"個性"ゴキブリ 作:ゴッキー
本来なら本編中に上手く場面展開して組み込む予定でした。けれど作者にそんな技量はなく、なくなくカットしました。
しかし、ふと、思ったのです。番外にして纏めようと、
その日、トップヒーローの1人であるミルコが雄英体育祭の実況を見ていたのは本当に偶然だった。
ヒーローであるため全く興味がない訳ではないが、やはり仕事が優先である。例年通りならば今頃、
しかし、今年は先日戦った毒を扱う
(さすが2、3年は迫力がある)
学年ごとに違う局で放送しているため、テレビのチャンネルをコロコロ変えながら試合を見ていく。そこで、ふと、1年の試合に目が止まった。
「轟……。エンデヴァーの……」
彼女もヒーロービルボードチャートでかなり上位、というよりも女性ヒーロー内で有ればトップの実力を誇る。そのため、エンデヴァーとも面識があり何度か仕事を共にした事もある。
あの男の息子の実力に興味があり、ザッピングしていた手を止めて集中する事にした。
だが、次の瞬間、その対戦相手の方に意識が持ってかれた。
「沖………。沖だと……?」
その名前にミルコはまるでハンマーで頭を殴られたような気分となった。思い起こすは10年前、彼女が仮免許を取得したばかりの時に巻き込まれた事件。1人の男に目の前で両親を惨殺され、数十分ものあいだ
はじめて経験した
「あの顔、母親そっくりだ。それに、あの"個性"、ゴキブリ……。間違いねェ!」
当の本人はトラウマから全ての記憶が無いと聴き、下手に会えばトラウマを呼び起こしてしまうと考えて会わずにいた。しかし、ずっと元気にしているか気になっていたのだ。
「はは。そうか! ヒーロー志望か!それにあの蹴り! 私のパクリか!」
楽しそうにミルコは笑った。そこでふと、雄英が行なっている職場体験を思い出した。彼女を呼んでもいい。それくらいには気にしているし、轟との戦いを観て実力も認めた。それに、何よりも四肢を怪我しても突き進むあの闘いは彼女好みだ。キック力もある。
だが、辞めておいた。
(2、3年ならともかく1年を指名するのは良くないな)
意外にも冷静な一面を持つ彼女は、基礎の出来ていない1年はやはり
だけど、あの少女が元気に過ごしていてミルコは少し救われた気がした。
◆
薫は体育祭当日、土曜日だったこともありテレビに齧り付くようにして過ごした。
障害物競争の活躍では奇声を上げ、
騎馬戦では殆ど映らなかったので1人で勝手に怒り、
そして、最終種目の対轟戦では気絶するほど血の気が引いた。
両手両足に大怪我を負いつつ戦う彼女は、ヒーロー志望として褒められた行為なのかもしれない。しかし、
血を流す彼女の腕があまりにも痛そうで、悲惨だった。だが、ヒーローを目指す彼女を後押しした時点で
後押ししたのは自分なのだ。今更辞めてくれなんて言えない。だから、せめて見守ることだけは辞めたくなかった。
(3位か……。凄いけど、本人は悔しいだろうな)
そして、閉会式の中継を見ながら称賛すべきなのか慰めるべきなのかの微妙なラインに頭を悩ませた。
そんなこんなで、かぶりが帰宅してきた。
「ただいま。」
「おかえり。体育祭観てたよ!えっと、3位おめでとうっで良いのかな?」
「……うん。ありがとう」
その後、お祝い兼残念会ということで、宅配寿司を注文して久しぶりに贅沢な食事をした。
◆
聖愛学院学生寮の一室で1人の生徒、
彼女はヒーローを目指す2年生で、"個性"はIQ。紅茶を飲んでいる間だけ、IQが上がるというものだ。
(かぶり……。)
授業があったため(体育祭は土曜だったが授業がある)リアルタイムではなく録画であるが、だからこそ一時停止を繰り返しながら雄英の研究をしていく。本来であれば仮免試験に出てくる2年や3年を注視すべきなのだろうが、1年の試合でも得るものは多い。
しかし、彼女にとってこの試合は大きな意味を持っていた。
(雄英……。かぶり……。)
活躍する彼女を見て才子は素直に喜べなかった。今まで自分がしてきたこと、忘れようとしていた罪悪感が込み上げてしたのだ。
立場が全て。それが幼少の頃より学んだ才子の全てである。
彼女の
はじめは彼女もかぶりを庇っていたが、母親からの耐え難い圧に負けて妹を見捨ててしまった。
そしてあろうことが、母からの命令で父が貯めていた妹用の貯金で私立のお嬢様学校に通うことになった。
どんなに能力があろうとも、優れた"個性"があろうとも
それが彼女の基本思想となった。
だから、全てを賭けて立場を築いた。学校というコミュニティで"個性"を駆使して能力を誇示し、弱みを握り、恩を売り、絶対の地位を築いた。
ヒーローという誰もが憧れ、誰もが信用してくれる社会的地位を目指しているのだ。
だが、それは言い訳でしかない。
妹を見捨てた罪悪感。
親友が感じたであろう絶望感。
それらから逃げるために、自分は悪くないと。立場が悪かった。強いて言うなら母親が元凶だと、自己弁護しているだけだ。
悪いのは自分だ。妹を見捨てたのは弱かったから自分の身が可愛かったからだ。ヒーローなんて目指す資格はない。
そんなこととっくに気がついている。しかし、この考えを捨ててしまえば、罪悪感に潰されそうになってしまう。
(かぶり………。)
罪悪感から逃げるためだけに、才子は紅茶を飲んだ。跳ね上がった知能で行うのは仲が良かった日々を思い出す事だけど。
出会ったばかりの頃は本当に楽しかった。
あの時に戻れればいいのだけど。