"個性"ゴキブリ    作:ゴッキー

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ガチンコバトル 後編

2回戦が終わったかぶりは、雄英の養護教諭であるリカバリーガールの元で治癒をしてもらった。彼女の"個性"である癒しは、対象者の治癒力を活性化させ傷を治すというものだ。その特性上、対象者の体力を大きく消費してしまい過度な使用は()()()()という欠点がある。

とはいえ、この"個性"はかぶりとかなり相性が良かった。彼女の怪我は消費される体力を考えれば治癒を敢えてやめる、という選択肢が出てくるくらいには酷かった。

だが、一瞬にして治ってしまった。プロヒーローであるリカバリーガールが「加減をミスったのでは?」と、錯覚してしまうほどの効果であった。

 

(………治してもらったらお腹すいた。お弁当食べちゃったしなぁ)

 

リカバリーガールからもらったカロリーバーを齧りながらお腹をさすった。体力を使ったらすぐに空腹になるという素敵な体質である。この体質は"個性"によるものではない。というのも、彼女は1ヶ月程度なら飲まず食わずも大して影響が出ないため、体調の面だけいえば、今、食事する必要性は今のところ薄い。

 

(今は丁度、芦戸さんの試合だから見たいんだけど……)

 

と、そんなことを考えて歩いていると空気の振動を感知した。彼女の探知能力は基本的に常に発動し続けている。集中している時に比べれば精度は低いがそれでも、感覚器官の中枢となるくらいの感度はある。

 

「オールマイト……。無個性………すね。」

 

ふと、そんな声を探知した。彼女の探知能力では一語一句間違えずに読み取ることは出来ないが、出久が誰かと話していることは分かった。

そういえば、と、轟との試合で大怪我をしたことを小耳に挟んだことを思い出した。

 

(緑谷くんの"個性"は諸刃の剣だったよね。心配だ。)

 

純粋に出久の事が心配になったかぶりは声のする方へと向かっていった。すると、オールマイトと出久が話しているところだった。しかし、かぶりはオールマイトのトゥルーフォームを知らないため、誰だか分からない。知らない人と話すのはバイトで慣れてきているが、やはり仕事というスイッチが入っていないと苦手である。

 

「あの、こ、こんにちは……。」

 

少し緊張しながらの挨拶した。対して、出久とオールマイトは気が気でなかった。なにせ今していた会話は2人の()()に大きく関わっていたのだ。

 

「……お、おおお沖さん?! あ、あの、い、今の会話、き、聴いてた?」

 

「み、緑谷くん? 会話って……?特に意識してなかった、から」

 

かぶりは2人が何か話していたのは分かったが内容までは意識して聴いていなかったため、よく覚えていない。強いて上げるなら出久が激励されていたなって程度だ。

どうしてそんな事を訊くのか気になってはいるが、特に追求するほどでは無い。そんな様子のかぶりに2人はホッと一息吐いた。

 

「あ、私はマイツプロ第二秘書室の八木です。」

 

オールマイトはそういうとスーツから名刺を出してかぶりに手渡した。その様はビジネスマナーとして完璧とは言えないが、十分に営業職としてやっていける程度には様になっている。

しかし、かぶりは名刺の受け取り方なんて知らない。それでも少しでも礼儀良くしようとした結果、卒業証書を受け取るかのようになってしまった。

 

「マイツプロ………。オールマイトの事務所……ですよね?」

 

「はい、私は彼の私生活をマネージメントするのが仕事です。」

 

(オールマイトの私生活か……。全く想像ができない。)

 

はじめて貰う名刺をマジマジと見ながらかぶりは漠然と思った。それと同時に、彼は仕事できて、出久とも偶々出会ったのだろうと勝手に思い込んだ。

そんな光景を唖然と出久は見ているが、オールマイトは今まで自分の秘密を隠して来たのだ。これくらい誤魔化す術は持っている。

 

「それでは、2人とも私はこれで……。君はもうすぐ準決だ、最後まで悔いがないように戦いなさい。緑谷()()、体育祭はまだ終わっていない。最後まで見届けなさい。」

 

「「は、はい!」」

 

そういうとオールマイトはその場を後にした。残された2人は顔を見合わせた。2人とも良く話すタイプでは無い、いざ会話しようとすると何を話せば良いのか分からないのである。

