"個性"ゴキブリ    作:ゴッキー

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お久しぶりです


秘密裏の侵攻

 

 

 

 

 大学で沖を取り逃してしまった響香と才子はホークスの手によってヒーロー公安委員会本部の応接室に連れて来られていた。応接室とは言っても歓迎されているムードは少しも無く、部屋にはピリついた緊張が走っていた。

 

「…………」

 

 響香と才子はソファーに座り、机を挟んで反対側にはヒーロー公安委員会の会長が座りその背後にはホークスが目を光らせている。完全に警戒をされており、下手なことをすれば言葉通りに消されかねない事態である。

 

「印照才子さん。知ってる事を話してちょうだい。貴女なら、今、自分が置かれてる状況がわかったますよね?」

 

 会長は静かに口を開いた。その言葉に才子は少しホッとした。きっと対話の余地があるならどうとでも出来る。

 

「分かってます。秩序を犯す癌、それが今の私たちです。ヒーロー社会の闇を知ってる私たちは本来は消される存在。けど、そうはしない。ひとえに利用価値があるから。違いまして?」

 

 その言葉に会長が頷いた。

 

「…………ええ。そうね。だったら、それを示してください。沖かぶり、いいえ、(ヴィラン)狩りの捜索に協力しなさい。」

 

 その言葉に才子は笑った。その横がを見た響香は少し怖くなった。今の自分達は絶体絶命。それなのにそんな状況でこの人は笑って見せたのだ。

 

「ええ、(わたくし)達も初めからそのつもりでしてよ。ただし

条件があります。耳郎響香、印照才子に危害を加えない事、そして、沖かぶり、五木アマメ、呼び名はどうでもいい、私の妹、私達の親友を()()()こと、これら確約して頂けるなら協力してもよくってよ?」

 

 その言葉に会長は目を細めた。

 

「自分達が条件を出せる立場だと?」

 

 才子はその言葉に笑った。しかし、それは虚勢である。今にも泣きそうなのを抑えて、笑顔の裏では必死に頭を回していた。彼女の"個性"は紅茶を飲め頭脳を飛躍的に向上させる事ができる。しかし、紅茶が無ければそうはいかない。確かに通常時でもIQ150を超える天才だ。だが、それでも置かれてる立場が変わる事はない。

 そもそも、IQを上げたところで経験も知識も増えるわけではない。天才よりも、経験に裏打ちされた知識が勝ることも多い。

 

(考えて、かぶりを助ける方法を……。彼らにあの子に手を出させない、その条件を飲ませる!)

 

 口が渇くのを感じた。自分の全てを犠牲にして、頭脳を回す。

 彼女は天才だ。しかし、それでもただの高校生、なんでも思い浮かぶわけでもない。だから、賭けに出る。無言よりもはマシだと、口を開いた。

 

「ええ、確かに私達はピンチですわね?しかし、これぐらいの条件なら飲んでいただけるのではなくて?()()()()()()()()()()()から、大きく外れたないはずでしてよ?」

 

 仮説も仮説を並べた推理だ。それに賭けて揺さぶりをかけた。しかし、会長も、ホークスも動じない。これくらいで動揺するくらいでは秩序は守れていない。

 

「………………良いわ。乗ってあげましょう。」

 

 会長はそう言って続けた、

 

「しかし、公安はそう簡単にあなた達を信用することはできない。だから、我々も条件がある。」

 

 そう言うと会長は黒い腕輪を2つポケットから取り出した。あらかじめ準備しているあたり、この流れは初めから想定されていたのだろう。

 

(……こいつらはどこまで掴んでる?)

 

 才子はそんなことを考える。そんな彼女の置いて会長はさらに言葉を続ける。

 

「これは発信機と盗聴器が組み込まれた腕輪よ。これを2人につけてもらいます。一度つけたら切断しなければ外せない特殊仕様、これをつければあなたの条件を飲むわ。」

 

「参考までに、もしも、断れば……。タルタロスとかでして?」

 

「………そこまではいかないけど、知ってしまったのなら塀の中ね」

 

 脅しだ。と、才子は思った。元より公安の手のひらの上だったのだろう。しかし、やる事は変わらない。チラリと響香の方を見る。彼女はすでに覚悟を決めているようで目が合うと頷いた。

 

「分かりました、その条件を飲みましてよ。」

 

 そう言って2人は腕輪をそれぞれ左手に嵌めた。

 

 

 その後、会長は別の仕事があるとのことで部屋を出ていき、ホークスと3人きりとなった。ホークスは3人になった瞬間にドサリとソファーに座り、緊張感のない笑みを浮かべた。

 

