"個性"ゴキブリ    作:ゴッキー

13 / 47
オリキャラが出ます

ヒロアカファンの皆さん、ヴィジランテおすすめです


職場体験・前編

ヒーロー名を決めた日の休み時間、かぶりはスマホ片手に職場体験先を絞っていた。その集中力は、話しかけるのを憚られるほどで響香や三奈は肩をすくめることしか出来なかった。

 

「まずは、この40名の受け入れ可能事務所の………ブツブツブツブツ……ブツブツブツブツ」

 

響香は斜め後ろから聞こえて来る出久の声にもため息をついた。最早、芸に近いその行為は面白いと言えば面白いのだが、かなりうるさい。そして、隣の席に座るA組の火薬庫がいつ、文字通りに爆発してもおかしくないレベルでイラついているのも分かるので気が気でないのである。

しかし、それも仕方がない事だ。職場体験の希望書の提出期限は今週末まで、つまり、2日しかないのである。全て丁寧に精査するとなると時間が幾らあっても足りない。

 

(沖も緑谷も真面目だね。いや、それが正しいってのは分かってるけどね。)

 

響香はパラパラと学校が依頼した40の事務所が書かれた冊子をめくってため息をついた。彼女は別段、不真面目では無い。バイトや習い事などしていないため放課後の時間を利用すれば40社ほどの精査は終わる。

出久のように全てを細かく調べ、系統別に分類とかやっていたら別だが、()()()()()()()()()()()で絞り込んだ事務所だけ調べればかなり時短となる。

既に響香、というよりもA組の殆どの生徒は漠然とではあるが絞り込んており、家でやれば十分間に合うであろうと目処が立っている。

 

だが、かぶりの場合別だ。

 

(あー、全部ちゃんと調べたいけど、時間がない!)

 

彼女の場合は指名は300を超えている。当然、やりたい事、学びたい事、各ヒーローの得意分野、ヒーローとしてのレベルで絞り込むが、それでもかなりの量が残る。

さらに、今日、そして明日と2日連続でバイトが入っている。真面目な彼女は休むという選択肢は取りたくないため、放課後の時間は殆ど使えない。

 

(私がなりたいのは武闘派ヒーローだ。(ヴィラン)を蹴り飛ばせるような……。それと、行けるなら上がいい。ビルボードチャートで低い所は足切りだ。けど………。それだけで? 私が出来る事……)

 

バイトから帰った後、睡眠時間を削り、休み時間も使い精査し、締め切り当日にようやくかぶりは職場体験先を決めた。

 

(多分、学びたい事、得意分野を考えたらここがベストだ。)

 

"忍者ヒーロー"エッジショット

かぶりが選んだ体験先はここだ。ビルボードチャートで5位にいる実力者だ。

最後まで、クラストやゴリゴリの武闘派であるガンヘッドと悩んだが、潜入や隠密的な活動を得意としている彼を選んだ。確かにミルコのような正面戦闘をメインとするヒーローを目指すならガンヘッドの方が良かっただろう。しかし、彼女の"個性"の()()()()()()()を考えると彼の事務所が適していると考えたのだ。

やりたい事だけでは無く、将来を見据えて、様々なことを体験したかったのだ。ひとつだけ見ていたら視野が狭まってしまう。

 

そして、職場体験初日。

 

「くれぐれも失礼のないように! じゃあ行け」

 

相澤先生に見送られ、A組の面々はそれぞれの体験先へと向かった。かぶりは1人で地下鉄を乗り継いで1時間、静岡県 雉見(きじみ)市に着いた。エッジショットはかぶりの地元から比較的近い所を拠点としている。つまる所、雄英の最寄駅に一度集合したため、遠回りどころか来た道を一度引き返すことになった。非常にめんどくさいが、仕方がない事だと諦めるしかない。

 

(あー、なんだか緊張してきた)

 