 

「そ、その……。緑谷くん、怪我は大丈夫?」

 

「うん、まだ完治はしてないけど、歩けるようになるまで治癒してもらったよ。」

 

その実、右手の変形など取り返しのつかない怪我だったのだが、詳しく話すと変な心配をかけてしまうため出久は言わなかった。そのおかげなのか、かぶりは安心した。

 

「良かった……。」

 

そう呟いたかぶりに出久は、ふと、思い出したように口を開いた。

 

「あ、そうだ。沖さん、次の試合相手轟くんだよね? ノートに纏めてあるから見る?」

 

彼のノートは良く纏められている。かぶりも受験勉強でかなり助けられたものだ。それのヒーロー版とくれば試合の役に立つのは間違いない。

 

「ありがとう。でも、いいよ、私の力で戦いたい。それで負けたら、多分、絶対に後悔するけど……。私だけでどこまでやれるか試したいんだ。」

 

本音を言えば見たいし、一緒に対策を考えて欲しい。だが、それと同じくらいに自分の力だけで戦いたいという思いもあった。二つの想いが激しくぶつかりあったが、僅差で力を借りない事にした。

出久は不思議と麗日お茶子の事を思い出した。自分の力で勝己に挑み、戦い抜いた彼女はかなり印象的であった。

 

「そうだよね…。」

 

そう呟いた出久だが、不思議とやっぱりな、と納得してしまった。

 

「それなら、頑張って! 僕には何も出来ないけど、応援してるから」

 

「うん、ありがとう。」

 

かぶりは断った事が、なんだか申し訳なく思ったが出久が気にしている様子がないため少し安心した。

出久からの激励にヘドロ事件の時に見た彼の背中を思い出した。

 

(少しは近づけたかな?)

 

出久と分かれて暫く歩いていると響香が手を振っているのに気がついた。

 

「耳郎さん、どうしたの?」

 

「遅いから見にきた。怪我は治して貰ったんだ。」

 

「ありがとう。完全完治。でも、お腹すいちゃって……。」

 

「ははは……。もうすぐ試合だから、軽いものが良いかもね」

 

耳郎は一瞬、購買か外にある屋台(まるでお祭りみたいになっている)に行こうと誘おうと思ったが辞めた。耳郎も彼女の経済事情はなんとなく察しているため、行っても何も買わないだろうと思ったのだ。

その代わりとも違うが、耳郎はある事を思い出した。

 

「そうだ、大豆バー的なのがあるけど食べる?」

 

「え? わ、悪いよ」

 

かぶりは他人から物を貰うのが苦手である。これは単に性格的な問題もあるが、金銭感覚の違いによるところも大きい。最近、耳郎もその事に気がついて来ている。しかし、だからといって辞めるわけにはいかない。余計なお世話がヒーローの本質だとか、そんな事ではなく、ただ友人だからこれくらい押し売りしても問題ない、というか押し売りしないとかぶりは貰ってくれないと分かっているのである。

 

「気にしないで良いよ。ここまで来たら沖には優勝して欲しいからね。お腹が空いて勝てませんでしたってなったら………。ウチが嫌だからさ、ほら行こう!」

 

と、響香はかぶりの腕を引いて選手控室へと向かいカバンから大豆バーを取り出した。もともと試合が続いたらおやつ代わりにするつもりだったが、負けてしまった響香には必要ないものだ。

 

「沖……。次は轟だよね……。」

 

大豆バーの袋を開けているかぶりに響香は呟いた。

 

「……うん、そうだね。」

 

「……大丈夫?」

 

響香のその言葉はどこか心配そうだった。次の相手である轟はA組屈指の実力だ。さらに、その"個性"はかぶりにとっては天敵である。

どう考えても勝ち目が見えない。だから、かぶりが無茶をしないか心配なのだ。

かぶりは変に生命力が高く、だいたいの怪我はすぐに治ってしまう。そのせいで怪我に関してはかなり無頓着な部分がある。だから、響香はかぶりが轟との戦いで、大怪我を負ってしまうのではないか?と、心配してしまう。それに、出久と轟の試合を見ていれば尚更だ。

しかし、かぶりにはその心配は伝わらなかった。なんに対しての大丈夫なのか一瞬考えたのち、勝てるかどうかのことかと思った。

 

