"個性"ゴキブリ 作:ゴッキー
林間合宿 前編
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「林間合宿、全員で行きます!」
この日の授業は相澤先生のこの言葉から始まった。
もともと、相澤先生によれば期末試験で赤点を取った者は林間合宿には参加できないという話だった。そのため、実技試験をクリアできていない者は失意のどん底であった。
だが、先生のこの合理的虚偽の言葉でその空気は反転した。
まぁ、赤点を取った人にはキッツイ補習があるそうだが、それでも全員で行ける事はいい事だ。
ということもあり、葉隠の提案から休日にクラスで買い物に行くという話が出た。しかし、その日、かぶりは1日バイトだったため行く事は出来なかった。
USJ事件や、かぶりは巻き込まれ無かったがショッピングモールの事件などにより、合宿場所はかなりの厳戒態勢で行われる事になった。それでも、生徒にとっては楽しみということには変わらない。
軽い旅行気分だ。
バスの中は盛り上り、もはや軽いパーティのようになった。
そして、なぜか順番に一発芸をやることになった。
飯田の意向により席をたたない芸という縛りの中、皆が様々な一発芸をこなした。中には滑り倒す者や、セクハラをして女子達に【自主規制】される者までいたが、生徒のテンションは二次関数のように上がっていき、かぶりの順番が回ってきた。
(よし、やるぞ)
かぶりはこういう舞台は好きだ。
ボケに回るか、真面目にやるかで頭を悩ませる。しかし、ボケに関してはヒーローネームの時にやっているので真面目な方の一発芸をすることにした。
「じゃ、じゃあ、ラップを……」
クラスの全員はかぶりに集中する。ラップという普段大人しいかぶりにはにつかない言葉に驚いていているようだが、それでいて緊張している。
「えっと。では、何かテーマを……。」
かぶりは自分からテーマを探すのはあまり得意ではない。今まで使ってきた駄洒落も、突発的に思い浮かんだだけで、作ろうとした訳ではない。
そのため、適当なテーマを募ることにした。そこで1番に手を挙げたのは瀬呂だった。気さくな彼はクラスの賑やかしのような立ち位置におさまっている。
「じゃあ、爆豪で」
だが、ここで彼の名前を出すのは林間合宿という非日常にテンションが上がっていたからだろう。勝己でラップなど、火薬庫の中で花火をしろと言っているようなものだ。
「は? ざけんな!」
と叫ぶ勝己だが、その様子に瀬呂は意地悪い笑みを浮かべながら宥める。
「いや、こう言う場面でないと不満とか言えないだろ?盛大にディスって貰えって。」
「不満なんてねぇわ!」
爆豪と瀬呂の会話に出久は慣れてきたとはいえ、驚きを隠せない様子だ。
一方、かぶりはと言うと真剣に頭を巡らせていた。
彼女はラップは好きだが、他人に対して悪口を言う、という行為はあまり好きではない。
格闘技は好きだが喧嘩は嫌い、と言えばイメージはつきやすい思うが、ラップバトルの
そのため、普段のかぶりであれば断るか、もしくはディスることはしない。たとえ、
だが、今日は彼女にとって初めてと言って良い旅行だった。
小・中学生の時も修学旅行にも参加した事がなかったし、家族旅行の記憶なんてない。そのためテンションは張り切って1周どころか3回転半くらいしていた。
だから、勝己をテーマでラップをすることにしてしまった。
「よし、では……。」
かぶりは目を瞑り一度深呼吸をする。一瞬、彼女の思考はいつも以上に加速し、知っている語彙が脳を駆け巡る。
そして、短いが一発芸として成り立つ程度には完成した。
「
でも、その形相はまるで
そんなヒーローマジで
そんなんで
イェーイッ!」
その即興で作ったラップは、クラス全員の共感を集めた。本来であれば盛り上がるはずだった。
しかし、とある1人の少年から出る殺気と怒気により、バス内は一気に冷静となった。
「うっせぇ!ゴキブリ女!ただの暴言じゃねぇぇえか!」
勝己が叫んだ。それにかぶりは一瞬、ビクッと跳ねた。なんだかんだで知り合って長いが勝己のあの顔に慣れることはない。
これは