最寄駅を降りて徒歩数分、駅前と言えるほどでは無いが、駅へ徒歩圏内という立地に事務所はあった。流石はビルボードチャート上位に食い込むヒーローだ。

かぶりは事務所の前で深呼吸をして時間を確認する。到着時間は事前に概算して提出しているが、あらかじめ余裕を持って作っていたため30分ほど早く着いてしまった。

 

(このまま待つか……。それとも……。)

 

少し早めに着いても問題ないだろうが、流石に30分は早すぎるだろう。どこかで時間を潰そうかと考えていると事務所から1人の女性が出てきた。紺色の袴と桜柄の小振袖を着た黒髪の女性だ。20代後半ほどで、糸目が特徴的だ。

彼女はエッジショットのサイドキックを務めるヒーロー、サクラゴゼンだ。

 

「………。沖かぶりさんであらせられますか?」

 

(あらせられる?)

 

サクラゴゼンはキリッとした表情でかぶりにそう言った。なんだか微妙に間違っているのか正しいのかよく分からない日本語だが、意味は何となく分かったのでかぶりは頷いた。

 

「は、はい。雄英高校ヒーロー科1年A組の沖かぶりです。本日はエッジショット事務所に職場体験に来ました。」

 

かぶりはペコリと頭を下げると、サクラゴゼンもそれにならいペコリと頭を下げた。

 

「お待ちしておりました。……いえ、お待ちしていたでござる。」

 

(ござる?! しかも言い直した!)

 

存在は知っているが、テレビの向こうでしか聞いたことが無い語尾だ。しかも言い直した。取ってつけたかのようなキャラ付けに何故かかぶりが恥ずかしくなった。

 

「あた……。いえ、拙僧はサイドキックのサクラゴゼン。エッジショ……。マスターがお待ちでそうろう。こちらへ……。」

 

かぶりはサクラゴゼンの案内でビルに入る。まずは受付へと通された。サクラゴゼンは受付の女性に話を通している。その時も、なんだかよくわからない侍(笑)みたいな口調だ。対応している女性の営業スマイルもどことなく引きつっている。

 

(これが、アレか……。痛いキャラ付け……)

 

ヒーローとは人気商売だ。確かに相澤先生のようにメディアへの露出をしない者も勿論いる。しかし、大多数のヒーローはそうではない。

一般人からの支持率は大切だ。しかし、このヒーロー飽和時代、支持率どころか世間に知られることも難しい。

そのため、まずは目立たなくてはならない。そのため、おかしな方向へと進んでしまうヒーローは多い。その一つが痛いキャラ付けだ。

 

(語尾が“りん"で、ヒーロー星から来たお姫様って設定のヒーローも居たなぁ)

 

アイドルヒーロー、りんこりんこ。ゆるふわ系不思議ちゃんキャラで大人気になったヒーローだ。テレビもろくに見れなかったかぶりも知っているほどだ。そして、気がついたら消えていた。ネットでは死亡説も流れているが、真相はわからない。

流石に年齢的にキャラに限界が迎えたのだろう。

 

(流石に、あのキャラよりはマシかもしれないけど……。けど、エッジショットって忍者だし、キャラ付け推奨してるのかなぁ)

 

なんか、そういうの嫌だな、と、かぶりは漠然と思った。

行き過ぎると地雷となるが、ヒーローとキャラ付けは切り離せない。エッジショットの忍者キャラ、ヨロイムシャの侍キャラもそうだ。

ヒーローとは人気商売、人気の出やすいキャラを作るのはごく自然のことだろう。けれど、彼女は()()()()のはなんだか嫌だった。

 

「それでは、こちらですござる。」

 

「あ、は、はい。」

 

サクラゴゼンの後をついてビルを登る。その途中、数人のサイドキックとすれ違った。彼ら、彼女らは和風のヒーロースーツを着ていた。現代のビジネスビルに建物に和風の服を着た人たちが行き交っているのは少し違和感のある光景だった。

 

