"個性"ゴキブリ    作:ゴッキー

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原作でのキャラの見せ場を奪いたくない、けど、主人公も同じ場所に立たせたい。



もし、出久が間に合っていたら?最終回

 

 

これはあり得たかかもしれない未来。そして、もう決して手に入らない可能性。ほんの少しの偶然により生まれた奇跡の時間。そこから、少しズレた場所だ。

 ヒーローインターンが終了した数日後、その日のホームルームは相澤先生の鬼の一言で幕を閉じた。

 

 

最終回 文化祭編

 

 

「明日までに決まらなかった場合、公開座学とする」

 

 ホームルームの時間を使って文化祭の出し物をの話なのだが、いい意味でも悪い意味でも()()豊かなA組の面々の意見は纏まる事はなく時間は無駄に終わった。

 そして、この一言だ。それで漸く一丸となった。

 

「明日までに決めるぞ!」

 

「おおー!!」

 

 ということで放課後、馬鹿みたいに早く寝てしまった爆豪を除いたメンバーは文化祭で何をするかを決める事となった。話し合いは委員長である飯田が司会で、ホームルームで出た案を元に考えることになる。

 

「みんな、落ち着いて考え直してみたんだが…。先生の仰っていた他の科のストレス。俺たちは発散の一助となる企画を出すべきだと思うんだ。」

 

 飯田のその言葉にクラスの面々は、確かにその通りだと感じた。ただ、かぶりは納得できる反面、『どうして私が気を遣わなくてはならないのだ』とも感じた。悪いのは(ヴィラン)であり、ヒーロー科ではないのだ。けど、そんな事言ってたら決まらない。

 

(でも、今、1番避けないといけないのは()()()()だ。案を絞れるのなら、絞らないと……。)

 

 そんな事をかぶりが考えていると、食べ物系と動物系が削除された。残るは体験系がメインとなる。そんなおり、響香は声を上げた。

 

「コントはどうかな?」

 

 その言葉を聴いてかぶりに便乗する事にした。実はホームルームの時に彼女が出した案は漫才であった。コントと漫才であれば両立させることはできると考えたのだ。

 

「うん、私の出した漫才とあわせるのはどう?」

 

「いいね。漫才、コント、漫談、一発芸、モノマネ、笑ならなんでもありにしよう。」

 

 と、響香とかぶりで盛り上がっていると、瀬呂が少し申し訳なさそうに返した。

 

「けど、素人芸ほど白けるものはないぜ?」

 

(確かに!)

 

 かぶりはギャグは好きだが、人に見せられるようなもので無い。というか、コントのネタなんて()()()()考えたことがない。心の中で考えて勝手にクスクスやってるだけの代物である。

 

(あ、郎党どもは素人(しろうと)うだ。)

 

 よし、いいのが出来た。とか、考えていると三奈から別の案が出てきた。

 

「みんなで踊ると楽しいよ?」

 

 ダンスである。意外なことにこの案に轟が加勢した。そこからトントン拍子で話が進んでいく。そして、ダンスと生演奏という形で落ち着くのであった。

 しかし、かぶりは何処か心の中でモヤモヤが残る形となった。

 

(芦戸さんのダンスは上手い。)

 

 思えば彼女に少し教わるだけで、かぶりはまるでコマのように頭で回転できるようになってしまった。その指導力も実力も本物である。

 

(耳郎さんもインディーズなら、多分、トップを狙える)

 

 どちらの趣味も本物だ。思えば出久といい、誰もが全力の趣味を持っている。かぶりも最近ではギターを弾けているが、それでも、まだまだだし、最近始めたラップも特に意味はない。昔から続けていや親父ギャグやお笑いも、脳内で再生しているだけだ。

 

 自分には何も無い、その事とが少しだけ恥ずかしくなってしまった。

 

 

