"個性"ゴキブリ    作:ゴッキー

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イマジナリーミルコ

 

 

 響香はスマホのカメラで、眼下で起きていることを撮影していた。スマホを持つ手は震えており、これから起きるであろう光景はヒーローとして、人として看過できないことに恐怖していた。しかし、それでも響香は心を殺してこの光景を撮影し続けると決めていた。

 

「はっ!悪く思うなよ? お前を殺せって命令なんだ。」

 

 大柄な男は、1人の女性に言った。女性、最上愛の周りにはその男の他に14人、つまり、合計で15人の男がいる。そして、その全員が下劣な笑みを浮かべている。本来であればよっぽどの強力な"個性"でも無い限り絶体絶命な状態だ。なのに、愛はゆったりと笑った。

 

「暴力、振るわないで?助けて?」

 

 そう言うと、目の前の男の肩を触った。瞬間、男は静止し、頭を抱えそのまま蹲った。その様子に、周囲の男達はたじろいだ。この超常社会、異常とは何処にでも存在している。あり得ないことなどなく、何が起きるか分からない。だからこそ、今起きたことが怖いのだ。

 

「くそ、あんたは許さない。許せる訳がねえ!!ヤレ!」

 

 男は頭を押さえて立ち上がり、叫んだ。その瞬間、周囲の14人は顔を見合わせたあと、愛に襲い掛かり始めた。

 

「あ、ハズレだ。ヤバ」

 

 愛がそう言った時には既に遅い。男の1人は指を蔦のように伸ばし愛を拘束し、他のメンバーが殴り始める。完全なるタコ殴りが開始だ。本来なら、これで終わり、男達に気絶するまで殴られるだけのはずだった。しかし、そうはならなかった。

 

「や、やめろ!」

 

 男達の1人が、その叫びと共に仲間の1人を突き飛ばした。そして、それを皮切りに、男同士で争い始めた。片方は愛を守るために9人、そして、もう片方は愛へ攻撃するために6人と、本来仲間だった15人はそれぞれに分かれて殴り合いをし始めた。

 

「痛い、けど、どうにかなったっと。」

 

 その殴り合を興味なさそうに一瞥すると、愛はその場を後にしようと背を向けた。その時、

 

「ダメだぁああ!!!!」

 

 1番初めに愛に声をかけた大柄な男か叫んだ。その瞬間、衝撃波が彼の全身から放たれ、愛も含めて周囲の全員が吹き飛ばされた。これが、彼の"個性"である衝撃蓄積である。身体に受けた衝撃を蓄積し、臨界点を超えると一気に解放するというもの。蓄積は勝手に行われるし、臨界点を超えないと解放できないうえに、臨界点を超えると勝手に解放されるというかなり使い勝手の悪い"個性"である。

 

「ハハハ……。言ったよな。妹いたんだ。あいつが、くそ、ダメだ。分からない。けど、俺はお前を許すわけないはいかない。」

 

 男はそうぼやきながら、歩みを進める。

 愛の"個性"はただ、対象を自分の事を愛のするようにするだけで、操れる訳ではない。そのため、限界はどうしてもある。仮に、信仰深いクリスチャンにこの"個性"を使っても神を裏切らせる事は難しいだろうし、オールマイトに使ってもおそらく特に意味はないだろう。愛するが故に罪を償えという可能性も高い。このように、愛よりも強い信念、信仰を持つ相手にはめっぽう弱いのである。

 才子もその弱点のことは推測できていた。そして、その事を確かめるために15人用意したのだ。15人とも全員が愛を襲う理由が異なるのだ。金、性欲、仇、恨み、嘘、全員がバラバラの理由を持って集められたのだ。そして、才子はそれぞれの反応を見る事によって、愛の"個性"を探るつもりであった。