「ここが我らが天守閣、エッジショットの部屋でござる。」

 

そう言い、サクラゴゼンはノックをして扉を開けた。中は8畳ほどの和室である。カッコいい感じの行書(崩しすぎて読めない)が書かれた掛け軸などもあり、少し厳かな雰囲気だ。しかし、その雰囲気をぶち壊すようにカーペットが引かれビジネスデスクが1つ置かれている。その机にはエッジショットが座っていた。

 

「沖さん。俺はエッジショット。1週間だけだが、よろしく頼む。」

 

「………いえ、こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

かぶりが頭を下げるとエッジショットも軽く頭を下げて話を続けた。

 

「申し訳ないが、1週間ずっと君に付きっきりというわけにはいかない。そのため、職場体験中、君を見るのは彼女、サクラゴゼンに任せることになる。分からないことがあったら彼女を頼ると良い。……キャラ付け以外は優秀なヒーローだ。」

 

(キャラ付け以外は?)

 

サクラゴゼンが上司ともいえるエッジショットに異議を唱えた。

 

「お言葉でございますが、私のキャラ付けのどこに不満があるので()()()()()()?」

 

その言葉にエッジショットはため息をついた後に応えた。「沖さんも聞いておいてくれ」と、前置きをした後に話を続ける。

 

「ヒーローとキャラ付けは切っても切り離せない。人気商売な以上、名が売れるように、キャラを演じる者が出てくるのは仕方がない事だ。

しかし、ヒーローにとってのキャラ付けには、人気以上に大きな意味合いがあるのだと、俺は考えている。」

 

エッジショットは一度言葉をためてから続けた。

 

「1つ、人々の安心を与えるため。皆にヒーローがここにいる、と、安心してもらうためだ。ヒーローというキャラクターは、そこにいるだけで、皆が安心する。

2つ、抑止力。(ヴィラン)にたいしてここにヒーローがいることを示せればそれだけで犯罪は減る。目立つためのキャラクターだ。」

 

そこまで聞いてかぶりはなるほど、と、思った。ヒーローはそこにいるだけで安心と抑止力となる。しかし、一般人と変わらない姿の場合ではそうはならない。代表的なのは相澤先生だろう。

あの、キャラ作りも何もない、見た目が小汚いおっさんではヒーローだと気がついて貰えず、一般人への安心も、(ヴィラン)への抑止力もない。しかし、彼の場合はアングラ系ヒーロー。顔を知られない方が動きやすいし、ヒーローっぽく無い方が良い、という側面もあるから一概に否定はできない。

かぶりが1人納得しているとエッジショットはさらに言葉を続けた。

 

「そして、重要なのが3つ目、ヒーローになるためだ。我々もただの人だ。多くのヒーローは(ヴィラン)と戦うのはいつだって怖い。そして、誰かを守るというのは恐ろしいほどの重圧だ。だから、ヒーローというキャラを、()()()()()()()()()を演じる。そうすることで、恐怖や重圧に耐え、目指すヒーローに近づこうとしているんだ。無論、そんなこと必要ないヒーローも大勢いるがね。」

 

「……エッジショットさんも、怖いんですか?」

 

かぶりはその問いを口にしてから失礼だった、と、思い至った。しかし、吐いた言葉は戻せない。少し後悔しながらエッジショットの返事を聞いた。

 

「無論だ。情けない話、俺も戦うのは怖い。それに、俺が負ければ誰かが死ぬ。誰かを守るというのは重圧だ。それに耐えるために、そして、俺が理想とする姿に近づくために、エッジショットになっているんだ。」

 

(理想のヒーローになるためのキャラ付け……。)

 

その言葉は彼の本音だった。だからこそかぶりの胸にストンっと落ちた。

ヒーローのしているキャラ付け、きっと自分が知らないだけで多くのヒーローが恐怖を誤魔化すために行なっているのだ。そう思うと、少しヒーロー達への見え方は変わってきた。

 

「しかし、サクラゴゼンは恐怖や重圧をキャラ付けなどの方法で乗り越えるタイプでは無い。5年も共に仕事をしているが先月まではこんなキャラでは無かった。彼女のはただ、目先の人気だけを求めた急拵えのキャラ付けだ。だが、キャラで売り出すという観点から言ってもあまり上手くない。2人とも()()()()なのか、コスチュームのデザインも含めて決めるべきだ。」

 

(本当に取ってつけたキャラ付けだ!)