「ま、2人ともそう警戒しないでくれ。()()()()()()()敵じゃあない。」

 

「……個人としては……ね。」

 

 つまりは公安としてはそうじゃないってこだ、と、才子は小さくため息をついた。当たり前だ。かぶりを助けるなんてあやふやな理由で、才子と響香は男達を騙して利用して最上愛という女性を襲いそれを撮影した。誰がなんと言うと犯罪である。その罪について触れないのは、公安があくまでも利用しようとしているからだ。と、才子は考えていた。

 そんな様子の才子と、先ほどから緊張しているのか黙っている響香を見てホークスは口を開いた。

 

()()()()()()()()が、無関係の人を巻き込むとは思わなかった。」

 

「ええ、彼女は信用できましてよ? 能力もその辺の底辺ヒーローよりありましてよ。」

 

 そう言う才子にホークスは叱りつけるように返した。

 

「いや、そう言う意味じゃない。君は我々に()()()()()と約束したはずなのに、それを破った。完全に我々への裏切りだ。はっきり言うと、耳郎響香については計りかねているが、公安の君への信頼はほぼゼロだ。まぁ、会長も……いや、なんでも無い」

 

(会長も子どもを使う罪悪感とか、同情があったんだろうけど、彼女達に言う事じゃないな。)

 

 ホークスは最後の言葉は口にせず思うだけだったが、彼も会長と似た感情を持っていた。

 約束、契約を破られたが、義妹を守ろうとする彼女の想いを責める事は出来ないし、沖かぶりという少女が置かれている状況に同情もしていた。ヒーローとして、1人の大人として、彼女たちが少しでも幸せになってほしいと思っていた。だが、彼女たちを利用している公安がそんな思いを口にする事は許されない。だからなのか、ホークスはガラでもなく彼女達を叱りつけるような事をしてしまった。

 対して才子はホークスの言葉に何か疑問を持ったのか少し思案しはじめた。

 

(本当は紅茶が欲しいけど)

 

 そんなことを思いつつ、目を瞑り"個性"のない純粋な地頭で思考を回す。

 

「確かに、私はあなたたちを裏切りました。それは申し訳ないです。けど、妹を裏切るよりはマシです。私はどんなことよりもかぶりを優先します。それだけはご理解ください。」

 

そんな様子の才子にホークスは少し口角を上げた。

 

「出て右にある休憩スペースに自販機があるよ。確か、午前ティーならあったと思う。」

 

 その言葉に才子はハッとした表情をした後、ホークスを数秒睨んだ。対して彼は何も気にしてない様子でニヤついた笑みを浮かべたままだ。とはいえ、このままでは埒が開かないと思い才子はホークスが言った自販機に行くため部屋を出た。

 部屋に残されたのはホークスと響香だ。公安に連れてこられてから、ほとんど口を開いてない響香の様子にホークスは少し頭を巡らせた。彼は他人の目を気にするタイプでも、気を使う方でもない。別に気まずい空気が流れていても、わざわざ解消しようとも思わない。

 しかし、ホークスも何も知らない少女を利用しようとしている事には罪悪感がある。確かに彼女は犯罪者である。友人を助けるという名目で見ず知らずの男たちを、女性にけしかけた。だが、それは元はと言えば公安が沖かぶりという少女を利用したからだし、仮に彼女が勝手に起こした罪でも、公安の闇に引っ張り込んで利用する謂れは無い。

 まだ、響香は子どもだ。償わせてやり直させる。それがベストなのだ。

 

「耳郎響香……。だったね。俺はホークスよろしく。」

 

 ホークスはソファーから立って言った。その突然の挨拶に響香は面食らったが何とか「よろしくお願いします」と返すことが出来た。そんな彼女にホークスは珍しく真剣な面持ちで言葉を続ける。

 

「耳郎さん。ここがどういうところなのか、沖かぶりが何をやらされていたのか、聞いてる?」

 

「……はい。…………聞いてます。沖は、今の社会に都合の悪い人たちを殺してた。秩序を守る為に、利用されてた。ここは、秩序を守る為ならなんでもやる。()()いうところですよね。」

 

「そして、君はそんな場所に足を踏み込んでしまった。後悔しても、俺たちを恨んでも良い。けど、もう、戻ることは出来ない。君は秩序の裏、社会の闇から、逃げることは出来ない。覚悟してくれ、君がこれから見るのは地獄だ。」

 

 ホークスのその言葉には嘘はない。社会に都合の悪い者を消し去り、綺麗なものだけを世の中に見せる。そんな現場の最前線には、皆が夢見るヒーローなんて存在しない。

 そんなこと、響香も頭では理解しているつもりだ。

 