 文化祭ではバンドとダンスをやる事が決また。それから、しばらく経った放課後。学校にはA組がヒーロー科以外の為に催す、というの話が広まり、賛否両論を呼んでいた。好意的な意見や、どーでも良いと言ったものも多いが、中には自意識過剰だ、や、調子乗ってる、など、マイナスの意見も多くある。

 

 とはいえ、文化祭まで1ヶ月を切り、本格的に動き始める事になった。

 

「みんなの意見をある程度総合すると楽曲は4つ打ち系だよね。ニューレイヴ系のクラブロック。ダンスミュージックだと本当はEDMで回した方がいいけど、みんなは楽器やる気なんだよね?」

 

 響香の言葉に、クラスは誰ひとりとして理解出来なかった。響香と共に音楽にはじめているかぶりも理解できていないのだが、これは彼女の知識が偏っているからである。

 

「沖以外で、ベースとかドラムやった事ある人いる?」

 

 響香の言葉にクラスは誰ひとりとして手を上げなかった。しかし、響香が枕詞として『沖以外で』と付けた事から、自然とかぶりに視線が集中した。しかし、そんな視線に気がつかないまま、響香は少し考えた後に続けた。

 

「バンドの骨子でドラムだけど……。しょうがない。ギター隊の練習を丸投げ……。いや、他のまとめ役とかも任せて仕舞えば……。………よし、ドラムはウチがやるから、沖、バンドの練習、結構、丸投げして良い?」

 

「え? 良いけど。そうなると、ボーカルどうするの?ドラムボーカル? キツくない?」

 

 ギターボーカルは割と存在するが、ドラムボーカルはかなり数が少ない。理由は多くあるが、1番はやはりリズムを刻みながらの歌、というのが難しいからである。同じ理由でベースボーカルも難しいが、ドラムは諸々の要因を加味してその比ではない。

 

「沖、やってよ。ラップとかボイパとか入れれば映えるし……。」

 

「な、そんな無茶振りな……。歌、やるなら耳郎さんだよ。ねぇ? 葉隠さん!」

 

 共に響香から音楽を習った事がある葉隠れにふると彼女は同感のようで、見えないが首を縦に振った。外堀が埋まりつつある様子に響香は顔を赤らめながら反撃した。

 

「じ、じゃあ、ドラムはどうするの?」

 

 そう、この話は結局はそうなる。ドラムとボーカル、どっちに上手い人を据えるか、という話になってしまうのである。ボーカルはバンドの花形であり、ドラムは土台だ。

 

「そういえば、爆豪、音楽教室行ってたって」

 

 そんなおり上鳴の不意な言葉が勝己を襲った。しかし、昔音楽教室に通っていたからってドラムが弾けるわけがない。そんな事は響香も含めてクラス中が思ったが、瀬呂にうまいこと乗せられた勝己は見事に演奏して見せた。

 

「完璧……。」

 

 才能マン、と、クラスで呼ばれるだけのことはあり、勝己は完璧に演奏しきってしまった。クラスが「ドラムは爆豪」「ボーカルは耳郎」と、盛り上がりを見せた。

 

 しかし、

 

「そんなくだらねぇことやんねぇよ」

 

 爆豪は当然のように頷かなかった。その苛立ちにも似た姿に響香も食い下がるが、首を縦に振ることは無かった。それどころか爆発したかのように叫んだ。

 

「あれだろ?他の科のストレス発散みてぇなお題目なんだろ?ストレスの原因がそんなもんやって自己満以外のなんだってんだ。ムカつくヤツから素直に受け取るはずねぇだろうが!」

 

 勝己の不満にクラスの雰囲気は一気に盛り下がった。彼が話し合いに参加していない事もあり、それに対する文句も出てきた。しかし、そんな様子を気にしないで勝己は続けた。

 

「ムカつくだろうが。俺たちだって好きでヴィランに転がされてんじゃねぇ。なんでこっちが顔色うかがわなきゃなんねぇ?テメェらご機嫌取りのつもりならやめちまえ!」

 

