"個性"ゴキブリ 作:ゴッキー
沖かぶり:オリジン 前編
「…………。君たちももう3年生だ。2年の時も行ったが改めて進路希望調査を行う。提出期限は来週の月曜日だ。まだ確定ではないが、真剣に考えろ。1年後の事なんだからな」
5限が終わり、帰りのホームルームにて教師は生徒たちにプリントを配りながら言った。プリントには第一志望から第三志望までの欄があり、おおよそ進学を前提としたものとなっている。
そのプリントがクラス全員に行き渡ったことを確認しつつ担任は口にする。
「君たちの人生だ。最後に決めるのは君たち自身。だけど、ご家族、そして、先生にも是非とも相談して欲しい。では、解散!」
そう叫ぶと、教師は早歩きで教室から立ち去っていった。
このクラスの担任の先生は口だけだと有名で、休み時間などに質問しに行くとすごく嫌な顔をされ、かなり適当に扱われる。そのくせ、口ではいつでも質問しにきてね! 相談に乗るよ! と、言っているよく分からない人だ。
(…………相談ね、そんなの誰にすれば?)
やる気のない教師が出ていくのを見ながら、沖かぶりはため息をついた。
彼女は身長130センチという小学生にしか見えないほどの小柄で、焦茶色の髪の毛を肩口まで伸ばしている。また、頭頂部から髪の毛と同色の触角が2本伸びている。まるでアホ毛のようであるが、髪の毛ではなく"個性"により作られている本物の触角である。
「進路だってー。どうする?」
「えー、私は傑物学園かな? ヒーローになりたいし、1番可能性があるよ」
「ヒーロー科ねぇ。傑物とかは良いけど、あまり無名だと免許取れないらしいからねぇ」
(ヒーロー……ね)
クラスメイトの会話を聴き流しながらかぶりはスクールバックを手に取り教室を後にする。
—— 私にぶっとばされる覚悟しとけよ!
いつだか見たニュース映像を思い出した。
単独での活動で、トップレベルの活躍を誇るヒーロー、ミルコ。何者にも縛られず、しかし、芯の通った在り方はかぶりにとって眩しい存在だった。そのためか憧れた。彼女のように、自由に誰かを助けたい、と、いつしか思うようになった。
しかし、進路希望に彼女のヒーロー科なんて書いたところで通わせてもらえる訳がない。そんな、わがままを言える立場には彼女は居なかった。
彼女が物心がついた頃にはすでに両親は亡くなっており、叔父夫婦の家に住んでいた。少なくとも
私服も、カバンも全て義理の姉のお下がりだし、誕生日やクリスマスのプレゼントまでもが差異があった。
例えばかぶりが8歳の頃のクリスマスプレゼントだが、姉は大人気RPGゲームの最新作ホケモンRubyで、かぶりはホケモンの初代である翠であった。
この明らかな差は今でも存在している。
姉は親の仕送りで一人暮らしし、高校生活を謳歌しているのに対して、口には出さないが『かぶりは中学卒業後は就職するのでしょう?』という空気が溢れている。
人は生まれながらに平等ではない。
それは、彼女が物心ついた時から知っている社会の現実だった。
(鈍感だったらなぁ。空気を読むのが得意だから仕方ないよね! いや、その空気じゃねぇーよ! なんちって)
頭の触覚を触りながら、心の中でボケとツッコミを1人でこなす。彼女の中では渾身の出来なのか、ひとりで「ククク」と笑った。
そして、ふと1人で笑っているところを見られるのは恥ずかしい、と辺りを見渡したがすぐに誰もこちらを見ていないことに気がついた。
(影が薄い。これも"個性"の影響なのかな? いや、ただの
"個性"とは誰しも持つ異能のことである。発動型、異形型など様々な種類があるが、この世界誰もが一つ異能を持っている。
彼女の場合はゴキブリである。ゴキブリっぽいことがだいたい出来るという大雑把なものだ。
——
かぶりが叔父の妻にかつて言われた言葉だ。
まさにその通り。反論の余地がない。と、彼女も納得してしまうセリフだった。他人に迷惑をかけて生きている害虫だ。
しかし、だからこそ卒業したら働いて出来るだけ早く家を出る。それだけが彼女の夢だ。
靴を履き替えて外に出ると、ふと、上の階から何かが落ちて来るのを感じた。
ゴキブリは空気の振動を感知する事ができる。本来は尻にある器官で行われているが、かぶりは頭の触覚で感知する事ができる。これにより、目で見えなくても何となくであるが周りで何が起きているか知る事ができるのだ。
(あれは? ノート?)