 そして、この男の場合は妹だった。この男の妹、先日、自爆したのである。愛によって洗脳され、爆弾を巻いて自爆したのだ。才子の調べによりその事を伝えられたこの男は、最も愛する存在だとしても許せなかった。家族を傷つけられた怒り、そして、愛する相手だからこそ、たとえ愛する相手であっても立ち向かう。

 

「お前を殴って自首させる!!」

 

 そういう人は多く存在する。

 そして、愛はそういう相手のことを()()()と呼んでいた。

 

「あー、なんか、本当にめんどくさい……。」

 

 愛は痛む身体を起こしながら辺りを見渡した。目に入るのは、大柄な男と、気絶する14人の男達だ。愛が気絶しなかったのはひとえに少し距離が離れていたからで、ひとえに運が良かっただけだ。下手をすれば倒されていた、そして、今も続く危機的状況。しかし、そんな事は愛にはどうでも良い事だった。

 彼女にとって世界はお願いすればどうにかなるように出来ているのだ。だから、彼女は無責任に、そして適当にお願いをする。

 

 

 

 

()()()、助けて」

 

 

 

 

 たった一言。

 それだけで、男は首が裂けて絶命した。

 男が立っていた場所には1人の少女がいた。黒いボディースーツを着た彼女は返り血を少しも浴びておらず、武器である万能包丁のみ血で汚れている。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ええ、この程度、全然平気。」

 

 少女は愛と会話をしていた。その表情はとても柔らかで、幸せに満ちているようだ。しかし、今起きたことの一部始終を見ていた響香は口を押さえて吐き気を堪えていた。

 

(人が……。死んだ)

 

 目の前で起きた人の死、それがとてつもなく怖かった。友人が死んで、人の死が身近になった。それでも、目の前で血が吹き出して死んだ。しかも、その原因は間違いなくこの作戦に加担した自分にあるのだ。その事実が、怖くてたまらなかった。

 

(けど、ウチは!)

 

 友人のため。ここで倒れるわけにはいかない。奮い立ち、泣きそうな目で観客席に隠れながら、アリーナを見下ろす。そこには愛と少女がいる。

 

「……それじゃあ、帰りましょうか。あ、()()()()()()()()()、殺さないとね。」

 

 愛はそう言うと気絶している男達を見た。暗にこの男達を殺すように言ったのだ。それはいつものことだ。既に少女、沖かぶりにとって人を殺す事を躊躇うような事はない。だが、顔を伏せ、すぐには動けなかった。

 

「……どうしたの?」

 

 愛の言葉にかぶりは肩を振るわせた。

 

「……………なんでもありません。それが、あなたの望みなら……。」

 

 かぶりは包丁を右手に構えて地面を蹴り、羽をはばたかせて跳んだ。その突然の行動に愛は驚いたが、すぐに、他にも目撃者が居たのだろうと納得した。

 

(けど、いつもなら、目撃者は見つけ次第報告してくれるんだけど……?)

 

 愛はそう思ったが、しかし、風邪でも引いて調子が悪いのだろうと勝手に納得した。

 

「————っ!」

 

 包丁を握るかぶりは、真っ直ぐに響香の元へ辿り着くと、撮影に使っているスマホを蹴り飛ばした。響香はあまりにも一瞬の出来事で反応できず、その場に尻餅をついてしまった。

 

「——-やっぱり。」

 

 かぶりは眉間に皺を寄せながら、響香の首めがけて包丁を振いう。しかし、寸前のところで手が止まってしまう。いつもなら、躊躇いなく動脈を切っていた。殺せと命令されたら、その通りに実行をしていた。なのに、動けなかった。彼女を傷つけることが出来なかった。

 

 かぶりと響香の視線が交差し、沈黙が流れた。

 

「—————沖?」

 

 響香はそう呟いた。かぶりは既に響香の知っている姿ではない。精神面もそうだが、脱皮により急成長した彼女の容姿、体型は大きく変わっている。あの葬式で見た死体と全く別の見た目だ。