 勝己のその言葉は彼の本音であった。だから、かぶりにも届いた。

 彼女も好きで(ヴィラン)に襲われた訳ではない。好きで家族を失った訳ではないんだ。哀れみも嫌だが、それに対して文句を言われる筋合いもない。好きで親戚の家に住んでいた訳じゃないんだ。

 

「殴るんだよ!馴れ合いじゃなく殴り合い!やるならガチで!雄英全員音で殺るぞ!」

 

(ああ、そういう事か)

 

 その叫びとこだまする想い。それを見て、ようやく彼女は理解した。楽しければそれで良いと思っていた。みんなでワチャワチャしていれば、なんだか楽しめている気持ちだった。

 

 けど、そうでは無いんだ。

 

(本気で挑むから意味があるんだ。)

 

 勝己のその言葉にかぶりは拳を握った。自分に出来ることは何かを考える。自己満足のお笑いか? それとも響香や三奈に習った音楽やダンス。様々なものが浮かんだ。

 そして、ふと、今まで趣味で本気になったことが無いことを思い出した。()()()()()を見てから、夢を追うことには本気だった。

 授業も無論、全力だ。しかし、それ以外のことは何処かどうでもいいこととして流していた。

 出久はヒーローオタクだし、響香の音楽、三奈のダンス、どれも趣味、全力で楽しんでいる事柄だ。それが自分には今まで無かった。夢も、将来も関係なく本気になれるもの。なにか、大切な自分だけのもの。

 それが、かぶりには無い。空っぽなのだ。

 

(私も、何か全力で……)

 

「よし。爆豪くんがドラムやるなら、耳郎さんがボーカルだね!だったら……。」

 

 誤魔化すように元気よくかぶりは言った。

 その言葉で上鳴や切島達もボーカルをやりたがったが、響香の歌唱力の前ではぐうの音も出なかった。そして、満場一致で響香をボーカルに据える事になった。

 後は残りの楽器の割り振りだが、キーボードは八百万がやるとすんなりと決まり残りはギターとベースだ。

 

「で、ウチがベースも兼任するから、後はギター、最低2人は欲しいけど、沖、任せられる?」

 

 響香のその言葉に瞬く間に男性陣が手を上げた。ひとえに楽器を弾くのがカッコいいからであるが、その勢いと気合いはある意味、本物だ。そして、そのノリで上鳴が言葉を上げた。

 

「そういえば、耳郎がちょいちょい沖に任せようとしてるけど、上手いの? たまに()()()()()してるのは見るけど」

 

 上鳴の言葉にかぶりに視線が集まった。彼の言葉はある意味で全員が思っていた事だ。彼女が響香とつるんでいることは知っているし、それなりにギターを弾けることも周知の事実だ。しかし、実際にはどれくらい上手いのかは分からない。

 

「わ、私? うん、ギターが無くても弾けるくらい上手いよ?」

 

 そう言うと、かぶりは口に右手を添えた。すると、驚くべき事にエレキギターの音を口から出し始めた。謎の完成度の高さを誇るボイスパーカッションだ。

 

「って、ギターじゃねぇけど、すげー!どう言う理屈だよ!これも、バンドに組み込もうぜ!」

 

 切島のその言葉にクラスの一同が賛同した。その様子に後押しされるようにかぶりは言葉を繋ぐ。

 

「うん。私もやりたい。というよりも……,」

 

(音で殺る。ガチか)

 

 勝己の言葉。

 ガチで目指す。その為に、自分は何が出来るのか。そもそも、彼女には本気の趣味なんて無い。出来ることも少ないし怖い。

 

(けど、耳郎さんのような、本気になれるものを見つけたい)

 

「私もボーカルをやりたい。耳郎さんとツインボーカル!」

 