 

かぶりが心の中で叫んでいると、エッジショットは一度かぶりを見ると口を噤んだ。彼なりにサクラゴゼンに対して色々と思うところも多くあるが、学生の前で長々と注意するのは流石に良くないと考えたのだ。

 

「今の話はあくまでも俺個人の考えだ。違うという人も多くいるだろう。……では、話を戻す。職場体験の今日の予定だが、午前中はサクラゴゼン、彼女が事務的な仕事を教えてくれる。午後からは俺と共にパトロールに行ってもらう。明日以降の予定はこの資料に纏めてあるから目を通しておいてくれ」

 

そう言うとエッジショットは数枚の紙が入ったクリアファイルをかぶりに手渡した。それを受け取ると、サクラゴゼンの案内で更衣室へと通された。そこに荷物を置いてコスチュームに着替える。

 

「それでは、まずは、つまらないかもしれないけれど、座学から始めます。」

 

(あ、口調が戻った。)

 

サクラゴゼンは小さめの会議室で、そう言うとかぶりにA4の紙の束を渡した。そこにはパワーポイントが印刷されている。

午前中はそれを用いた講義だ。

内容はもっぱらヒーローの(ヴィラン)との戦闘以外の仕事だ。警察との連携、捜査、書類、そして知名度からなる芸能的仕事。かぶりの知らない事がかなり多かった。

 

「そして、ヒーロー事務所の収入は歩合よ。というよりも、ぶっちゃけ、()()()()()()()()()と考えれば普通の会社と同じなのよ。事務所を開くということは、言ってしまえば一つの会社の社長になるのと同じ。当然、ヒーローとしての仕事以外に事務所の経営が含まれているのです。」

 

その言葉にかぶりは、確かにそうだ、と、思ったが特に実感を持てなかった。事務所の経営、運営が大切。そんなことは知っている。けれど、具体的に何をすれば良いのか分からなすぎるため、イメージが全く掴めないのだ。

 

「まあ、実感が湧かないのは仕方ないわ。けど、今から考えていた方がいい。私はそれで失敗したから」

 

「失敗……ですか?」

 

かぶりのその言葉にサクラゴゼンは頷いた。

 

「ええ、私は広島にあるヒーロー科出身だったんだ。雄英のカリキュラムは分からないけど、私の所はそういう経営的な授業は殆どが学ばなかった。卒業後はヒーローとしての戦闘能力だけで、エンデヴァー事務所に就職した。エンデヴァーは当時からトップ2ヒーロー。あそこでは捜査も、戦闘も、救助も学べた。けれど、経営だけは学べなかった。

そう! 学べなかった! 教えてくれなかったのよ!」

 

サクラゴゼンは話しているうちにどんどんと語気を荒げていく。その様にかぶりは驚いて何も言えなくなってしまった。しかし、驚くと同時に彼女の中に余裕なところも存在しており、

 

(語気が()()()。それは、()()()ギーだから!)

 

なんてことを考えていた。

とはいえ、サクラゴゼンもブレーキが壊れた車のように言葉を続けた。

 

「事務所を立ち上げたけど!書類!運営!税金!知らないことばかり!エンデヴァーは専門の人雇ってたけど、新人には無理! 訳が分からないまま破産! 経営!営業! そんなの誰も教えてくれなかった!しょうがないじゃ無い! 借金背負って未だに事務所再建の目処は立っていない!同期はみんな成功してるか寿引退!

