"個性"ゴキブリ 作:ゴッキー
タルタロスとは危険な"個性"を持つ
拘置所として扱われているが、しかし、その実態は国民の安全を著しく脅かす、または脅かした人物を厳重に禁固し監視下に置くものであり、人権なんて考えられていない施設である。世間では一度でも入れば生きて出ることは叶わないと言われており、”個性”社会の闇とも呼ばれている。
そんなタルタロスの面会室にてガラス越しに2人の少女が向き合っていた。1人は
また、この場の監視カメラも含めた記録全ては公安が管理することになっておりタルタロス側は何も知ることが出来ない。
「……才ねぇ。ごめん。私のせいで、巻き込んだ……。」
ジャージにも似た囚人服を着たかぶりはそう呟いた。彼女は金属製の輪っかを触覚を巻き込む形で頭に取り付けられ、太いベルトで椅子に縛り付けられている。その様子を見て、才子は腹が立った。かぶりのやったことは悪いことだ。捕まって当然のことである。それは頭では理解している。しかし、大切な義妹が捕まっているところを見ると怒りがふつふつと湧き上がってしまう。
だが、それ以上にあるのは後悔だ。
「……ごめん、私も守れなかった。お姉ちゃんなのに、見捨てた。助けを求められても何も出来なかった。お姉ちゃん失格よ。」
もし、見捨てて無かったら。
もし、あの場から助けられていたら、
そんな想いが止まらない。逃げ出した自分の所為だと思えてならなかった。
「違うよ。お姉ちゃんに失格とか合格なんて無いよ。才ねぇは才ねぇだ。それに、
その言葉を聴いて才子は悔しくて、自然と涙が流れた。妹にこんなことを言わせているのが不甲斐ない。壁の向こうで忘れてと言われているのが情けない。
それに、
「………そんなの、無理だよ。たとえ、失格でも。間違えばかりでも、一度でもお姉ちゃんなんて呼ばれたら、もう、忘れられるわけないじゃない。」
「………でも、それでも。才ねぇには幸せになって欲しいんだ。私なんて、害虫なんて気にしないで、ちゃんと、日の当たるところを生きてほしい。私は死んだんだ。だから、何も問題ない。だから、もうここには来ないで」
それだけ言うとかぶりは顔を伏せてしまった。手足を縛られているためそこに留まっているだけだ。もし、自由に動けたのなら部屋から出て行ってしまってただろう。
(違う。そうじゃない。私は……ただ)
脳内に広がっているもしもの世界。幸せしかない妄想。才子はただ、その場所に憧れていただけだった。しかし、少しずつ現実は妄想と乖離していった。それが怖くて逃げ出した。
けど、もう逃げたくない。たとえ、もう手遅れだとしてもこの手を伸ばし続けたかった。
(たとえ、全てが手遅れでも)
「それでも、私はかぶりのお姉ちゃんでいたいんだ。だから、こんな事言える立場じゃないけど、ここから出て、もう一度だけ、チャンスをちょうだい。」
これが才子の本音。我儘だ。幸せも、責任も、苦痛も何もかもを投げ捨てた才子の心からの願いである。2人で幸せになりたい。かぶりのお姉ちゃんでありたい、たった、それだけなのだ。
「……公安になれってこと? 無理だよ。私は私を信用出来ない。私ね。才ねぇのこと大好きなんだよ。でも、それと同じくらい殺したくてたまらないんだ。
「………………そんなの! そんなの……!私は殺されない!殺させない!」
叫びながら才子は2人を遮る強化ガラスを叩いた。その瞬間、背後にいる公安職員は迷わず銃を構えた。何かあれば即座に撃ち殺す。そういう契約でこの場は成り立っている。
「……さ、才ねぇ?」
才子はかぶりの言葉にどうしてか、イラッとして怒鳴ってしまった。彼女はあまり、声を荒げる方では無い。怒る時もどちらかと言えば理路整然として静かな方だ。しかし、今回ばかりはダメだった。一瞬にして沸点を突破してしまった。
しかし、だからこそ本心が出てくる。
「……かぶりはいつもそうよ。自分の本音に蓋をして!我慢してる! 違う、自分すらも騙してるのよ!やりたい事があるならちゃんと言って、たとえ出来ない事でも、閉じ込めないで! もう、私は騙されてあげないから」
才子が小さい頃から感じていたが、ついぞ言えなかった。それに触れることで何か良くないものが出てきそうで怖かったからだ。だが、それは間違いだった。
かぶりの闇。心の中に吹き溜まっていた悪意が溢れ返り、取り返しのつかないことになってしまった。もし、もっと早くそれに気がつけていれば、きっと違った結果になっていただろう。
(私はもう、間違えたくない。かぶりの本当の想いを!)