「沖君!たとえ事実でも失礼だぞ!」
飯田はすかさずかぶりを注意するが、その言葉もなかなかに失礼である。おそらく彼もテンションが上がっているのだろう。
とはいえ、そんな賑わいを見せる生徒たちを他所にバスはみるみるうちに速度を落として停車してしまった。
「おい、降りろ。到着だ。」
相澤先生が静かにそう言うとクラスは静まり返った。どんなに騒がしくても一声で静寂を取りもどす。彼の言葉には(A組限定だが)不思議な力があった。思ったよりも早く着いたな、と、生徒たちは薄々疑問に思いながら外に出ると、そこは山道であった。
パーキングもなく、道の駅も無い。ただの道だ。
その光景に生徒達は少し嫌な予感がした。
その時、軽快で明るい名乗りが響いた。
「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」
その言葉とともに息のあったポーズをとりながら猫をモチーフにしたコスチュームを着た2人組の女性が現れた。
彼女たちは4人1組で連名事務所を組んでいるプロヒーローである。その突然の登場に出久は楽しそうにヒーローの情報を早口で吐き出している。もはや伝統芸だが、話しているヒーローが誰だか分からないという失礼な対応をしないで済むので、意外とありがたい。
「ここら一体は私らの所有地なんだけどね。」
赤を基調としたコスチュームを着るマンダレイはそう言い仲間ら遠くに見える建物を指さした。
「あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね。」
「「「遠っ!!」」」
マンダレイのその言葉が先ほどからあった嫌な予感を確信に変えてしまった。雄英高校でよくあるアレだ。唐突な無茶振り。更に向こうへ行くための難関だ。
「に、逃げろ!」
第一声は切島が上げた、その叫びに呼応して生徒たちのうち数名はバス目掛けて走り出した。無論、かぶりも駆ける。
四つん這いで、一瞬にして加速する。だが、そんな速さなんて関係ない超広範囲で地面が隆起した。
(え?)
例えるなら大地の大波。速度も力も全て無にして押し流す、地面の奔流。相澤先生が何か言っているようだが生徒の耳には届かず。訳のわからないまま崖下へと押し流されてしまった。
「私有地につき"個性"の使用は自由だよ! 今から3時間! 自分の足で施設までおいでませ! この!魔獣の森を抜けて!」
そのRPGのような名称に困惑を覚えながら生徒の面々は起き上がった。
この唐突なはじまりは
仕方がないと皆は思考を切り替えた。
(え?ナニコレ!)
そんな中、かぶりは巨大な何かを探知した。
探知性能では耳郎や障子に大きく劣る。しかし、2人とは異なり彼女の探知は常に発動している。集中している時と比べれば精度も範囲も大きく劣るが、間近に迫る巨大な物体は逃さない。
混乱していた思考が引き締まる。そして、何を思ったのか迫るナニカに向けて走る峰田を見つける。
「っ!待って峰田くん! そっちは不味い!」
その叫びの意味を周りの生徒たちはすぐに理解した。峰田の前には巨大な魔獣が現れた。クラスメイト全員の思考が一瞬止まる。
そんな中、何かが居る事は分かっていた、かぶりはいち早く動けた。
「っ痛」
全力の加速から、そして、峰田を掴んで一気にUターン。まさに急加速、急停止、急加速、という動きだ。ゴキブリの"個性"を持つかぶりの身体でも多少の負荷はかかり、脱皮により剥がれかけていた皮膚が割れ身体のあちこちにヒビが生まれる。
その痛みはまるで治りかけのカサブタを引きちぎったものに近い。というかほぼ同じである。
「鎮まりたまえ!獣よ! 下がるのです!」
しかし、彼の動物を操る"個性"を用いて魔獣を操ろうとしたが効果はない。
アレは動物ではない。
魔獣は真っ直ぐに口田へと向かい前足を振り上げた。
このままでは不味い。
口田は"個性"が効かないため焦り逃げられる状態ではない。他の生徒も同様だ。
しかし、すでに職場体験で修羅場を越えた3人が動き始めていた。出久、勝己、轟、飯田の4人は、瞬く間に魔獣を倒してしまった。