あー!沖さんも気をつけた方がいいよ!周りの人って何も考えてないようでちゃんとしてるから!蹴ることしか考えてないとか言ってたのにルー子のヤロウも!オフィスレスとか気取ったことやって!書類とかはテレワークの人に全部任せるとか凄い事やってるの! あー!くそ! 私だって売れたい! ファンクラブとか欲しい!! 結婚したい!」

 

なんだこの人?と、かぶりは思ったが、口に出すことは無かった。

というよりも唖然としてしまい何も言えなかった。対してサクラゴゼンは一度咳払いをして話を戻した。

 

「と、まぁ。ヒーローとして働くには、(ヴィラン)を捕まえるだけではやっていけないの。今のうちから経営関連の知識も身に付けておくべきよ。」

 

そんな感じに昼過ぎまで座学は続いた。ためになる話も多かったが、結局のところサクラゴゼンがなかなかにアレな人という印象が強く本筋のイメージが薄くなってしまった。

そして、社食でカレーを食べて午後、エッジショットを交えて3人でパトロールに出た。

 

「パトロールとはヒーローにとって重要な仕事の一つだ。ここにヒーローがいる。ヒーローが見ている。ただそれだけで人々は安心し、そして、(ヴィラン)への抑止力となる。犯罪数を根本的に減らす効果がある。」

 

エッジショットはヒーローの仕事の進め方を説明しながら歩く。当然、ファンの人とも出会うが慣れた様子でいなしていく。そんなエッジショットの姿を見てかぶりは考え方も、そして、技術も全て今の自分からかけ離れていると実感した。

 

「しかし、ただ歩いているだけでは抑止力にはならない。パトロールをしながら周囲の状態を把握するんだ。周囲に対する異変を感じとり、本当に何も無いのか、犯罪は起きていないのか、それらを確認しながら歩くんだ。おそらく、君の"個性"なら俺よりも多くのことがわかるはずだ。」

 

「は、はい!」

 

その指示に従いかぶりは感知能力を使い周囲を警戒する。その真剣な様子にサクラゴゼンは少し笑ってしまった。別に彼女がおかしかった訳ではなく、単純にその真剣な様子が微笑ましく、自分がもう無くしてしまったものを見た気がしたからだ。

 

「サクラゴゼン。沖さ……、ブラッタとの活動は君にも、そして、俺にも有意義なものになるはずだ。若さとは、原点はそういうものだ。」

 

「はいでございまする。」

 

「………。」

 

そんな会話をしながら3人は街を進んでいく。そんな折、3人が耳につけている小型のインカムに男の声が流れた。

 

『銀行強盗発生! 犯人は模須(もす)通りを北上!現在、西小学校を通過!』

 

「「了解!」」

 

その通信が来るとエッジショットとサクラゴゼンの表情が切り替わり駆け出した。かぶりは慌てて2人についていくが、それだけで何をすれば良いのか分からない。犯人を捕まえる。やるべきことはこれだ。しかし、今、何をすべきなのかが分からない。

 

「模須通り、西小……。まもなく前方の交差点を通過すると思われます!」

 

サクラゴゼンは脳内に地図を思い浮かべて言った。その言葉にエッジショットは頷く。

 

「ブラッタは初の実戦だ。できる限り着いてきてくれ!無茶はするな、今はしっかりと見る事が大切だ。後で所感を聞く!」

 

「は、はい!」

 

返事をして2人を追いかける。その時、かぶりは猛スピードで走行する車を探知した。明らかにスピード違反だ。おそらくその車が犯人のものだろう。

 

「え、エッジショッ……。」

 

その事を伝えようとした時には、既に2人は動き出していた。

サクラゴゼンは右腕の袖をまくり掲げた。

 

「桜忍法! ゴッドハンド!」

 

すると、腕から桜色の光るスライムのようなエネルギー体が現れた。それらは空中で集まり巨大な手となった。サクラゴゼンが手を振るとそれに連動したように高速で飛び交差点の真上まで移動した。そして、犯人が乗っているかと思われる車が来ると掴み上げた。まるで、クレーンゲームのようだ。

これが彼女の"個性" 桜エネルギー。桜色のスライム状のエネルギーを操る事ができる。そのエネルギーで物を掴むも良し、弾丸として放つも良し、盾とするのも良し、刃のようにして切り裂くのも良し、乗って移動するも良し、鎧のように纏うのも良い。汎用性がかなり高い"個性"だ。

 

(あれ? エッジショットは?)