姉として一緒にいたいという我儘。かぶりの本心を叶えたいという願い。この2つの感情は必ずしも併存出来るものではない。下手をすれば矛盾が生まれかねない。
そんな事、才子だって分かっている。しかし、それでも、もう後悔したくない。伸ばした手を離したくないという一心で、縋り付くように叫んだ。
「かぶりは、どうしたいの?!」
いつの間にか才子は涙を流していた。その様子にかぶりは申し訳なさそうな、今にも泣きそうな表情をした。閉じ込めた想い。自分でも気づかないように、と、奥へと仕舞っていた感情を引っ張り出される。
それはまるで、心のウチへと侵入され犯されているようだ。
かぶりは自分の感情を誤魔化す事は得意だった。嫌な事を我慢して、それを当然だと受け入れ、自分の世界だけで生きることは昔からやってきた事だ。しかし、それでも、もう誤魔化せなかった。全てを失った後、唯一の家族、ただ1人本当になれた、なりたいと思えた存在だ。
そんな彼女を拒める訳が無かった。
「……わ、私も、む、昔みたいに才ねぇと遊びたい! 仲直りしたい! 確かに恨んでるよ。見捨てたことを怒ってるよ。でも、それ以上に前みたいになりたい!」
一度、溢れ出した想いは我慢できない。心の奥底から引っ張り出されたその叫びは涙と共に溢れ出してしまった。
普通になりたい!
自分のやりたいことで胸を張りたい!
自由に過ごしたい!
才ねぇと一緒に、静かに暮らしたい!
たい、たい、たい!と、我慢していたやりたいことを叫ぶ。しかし、その殆どは、もう叶わない。どうしようもなく手遅れなことや、他のことと整合性の取れていないことばかりだ。
だけど、それでもかぶりの本音でやりたいことなのだ。今まで見ないふりをしていた欲望、願望は悪意とも違う彼女の本音だ。
「なら、それを叶えるべきだよ。全部は無理かもしれない。でも、我慢する必要なんてないんだ。だって、かぶりの願いは全部、素朴なものだもん。」
「……じゃあ、私の悪意はどうなるの? 止められないかもしれないんだよ?」
「大丈夫。私がいる。かぶりの悪意なんて私が全部受け止める。」
才子は有無を言わせないほど、力強く言った。実際には受け止められる保証なんてない。けれども、その言葉はかぶりにとってはどうしようもないほどの救いの言葉だった。
「本当に?」
「うん、悪意だけじゃない。かぶりの願いも、想いも、全部、受け止めるわ。だから、これからは一緒に居よう!姉妹として、親友として、もう一度、やり直そう! 公安の仕事は殺し屋みたいで正直、よく思えない、でも! こんな所に閉じこもってるよりはマシよ!」
その言葉で守られていた殻が砕けてしまった。出て行っていいのかという悩み、殺してきた罪悪感、罪の意識はある。しかし、もう拒むことが出来なかった。
ここから出て、才子と2人で生きていく。確かに公安に良いように利用されることになるが、それでも、才子と一緒にいたかった。
「……。ありがとう、才ねぇ。」
◆
こうして、かぶりはタルタロスから出ることとなり、公安として働くことになった。書類上では沖かぶりという少女は死んだままであり、
つまり、公安はこの2人をいつでも
「へぇ、これがヒーロー仮免許……。」
夏休みが終了し暫く経った休日。才子はかぶりが住むアパートに来ていた。ここは公安が借り上げ社宅として彼女に提供したものだ。とはいえ、(公安は特に意識していないが)1LDKで、風呂トイレ別という今までのかぶりの暮らしを考えたら広すぎるくらいの優良物件である。また、立地は才子の通う聖愛学院から電車で行ける距離にある。
「うん、昨日、会長さんから送られてきた。暫く、
ここまで話して、才子があと数日で仮免試験に挑むことを思い出した。ズルをして免許を発行してもらってる事がなんだか恥ずかしくなった。本来なら今頃、牢屋の中のはずなのだ。
「その、ごめ……。」
「このヒーロー名、公安が勝手に決めた?」
咄嗟にかぶりが謝ろうとしたのを遮り才子は口を開いた。そのいきなりの問いにかぶりは驚いたが、すぐに才子がわざわざ話を逸らしてくれたのだと思い至った。
「うん。そうだけど、どうして?」
「ブラック・ビートルって、かぶりっぽくないもの。昔から、もっと簡潔な名前が好きだったじゃない?」