「……うん、分かんないけど、精一杯やるだけだよ。」

 

そう言うかぶりに響香は深いため息を吐いた。根本的なところで自分を蔑ろにしがちな気がするのだ。しかし、怪我をしないようにとハッキリと言ってしまっては、彼女が遠慮して思いっきり戦えないとも思ってしまう。

だから……。

 

「そう……だね。けど、無茶はしないでね。」

 

そう言うだけに留めた。

こうして時間は過ぎていき、あっという間に試合が開始になった。

 

 

準決勝ということもあり、会場は今までにないくらいに熱気に包まれている。さらにNo. 2ヒーローの息子である轟焦凍と、ヒーロー一家の生まれである飯田天哉を破った無名の少女の対決だ。会場どころか日本中が注目していた。

 

(緑谷くんとの試合で炎を使ってた。やっぱり、轟くんも本気だ。)

 

控室を出てステージを目指しつつVTRで確認した出久と轟の戦いを思い起こす。氷により冷えた身体を炎で暖める。そして、炎により熱くなった身体を氷で冷やす。さらに、どちらも必殺の威力を誇る、広範囲攻撃だ。

ぶっちゃけチートである。

 

(炎と氷とかずるいよ。下手をすれば、私も()()()()()()()だ。)

 

瞬殺された瀬呂を思い出して少し身震いをする。アレは嫌だ。流石に恥ずかしすぎる。だが、相性などを度外視しても彼は普通に強過ぎだ。実際問題、勝ち目は薄い。

 

(でも、やるしかない!)

 

気合を入れて壇上へと登る。反対側から轟も登場する。2人は向き合った。この2人はクラスメイトではあるが今まで大きく関わった事がなかった。唯一関わったのは対人戦闘訓練の時のみで、ほぼほぼ他人に近い。だが、お互いに警戒はしている。かぶりは無論、轟の戦闘能力を知っているからだ。

対して轟は対人戦闘訓練での経験を覚えていたからだ。あの時、かぶりは氷結をかわしていた。そのため、彼女の回避能力には警戒している。

お互いに無言で向き合う。かぶりは体操着の上着を脱ぎ捨てて四つん這いとなった。

今までにないくらいにかぶりは緊張していた。心臓は激しく鳴り響いている。だが、不思議と思考はクリアだ。

 

『準決、サクサク行くぜ!』

 

ネタが切れたのかプレゼントマイクは紹介も手短に今までと同じように大声でコールした。

 

『スタート!』

 

その瞬間、かぶりは全力で加速した。一直線に轟の元へと駆ける。

彼女には遠距離攻撃の術がない。対して轟は広範囲攻撃を得意とする。このままでは、攻撃すら出来ずに狙い撃ちだ。

 

だが、彼は甘くない、

 

(来るッ)

 

咄嗟に向かって右に避けた。その直後、轟の右脚から氷が放たれ彼女がいた場所は一瞬のうちに呑まれた。

攻撃をする時にはすでに回避をしている。もはや、未来予知レベルだ。本来ならその能力に混乱するだろう。だが、轟は対人戦闘訓練で氷結をかわされた経験から、一撃目を避けられることは予想済みだ。

 

(………ゴキブリの回避能力、そりゃ、避けるよな)

 

一撃目を放った直後、右腕を地面につけすぐさま氷結を放つ。その氷はかぶりではなく、彼女の横に壁を作るように放たれた。一撃目の氷と二撃目の氷、この二つの氷壁はまるでかぶりと轟を一直線に結ぶ道のようになった。

 

そして、三撃目が放たれる。

 

(まずい!)

 

かぶりは脚を止めてしまった。二撃の氷結により、彼女の左右は氷壁に挟まれている。横に避けることは出来ない。

一瞬の出来事なのに彼女にはスローに感じられた。轟の右半身が空気を冷やす。そして、地面が凍り始めついには巨大な氷が作られ、左右の氷壁すら飲み込み、かぶりに迫る。

 

(どうする……!)