 だが、それでも響香は彼女が友人だと分かった。響香の中にぐちゃぐちゃした感情が駆け巡る。今人を殺したことも、公安のことも、色々と、めちゃくちゃな思いが混ざり合う。しかし、どの思いも、どの考えも、全てたった一つの想いから来るものだった。

 

「沖! 死んだって思ってた。だけど、また会えて良かった。」

 

 響香は心の底からそう思えた。

 

「………違う。私は……。」

 

 かぶりは響香の首筋に包丁を当てたまま視線を逸らした。しかし、それ以上何も出来ないで固まってしまう。自分が何をすべきでどうしたいのな分からなくなってしまった。

 愛する人から殺せと言われた。しかし、目の前の相手は殺したくない。

 愛する人から嫌われたくない。しかし、目の前の相手には幸せになってほしい。

 愛する人の為に活動したい。しかし、目の前の相手には汚れた姿を見せたくない。

 矛盾した思考と感情が駆け巡る。また会えた。会ってしまった。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。だめだ、殺さなきゃ。けど、友達だ。裏切らない。嫌われたくない。

 ぐちゃぐちゃになる心は、誰かに助けて欲しかった。

 

(ご、ご主人様…………。)

 

 アリーナを見る。しかし、そこには誰もいない。当たり前だ。愛はかぶりに任せて既に帰ってしまっていた。

 どうすれば良いかわからない。愛に支配されていた時は安心感に包まれていた。しかし、それが現実では無かったことを改めて実感してしまう。

 

「私は……。」

 

 左手で頭を抱える。その顔は苦しそうで、迷子のようだった。そんな彼女に響香はなんて言えば分からなかった。しかし、なんとかしないとという焦りが膨れ上がった。

 

「沖、大丈夫!大丈夫だから!」

 

 根拠の無いことを言いながら、響香は包丁を握るかぶりの手を掴んだ。彼女が分かるのはかぶりが苦しんでいる原因が、最上愛であるということ、そして、

 

「だって!ここにはウチが!ウチらがいるから!」

 

 助けられるのが、自分、いや、自分達しかいないという事だけだ。だから、根拠が無くても大丈夫だと、助けてみせると言い聞かせた。というよりも、今の響香にはそれしか出来ることが無かった。

 

「……じ、耳郎さん……?」

 

 頭を押さえる。思考が定まらず心が粉々になりそうだ。そんな時、いや、こんな時だからこそなのか、かぶりはとある人物がやってきた事を探知してしまった。

 

「……才ねぇ?」

 

 かぶりは頭を押さえながら振り返る。そこにはアリーナへと続く階段があり、リズムカルに駆け上がる足音が響いている。そして、そこから駆け足で才子がやってきた。

 

「……はぁ、はぁ。久しぶりってほどでも無いわね。かぶり。」

 

 息を整えながら、才子はかぶりの元へとやってきた。

 かぶりにとって、突然の来訪。心も思考も追いつかない。何もかもがフリーズしてしまった。そんな状態の彼女を才子は、躊躇いもなく流れるように抱きかかえて響香から離した。

 

「挨拶はいいけど、友だちに刃物を向けるのは良くないわ。謝りなさい。」

 

 かぶりはその才子の言葉には恐怖も、怒りも、敵意も感じなかった。ただ姉として妹を注意してる、本当にそれだけとしか感じなかった。思考が停止していることもあり、何も出来ず、されるがままとなってしまった。

 事実、かぶりの感覚は正しい。才子は既にかぶりの親友、そして、姉で居続けると決めている。今更、かぶりが人を殺そうが、何をしようが、揺らぎはしない。

 

「ほら、謝りなさい。」

 

「……ご、ごめんなさい?」

 

 才子の言葉に倣い、かぶりは響香に謝罪した。才子との再会、ただそれだけの事で、彼女から苦しげな表情は消えてしまい、そこにいるのは姉に注意されている妹でしか無かった。

 

(これで、良かったのかな?)