才子は仮免許を見ながら懐かしそうに言った。昔からかぶりは長い名前よりも簡潔で短い名前を好んだ。そのため、彼女が考えた場合、複数の単語から作られるとは思えなかったのだ。幼い頃、ヒーローごっこをしていても初めはミルコガールとか名乗っても、長いなどの理由でミールや、ガールなどに落ち着いていた。
「あー、そうかも?」
対して才子に指摘されたかぶりは曖昧に頷いた。確かに自分で考えたヒーロー名もすごく短いものだったが、あまり実感は湧かなかった。
「そうだ、仮免許のヒーロー名って基本的にローマ字か英語表記だから違和感ないけど、私のヒーロー名、本当に英語なんだ。」
かぶりのその言葉に才子は理解できなかった。正しくは言っている意味はわかるが、そうする理由がよく分からなかった。しかし、そんな様子の才子を見てかぶりはもう少し詳しく話した。
「実際の書類上でも英語でBlack・Beetleなんだ。どういうわけか英語表記なんだよね。ヒーロー名に英語使ってても普通はカタカナなのに……。」
無意味に発音よくヒーロー名を言うかぶりに才子はクスリと笑ってしまった。才子はかぶりの人を笑わせること、というよりも楽しい事や悪ふざけを好む性格が変わってないことにどうしてか安心感を覚えてしまった。
とはいえ、公安がヒーロー名を英語にしたのかは謎である。かぶりは公安側からしたらヒーロー名なんてどうでもいい、とまでは言わないが特に重要視していないため、職員の1人が勝手に決めてしまったのでは?と考えている。
(緑谷くんのコスチュームも勝手に改造されたらしいし)
公安とサポートアイテムの会社は違うのだが、細かいことは気にしないし考える意味はない。
「そういえば、かぶりって書類上は18歳、というよりも、もう、沖かぶりじゃないのよね?」
「え、うん。
「……ふふ、それじゃあ、アマねぇって、呼んだ方がよくって?」
挑発的に笑う才子にかぶりは気恥ずかしさから、顔を赤らめた。姉妹として、親友として流れる楽しい時間だ。しかし、こんな甘いひと時はずっとは続かない。
スマホのアラームが鳴り響き、この時間が終わる事を示していた。
「ごめん。才ねぇ。仕事の時間だ。」
かぶりの仕事とは人を殺すことだ。法では
「かぶり……。」
才子は行かないで、と、口にしそうになったが飲み込んだ。そんな事、言える訳がない。
(かぶりを引っ張り出したのは私だ。人殺しするようにしたのは私なんだ。)
「どうしたの?」
ヒーローコスチュームへと着替えているかぶりと目が合う。あの服でこれから何人の人を殺すのか、何人の人の命の上でこの関係が成り立っているのか。考えるだけで、才子は恐ろしくなった。
だが、そんな事、初めから分かっていたことだ。分かっていたことなのに……。
「かぶり、頑張ってね。」
「うん!」
そう返事をしてかぶりは部屋から出た。才子も合鍵を持っているので問題はない。
かぶりのコスチュームは俗に言う
そのコスチュームの上から何処の高校の制服とも異なるが、女子の制服っぽいデザインのセーラー服を着る。武器やサポートアイテムはスクールバックに収納し肩にかけた。一見するとタイツを履いた女子高生である
(よし、頑張ろう! 頑張
ならないけどと、心の中でツッコミを入れながら目的地を目指して歩き始めた。
(今日の標的は
会長との会話を思い出す。
『仕事内容は2つ。ヒーローとその補佐をしている女性の処理。可能であれば、
『一般の事務の方とかは?』
『おそらく一般人はいない。けど、居た場合は、一緒に処理して構わない。』
会長との会話を思い出す。分かりやすい仕事だ。皆殺しにした後に室内を物色して、証拠品の確保をする。
バスを乗り継いで、目的の場所。標的のヒーロー事務所に辿り着いた。
(よし)
ヒーロー事務所は雑居ビルの1番上だ。事務所と言えばもっと華々しいモノを想像しがちだが、人気の低いヒーローは家を事務所として使っている場合も多く、雑居ビルとはいえ専用の場所を借りられているだけでも良い方である。今回の場合は儲けてることを隠しているのだろう。
すぐに、ビルの外の壁を歩き入れる場所を探す。しかし、侵入スペースは無い。この手のビルの侵入は
小さくため息をして正面入り口へと移動して、堂々とエレベーターに乗り最上階へと行く。事務所の入り口は自動ドアとなっているが前に立っても開く気配は無い。壁にはカメラがついたインターホンが柱に取り付けられている。インターホンの横に鍵穴があるので、鍵があれば開けることは出来るのだろう。