ノートが宙を舞っていた。どうしてから窓から落ちたのだろう。
このまま無視しても問題ないが、あの家にはいたくないためいつも通り夕飯の時間まで散歩の時間だ。特にやる事ないのでとりあえず様子を見にいくことにした。
見にいくと学校が飼育している鯉の水槽に一冊のノートが落ちていた。所々、焦げている。
(将来の為のヒーロー分析…………。いいなぁ)
——かぶりは何になりたいの? それなら目指さなきゃ。周りを気にして諦めるなんて嘘じゃない。
親戚の中で唯一良くしてくれた人をふと思い出した。
孤児として周囲から哀れみと厄介者として扱われ、引き取ってくれた家族からも微妙な扱いを受けている。しかし、その中でも唯一、面と向かって遊んでくれた人だ。
(今年就職だっけ? 薫お姉ちゃん)
何でもなりたかった職につけたらしい。たしか、どこかのサポートアイテムの制作会社らしい。かぶりも数少ない仲のいい人が夢を叶えたのだ。悪い気はしない。
ただ、同時に妬ましいとも思ってしまう。夢を追えるのは下地がある人だけだ。後押しがあることと、夢へと走れる道があること。どれか一つでも欠けていては夢なんて追う事が出来ない。
これが彼女の持論だ。
「…………こ、これ、き、君の、ノート?」
ふと、背後から人が近づいてきたのを
「…………! あ、は、はい、僕のノート、です」
癖っ毛の少年がそこにおり、少し驚きながら返事をした。彼の名前は緑谷出久。かぶりとは同じ学年だが、3年間同じクラスになった事がない。お互いに友達も多い方ではない(かぶりに至っては1人もいない)ため、面識は無かった。というかお互いに存在を知らなかった。
「……はい。どうぞ」
「あ、ありがとう」
かぶりは出久にノートを手渡すと、何か会話した方が良いかもとは思ったが、特に話題もなかったため立ち去ることにした。
(これは君のノート? NOっと)
良いのが出来た。
◆
放課後は散歩か勉強の時間だ。
図書館で勉強したり、意味もなく徘徊したり、出来るだけあの家にいる時間を減らしていた。休日も同じでご飯を食べる以外はずっと外にいる。
そんな彼女がこの現場に遭遇するのは必然とも言えた。
(あの制服はウチの?)
ヘドロのような
「なんで! ヒーローは助けないんだ!」
誰かの叫び声が響く。
しかし、ヒーローとて万能ではない。こんな状態で飛び込んでも2次被害を招くだけだ。
(でも、それじゃあ……)
襲われている男の子が助からない。
見るからにもう限界だ。あのヘドロが何を目的にしているかは分からないが、今にもあの男の子は倒れてしまいそうである。
(でも、私に出来ることなんて……)
ヒーローが何も出来ない状態だ。ただの中学生のかぶりに出来ることなんてない。たとえ、飛び出したところで2次被害を起こすだけ……。
———助けて!誰か!
知らない少女の声が記憶の奥底から湧き上がり思考にノイズが生まれる。しかし、かぶりは頭を押さえて首を振るう。
「仕方がない事だ。」
これは、仕方がないこと。と、割り切ることにする。
———ハハハ!
知らない男の笑い声が脳裏に響く。小さい頃から彼女を苦しめていた幻聴が今になってぶり返してきたのだ。それが思考を遮り、動かなければ、助けなければ、という義務感にも似た感情が彼女を駆り立てる。
「でもっ」
だが、
その時、群衆から1人の男子生徒が飛び出した。
すぐに帰り際にノートを返した男子生徒だとかぶりは気がついた。その少年は真っ直ぐにヘドロ
自分とは違い、誰かのために動いた男子生徒、きっと、彼のような人がヒーローになるのだろう。
いや、彼はまさしくヒーローだった。
(なら、私はヒーローになんてなれないよね)
そう結論づけてしまうほど、彼の行動は大きかった。
沖かぶり
"個性" ゴキブリ
ゴキブリっぽいことはだいたいできる。
名前はゴキブリの古い呼び名である「ごきかぶり」を少し変えたもの。
キャラを考えていた時は、「五木かぶり」だったけどそのまま過ぎて変えました。ありがとうfgo。