"個性"ゴキブリ 作:ゴッキー
あと、物語は全然進まないし、まぁ、体育祭後の箸休めってことでここは一つ許してください。
次回から本気出す。
名前をつける感じの会
体育祭から振替休日を挟んで2日後、天気は雨。
満員、とまではいかないまでも割と人の多い地下鉄に乗りかぶりは通学していた。この時間ではかなり早く高校についてしまうが、あと数本遅いと満員で乗れたものでは無く、地獄を見るので最近では早い時間の電車を使うことにしている。出久はどうしてか満員電車の時間で通学しているが、彼女からしてみれば少し早くても余裕がある電車に乗りたいのである。
(なんか、視線を感じる……)
いつもなら他人の目なんて気にならないのだが、今日に限って電車の中でかぶりは視線を感じていた。自意識過剰とかではなく、周りの人の動きを空気の振動で感知し、そこから目線を見極めても明らかに見られている。
「ねぇ、君、沖かぶりちゃんだよね! うわぁ!可愛い!」
「え?」
電車の中でスマホを弄り視線に気がついていないフリをしていると、女子高生の3人組に話しかけられ囲まれた。彼女達は見るからにギャルと言った具合で雄英高校では見ないタイプの人種だ。また、小柄なかぶりにとって平均的な身長の少女とはいえ知らない人に囲まれるのは結構怖い。
「本当だ!生で見ると本当に可愛い! 写真撮っていい?」
「いえ、それは……困ります。」
「えー、残念……。じゃあ、持って帰って良い?」
「え……?」
「ちゃんと飼うからーー。」
「………い、意味が分かりません!」
と、そんなこんなで雄英に到着したかぶりだが、その時にはかなり疲れていた。教室に着くなり机に突っ伏した。まだ、教室には人が疎らでかぶりと良く話すメンバーは来ていない。
(あー。体育祭、こんなに有名になるんだ……。
そんな事を考えながらおもむろにスマホを取り出す。なんと、この高校にはフリーWi-Fiが飛んでおり、プロキシサーバーにより授業に関係ないサイトやアプリの通信は出来ないが軽く調べ物をする程度はできる。
慣れない手つきで自分の名前を検索する。所外エゴサーチだ。
そして、とある掲示板のまとめサイトを開いてしまった。
(……え? なにこれ?)
そのサイトを見た瞬間、かぶりは高速でスクロールしながら速読とは言わないが斜め読みで
「沖さん? どうかなさいました?」
その時、ふと、声をかけられた。見てみるとスクールバックを持った八百万百がいた。彼女とは響香を通じてかぶりも仲良くなった。しかし、会話してみると住む世界が全く異なり、噛み合わない事が多々ある。
例えば、かぶりの住んでいる部屋がクローゼットよりも狭いと知った時は心が折れかけた。
「あ、八百万さん。ちょっと……ね。来る時色んな人に声かけられて疲れちゃって……。それと、これ」
そう言ってスマホの画面を見せると百はかなり微妙そうな顔をした。それもそのはずだ。画面には『【速報】雄英体育祭に非合法ロリ現るwww』というスレタイが表示されている。
内容もかなり卑猥なものまであり、
「……こればかりは、……仕方がないこととしか言えませんわね。」
そう言って百は深い溜息をついた。
「……。うん、仕方がないことは分かってるけど、いざ見てみると、なんか、ね?」
「……そうですわね……。」
実は百もその手のサイトを見てしまい、自分に対するネット民(の偏った層)の意見を見てしまった。いくら、お嬢様とはいえ、というよりもだからこそ、その手のリテラシーは叩き込まれている。
そのため、ネットの意見はかなり偏っており当てにならないと知っていても、良い気分ではない。
「もしかして、八百万さんも?」
「ええ……」
そして、2人して深い溜息をついた。
「おはよう、2人ともどうしたの?」
登校してきた耳郎は朝からため息をついている2人に話しかけた。百はことのあらましを説明すると響香もなんとも言えない表情をした。
(………ウチ、そんなんなかった……。)
あったらあったで嫌だが、ないとないで、それはそれで嫌なのである。
◆
チャイムと共に相澤先生が教室に入ってきた。その瞬間、全員が着席してクラスは静まり返った。彼は先日までつけていた包帯を外しており、USJ事件での怪我は治ったようだ。その事について蛙吹梅雨と話した後、本題へと入った。
「今日のヒーロー情報学はちょっと特別だぞ?」
その言葉に教室は変な緊張が走った。
もしかしたら、急な試験があるのか?
前みたいに除籍があるのか?