 

そして、ステージの3分の1が氷の山に覆われた。

かぶりのいた場所も当然、氷に埋まってしまっている。その様子に轟は勝ちを確信したのか少し息を吐いた。また、今ので体が冷えてしまい息は白く、右半身には少量だが霜が降りている。

 

「………………」

 

まさに瞬殺だった。

両手両脚が氷に埋もれた。瀬呂範太と同じ体勢となってしまった。

もはや、負けは確定。勝ち目はない。会場の誰もがそう思った。

 

「動ける?」

 

ミッドナイトはかぶりにそう聞いた。しかし、かぶりは答えなかった。

ただ、俯いているだけだ。

 

(どうすればいい? 動けない? 氷が邪魔だ。)

 

思考をぐるぐると巡らせる。たが、敗北という未来しか見えない。

手足を動かそうとするが、ピクリともしない。完全に氷漬けにされている。

そんな中、ふと、知らない女性を思い出した。彼女はまだ幼いかぶりを背に、筋繊維に覆われた男と戦っている。腕を折られ、首を千切られ、お腹を潰され、それでも女性はかぶりを守り抜いた。

 

(ああ、そうだ……。私は……。まだ……)

 

消えかけていた戦意がゆっくりと戻っていく。不思議と力が湧いてきた。こんなところで負けていられない。手足が拘束されたくらいで負けを認める訳にはいかない。

 

——諦める事だけは許されない。

 

「沖さん……。戦闘ふ」

 

「負けてない!!」

 

ミッドナイトのコールをかぶりは遮った。彼女に見合わない大声を上げ、今までにないほどもがく。

そして……

 

「うりゃぃあああああ!ーーーーー!」

 

左腕を氷から引っこ抜いた。いや、正確には引きちぎった。

皮膚を、肉を割いて氷から抜いたのだ。そして、その手をついて更に力を込めて同じように右腕を引き抜く。

 

「■■■■■■■■■■■ーーーー!」

 

声にならない叫びを上げ、氷から脱出した。

両手両足の肉は裂け、血が流れる。特に足なんて立っているのがおかしいくらいに負傷している。

しかし、それでも彼女は這い、高速で移動した。

 

「っぐぁ!」

 

唖然としていた轟の顎目掛けて全力で蹴り上げる。しかし、轟はかろうじてかわす。そして、すかさず氷結を放とうとするが、すぐに()側へと回り込んでしまう。

先読みの回避。彼の"個性"はかぶりには有利だが、しかし、不利な部分がある。氷も炎も空気の温度を変えて気流を乱す。それは探知能力を妨害してしまうが、逆に言えば攻撃のタイミングは掴みやすいのである。

 

(轟くんは緑谷くんに炎も使った。多分、ピンチになれば使う!けど!氷よりはマシ!)

 

氷は捕まれば身動き取れないが、炎ならば熱いだけだ。もはや、めちゃくちゃな理論でかぶりは執拗に左半身へと回り続ける。しかし、轟とて負けていない。彼は"個性"の強大さに目が行きがちだが、体術にも長けている。

長年、No.2に叩き込まれた体術は本人の望む望まないに関係なく、この場で彼を支えていた。

 

(こんな時にクソ親父の顔がチラつく……!)

 

父親の存在に腹を立てながら、轟はかぶりの蹴りを受け流す。かぶりの蹴りは本来の威力を発揮できていない。というよりも、行動全てが少し遅い。その理由は、手足が怪我をした影響で地面との吸着が上手く機能していないのだ。

攻撃にも移動にも手足の踏ん張り、グリップ力を利用していた。それが、怪我と流れた血の影響でほとんど無くなってしまった。

この戦いでこの弱体化は大きい。

轟はいともかんたんに攻撃を受け流し、一瞬生まれた隙で氷結を放った。

 

(っ!)

 

かぶりはその場から避けるが、右足だけが氷に捕まってしまった。すかさず、轟は更に氷を放つ。みるみるうちに足の裏から氷はせり上がり、くるぶし、足首へと登っていく。

 

「ーーーー!」

 

かぶりは右足をさっきと同じように、無理やり引き抜いた。さらに、その反動を利用して、轟に目掛けて血を飛ばした。彼は左手で血を防いだが、一瞬、大きな死角を作ってしまった。

 

その一瞬で、かぶりは姿を消した。

 

(どこ行った……)

 

かぶりは自身が捕らえられた氷壁の影に隠れているだけだが、警戒しているのか大きく移動しない轟には見つけられなかった。幸運にも今までの戦闘でステージ上に飛び散ったかぶりの血液が、移動時に垂れた血を隠していた。

 

