"個性"ゴキブリ    作:ゴッキー

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プロット段階、具体的には職場体験あたりで没ったルート。
このルートの書きたいところだけを書いていきます。ジャンジャン飛ばして文化祭までで、5話程度で終わる




番外編:What if もしも出久が間に合っていたら?
もしも出久が間に合っていたら 1


 これはあり得たかかもしれない未来。そして、もう決して手に入らない可能性。ほんの少しの偶然により生まれた奇跡の時間だ。

 

 その日、雄英高校1年A組は林間合宿に来ていた。"個性"を伸ばす辛い訓練が続き、体力がいくらあっても足りない内容だが、それでも彼らは夢に向かって努力して充実した時間を楽しく過ごしていた。

 しかし、突如として(ヴィラン)が襲撃した。

 最悪なことに肝試し中ということもあり多くの生徒は教師陣から離れていた。そのため、生徒達は大人の力を借りずに対処しなくてはならなくなった。沖かぶりもその1人であった。彼女は肝試しに参加せず、合宿所を貸してくれているプロヒーローの1人であるマンダレイの甥と会っていたのだ。そのため、他の面々から離れた場所におり、たった1人で幼い少年を庇いながら(ヴィラン)と戦うことになった。

 しかし、運命の悪戯か、かぶりを襲った(ヴィラン)はかつて彼女の家族を殺した男であった。

 

 

 

  もしも出久が間に合っていたら?

  EP1 沖かぶり:ライジング

 

 

 

 大柄な男にかぶりは殴られ続けていた。雨のように放たれるラッシュは一撃一撃が必殺だ。血肉が飛ぶ、グチャリと水々しい音がなる。その音を奏でながら男は楽しそうに笑った。その高笑いを聴きながらかぶりは必死に思考を回していた。しかし、勝てるヴィジョンが思い浮かばない。

 邪魔な洸汰から離れ、崖を崩し、自身に有利な森へと誘い込んだ。しかし、それでも決定打とはならなかった。かぶりの小細工、作戦は全て圧倒的なパワーの前には意味などなく、かぶりは身体を丸めてその攻撃を受ける事しか出来なかった。

 だが、諦めることはしない。親の仇、自分から全てを奪った悪魔。許せない相手。ふつふつと込み上げる悪意を糧に、いつ終わるとも分からない攻撃に耐えていた。

 しかし、次第に意識は遠くなっていく。漠然と崩れた崖、薙ぎ倒された木々が目に入る。その風景を切り裂くように1人の少年が現れた。

 

「スマッシュ!!」

 

 男は吹き飛ばされた。しかし、大したダメージを受けて様子はない。ただ、突然受けた攻撃に反応が遅れたせいで衝撃を受け切れなかっただけだ。

 しかし、攻撃が止んだ。かぶりは身体を起こして何が起きたのか見ると、そこには見慣れた、見知った背中があった。

 

「緑谷くん?」

 

 同じクラスの緑谷出久である。クラスメイトの中でも評価に困る少年であった。彼はかぶりを庇い戦闘へと入った。しかし、出久と男の実力差は明白だった。男の"個性"である筋肉増強は筋繊維で身体を覆う"個性"だ。圧倒的なパワーを出せる増強系だが、それと同時に筋繊維により防御力を底上げも可能とする。出久の"個性"の真髄を知らなければ上位互換とも言える"個性"である。

 だが、圧倒的な強者の前に出久は(ヴィラン)を真っ直ぐ見据え、かぶりを背に戦い続けた。その様は、まさにヒーローだ。抽象的な存在ではない。職業的な存在ではない。ヒーロー、としか言えない存在だつた。

 そして、限界以上の力を捻り出した一撃により出久は(ヴィラン)を倒してしまった。

 

(すごい、緑谷くん……。あいつに勝っちゃった。)

 

 既に出久は限界以上の力を出し切り、今にも倒れそうだ。しかし、その背中は今まで見た誰のものよりも大きく力強かった。雄英高校という場でプロヒーロー、それもNo. 1ヒーローの授業を受けてきた。それなのに、かぶりは生まれて初めてヒーローを見たような気がした。

 

(違う、初めてなんかじゃない)

 

——-ヒーローは無責任だから

 

——-信じたいって思える人に会えたんだ

 

 かぶりは自分が言った言葉を思い出した。

 そして、次に思い出すのは彼女の原点(オリジン)。ヒーローを()()()()()()切っ掛けだ。あの時、かぶりは動かなかった。(ヴィラン)に捕まっている勝己を前に何も出来ないでいた。

 あの時、ただ1人飛び出した出久の背中は遠い。一生届かないかもしれない。それでも……

 

——私もあんな風に

 

 錯覚は本物へ

 