 

 響香はこんな所でかぶりと再開できるとは考えていなかった。しかし、それでも、再開できた。そして、どうしてか苦しげな表情は消えていた。未だ、"個性"の影響は残っているだろうが、このまま何事も無く解決できるのでは? 響香はそう思った。いや、思いたかった。

 

 

 

 

「………………けど、目撃者は消さないと……。」

 

 

 

 かぶりは、ふと、そう呟いた。彼女はアリーナに倒れる男の死体だ。震える手で、包丁を握り直し、そのまま身体を捻り、コマのように回転して才子の拘束から離れた。

 

「かぶり! 落ち着いて!私たちはあなたの味方!」

 

 才子はそう叫ぶが、かぶりは空中で身を回転させ、響香と才子の2人から距離を取って着地した。右手に包丁を握り、両足と左手を地面につけて這うように2人を見る。いつでも動ける臨戦体制だ。

 

「……嫌われたく無いんだよ。でも、殺したく無いんだろ? 当たり前だよ。そんなのミルコなら分かってるでしょ? 当たり前だ。私をなんだと思ってる?私はお前だ。だから、分かる。お前が1番やりたいことはなんだ?やりたいこと?そんなの分からないよ。今はご主人様に嫌われたく無いんだ。は!笑わせるな、支配されてるのが心地良いだけだろ?前からそうだ。虫籠に囚われてるのは苦痛なようで、1番楽なんだよ。だから、あの家から出なかった。警察でもヒーローにでも、いや、学校の先生にでも相談すれば、すぐに解決したのにさ。 そんなこと言わないでよ。あの時はそんなこと思い浮かばなかったんだ。 そんな言い訳………」

 

 かぶりはぶつぶつと何か誰も理解出来ないことを呟いている。その目線は完全に宙を見ており焦点が定まっていない。だが、かぶりにとって目線なんて意味が無いことは既に2人とも知っている。だから、かぶりが何をしようとも反応できるようにした。

 

「沖、落ち着いて、ウチらは味方だよ。ここのことは誰にも言わない。約束する。」

 

 響香の言葉は既にかぶりの耳には入っていない。ただ、臨戦体制のままぶつぶつと何かを言っているだけだ。かぶりは動くそぶりはなく、響香も才子も打つ手がない、完全な硬直状態だ。

 しかし、それもすぐに解かれた。

 

「あっ」

 

 かぶりは何かに気がついたように短くそう言うと、包丁を投げ捨てて出口に向けて走り出した。「待って!」と、2人は呼び止めようとしたが、かぶりは()()で逃げており、一瞬で見失ってしまった。  

 

「……逃した。あの子が逃げたらもう……。」

 

 才子が弱音を吐いた次の瞬間、アリーナの窓ガラスが割れて中に人影が飛び込んできた。人影は背中に生えた翼から無数の羽を飛ばし、羽達はそれぞれのバラバラの軌道をとりアリーナの外へと出ていく。

 

「———-!ホークス?!」

 

 才子の叫びにも似た声を一瞥した後、人影、ホークスは少しだけ残した羽を使い地面に墜落するように着地した。

 

「……ッ、逃げられた。………最悪だ。」

 

 ホークスは手で顔を覆い項垂れた。

 

 

 

 

 かぶりは息を切らせながら下水道を走っていた。かなり臭いが、それも気にならないくらい、頭が痛かった。

 

「ハハハ!上手く逃げられたみたいじゃ無いか!あと、一瞬、気がつくのが遅かったら完全にアウトだったな。」

 

 視界の端にミルコが現れる。しかし、彼女が本物では無いことはかぶりとて分かっている。正直言えば彼女は無視したかった。なのに、その言葉一つひとつがかぶりの心をざわめかせる。

 

「笑い事じゃ無い。ホークスから逃げた。これは公安への裏切りだ。次会う時は間違いなく殺しにくる。」

 