「まじかよ、沖のやついけるんじゃね?」

 

静まり返った会場で瀬呂は呟いた。観客の中でかなりの人数が彼と同意見だった。しかし、反対に心配している人も多くいる。確かに、自身の"個性"の反動で怪我をしていた出久と比べれば怪我は浅い。それでも四肢に大怪我を負った状態で血を流しながら駆け回るのは普通では無い。棄権してもだれも責めないだろう。

 

「沖……。やっぱり無茶してる……」

 

響香もかぶりの今の行動を心配している1人だ。祈るように手を組んで震えるように見ていた。その様子に三奈もなんて声をかければいいか分からない様子である。

応援したいがそれと同じくらいに辞めさせたい。相反する感情に潰されそうだった。

 

(血は止まった……。)

 

氷の影に隠れながらかぶりは手足を見た。痛みは全く引かないが既に血は止まっている。これなら、滑ることは無い。

 

(轟くんは動いてないみたい。警戒してる?)

 

目を瞑り意識を集中させる。巨大な氷が気流を乱すが、細かい動きは別として人ひとりくらいの居場所を読み取ることは余裕で出来る。それに、彼の攻撃は気流を大きく乱すため分かりやすい。

 

(ここでステージ全体を凍らされたら負け決定だけど、してこない?何かリスクがあるのかな? 炎も使わないし……。)

 

炎を使おうとしない轟にかぶりは警戒をしつつ考える。今までの授業も含めて戦闘で彼は炎を使ってこなかった。使わない理由は分からないが、出久との戦いから使えないわけではないはずだ。

 

(けど、緑谷くんの闘いでもギリギリまで使おうとしなかった。)

 

確かに戦うなら全力で挑んで欲しいが、事実、氷だけでも手も脚も出ていない。

今も大規模氷結を使われたらひとたまりもないだろう。

ここまで実力の差を見せられては文句すら出てこない。

 

(悔しい……。けど、せめて……使わせたい!)

 

意を決して、轟にバレないように氷をよじ登る。はじめ氷では滑ってしまいうまく動けなかったが、すぐに慣れて普通に動けるようなった。そして、轟に見つからないように氷壁の頂上に辿り着いた。

 

—— 踵半蟲輪(ゴキアーク)

 

全力で踵落としを氷壁に放つ。バキッと轟音と共に溶け始め強度が落ちていた氷に巨大なヒビが入る。そこで轟はかぶりのいる位置が分かった。

しかし、既に遅い。もう一度、全力で踵落としを放ち、氷壁は完全に砕けて崩れ落ちはじめた。それにより、フィールドは轟音と共に氷の破片が舞い2人の視界を妨げる。しかし、かぶりは空中に投げ出されて羽を広げ滑空し、轟を探知する。

彼はかぶりを油断なく観察し、いつでも動けるように構えている。彼がここで大規模氷結を放たないのは、未だに身体が冷えているからだ。仮にここで氷結を使い決められなかった場合、さらに身体能力が下がり接近されて負ける可能性が出てきてしまう。逆に今の状態ならば接近されてもかぶり相手ならばそれなりに対応できる。

そんな彼の考えを見据えて観客席でNo.2ヒーローのエンデヴァーは舌打ちをした。

 

「———くらえ!」

 

崩れ落ちる氷壁。その中、かぶりは空中で身体を捻り、自身と同じくらいのサイズの氷の破片を轟に向けて蹴り飛ばした。轟は飛び散る小さな破片から顔を片手で守りながら、かわす。

しかし、かぶりは羽で体勢を整えながら、さらに3回、同程度の大きさの破片を蹴り飛ばすも、彼はそれらを楽々とかわす。

 

(————消えた!)

 

だが、次の瞬間、彼はかぶりを見失ってしまった。

たった一瞬だ。氷の破片が死角になっただけだ。氷壁が崩れ落ちた事により視界が悪かったとはいえ、一瞬の死覚だけで、彼女はまたもや轟の視界から消えたのだ。

 

(ゴキブリ……かっ!?)