 本気でやる。

 そのためにはまずはここからである。かぶりも自分の歌唱力は分からないが、しかし、響香の横に並びたかった。まだ、手探りだが、本気の人(響香)に本気でついていけば、自分も()()を見つけられると思ったのだ。

 

「耳郎さんの歌も、ベースも上手い。けど、専門はギターだ。本当に音で殺るなら、彼女がベースにも集中できるようにサブボーカルも必要だと思う。」

 

 その言葉にその場にいる面々は頭を悩ませた。言っていることは何となく分かるが、その判断が正しいか分からないのである。そうなってくると判断は必然的に響香に委ねられる。 

 クラス中の視線が響香に集中する。しかし、その視線に彼女は気がついて響香は頷いた。

 

「うん。沖が横で歌ってくれるなら私も心強い。ツインボーカルでいこう。」

 

 その言葉にかぶりはほっとした。響香の横に並びたいと、突発的に思ったが、否定されないで安心したのだ。

 しかし、かぶりの唐突な参入に異を唱えるものも数人おり、まず、声を上げたのは峰田であった。

 

「で、話は戻るが沖って、どれくらいなんだ?」

 

 その問いにかぶりは納得しつつも心臓を掴まれた気持ちになった。ボーカルに立候補するにあたり、こうなる事は分かっていた。歌唱力も響香ほどでは無いがそれなりに上手い自信はある。が、いざ、人前で披露するとなると話は変わる。

 

「沖、これ使って」

 

 そう言うと響香はいつの間にかかぶりのアコースティックギターを持ってきていた。かぶりと響香は部屋の合鍵を交換しており、お互いの部屋に勝手に入ったりしている。

 

「ありがとう。よし、歌うよ!」

 

 ギターの持つ手に力を入れ、そして、抜いた。そして、深く息を吸いながら思う。

 これは試験だ。友人と同じ場所に立てるかどうかを試されている。

 自分の本気が、クラスのみんなと対等になれるかどうかを見られているんだ。

 

(でも、私の本気ってなんだろう。)

 

 思えば、どうしてこんなにもヒーローを目指していたのだろうか?

 全てを思い出した今、()()ヒーローへの想いは複雑だ。かつて、彼女に憧れたのは本当だ。しかし、今思えばあの想いは悪意から眼を逸らすための、自分についた嘘だったかもしれない。

 

(じゃあ、私は……)

 

 どうして、ヒーローを目指そうと思った?  

どうして、あれほどまでヒーローへと本気になれた? 

 そもそも、本気では無かった?

 

(というか、私って何?)

 

 分からない。

 けど、「それでも」、と、かぶりはギターを鳴らした。

 

(空っぽだ。)

 

 気がついた。

 気がついてしまった。かぶりには何も無いのだ。ただ、誤魔化しだらけの、嘘だらけの人生だった。ミルコに憧れたのも、ヒーローを目指したのも、気の所為だったのかもしれい。

 出久の背中を思い出す。あの時見たものは、あの時見つけた憧れは本物だ。しかし、だからこそ際立ってしまう。

 それ以外にあるのは悪意だけで、何もないのだ。

 

「—————-。」

 

 けど、それでも、ここに居る今は、響香達との時間は本当だと思いたい。本当にしたい。その為に、かぶりは全力でギターを弾き、歌った。

 響香ほどでは無い。しかし、それでもかぶりの魂の叫びだ。

 しかし、その叫びは不思議と周囲を惹きつける魅力があった。響香のような耳が幸せにはならないが、それでも、その叫びにクラスは聴き入っていた。

 

「すげぇ。耳郎とは全く違うけど、でも、熱いな!」

 

「だな!」

 

「「うぉーーーーー!!!」」

 

 上鳴の声にクラスはツインボーカル案に賛成な空気となっていた。しかし、そんな中で1番嬉しそうな顔をしている人がいた。

 

(…沖……。)

 