 知識は実感へ

 

 

 この日、出久は()()()()()のだ。

 

 

「み、緑谷くん……! ありがとう。」

 

 痛む体を無理矢理動かす。悪意へが無くなったわけではない。しかし、それに向き合えるだけの本当の意味の憧れを手に入れた。かぶりは起き上がり、その場にへたり込んでいる出久への元へと向かった。

 

「はぁ、はぁ、お、沖さん?! って、裸!」

 

 出久のその言葉でかぶりは真っ赤になりその場に身体を隠すようにその場にしゃがみ込んだ。今すぐ木々の裏とかに逃げたかったがそんな元気は無かった。

 

「服は、その、瓦礫の下?」

 

 おそらく崖崩れに巻き込まれて今頃、瓦礫の下に埋まっていることだろう。しかし、ここでかぶりは脱皮をして姿がかなり変わってしまっていることに気がついた。その事を伝えると、出久は()()()()分かったと答えた。

 

「面影もあったから……。それに、脱皮の話は聞いてたし……。」

 

 昔、義理の叔母は脱皮の後かぶりだと分からなくて追い出されそうになった事があった。その時のことを思い出し、気がついてくれた事が嬉しくて泣きそうになってしまった。

 

「それより! 今は!早く動かないと……。」

 

 男の方を見る。気絶しておりピクリとも動かない。今なら簡単に殺す事ができる。ふつふつと鎮まっていた悪意が溢れ始める。

 

——殺せ!

 

 耳元でここには居ない誰かが叫んだ。その叫びにかぶりは首を振った。

 

「殺さないよ。」

 

 殺すのは簡単だし、殺したくて仕方がない。今でもあの顔をぐちゃぐちゃに潰したら、楽しいだろうと考えている。しかし、それでもこの男を殺したくなかった。こいつを殺すことは、胸に芽生えたこの気持ち(憧れ)を否定することだから。

 これはヒーローよりも、悪意よりも大切にしたかった。

 

「沖さん?」

 

「何でもない……。それより、あの男は爆豪くんを探してた……。」

 

 そのかぶりの言葉に出久は目を見開いた。彼にとって勝己は複雑な存在だ。嫌な奴だと思っているが、それでも幼馴染であることは変わらない。

 

「そんな……。それじゃあ……!!」

 

「うん、ここに来た(ヴィラン)が全員この強さなら爆豪くん……。みんなが、不味い……。緑谷くんは爆豪くんを探して。私は上にいるコータくんを連れて施設に戻って先生に指示を仰ぐ。」

 

 かぶりは崖の上を指を差した。崖を登るのは出久よりも彼女の方が速いための采配だ。その言葉に出久は頷くと2人はそれぞれ別の方向へと駆け出した。

 その後、出久は勝己と合流、かぶりは相澤先生の元へとたどり着けた。しかし、勝己とラグドールは行方不明となり、雄英高校は完全に敗北してしまった。

 

 

 

 

 この年の林間合宿は最悪の結果となった。

 かぶりは病院に運ばれたが、戦闘のダメージと脱皮による疲れにより丸一日眠り続けた。しかし、2日目に目が覚めた時には傷は治っていた。

 

「凄い回復力だ。もうほぼ無傷……。だが、今回は治ったが、次どうなるか分からない。そもそも、死んでしまっては治るものも治らないんだよ。」

 

「……はい。すいません」

 

「私に謝られてもね。」

 

 医者は静かにそう言うが、怒っていることはわかった。正確には叱っている。この医者はかぶりのことを体育祭で知っていた。世間では凄いともてはやされていたが、医者として怪我前提のあの闘い方は好きにはなれなかった。

 

「でもね。君に救われた命もある。ヒーローを目指すなら誰かの命と同じくらい、自分の命も大切にしなさい。」

 

 医者はそう言って手紙を取り出した。そこには平仮名でかぶりへの感謝の気持ちが書かれていた。

 

『かたきをとってくれてありがとう。はじめて、ぼくとおなじひとにあえたのに、すなおになれなくてごめんなさい。とめられなくてごめんなさい。こんど、ちょくせつおれいをいわせてください。洸汰』

 

(コータくん……)

 

 その手紙を見てかぶりは泣きそうになってしまった。自分はお礼を言われるような人ではない。遠ざけたのは邪魔だったから、戦ったのは殺したかったからだ。

 

(私はヒーローなんかじゃないんだよ。)

 

 胸に広がる罪悪感。分相応な感謝が肩にのしかかるのを感じた。けど、それでも眼を背けることはしない。

 

(けど、私はもう!)