そんな思考がA組全員の脳裏をよぎる。しかし、そんな生徒達に気が付いているのかいないのか、相澤先生はいつも通りに言葉を繋げた。
「"コードネーム"ヒーロー名の考案だ。」
その言葉で緊張感が解かれ、さらに、「胸ふくらむヤツきたぁぁ!」と、生徒のテンションは一気に跳ね上がった。中には立ち上がる生徒もおり、下手をすれば説明どころではなくなる。だが、相澤先生が無言で"個性"を発動させて髪の毛を逆立せると、教室は一瞬で静けさを取り戻した。
「というのも、」
と、何事もなかったかのように相澤先生は説明を続けた。
ヒーローネームを決めるのは、一重に職場体験に行くからである。体育祭などにより生徒によってはプロからの指名が来ており、その中から体験先を選ぶことができるが、通常はあらかじめ学校が依頼をしていた事務所へ行くこととなる。
(指名……、来てる!)
A組の指名は轟と勝己に集中していた。相澤先生曰く、例年はもっとバラけるそうなのだが、今年はこの2人の注目度が高かったのだろう。
また、指名が来ている生徒は体育祭で活躍した生徒ばかりなのだが、指名数は轟が1番多い。確実に表彰式のアレが原因だ。
だが、かぶりには
「俄然やる気出てきた!」
ヒーロー名や、職場体験というフレーズに生徒達のテンションはうなぎ登りだ。それを窘めるように相澤先生は口を開いたが、それを遮って教室にミッドナイトが入ってきた。
「適当に付けたら地獄を見るわよ! この時の名が、世に認知されてそのままプロになった人も多いからね!」
いきなりの登場だが、相澤先生はそのまま彼女の言葉に続く。
「俺にはセンスがないからミッドナイトさんに査定してもらう。将来、自分がどうなりたいのか、名をつける事でイメージが固まりそれに近づく。それが"名か体を表す"ということだ。オールマイトとかな」
そう言うと、相澤先生は寝袋に入ってしまった。既に生徒達はその様子に慣れており特に驚きもせずに、配られたフリップボードと睨めっこし始めていた。
(名前か……)
それはかぶりも同じだ。悲しい話だが、彼女にはネーミングセンスなんてない。持っている技も全部、ミルコのパクりだし、小さい頃から考えたヒーロー名も使えるものではない。
(ミルコガール、2代目ミルコ、とかは無理だよね。怒られる……、下手したら裁判だ。)
適当に数学Aのノートの1番後ろのページを破る。そこから、
(まずは、年齢を縛る名前は辞めた方が良い)
ガール、レディ、マダム、マム、ボーイ、使うかは別としてこの手の名前は辞めた方が良いとかぶりは考えた。リカバリーガール並みになればネタとして通用するが、例えばヒーローガール(35才)とか微妙に笑えない。
さらに、○○ヒーローという煽り文も今回は不要だ。この手の煽り文はあっても良いが、下手なのをつけるとダサくなってしまう。今回はヒーローネームに集中したい。
(あとは、下ネタや放送禁止用語……。)
そこで、ふと、放送禁止用語って、どこまでがセーフでどこからがアウトなのだろうか? と、かぶりは思った。
放送禁止用語と言われてすぐにイメージするのは下ネタだ。しかし、完全に下ネタがダメではない。では、言っていい下ネタとダメな下ネタがあるのだろうか?
ラインがわからない。
収録ならまだしも、将来、生放送に呼ばれた時のために勉強した方が良いかもしれない。
(放送禁止用語を言った人を
久しぶりに良いのが出来た気がした。
と、思考が脱線しているうちに15分が経過してしまった。
「それじゃあ、そろそろ出来た人から発表してね。」
(発表形式?)
ミッドナイトの言葉に教室に変な緊張が流れた。こういう時、1番初めというのは勇気がいるのだ。だが、そんな空気を読まずに1人の男子生徒が手を挙げた。青山優雅だ。
「輝きヒーロー
——短文!!!
この時、A組の心は一つになった。
しかし、それよりも初手のインパクトのせいで変な方向に流れが生まれてしまった。
「はい!じゃあ次はアタシね!エイリアンクイーン!」
そして、三奈の発表で完全に大喜利みたいな流れになってしまった。もはや、この流れでまともな案を言うには勇気がいる。
だが、この流れを断ち切るヒーローがいた。
我らが梅雨ちゃんだ!
「小学生の頃から決めてたの。"梅雨入りヒーロー"フロッピー」
この、みんなから愛されるお手本のような名前で流れは戻った。誰もが流れが戻ったことを喜び、中にはフロッピーコールをしている人もいる。
だが、ただ1人、この新たな流れを断ち切ろうとしている人がいた。
(青山くんが作って、芦戸さんが決めた流れ、ここで断ち切る訳にはいかない!)
かぶりは特に意外でもないかもしれないが、大喜利とかそういうのも大好きである。そんなかぶりが生まれて初めて行える大喜利のチャンスだ。
チャンスは逃さない、と、彼女の変なスイッチ、悪ふざけモードが入ってしまった。
「じゃ、じゃあ、次は私!」
いつになく真剣な顔で手を挙げたかぶりは、先生に指され教卓まで行き、小さく深呼吸した。
そして、静かに口を開いた。
「……。お、おはようから、おやすみまで、人々の身近を護りたいと思ってつけました。」
その言葉で真面目な答えが来るのだろうと誰もが思った。しかし、それを裏切るように力強くフリップを掲げた。
「"食卓ヒーロー"
((申し訳ないけど、護られたくない!))