 響香である。このクラスで最もかぶりと付き合いが深い彼女は当然だが、かぶりの抱える闇にも気がついていた。それは彼女の家族に対してだけではなく、内面についてもだ。ソレが本当に闇なのか、そもそも存在しているのかすら彼女は分からなかった。しかし、今の歌を聴いて確信した。

 

(もう、大丈夫なんだね。)

 

「どうしての?耳郎さん?」

 

 かぶりのその問いに響香は首を振り誤魔化した。

 

「……何でもない。よし!沖にウチの背中は任せた!」

 

 響香の言葉にかぶりは力強く頷いた。空っぽだった、心が熱くなる。悪意とも、憧れとも違う不思議な感情だ。

 

「任された!」

 

 その感情に任せて、かぶりは拳を響香に突きつけた。すると、響香は楽しげに笑いながら自分の拳を彼女の拳にぶつけた。

 

 

 

 

 文化祭に向けての準備は着々と進んでいった。

 初めは足並みを揃えていたが全体が決まればクラスはバンド隊、演出隊、ダンス隊の3チームに分かれての作業が多くなった。とはいえ、それでもチーム間の連絡は必須であり、新しいアイディアや、そもそも初めの案が実現不可能だったりで連携をしている。

 

「という訳で、ここの音、爆豪くんがアレンジ加え()()()()から、全体的にテンポが速くなったんだ。」

 

 寮の前で練習しているダンス隊の元にかぶりは訪れていた。彼女は三奈からダンスも習っていたため、ダンスとバンド両方の知識があるとして、両部隊の擦り合わせ役に収まってしまっていた。

 

「……うーん。確かにこっちの方がカッコいいけど……。」

 

 三奈はかぶりが録音してきた音を聴いて頭を悩ませた。ダンス隊の完成度は正直、未だに高くない。これ以上ダンスのテンポを速くするのは難しい。バンド隊に天才マンと経験者を取られたのはかなりの痛手である。

 

「………………でも、わたしはコッチの方が好きだな!」

 

 ダンスの難易度が上がる。それを分かった上で葉隠はそう言った。しかし、その言葉が決め手となった。今回の出し物は本気である。妥協なんて許されないし、するつもりはない。

 だったら答えはひとつだ。

 

「そうだな。やろう!」

 

 その飯田の言葉に、その場にいた全員は答えた。上がったテンションに任せて拳を上げる面々だが、そこに水を差すようにかぶりは続けた。

 

「そ、その。まだ、演出隊の許可を取ってないから確実に変更になるかは分からないんだけど……」

 

「そうか、すまない。」

 

 飯田の謝罪た時に、寮から「ダンス隊!」と、切島がやってきた。彼は演出隊であり、新に考えた演出について相談に来たのだ。

 

「あ、切島、どうしたの?」

 

 と、三奈が声をかけた瞬間、近くの草むらが揺れたことをかぶりは感知した。その方を見ると……

 

 

 

大きな(ケツ)がなっていた。

 

 

そして、

 

 

「みんなー!!桃がなってるよ!」

 

そんな声が響いた。

 

 

 聞き覚えのある男の人の声に、視線が(ケツ)に集まった。すると、草むらの横から女の子が現れた。緊張しているのか、不安そうな顔をしている。

 

「エリちゃん!」

 

 その少女に1番に反応したのは出久であった。詳細は省くが彼女は出久がインターンの時に助けた存在である。全てを無くしたとも言える彼女を少しでも楽しませようと、出久やミリオ、相澤先生らは文化祭へと招待させることを校長へと打診していたのだ。

 

「許可は降りたが、ビックリしてパニックを起こさないよう一度来て慣れておこうってわけだ」

 

 と、いつの間に来ていた相澤先生が事情を説明した。すると、納得した面々は彼女に自己紹介をしていくが、どうも、知らない人が沢山いる環境に慣れないのかミリオの影へと隠れてしまった。

 

