよ……! なんだよそれ!
オレがどれだけ努力したかも知らないくせに、知ったような口を開くな!!』
ああ、知らないね。興味もない。夢にポッと出てきたお前のことなんか心底どうでもいい。
自称「前世の俺」がどれだけ苦しんでようが悲しんでようが、「今の俺」が楽しけりゃそれでいい。
『……ハハッ、ほんとひでー奴だな。自分勝手で傲慢。人間のクズだよお前』
何を今さら。とっくに知ってることだろ?
『ああ、そうだったわ……』
……んで? 愚痴を言い終わってスッキリ出来たか?
『お陰さまでな。ありがとよ』
良いってことよ。自分のストライクゾーンど真ん中の美少女が泣いてるのを見たい男なんかいないからな。
『……………………キモッ』
ガチのドン引きじゃないですかやだー。
そんな風に自分の身体を隠して後退りするな。心配しなくても「オレっ娘」はストライク外もいいとこのクソボールだよ。
『……………………ホント?』
ほんとほんと。お兄さん嘘付かない。
『黙れ老け顔ブサイクが』
わーお、これまたキレッキレな悪態だこと。
それじゃ、下手くそな笑い顔を浮かべるのも出来たことだし。そろそろお別れの時間にしないかい?
『……そうだな。長々と話し続けちまった』
まったくだ。無駄に長くて現実味のない夢だったな。
こんなに饒舌で毒舌な美少女が俺の前世だとか、タチの悪い冗談にも程があるわ。
『あんだよ。信じてなかったのか?』
当たり前だろ。そもそも現実じゃなくて夢に出てくる時点で信憑性の欠片もないわ。
『自分好みの美少女がオレオレ叫んでるのがお前の望んだ夢でいいのか?』
それよく考えたら、理想と悪夢が手を繋いで走ってきたみたいな状況だな。毒舌が付く分マイナスだわ。
『……まあいいや。別に信じてもらえるとは思ってなかったしな』
すまんね、前世の俺。いきなりTSした自分が出てきてもそれを受け入れられるほど度量のある男じゃないんだわ、俺は。
『あっ、でも少しは痩せろよ?
それから身だしなみにもちょっとは気を使え。
肌もニキビで荒れまくってるんだから化粧水でも買ってだな、』
分かった分かった。オカンかお前は。
不清潔なのは自覚あるし、せめて人並みになれるような努力はしておくよ。
『やけに素直だな?』
夢にまで見るほど自分の不摂生が気になってるなら、もう少し直そうという気にもなるだろ。
『…………ほーん? まあ、その気になってくれて良かったわ。
じゃあそろそろ行くかな』
おう。前世でもせいぜい、幸せな余生を過ごすんだな。
俺もこっちで面白おかしく生きてやるからよ。
『ああ。それじゃあまた来世で、な』
また、今世で。元気でな異世界の俺。
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「……………………」
「……………………」
「……………………んで?」
朝目が覚めて、布団を捲る。
そこには、俺に添い寝する格好で、夢に見た美少女が気まずそうな表情を浮かべていた。
「か、帰れなくなっちゃった……」
「何やってんだよお前ぇ!?」
「う、うるせえバーカ! お前の母ちゃんオーク族!」
「あきらかにお前が悪いのになんで俺が罵倒されてんの!?」
おやさい!