その様子に3人と仲良い生徒はワイワイと声をかけ始めた。かぶりの下にも女子生徒が声をかけに近づいた。
「沖………っ。」
「沖さん……。どうぞ、除菌シートです……わ。」
耳郎はなんとも言えない表情をし、八百万はヤオモモ印の除菌シートを手渡してきた。それもそのはずだ。かぶりが2メートルほど距離を空けている峰田のズボンはビショビショだった。
峰田を無視するのはある意味優しさからだ。ここで優しい言葉をかけるとそれはそれで傷つけてしまう。
こればかりは運が悪かった。
「あ、ありがとう。八百万さん……。大丈夫、かかってない……。そ、それより。じ、耳郎さん、広範囲探知お願い。ナンカ沢山いる!ま、まだ、終わってない!」
そう、一体だけでは終わらない。
この魔獣の森には多種多様の無数のモンスターが潜んでいる。
そこから地獄のような戦闘が始まった。
倒しても倒してもモンスターが現れる。というよりも、モンスターを倒せば戦闘の音で更にモンスターを引き寄せる。だが、戦わなくては進めない。
そのため、息を吐く暇もなく戦闘が続く。単独でも倒せなくは無いレベルだが、絶え間なく現れる魔獣との戦いはかなりキツい。
皆それぞれ協力し合い助け合いながら、少しずつ前に進んでいくしか無いのだ。
「や、八百万さん!この先、泉的なのがあるから、迂回すべき! 」
かぶりの役割は斥候である。一足先に周囲を移動して地形や
索敵ならば耳郎や障子の方が得意だが、音だけでは地形の把握は難しいし、障子の目視では木々の生い茂ったこのフィールドでは余り役に立たない。それに何よりも周囲のモンスターを探るのに忙しすぎてそこまで手が回らない。
また、ステルスならば葉隠の方が良いが彼女では移動速度が遅すぎる。情報は新しければ新しいほど良いため、移動速度、隠密性索敵能力、さらにいざという時の戦闘力を備えたかぶりに白羽の矢がたった。
「分かりましたわ! 進行方向を10時の方向へシフトします。 飯田さん!」
「了解!」
八百万がそういうと、モグラのような見た目のモンスターを屠った飯田が周囲の仲間に知らせに走る。
ここに落とされて既に3時間が経っている。プッシーキャッツが指定した時刻を超えているが、それでもまだ、半分も進めていない。
その事実が疲労とあいまり、生徒たちの精神にダメージを与えている。あの勝己でさえ、A組メンバーから離れずに独断行動を控えている。それほど、この森は恐ろしい。
身体を引きずり、挫けそうな心を無理矢理奮い立たせ、17時15分、A組メンバーは合宿所に辿り着いた。
「とりあえず、お昼、抜くまでもなかったねぇ」
マンダレイのその言葉にクラスメイトはなんとも言えない表情となった。空腹と喉の渇き、疲労が限界だ。というか、死にそう。
全員が半分魂が抜けかけており、もはや、プッシーキャッツや相澤先生の言葉は半分も入っていない。かろうじて名指しされている面々はついていけてる感じだ。
(……なんだ、あの人……。)
今にも眠りそうなかぶりは、適齢期がアレで暴走しているピクシーボブを漠然と見ていた。というか、こんな茶番をするなら寝かせるかご飯を食べさせて欲しい。
その時、ふと、出久の呟きが耳に入った。
「その子は誰かのお子さんですか?」
出久からすれば純粋な疑問だった。ヒーローオタクである出久の耳にはプッシーキャッツの誰かが既婚者だと入ってきていない。というよりも、プッシーキャッツは未婚であるというのがネットイメージだ。
とはいえ、未婚だと思われていたが実は既婚者でした、というパターンは結構多いので、イメージとは当てにならない。
「その子は私の
その会話を聞きかぶりは、マンダレイ達と共にいる少年を見た。目つきの悪く、こちらを睨んでいる。しかし、その目つきにかぶりは寂しさにも似た既視感を覚えた。
(じゅうせい? ……じゅうせい、従甥か……。)
夏休みだから遊びに来ているのだろうか? と、かぶりは思いたかったが、少年の目つき、雰囲気が
明確な理由はない。ただ、その少年を見ていると、彼は酷い孤独なのではないかと思えてならなかった。
とはいえ、今は夕飯だ。死にかけの身体に栄養を入れたい。
(ん! 美味しい!)