「照れ屋さんなんだよね。……というわけで、これからエリちゃんと雄英内を回ろうと思ってんだけど緑谷君もどうだい?」

 

「はい」

 

 ミリオのその提案に出久は反射的に返事をしたが、今は練習中であることをすぐに思い出した。練習を抜けたくはないが、エリと共に学校を見回りたい、どうしようかと頭を悩ますと三奈が声を上げた。

 

「よーし!少し休憩にしよう!ティーターイム!!」

 

 その三奈の言葉に胸を撫で下ろした出久は、周りの人たちに軽く挨拶をしてミリオ、エリと共に学校見学へと行こうとした。その時、かぶりは、ふと、ある事を思いついてしまった。

 

「じゃあ、緑谷くん!光源氏計画、頑張って!」

 

 その言葉に出久は一瞬、何のことか分からなかった。しかし、彼も雄英生、学力はかなり高い。だから当然、光源氏のあらすじくらいは知っている。

 

「……そ、そんな計画ないよ!」

 

「ははは、冗談…………じゃ、すまなそう……。ホントごめん。」

 

 楽しげに笑っていたかぶりだが、ある事に気がついて真顔になった。視線の先には血走った目でエリを見つめる男子生徒がいた。

 

「そう、そうか、そんな手があったのか……。緑谷ぁ、抜け駆けしやがってッ!オイラも今から……!」

 

 その言葉を最後にその男子生徒、というよりも峰田は蛙吹の一撃で気絶してしまった。

 この一連の流れを見てエリは不思議そうにミリオと出久に尋ねた。

 

「ひかるげんじ?計画って?」

 

 その純粋な質問にその場にいた全員は意味は分かるが答えられなかった。しかし、その質問にいち早くミリオは答えた。

 

「男の人が、女の子と蜜月な関係になることさ!」

 

「みつげつな、かんけい?」

 

 ミリオとエリのやり取りを見つつ、かぶりは出久を弄るタイミングを間違えたことを深く痛感し後悔した。反省はしなかった。

 

 

 

 

 ともあれ、文化祭の準備は順調に進んでいった。演出も、ダンスも、音楽も、そのどれもが当初想定していたものを超えた出来となったのだ。

 

 そして、当日

 

「やばい、吐きそう。」

 

 勝己以外のメンバーは少なからず緊張している様子だが、かぶりはその中でもダントツな様子だ。青い顔で口を手で押さえている。

 

「……沖、平気?」

 

 そう言う響香に対して、心配かけまいとかぶりは必死に笑顔を作って親指を突き上げた。

 

「うん、全然問題ないよ、すこぶる()()。心はs()o() ()c()o()o()l() 。すでに胃は()()()。」

 

「なんで、ラップ……。って、全然、大丈夫じゃないじゃん!トイレ!トイレに!」

 

 そんな馬鹿なことをしていると、着実に時間が迫ってくる。文化祭開始のアナウンスが流れ、出店を見ている楽しそうな声が聞こえてくる。

 その声が聞こえる度に当日だと実感してしまい、怖くなり、それ以上に楽しくて仕方がなくなる。

 その時、ふと、かぶりはあることに気がついた。

 

「あれ?緑谷くんは?」

 

 出久が居ないのだ。

 A組の面々は既にあの勝己も含めてほとんど控室に集まって来ている。しかし、出久の姿が無いのである。

 

「そういえば、どうしたんだろう?」

 

 響香は、さして、気にした様子は無かった。というのも、出久はA組内でも真面目で通っており遅刻なんてしないだろうという考えだ。

 しかし、かぶりはそうでは無かった。

 

「……遅刻、ついに、やらかしたか?」

 

 出久は時間にギリギリな場面が多い。全寮制になる前でも予鈴前ならセーフと言わんばかりにギリギリに登校することが多かったし、雄英の入試の時もやってきたのは開場してからかなりの後だった。