 

 診察が終わりかぶりは出久の病室へと向かった。起きているか分からないが、いち早く会いたいと思ったのだ。しかし、部屋の前で動きは止まった。

 

「ここで動かなきゃ、俺ァ、ヒーローでも男でも無くなっちまうんだよ!」

 

 切島の叫びが響いた。

 A組には珍しい言い争い。それを直面してかぶりは固まってしまった。しかし、大きな声は聞こえて来るし、小さな声も探知可能だ。自然と会話の内容は理解してしまう。

 

(爆豪くんを助けに行くつもり?)

 

 その言葉がぐるぐると周ってしまった。助けられるなら助けたい。(ヴィラン)に襲われる。手も足も出ない悪意に晒される恐怖は身をもって知っている。

 けど、ルールを破る事だ。それはつまり、(ヴィラン)と変わらぬ行為である。

 

(……でも)

 

「……そ、その話、どういうこと?」

 

 意を決して部屋に入った。中には比較的軽症で済んだクラスの面々がいた。彼らの表情は様々だが、決して楽しげな雰囲気では無かった。

 

「ごめん、聞こえちゃって……。爆豪くんを助けに行くの?」

 

 かぶりのその言葉に切島は頷いた。

 

「ああ、八百万が発信機を(ヴィラン)につけたんだ。それを辿れば探し出せる。」

 

 その言葉、その顔は覚悟を決めたものだった。行くべきか、止めるべきか、かぶりにはどうすれば良いか分からなかった。そんな中、思い浮かべたのは、出久の背中だった。ヘドロ事件のあの時、初めてヒーローを見た時だ。

 

(……ヒーローなら……。)

 

 出久の方を見る。彼は真剣な表情をしているが何も言わない。きっと、彼もまだ、答えが出ていないんだろう。

 そんなおり、部屋に医師がやってきて診察するために出久を連れて行ったため、その場は解散となった。

 

「……私はどうしたいんだろう?」

 

 病室に戻りかぶりは自問自答を繰り返していた。眼を瞑り、思考を深く巡らせる。思い浮かぶのは、両親を殺したあの男だ。

 まずは目玉をくり抜いて、爪を剥がし、皮を剥がし、ゆっくりと首を絞めていく。と言うよりも彼で無くても良い。このどこにもぶつけられない恨みを悪意を、誰でも良いからぶつけたい。

 

(……私はヒーローなんかじゃないんだ。それでも!)

 

 胸から溢れる悪意の中に確かにある別の感情を意識する。闇の中で輝く淡い光は確かに彼女の中に存在している。その感情は今は弱く、今にも悪意に負けてしまいそうだ。

 

 だけど、それでも、大切にしていきたいと思えた。

 

「……ヒーローなら……。」

 

 思い出すのは、出久の背中だ。中学の時、勝己を助けるためにただ1人飛び出した背中。そして、一昨日、強大な(ヴィラン)に命をかけて戦った背中。その背中はどうしようもなく大きく。届くとは思えない。

 

(それでも、私は!)

 

 拳を握り、眼を開く。想いは見えた。

 ベッドから降りて出久の病室へと向かう。この憧れはまだ弱い。少しでも揺れれば悪意に負けてしまいそうだ。だから、覚悟を決めるために、自分の悪意に向き合う必要がある。

 

「み、緑谷くん! いる?」

 

 ノックをして声をかけた。いつもなら問題なく話せる相手なのに、この時ばかりは変に緊張して口が乾いていた。

 

「沖さん? いるよ。」

 

 その返しを聞いてかぶりはゆっくりと扉を開いた。心臓が激しく鳴っていた。

 嫌われたらどうしよう。ここを追い出されたらどうしよう。そんな想いが頭をよぎるが、それでもかぶりは覚悟を決めた。

 

(私は、もう! 自分の気持ちをしまったりしない!)

 

 今まで、悪意を心の奥底にしまっていた。観ないようにしていた。その結果、取り返しのつかない事になりかけた。だから、もう同じ間違いをしないように、ちゃんと自分の気持ちと向き合おうと決めたのだ。

 

「緑谷くん……。一昨日はありがとう。助けてくれて」

 

 かぶりがそう言うと、出久は照れたように笑った。その様子にかぶりは不思議と胸がざわついた。 

 この溢れそうな悪意に呑まれたら、助けた相手が人を殺したら、出久はどう感じるんだろう。それはとても楽しそうだ。

 慌てて思考を辞める。上がりそうな口角を口で抑えた。

 

(この気持ちとも、ちゃんと)

 

「その、緑谷くん。私、あの男を殺そうとしてたんだ。」

 

「え?」

 

 突然のその言葉に出久は言葉を失うが、かぶりは話を続けた。突然で脈略も無く、こんな話を聴くことになる出久には申し訳ないが、ここで向き合わないと一生向き合うことが出来ない気がしたのだ。そして、彼が側にいればちゃんと向き合えると思った。呑まれずに、向き合って、ちゃんと自分の想いに出来る気がした。