そのご飯はめちゃくちゃ美味しかった。
疲れているから、とかではなく、家事担当であるかぶり自身の技量の問題である。
空腹とあいまり、まるでブラックホールのように夕飯が胃袋へと入っていく。ハイテンションで騒いでいる人も多くいるが、かぶりは無言で頬張った。
(よぉし、お腹いっぱい。)
まだ、食べてる人も多いがお腹いっぱいとなったかぶりは大きな欠伸をした。お腹が満たされれば次は睡魔だ。身体には良くないが今すぐ横になりたかった。
ふと、周囲を見渡すとダンボールを運んでいる少年、洸汰が目に入った。
(あの子、コータくんだっけ?)
「あ、あの、マンダレイさん」
どうしても気になってしまい、かぶりは我慢できなくなり小声でマンダレイを呼び止めてしまった。マンダレイは立ち止まると辿々しい彼女の言葉を待った。
「あの、そ、その。あまり、聞いて良い、質問では無いと思いますが……。その、コータくんのご両親って……。」
周りには聞こえない程度の小声でかぶりは言葉を紡ぐ。マンダレイはその質問に嫌な顔せずに、かぶり同様に小声で答えた。隠しているわけでは無いが余り気分の良いものではなく、言いふらす内容でもないからだ。
「……居ない。ヒーローだったんだけど、殉職してしまったんだ。」
「…………………ありがとうございます。いえ、私も親戚の家で育てられてるので気になりまして」
その返しにかぶりは、ショックではあったが驚きはしなかった。なんとなく予想はついていたのだ。
ヒーローを憎む目も、周りに味方がいないって感じの雰囲気も、なんとなく共感できてしまった。分かる、なんて気軽に口に出来ないし、全てを理解できるわけではない。
それでもかぶりはその気持ちを知っていた。
(ヒーローが嫌い。それは良いんだけど)
明確に何を言いたいかとかもない。けど、何かを伝えたい。洸汰と何かを話したいと思った。
似たような境遇だからこそ、お節介かもしれないが何かをしてあげたいと思った。
そんなモヤモヤを抱えたまま、入浴の時間となった。
「沖、大丈夫? なんか、ボロボロだけど……。」
脱衣所で服を脱いだかぶりに響香はそう言った。それもそのはずで、彼女の至る所にひび割れのようなものが浮き出ている。見るからに痛そうである。
「これ? 大丈夫だよ。脱皮の影響だから、そのうちズルって行くから」
「ズルって……。」
そんな会話をしながら入る。大浴場は大きく、なかなか趣のある露天であった。背の高い塀を挟んで隣に男湯があり、向こう側は中々に騒がしい。
その塀を見ながら耳郎はふと呟いた。
「ウチ、凄い嫌な予感がするんだけど」
その呟きにクラスの全員は塀の方を見た。
いや、まさか、と、言えないのがA組の恐ろしいところだ。
「他の方達もいますし、平気だと思いますけど……。」
八百万の言葉は願いにも似ていた。しかし、峰田1人が暴走しても他のメンバーがカバーしてくれるとは思いたい。
しかし、隣からやばい声が響いた。
「壁とは越えるためにある!! Plus Ultraさ!!!」
その声を聞き女性陣は反撃の体制へと入った。あの紫の頭が見えた瞬間に、仕留める。残り少ない体力だが、それだけに集中した。
けれども、そんなことは起きなかった。
「ヒーロー以前に、ヒトのあれこれ学び直せ」
その言葉とともに洸汰が塀の上に現れて峰田を突き落としたのだ。
まさにこの時、彼はヒーローだった。
「ありがとう!洸汰くん!」
洸汰への賞賛が巻き起こった。その声に彼はふと振り返ると、当然だが、裸の女性達がいる。彼も5歳とはいえ男の子だ。その衝撃に耐えられず、男湯の方へと倒れてしまった。
「こ、洸汰くん?! だ、大丈夫!?」
かぶりが声を上げると、息を切らせながら出久の声が返ってきた。
「怪我はないみたい。けど、気絶してる。心配だからマンダレイ達のところに連れていくよ!」
「わ、分かった。」
なんとか大怪我はしなかったようだ、と、かぶりは小さくため息をついた。しかし、気絶というのは気になる。もしかしたら頭とか打ったのかもしれない。
「ちょっと、心配だからもう上がるね。」
皆にそう挨拶して、かぶりは風呂から上がった。