 別段、その事については何も悪くない。現に出久は遅刻なんてしたことが無いし、大抵の場合は5分前には席にいるのだから、遅くは無いのだ。

 しかし、どんなに遅くても15分前には準備を終え時間の余裕を大切にしている彼女とっては出久に対して苛立ちを覚える数少ない部分である。

 

(遅刻したら殺す。)

 

 今日までの頑張りが脳裏に浮かんだ。誰もが努力し、頭を悩ませて、最高以上のものを仕上げたのだ。それなのに、遅刻なんて間抜けな理由で傷をつけられたらたまったものではない。

 

「……ちょっと心配だから電話してみる……」

 

 と、スマホで電話を鳴らしてみるが、繋がらない。出久はスマホに貼り付いているタイプでは無いため、メッセージアプリでの返信が遅い時も多いため、珍しいことでは無い。しかし、今回ばかりは不安になってしまう。かぶりは少し考えた後に親しい人なら知っているかもと考えた。

 

「……出ないから誰かに聞いてくる」

 

「うん、気をつけて」

 

 響香にそう言ってお茶子の横を通り過ぎて、飯田の元へと向かった。

 

「飯田くん。緑谷くん知らない?」

 

「緑谷君なら青山くん用のロープを買いに行っているが……。……ふむ、たしかにそろそろ帰ってきていい頃だが……。」

 

 腕を組み考えを巡らせる飯田である。まだ、時間はあるが、何かあったのかと不安になってしまう。しかし、彼らには出来ることはない。

 出久が来るのを信じて待つことしか出来ない。

 

 しかし、開始20分を切っても出久は来なかった。教師達にも相談したが誰も連絡を取れないという状態であった。

 

「デクくん、どうしちゃったんだろう……。」

 

 お茶子の不安の声を上げた。それを横目で見ながらかぶりは言いたくない事を口にした。

 

「……緑谷くんの代わりに誰か入れる必要があるかも……。」

 

「でも、誰かっても青山と練習してたの緑谷だけだろ? それに、今更他から……。」

 

 かぶりの言葉に切島が答えた。このステージは全員が欠かせない。誰か1人でも抜ければ回らなくなる。しかし、残念なことに欠けてしまっている。

 

「……現実的に考えて、青山さんの演出を無くすか、他からパワー系を持ってくるか、ですわね……。」

 

 今から演出を変更するのは得策ではない。ならば、出久の動きを分かっている人が代わりにやるか、そもそも出久が必要な箇所だけを無くすかだ。そこから、あーでもない、こーでもない、と、話し合った。

 

 そして、開始まで数分となった時。

 

「ごめん!」

 

 青山に連れられて出久が駆け足でやってきた。かぶりも含めてA組メンバーから、「何があった?」と、聞かれたが「転んだ」と、はぐらかされてしまった。絶対に何かを隠してはいるが、深く問い詰めている時間も無いので、すぐに出久に準備させた。

 

「よし、時間だ。」

 

 響香が呟いた。それに応えるようにA組の面々は頷き、それぞれの定位置に着いた。

 

(やるよ。)

 

 まだ、スポットライトはついておらず、暗幕で外の明かりも入らないためステージは真っ暗である。しかし、うっすらと見える人影から観客が多い事が分かり、かぶりの緊張はピークとなる。

 

「沖」

 

 ふと、彼女の横に立つ響香が拳を向けてきた。見ると響香の拳も少し震えており、必死に笑みを浮かべているが引き攣っているのが分かる。

 

「うん」

 

 かぶりは響香の拳に自分の拳をぶつけた。しかし、たったそれだけで彼女の、いや、響香とかぶり、2人の緊張は吹き飛んでしまった。

 1人じゃ無い。横には頼りになる友人がいて、後ろにも仲間達がいる。それさえ実感できれば怖いものなんてあるはずがない。

 

「「()ろう」」

 