 

かぶりはエッジショットが居ないことに気がついた。感知能力は常に使っていた。しかし、とはいえ、完璧ではない。サクラゴゼンのゴッドハンドに気を取られている間に移動してしまったのである。

 

「忍法・千枚通し。」

 

その言葉と共に持ち上げられている車の後部座席の扉が開いてエッジショットが降りてきた。見ると車の中の犯人は既に気絶している。彼はサクラゴゼンが車を持ち上げた直後に、扉と車体の隙間から中に忍び込んだのだ。

これが彼の"個性"紙肢、身体を紙のように薄く引き伸ばす事ができる。

 

(一瞬で?)

 

その出来事はまさに一瞬だった。先ほどまで(ヴィラン)が走っていた道路は何事もないように車が走っており、まるで事件なんて起こっていないようだ。さらに、当の(ヴィラン)は車の中で気絶して再起不能。数秒にも満たない捕縛なのに、周りの被害は皆無。

完璧すぎる。

 

「ブラッタ、今の捕縛で感じたことはあるか?」

 

警察や事務所に連絡をしているサクラゴゼンを他所にエッジショットはかぶりに問いかけた。その問いにどう答えようか悩んだが、思った事をそのまま口にする事にした。

 

「……正々堂々やらなきゃ、とかは思ってはいませんが、一方的すぎて、少しずるいなと思いました。相手に何もさせずに終わらせる……。凄いスピードでした。」

 

「……悪くない着眼点だ。今回の戦闘を卑怯だと感じる人も多いかもしれない。だが、(ヴィラン)との戦闘で最も大切なのは()()()()()()()()()ことだ。何故だか分かるか?」

 

その返しの答えは直ぐに分かった。かぶりは(ヴィラン)の"個性"を消してからの不意打ちという戦法を得意とする相澤先生の教え子だ。不意打ちの重要性や、彼が考える戦闘論理は軽くではあるが教えられている。

 

「被害を出さないため、そして、安全に倒すため、です。戦闘になれば周りに被害が出る可能性がありますし、超常社会、"個性"によっては使われた時点で負けが確定することもあるからです。」

 

「正解だ。相手に何もさせない。一方的にこちらの戦いを押し付ける。被害を出さずに捕縛するには、これを徹底する必要がある。大袈裟だが、戦闘になった時点でヒーローの勝ちは無くなると考えていい。」

 

このエッジショットのこの考え方は、直ぐに理解出来た。多くの人が想像するヒーローは(ヴィラン)と熱い戦いを繰り広げている。しかし、それではダメなのだ。戦闘になればなんらかの被害が生まれる。道路が壊れるかもしれない、建物が崩れるかもしれない。

この被害が生まれている時点でヒーローの勝ちではない。

 

「はい、分かりました。」

 

ヒーローという職の責任の大きさを改めて感じた気がした。

 

 





・エッジショットの活動拠点
記憶が確かなら彼の活動拠点は触れていない。しかし、シンリンカムイとマウントレディとチームを組むことから、3人の拠点はそう離れていないと考えられる。
また、マウントレディとシンリンカムイは出久が中学の時、通学中に活動を目撃していることから、活動範囲に出久の家の近く?


・雉見市
オリジナルの街。現実にもヒロアカにも存在しない。

・サクラゴゼン
普通に強い、普通にぶっ壊れレベルの"個性"
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。