「それの何が悪い。お前は元から(ヴィラン)だったじゃねぇか。元に戻っただけだ。」

 

 その言葉をかぶりは否定出来ない。元から(ヴィラン)で、たまたま公安と利害が一致していただけだ。そんなこと初めから分かっていたはずだ。反論も肯定もできないかぶりにミルコは続ける。

 

「まさか、元クラスメイトに再会して、ちゃんとしたヒーローになりたいとか思っちまったんじゃねぇよな?」

 

「………それの何が悪いの?」

 

「悪くないさ。私はお前だぜ? その気持ちは痛いほど分かる。けどさ、無いものを願っても仕方がないじゃ無いか。重要なのは、これからどうするかだ。」

 

 ミルコの言葉に頷きつつ、かぶりは壁を登り、マンホールを少し持ち上げて触角を出して周りに人がいない事を確認して外に出た。

 

「これから? それを聞くために急いでるんだよ!ケータイも無いし、早くご主人様に謝らないと!!」

 

 任された仕事を何一つこなせていない。結局、2人を殺すことが出来ずに、ホークスには勝てない事を言い訳に逃げてきてしまった。きっと、失望させてしまうだろうし嫌われてしまうかもしれない。それがとてつもなく怖かったが、しかし、報告しないわけにはいかない。

 

「………………けど、やりたく無いんだろ?」

 

「何が言いたいの?」

 

「言葉通りの意味さ。ハッキリ言うぞ。()()()()()()()。」

 

 その言葉にかぶりは心臓を掴まれたような感覚に陥った。生殺与奪を握られているかのような恐怖がかぶりを包む。しかし、それと同時にミルコの言葉に納得してしまっている自分もいた。

 

「…………私はどうしたら良いの?」

 

「……好きにすればいいさ。お前は何がしたい?」

 

 自分が何がしたいのか? その単純な言葉に答えはない。今はご主人様に嫌われたくないという思いしか出てこない。無限に出てくる好きと言う感情にそれ以外が抑え付けられてしまっているようだ。

 

「……どうって……。分からないよ。」

 

 ミルコの言葉を聞きながら、適当な民家に忍び込み物色する。

 

「分からないだと? そんなはずはない。私の言うことは、何処かでお前が思っていることだ。」

 

「……………。」

 

 何も答えられないまま、盗んだジーパンとパーカーを着て、通行人の中に紛れ込んだ。

 

「……………………限界、なんだよね。」

 

 限界、その言葉が頭の中を占める。何が限界なのかは彼女には分からない。けれど、心の中の風船が何かでパンパンになっていることだけは知っていた。

 

「………そういえば、なんで、ミルコなんだっけ?」

 

 街中で足を止めて、呟く。ミルコへの憧れ、それはきっと自分のオリジンなのだろうとかぶりは思う。

 小さい頃の思い出。押し入れの中から聞こえていたインタビューを思い出す。クラスメイト達の会話を思います。しかし、幼い頃、助けてくれた人のことは、なぜか()()()()()()()()

 

「………そうか、どうして、私がミルコなのか……。」

 

 

———-私も、あんな風に自由になりたかったんだ。

 

 

 そう思い、前を見る。すると、最上愛が歩いてきていた。愛の性格から、面倒ごとに巻き込まれる前に帰宅すること、そして、帰宅するならこの道を通ることは、かぶりは分かっていた。

 だから、合流するためにここに来たのだ。合流は彼女の家でも良かったが、ヒーローや警察に見張られている可能性を考慮して、こちらにした。

 

「……ご主人様」

 

「あら、かぶり、早かったじゃない。お願いは叶えてくれた?」

 

 愛の微笑みにかぶりは悦びと充実感に満たされてしまう。そして、それと呼応するように身体が自然と動いた。

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 いつの間にか手で持っていた包丁でかぶりは愛を刺した。自分でも何をしているのか分かっていない。ただ、ミルコが覆い被さるように自分と重なっている事だけは分かった。