 時間となる。 

 予定通り、勝己の爆破からステージは開始した。

 響香とかぶりの歌声が響く。ギターを鳴らし、響香が奏でるリズムが乗る。

 

(……不思議だ。さっきまでの緊張が嘘みたいだ。)

 

 何も怖くなかった。

 響香の声にかぶりのコーラスが重なる。それを後押しするように、響香のベースを軸として常闇のギターと勝己のドラムが鳴る。

 それを盛り上げるようにダンス隊が登場し、会場は一つとなった。

 

(ああ……。楽しい。)

 

 楽しい、と、一言で表して仕舞えばそれまでだが、生まれて初めての不思議な感覚だった。横にいる友人、共に舞台を作るクラスメイト達。みんなの事を思うと不思議と心が熱くなった。

 

(今ならなんでも出来そう。)

 

 一瞬、響香を見た。

 彼女は真っ直ぐ観客を見て歌い、ベースを弾き歌っている。その姿がとてもカッコよく、頼もしかった。そして、そんな彼女と同じ場所に立てている事がとても誇らしい。

 

(…………。快感っていうのかな?)

 

 かぶりはギターソロ、そして、メインで歌う場所とこなしていく。会場の昂りを感じる。響香からの信頼、クラスの一体感。まるで、会場全体が一つの生き物になったかのように錯覚してしまう。

 

(ああ、ずっと、続けば良いのに……)

 

 そう思ってしまうほど、夢のような感覚だった。心の全てが解き放たれているようで、表も裏もなく、その全てが混じり、そこに存在している。だから、この場にずっといたいと心の底から思えた。

 けど、ずっと続く訳がない。

 

「はぁ……はぁはぁ……終わっちゃった。」

 

 全てを出し切り息が上がる。会場が壊れるのではないかというくらいの歓声の中、ライブは終わる。

 ライトは消え、開始前と同じように辺りは暗くなった。しかし、違うのは止まらない歓声と、そして、高揚した心だ。

 場所も人も同じなのに、何もかも違っていた。

 

「……はぁ、はぁ」

 

 舞台袖に出ても、その感覚は同じだった。上がった呼吸は収まらず、昂った気持ちは落ち着かない。しかし、それを表現する術なんてない。

 そんな状態で控室へと向かう中、1人の少女が名を呼んだ。

 

()()()!」

 

 A組にはかぶりの下の名前を呼び捨てにする人はいない。しかし、自然と誰だか分かったし、違和感なく受け入れられた。

 

「いや……。なんか、テンション上がって……。」

 

 振り返ると、響香は顔を赤くしていた。響香は意図してかぶりの名前を呼んだ訳ではなかった。ただ、上がってしまったテンションに任せてしまっただけだった。そのため、言った後にすぐに正気に戻ってしまった。

 響香にとってもかぶりは無二の友人だ。正直に言えば下の名前で呼ぶのも、呼ばれるのも違和感は無い。しかし、今さら呼び方を変えるのは恥ずかしいような、照れ臭いような気がしてしまうのだ。

 そんな響香に対してかぶりは自然と拳を突き付けた。

 

()()ちゃん!」

 

 その返しに響香は安心したような嬉しいような笑みを浮かべ、拳を合わせた。名前を呼んで拳を合わせただけで、一瞬の出来事だ。しかし、2人にとってとても大切なことのように感じられ、そして、それがくすぐったいような照れくささがあった。

 

「なんだか、今更だね。」

 

 響香は照れくささに笑ってしまった。それに対してかぶりも笑って答えた。

 

「そうだね。本当に今更だ。」

 

 そう答えたかぶりだが、何が今更なのか明確には分からなかった。下の名前で呼び合うことなのか、それとも別のことなのか、答えられない。しかし、

 

(けど、私はここにいたい)

 

 自分の居場所が見つけられた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おわり!






前4話を出久ルートとするのら、この話は響香ルートとなります。
イフルートを乱立するのもアレなので
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