それを見るとかぶりは少し考えた後にインターホンを押した。
『はい、スパイラルヒーロー事務所です。ご用件は何でしょうか?』
インターホンから女性の声が聞こえた。淡々としたビジネス的な口調だ。おそらく彼女がヒーローの補佐をしている人なのだろう。それに対して、かぶりは笑いそうになるのを我慢しながら、叫んだ。
「た、助けてください! こここ、殺される!!ひー、ヒーロー、へるぷみー!!」
吃るのは演技ではなく。恥ずかしさから来ているものだが、それはそれで現実味を帯びさしていた。
『あの!大丈夫ですか?!今行きますね!?』
インターホンから慌てた声が聞こえたがすぐに切れた。こちらに向かっているのだろう。自然と口角が上がる。(今更だが)周囲を見渡し監視カメラの有無を確認する。おそらく無い。しかし、巧妙に隠されていたら見つける術はかぶりには無い。
(さてと)
スクールバックのチャックを少し開けていつでもサポートアイテムの三徳包丁型の刀を取り出せるようにする。さらに、スカートのポケットに入っているカッターナイフを確認する。
(ダメだ、笑うな……。)
笑いを堪えるようにしゃがみ込み、顔を膝の間に埋めた。
「だ、大丈夫?」
自動ドアが開くと女性が出てきた。その一瞬でかぶりは中の状況を探知して、中に人はいない事を把握した。
(この人はヒーローの補佐をしてる人か、それに中に人はいない。)
つまり、ヒーローは留守ということだ。それはかぶりにとってかなり都合が良い。ヒーローはピンキリとはいえ、その誰もが最低限の訓練は積んでいる。普通に強いのだ。だから、出来るだけ正面からの戦闘はしたくない。出来ることなら不意打ちで終わらせたいのだ。
留守ならばここで待ち伏せ出来るので不意打ちしやすい。
「大丈夫? 何があったの?」
女性は膝をついてかぶりに優しく語る。しかし、かぶりは顔を隠して首を振るだけだ。変に何かを語るよりも黙っていた方が向こうが勝手に予想して騙されてくれるのである。
「………それじゃあ、中に入ろう。大丈夫、私たちが守るから」
(きた)
女性はかぶりの手を優しく引いて事務所の中へと誘導した。かぶりは上がる口角を必死に抑えて、ついていった。
そして、数十分後。
「ハハハはハははは!ねぇ!ねぇ!どんな気持ち?!今、どんな気持ち?!」
事務所の柱に女性は縛られていた。全身から血を流し、顔は原型を止めていないほど腫れ上がってしまっている。両手の指は全てありえない方向に曲がっている。
「た、たす、けて……。」
掠れた声で女性は言う。既に涙は枯れて、目の焦点は合っていない。
「助けて、助けて、ね。ねぇ、一般人を騙して、
既に余罪は吐かせている。
行方不明なのか、泣き寝入りなのか、
「ご、ごめん、な、さい。」
謝る女性。しかし、かぶりには意味がない。人を騙して陥れていた女性が命乞いをしている。その全てが手のひらの上なのだ。そんなの、興奮しない訳がないんだ。
「ハハハ。………。はぁ。」
自動ドアが開くのを感知した。もう少し遊んでいたいが、帰ってきてしまったのだから仕方がない。三徳包丁で女性の首を掻き切り、部屋の天井に張り付き、隠れた。
「ただいまぁ。帰ったぞ〜。」
事務所とは思えないほどの気の抜けた声だ。おそらく、滅多に人が来ないため半ば家と化しているのかもしれない。しかし、すぐにそれは悲鳴へと変わった。
「は? どういうことだよ!おい!しっかり……!」
ヒーローの男は女性に駆け寄った。顔に触れてかき切られた首を見る。既に息をしていない彼女を目の前に、どうすれば良いのか分からないようだ。
「なんで? おい! どうして…」
かぶりはパニックになっているヒーローを見ながら天井を移動する。男の真上まで行くと天井で立ち上がり逆さまの状態で2本の包丁を両手にそれぞれ構えた。かぶりの口角が上がる。それに対してヒーローは未だに泣き喚いて気がついていない。
そして、一思いに首を掻き切った。
「任務完了」
男は女性に被さるように倒れた。
◆
かくして公安ヒーローとしての仕事はうまく回り始めた。かぶりの悪意を公安が利用し向かう先を決める。言ってしまえばそれだけだ。とはいえ仕事量もそんなに多くはなく、基本的に毎日は訓練が殆どである。
(みんな、どうしてるかな?)