 

視界が晴れたその時、轟は咄嗟に両腕で身を守った。

全力の回し蹴り。完全な不意打ち。

かぶりは意識の外から攻撃を放ったつもりであった。しかし、彼は反応し身を守った。轟は数メートル吹き飛ばされたが、背後に氷の壁を作り自身を受け止めた。

 

「これで終わりだ。いくらなんでも、それじゃあ走れねぇな。さすがに……。」

 

そう呟くと、かぶりの蹴りを放った右足は股下まで凍りついていた。

 

(ガードした時!? 間に合え!)

 

咄嗟に砕こうと地面に叩きつけたが、既に轟は氷結を放っていた。

 

(あ………私の負けだ)

 

瞬く間に、全身が凍りついて完全に身動きが取れなくなった。

 

 

『沖!奮闘するも戦闘不能!! 轟、炎を使わず決勝進出だ!!』

 

 

プレゼントマイクの声を聞きながら意識を失った。

 

 

 

 

目が覚めると、かぶりはベッドに寝かされていた。

近くにはリカバリーガールが座っている。

 

「起きたのか……。一通り治癒したけど違和感はあるかい?」

 

かぶりはベッドから起き上がり両腕、両足を見る。既に傷一つなく、問題なく動けそうだ。試しにバク宙をしてみたが違和感はない。

 

「は……はい、問題ありません。ありがとうございます。」

 

その返事にリカバリーガールは少しため息をついた。

 

「お前さんの回復力……。いや、生命力か……。治るから怪我してもいいなんて思わない事だよ。」

 

彼女のその言葉にかぶりは少しドキリとした。確かに怪我はしたくないが、それでも最悪治るから良いかなって考えていた。それを的確に突かれて不思議と罪悪感を覚えた。

 

「……はい。」

 

「ほら! 今から行けば閉会式には間に合うよ! 行っといで!」

 

「はい!」

 

その言葉に後押しされて閉会式へと向かった。

 

「それでは!表彰式へと移ります!」

 

1位から3位までの生徒にメダルが授与されるのだが、当然、この4人(3位は2人いる)はスタジアム全員の視線が向けられる。

 

(嘘……。こんな人いるの?)

 

かぶりはここで初めて、スタジアムの大きさ、観客の量に気がついた。今まで散々、注目の的だったのだが、どうして今まで気がつかなかったのか自分で自分が不思議である。

 

(でも、不思議と意識しないで済む。ありがとう……。爆豪くん)

 

表彰台のてっぺんで貼り付けになっている勝己を横目に見る。猿轡までされて、もはや猛獣のような扱いを受けている。

ヒーローを目指す姿とは思えない。

だが、彼の様子が気になり(おもしろ)すぎて緊張はあまりしないですんでいた。

 

「メダル授与よ! 今年、メダルを贈呈するのはもちろんこの人!」

 

ミッドナイトの声でオールマイトが登場したが、しかし、どうにも打ち合わせ出来ていないのか、ぐだぐだであった。だが、気を取り直して段取りを進めていく。

 

「常闇少年!おめでとう!!強いな君は!」

 

3位から順番にメダルを渡していく。その都度、コメントを残すのか常闇にアドバイスを送った。次は無論、同率3位のかぶりである。

 

「沖少女!! 良いガッツだった!」

 

「あ、あ、ありがとう……ございます。」

 

「探知と回避、力の持ち味を生かした良い戦いだった。あとは経験を積めば出来ることが増えるだろう。」

 

「はい!」

 

こうして、かぶりの体育祭は終わった。良かったと思えることも、悔いが残ることも、どちらとも言えないことも、色々な思いが残る1日だっだが、それでも精一杯出来ることはこなしたはずだ。

 

そして、彼女の取り巻く環境は、少しずつ変化していく事になる。

 

 

 

 

 

 

 




どうでもいい情報

・マイツプロ第二秘書室の八木
ヒロアカのスピンオフであるヴィジランテにて登場した、オール
マイト(トゥルーフォーム)の肩書き。


・ゴキブリは種類によっては氷上でも普通に活動できる。

・プロット段階では、
→手脚が使えなくなったかぶりは、轟の首元に齧り付いく。
→轟は氷結でかぶりを凍らせるが、それでも離さずお互いに取り返しのつかない怪我をしそうになる。
→ミッドナイトが"個性"を使って止める。(勘違いされがちですが女性にも効きます。)
→脳の制御を失い闘争心だけで暴れ続ける。(頭が取れてもゴキブリは動く)
→体育祭大混乱
という内容だった。

・she rules the battlefield
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