 

「…………ああ、そういう……。」

 

「ハハハッ」

 

 腹を押さえて倒れる愛を見てかぶりは自然と笑みが溢れていた。 それと同時に、近くを歩いていたサラリーマンがかぶりに襲いかかる。 

 愛は基本的に必ず1人はボディーガードをつけている。それが主人を守る為に飛び出してきたのだ。しかし、かぶりは無感情に包丁を振るい瞬殺した。

 

「あぁ、そうか、私みたいなのがいるから、だからご主人様は僕を増やさなかったんだ」

 

 愛は基本的に"個性"を使う人数を絞っていた。大規模作戦などで大人数を一時的に支配下に置くことはあっても数日以内に処分していた。その理由は単純で、制御ができないからだ。彼女の"個性"は操れるわけではない。強すぎる愛はそれだけでリスクを持つ事になる。

 例えば、主人を守るボディガードが出遅れてしまうのも、人によっては「余計なことをして嫌われたく無い」という思考が過ぎってしまうからだ。

 

「キャハハハハハハ! そうか、本当にそうなら!私が弱点だったんだ! 大好きなご主人様!」

 

 キャッキャと、楽しげな声を上げながら、包丁を抜いて、さらに刺す。グサグサと、リズミカルに愛の至る所を突き刺していく。その度に愛は悶え、悲鳴を上げる。そして、すぐに動かなくなってしまった。

 

「あー、ハハ! 自由だ!」

 

 愛する人を亡くした悲しさ、

 愛する人を殺せた悦び、

 (ヴィラン)になったこと、

 大切な人たちを裏切ったこと、

 

 様々な感情が心にある。しかし、それらを全てを上回る、圧倒的な爽快感。

 かつての(ヴィラン)狩りと呼ばれたあの時とは違う。あの時はまだ、迷いがあった。自分の残虐性も、そして、正義感。それら2つに押しつぶされそうだった。

 しかし、今は自身の闇も、光も、残虐性も、正義感も全てを飲み干して解放された。自分の中にある矛盾すらも受け入れられた。それはもう、縛るものがない清々しいまでの自由である。

 

「捕まえろ!」

 

 ヒーロー達がやってくるのを感知する。だが、問題なくかぶりは逃げられる。既に彼女はNo. 3の追跡すら条件付きではあるが逃れられるのだ。並みのヒーローでは捉えられない。

 

「あははは!どーしようかなぁ。なんでもやりたい放題だ!」

 

 気分はまさに天上天下唯我独尊。縛るものはもうない。まさに、この世界の全てが遊び場だ。その解放的で、刹那的な気分に身を任せてかぶりは何をするのか思う。

 

 

 

 

 

 

 

「あーそうだ。ひさしぶりに薫お姉ちゃんに会いに行こうかなあ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





どうでも良い情報


沖かぶりのオリジン

・誰(どこ)にするのかが、かぶりの分岐点なんです。





最上愛

"個性" 愛情
触れた相手を自分の事を大好きにしてしまう"個性"。制御は出来ないため、誤って触れてしまっても自動的に発動してしまう。そのため、満員電車とかに乗ると気がついたらハーレムが完成している可能性もある。
また、彼女と触れ合えば触れ合うほどその愛は強く、重くなる。

彼女の母親は愛が生まれる前から、愛の"個性"の支配下にいた。そのため、愛の母は彼女を独り占めに父を殺害し、愛をペットのように檻に入れて溺愛して育てた。
当時の彼女にとって檻の中が全てであり、支配されている事が愛情であった。しかし、12歳の時、ヒーローによって()()()()()。児童養護施設に入れられたが、半年もしないうちに愛を手に入れるための乱闘が始まり、男性職員1人と愛以外の全てが死亡した。その後彼女は大学生となるまで行方不明となっていた。

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