バーンと見せるそのヒーローネームに教室の心は一つとなった。というか、かなり微妙な雰囲気となった。笑って良いのか、それともダメなのか、本気なのかふざけているのか、元々のかぶりの性格もあり判断できないという地獄のようなネーミングだ。
しかし、そんな事はかぶりとて分かっている。
(蛙吹さん……。梅雨ちゃんが作った流れはそう簡単には変えられない。大喜利、その雰囲気を取り戻すために!)
だが、一度、ふざけると決めた以上、全力でやらなければもっと恥ずかしい事になる。全ては悪ふざけ、ギャグという彼女が小さい頃から親しんできた趣味への情熱だ。
恥ずかしい自分の"個性"を晒し、自虐をしてでも悪ふざけは辞めたくない。
「……では、……続きまして」
((続きまして?!))
と、かぶりはミッドナイトの講評も、クラスメイトのリアクションをも置いていき数Aのノートの最後のページを開いて見せた。そこにはデカデカとヒーローネームの第二弾が描かれていた。
「"ゴキブリヒーロー" じょうじ」
((絶対にふざけてる!!))
A組の心は一つになった。その時、かぶりは三奈と目があった。2人の目は真剣なもので、お互いに考えが通じ合い、三奈は小さく頷いた。
「沖さん、そういう方向は不快に思われる
ミッドナイトにそう言われるとかぶりはペコリと頭を下げて席に戻った。そして、その直後、三奈が力強く手を挙げた。
「はい! はーい! 次はアタシが良い!!再チャレンジさせて!」
「……他に誰もいない?」
流石に2回目の人よりも1回目の人を優先したいミッドナイトは周りを見渡した。しかし、このかぶりが作った微妙な雰囲気と、三奈の絶対に当たりたいという圧に負けて誰も手を上げなかった。(勝己や轟など普通に考え中の人もいるのだが)
「それでは、芦戸さん」
そう言って指された三奈はフリップを持って立ち上がった。彼女の席はかぶりの斜め後ろであるため、前に出る時かぶりの横を通る事になる。
(沖、あなたの想いは受け取った。)
(後は任せたよ!)
席に座っているかぶりと、その横を通る三奈。2人は一度目線を合わせて頷きあい、無言でハイタッチをした。
その瞬間、かぶりは慌てて席から立ち上がった。三奈を庇おうと腕を引こうとしたがすでに遅い。見慣れた捕縛布がかぶりの腕を縛り上げた。
そして、瞬く間に2人は文字通りに簀巻きにされて天井に吊るされてしまった。
探知能力で分かっていてもかわすことなんて出来ない、
パタリと三奈が持っていたフリップが落ちた。そこには、"弱酸性ヒーロー"ビOレと書かれている。
「ふざけるのも良い加減にしろ。」
「「イエッサー!!」」
息のあった返事に相澤先生は拘束を一瞬強くしたのち解放した。
(……普段はおとなしいのに……。いや、クラスに馴染んで素が出始めたのか……。)
担任として相澤先生はかぶりの
だが、授業という場を乱すのは看過できない。今回の場合少しくらいなら多めに見ようというのはあるが、流石にやりすぎだ。
「お騒がせしてすいません。ミッドナイトさん。あの2人には
その後、授業はなんとか平常運転に戻り、順調にヒーローネームは決まっていった。無論、かぶりも決まった。
(………私はゴキブリだ。そこは否定できないし、…………してはいけないと思う。だから……。)
教室の前に立ちフリップを出した。さっきまでのようなふざけたものではなく、真面目に考えた。
ヒーローとして活動する為には、ゴキブリという"個性"を恥ずかしいなんて思ってはいられない。誰がなんと言おうと、この"個性"で胸を張るくらいでないとやっていけない。
だから、あの不快な害虫の名前を背負うことにした。
「"ブラッタ"……ラテン語でゴキブリという意味です。」
"ブラッタ" これが、かぶりのヒーローネームだ。
没にしたかぶりのヒーロー名
・クロコップ
→ミルコファンならご存知、あの格闘家から
・ブラトデア (ブラトディア)
→ゴキブリという意味。
生物の分類をする時のゴキブリ
・ヒレン(非憐など、色んな漢字を当てはめていた)
・コックローチ
そのまんまです。
かぶりのヒーローネーム。
ブラッタ
ゴキブリのラテン語。ブラッダでもよかったけど、同名のモンスターパニック映画があったので濁点は外した。
ぶっちゃけ、三奈のエイリアンクイーンが没なら、彼女のヒーローネームも没になってもおかしくないとおもう。ここに微妙な矛盾があるため、ヒロアカ世界にはあの映画は無いという事にしよう。
また、彼女の能力は基本的にはクロゴキブリをイメージしています。そのため、生物学的分類の話を持ち出さられると、おかしな話になるので、その辺はスルーしてください。
素直にブラトデアにすれば良かっただけなのですけどね。没にした理由はご想像にお任せします。