身体を拭いて部屋着へと着替え終えたあと、かぶりは出久がどこへ洸汰を運んだのか知らないことに気がついた。しかし、怪我人を運べる場所なんて限られている。ひとまず、近くにある管理人室へ行ってみる事にした。
(確かこの辺りに、管理人室が……)
大浴場へ行く際に[building manager office]と書かれた部屋があった事を思い出した。英語で管理人室という意味だが、どうしてわざわざ分かりにくい英語で書くのか、と、かぶりは少し疑問に思ったが、取り敢えずそこへ行く事にした。
「ヒーローだったけど、殉職しちゃったんだ」
管理人室の扉は開いており、中にいる出久とマンダレイ、ピクシーボブの声が聞こえてきている。
内容は洸汰の事でかなり深刻な内容である。かぶりはどうしても気になってしまい、悪いなと思いながら聞き耳を立ててしまった。
洸汰の両親がヒーローで、
世間では亡くなった両親を褒め称えたこと、
マンダレイのことをよく思ってないこと、
洸汰にとってヒーローとは理解できない気味の悪い存在であること、
マンダレイが語る洸汰の話は重たく、そして悲しい内容だった。
そして、かぶりには、どうしようもなく
しかし、
(ヒーローは嫌いか、そうだよね。多分、彼はヒーローじゃあ助けられないから…)
思い出すのはかつて、叔父夫婦とお互いに歩み寄ろうとしていた時のことだ。かぶりはいい子でいようとした。叔父夫婦も優しくしてくれた。
しかし、それだけだった。歩み寄ろうにも他人という一線はお互いに超えられなかった。
それが寂しくてもどかしくて、遠慮から吐き出せない鬱憤が溜まっていた。そして、時が経つに連れてその距離は離れていき崩壊した。
(もし、私が少し勇気があれば変わったのかな)
関係ない思考を放棄する。今はもしもの話では無く洸汰についてだ。
勇気を振り絞って部屋の中に入った。
「マンダレイ。失礼、します。 コータくん、み、緑谷くん!服!」
かぶりは慌てて出久から視線を外した。対して出久は「ご、ごめん」と謝り、顔を真っ赤にして部屋から出て行った。出久が去ると部屋にはマンダレイとピクシーボブ、洸汰、かぶりの4人となった。
「落ちた時の恐怖で気絶しただけみたいだから、心配ないよ。」
「………良かった。」
マンダレイの言葉でかぶりは少しだけ安心した。けど、洸汰のために何かをしたい。その想いから口を開いた。
「ま、マンダレイ、コータくんは、多分、寂しいんだと思います。」
そのいきなりの事にマンダレイとピクシーボブは驚いた。しかし、必死に言葉を紡ぐかぶりの様子に次の言葉を待つ事にしたようだ。
「私も、両親が
コータくんは多分、その寂しさを誤魔化すために嫌いなものに当たってるだけだと思います。」
義叔母は義姉を叱る時に何度か手が出ていた。けど、かぶりはされたことが無い。当時はそれがとても苦しかった。家族じゃない。他人だって言われているような気がした。
かぶりは
「マンダレイ、勇気を出して強く叱ってあげて下さい。たとえ嫌いなヒーローでも、もう家族なんだって言ってあげてください。1人っていうのは、本当に信じられる人がいないって言うのはとても辛いんです。
難しいってことは分かっています。私は失敗してしまったので……。その、だから、失敗してほしくない。」
どうか、関係が崩壊する前に。あんな想いをする人は居てはならない。
(失敗?)
マンダレイは、かぶりの顔を見て深掘りするのを辞めた。それ以上踏み込むのを憚る、悲しい雰囲気を放っていたのだ。
「……………。そうだね。その通りだよ。……洸汰には、私しか居ないんだよね。」
私も覚悟が足りて無かった。と、マンダレイはつぶやいた。
洸汰は私の子どもです、と、断言することなんて出来ない。けれど、それくらいの覚悟が必要なのだ。
「……ありがとう。」
母親としての覚悟、そんなものは持てないかもしれない。それでも子どもを育てるにはそれくらいの覚悟が必要だ。
マンダレイはそう思い、かぶりに礼を言った。
どうでも良いこと、
洸汰くん、難しすぎる問題。
堀越先生もおっしゃっていましたが、彼、難しい。いや、かぶりの設定上こうなる事は分かってたけどさ。絡まざるを得ない。