公安ヒーローとして働き暫くたった。そんなある日の訓練終わりに、ふと、そんな事を思った。というのも、その日は仮免試験の当日だからだ。その試験には無論、才子や元クラスメイトなども参加している。
「みんな、受かったかなぁ……。」
訓練で疲れた身体を引きずり家に帰り布団に飛び込んだ。本音を言えば風呂に入りたいが、公安のシャワー室で身体は洗ったという免罪符のせいで風呂へと向かう気力が湧かなかった。そのまま、うつらうつらと目が閉じかけた頃、スマホから通知が来た。
(なんだろう?)
手を伸ばしスマホを手に取ると才子から写真付きのメッセージが来ていた。
『お疲れ様。受かったよ!』
そんな短い言葉と共にヒーロー仮免許の写真が添付されていた。電話ではなくメッセージなのは訓練で疲れているかぶりへ気を使っているからだろう。
(受かったんだ)
自然と口角が上がる。おめでとう、というメッセージを送る。才子はこれでヒーローへと近づいた。このまま2人で本免を取って本物のヒーローになる。そんな幸せな未来を夢想してしまう。
——潜入完了
——-了解、
才子の指示で悪を挫く。最高に幸せで楽しい未来だろう。それに彼女の指示ならば何処までもいける。そんな確信が持てた。
——-アハハハハははハ
そんな未来を切り裂くように笑い声が脳裏に響く。かつて聴いていた男のものでは無い。自分の声だ。
悪を挫く?そんな事出来るわけがない。この身は既に殺人鬼だ。快楽殺人犯である。
才子と一緒にヒーロー?そんなの不可能だ。彼女のような綺麗なヒーローにはなれない。正当なヒーローなんかではない。血塗れの犯罪者だ。
「はは、無理だよ。私はヒーローじゃない。」
画面に映る才子の仮免許。手に持つ自分の仮免許。同じものだ。全く同じデザインだ。なのに、どうしてこんなにも違っているのか……。
「いいなぁ。」
自然と涙が溢れ出す。劣等感なのか、なんなのか分からない。けど、血だらけの自分が急に恥ずかしくなってしまった。今の暮らしには不満は無いと思っていた。殺人鬼としても、ヒーローとしても、妹としても、公安に良いように作られた暮らしとはいえ上手く回っていたと思っていた。
けど、耐えられなかった。
この手は血だらけだ。
穢れたヒーローだ。
そんな自分が、才子の、大好きな姉のそばに居て良いのか?
血で穢れていく姉が思い浮かんだ。届かない場所で手を振る姉が思い浮かぶ。どんなに手を伸ばしても届かず、伸ばせば伸ばすほど、姉は穢れ堕ちていく。
かぶりにはそんなの耐えられなかった。
「………会長。い、今、お電話、大丈夫ですか?」
だから、逃げることにした。
◆
数週間後
かぶりはビルの上から道にいる才子を見下ろしていた。才子は時計を頻繁に気にしながらあたりをキョロキョロと見渡しては、ため息をついている。
その様子にかぶりは手に持っているスマホを力強く握った。画面には才子から来た待ち合わせの連絡が映っている。無視を続けているのだが、才子から連絡が懲りずに頻繁に来ている。
才子が仮免を取ってからすぐにかぶりは連絡先を変え、家も引っ越した。公安関係者以外には連絡先も住処も教えなかった。
しかし、才子は自力で突き止めるのだ。引っ越しと連絡先の変更を繰り返した結果、今では家を借りることは辞めてホテルを点々として暮らすことにした。電話やメッセージは無視することにした。
「……次のターゲット」
スマホを操作して公安から指示された次のターゲットの資料を見る。動画配信者としても活躍するヒーローで、若い層からの人気が厚い男だ。しかし、裏では薬物を売買しているようだ。
「さよなら、お姉ちゃん。」
かぶりはそう呟くと街の中に消えていった。
完
とりあえず完結です。
今までありがとうございました。
番外編でお茶を濁しつつ原作が進んだら、続きを書くかも→書いてる
名前 五木アマメ
所属 公安直属ヒーロー(仮免)
年齢 書面上は18歳
ヒーロー名 Black・Beetle(本人はBBという略称で名乗る事が多い)
"個性" 蜚蠊
蜚蠊っぽいことが
動物系の"個性"の中でも元となる動物以上にその特性を得ることが出来る強力なものである。ミルコも彼女と似た"個性"をもつヒーロー(兎っぽいことが兎以上に出来る)であり、その実力からこの"個性"の強さは想像できるだろう。