 

「あいつ、私の両親を殺したんだ。それが、憎くて憎くて、楽しくて……。だから殺したかった。今でも殺したい。」

 

 その告白を出久は静かに聞いていた。何を言えば良いかわからなかったなもあるが、1番は彼女の言葉を邪魔をしてはいけない気がしたからだ。

 

「……ううん。それだけじゃない。両親を助けてくれなかったヒーローが憎い、幸せな暮らしをしている人が憎い、悪意を振り撒く(ヴィラン)も憎い。この世の全部が憎くて憎くて殺したいんだ。誰でも良いから苦しめて、痛めつけて、殺したい。」

 

 誰かを殺す情景を自然と思い浮かぶ。すると不思議と胸が躍り口角が上がる。いや、それどころではない、恍惚とも呼ぶべき雰囲気を纏ってしまう。そんな表情を見て出久は背筋に寒気が走ってしまった。

 出久とかぶりは中学からの友人だ。入試の時はノートを貸した事もあるし、お互いに受験の情報を交換もした。だから、人となりは知っているつもりでいた。控えめだが、悪ノリが好きで、それでいて心優しい。そんな少女だと思っていた。

 間違っても、こんな表情を、まるで(ヴィラン)みたいな雰囲気となるとは思えなかった。

 

「……沖さん?」

 

 震える声でやっとの思いで彼女の名前を呼んだ。すると、かぶりはハッとした表情となり、すぐに真面目な表情となった。

 

「……ごめん。そうなんだ。私の心は悪意に満ちている。私は明らかに、(ヴィラン)よりの存在なんだ。」

 

 かぶりはそう言うと自傷的に笑った。その顔が出久にはどこか助けを求めているような気がして、だから、咄嗟に否定した。

 

「違う!沖さんは……。そんな人じゃ……。」

 

「違わないよ!私は一歩間違えたら(ヴィラン)だ。だけど、それでも、思い出したんだ。緑谷くんに助けられて思い出した。私がヒーローを()()()()きっかけを、本当の意味で憧れた、私のヒーローをちゃんと思い出せたんだよ。」

 

 力強くそういうかぶりに出久は言葉を失った。今見た、恍惚としたかぶりの表情が脳裏によぎる。出久の中でかぶりの言葉を否定したいという思いと、友人なら受け入れるべきだという理性が交差する。

 だが、そんな事を気にしている余裕はかぶりには無い。

 

「だから、私はもう悪意を見失わない。この憧れが有れば、もう、迷わない。私はヒーローを、この憧れを目指しつづけるよ。緑谷くん。私がこう思えるようになったのは君のおかげだ。」

 

 かぶりが目指すヒーロー。あの背中を追う。そんなこと、やり切る自信はない。けど、言葉にすれば覚悟は決まる。細い光を追う事を決意が出来た。

 

「……ごめんね。緑谷くん。こんなこといきなり聞かされても困るよね。でも、聞いていて欲しかったんだ。違う、君に話したから向き合えたんだ。ありがとう、緑谷くん、聞いてくれて。」

 

 それだけ言うと、かぶりは頭を下げて出久の病室を後にしようとした。すると、出久は拳を握り声を上げた。

 

「………でも! それでも、僕は! 沖さんは(ヴィラン)なんかじゃないと思う! ヒーローになれると思う!」

 

 かぶりは、振り返らずにその言葉を聴いた。

 根拠なんて無い。しかし、その言葉はかぶりにとっては何よりも力になる。

 

「うん、ありがとう緑谷くん。やっぱり、君は私のヒーローだ。」

 

 振り返らずにそれだけ言ってかぶりは、病室を足早に後にした。出久にはかぶりの表情は見えなかったが、その言葉は出久には先ほどよりも明るく聞こえた。

 

(……沖さん)

 

 出久は自然と拳に力が入った。

 病室を後にしたかぶりは、目元をゴシゴシと服の袖で擦った。顔を強く擦ったためなのか少し赤く染まっている。

 

(決めた。私は行くよ。たとえ、緑谷くんが来なくても)

 

 勝己の救出作戦に参加する事を決心した。出久が参加するかはわからない。しかし、それでも良かった。たとえ来なくても、この憧れは変わらない。あの時見た光を追いかける、それだけだ。

 

 

 

 

 その後、かぶりは切島、轟、飯田、八百万、そして出久らと共に勝己奪還へと向かい、オールマイトの引退などあったが無事に生還を果たした。

 

 

 





没理由、三角関係とか私には書けない



サイトの設定として連載中にするのか完結済みとするのか……
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