 しかし、

 

「……………そんなの分かりません。私はかっこいいからヒーローに憧れた。それで、頑張ったら雄英に入れた。本当はそれだけなんです。」

 

 耳郎響香には掘り下げるほどの過去も、輝かしい覚悟も存在しない。音楽家の夫婦の元に生まれ、たまたまヒーローに憧れた。ただ、それだけの普通の少女なのだ。

 

「それでも、友達を、助けたい。2回も失うなんてごめんです。今は本気でそう思っています。」

 

 その言葉にホークスはいつものニヤけ面に戻って拍手をした。

 

「いや、十分だよ。()()()()()()()()()。君達は今の公安の誰よりも()()()()()。」

 

「………それってどう言う……?」

 

 響香がそう漏らした時、部屋の扉が開いた。

 

「公安にも、最上愛にやられた人がいた。ってことでして?」

 

 才子がペットボトルの紅茶を片手に戻ってきたのだ。その言葉にホークスは満足したかのようだ。

 

「続けてくれ。」

 

 ホークスに促され、才子は言葉を続けた。その裏には彼女を試している節もあるが、才子は百も承知である。

 

「公安は既に、他人を操る(たぐい)の"個性"によって、攻撃を受けている。いいえ、最上愛と、その"個性"のおおよそまで掴んでいる。違いまして?」

 

「………知ってはいたが、こりゃすごい……。その通りだ。公安は最上が怪しいとは目星をつけていた。そして、君たちの一件で確信をした。最上愛は感情を操る。……続きを聞かせてくれ。」

 

 ホークスのその言葉に促さ、才子は推理を続ける。

 

「……………公安の中に最上愛に操られた者がいて、機密情報を(ヴィラン)グループに流していた。そして、一部は捕まえられても全て、現状、誰が操られているのか、分からない。誰が敵か、誰が味方なのか分からない。だから、明確に最上愛と敵対していた我々を利用したい。ってところでして?」

 

「………そうだ、判明しているのは、公安職員ではBB、警察組織としては、警本 官(けいもと つかさ)巡査部長も含めた2人だ。しかし、最上の"個性"は、操られているかどうかが分からないし。その人数の上限は不明だ。そのせいで、今、公安は誰が敵で、誰が味方なのか分からない状態にある。」

 

 その言葉に響香は、身震いした。大切な仲間に敵が混じっている。もし、A組でそんなことがあったら? そんな妄想が響香の頭をよぎった。頼りになる仲間を疑い、そして、疑心暗鬼となり、誰も信じられなかなる。それはとても悲しく、辛いことだ。それを思い少しショックを受けた様子の響香を見た後、ホークスは言葉を続ける。

 

「………よし、合格だ。2人には、最上愛および指定(ヴィラン)団体、五戒組の撃破を手伝ってもらう。これは命令だ。」

 

 ホークスの言葉に才子は目を細めた。

 合格。この時点で合格を貰えなかったらどうなっていたか、そんなの考えるまでも無いだろう。

 

「それが、あの子に関係あるのかしら?」

 

「ある。順を追って説明する。」

 

 そういうと、ホークスは今までのあらましを2人に説明をしはじめた。

 はじめは、麻薬密売ルートを牛耳る富沢という男を捕まえたことから始まった。そこから、富沢は五戒組と呼ばれるヤクザに家族を人質に取られていることが判明した。

 富沢の家族を助けようとしたが、娘は救出できたが、富沢の妻を死なせてしまった。その作戦中、民間人が自爆する事件が発生した。この流れのおおよそのことをホークスは説明した。

 

「………………そして、あの民間人が連続で爆発した事件で、例の警本に遭遇した。彼の言葉には違和感があって、調べたところ五戒組と繋がっていた。それと同時期にもBBの言動にも違和感が生まれはじめた。調べたところ最上愛に辿り着いたんだ。」

 

「………捜査状況をここまで話して良いのでして?」

 

 才子の言葉にホークスはおちゃらけた笑顔で答えた。

 

「んー。良くないかな。けど、君たちに協力してもらうには話すしかないでしょ。俺個人としても()()()()を助けたいんだ。」

 

 そういうホークスに響香がここに来て初めて口を開けた。

 

「沖は五戒組に操られている……。やつらを倒せば光が見えるって事ですね。」

 

「……確かにそうだが、しかし、事態はもっと複雑だ。これを見てくれ」

 

 ホークスはそう言うとスマホを見せた。そこには右上にLiveと書かれた監視カメラの映像で、ガラス張りの牢屋に1人の女性が捕まっていた。ベットに寝かされた状態で手足どころか全身を縛られ、指一本動かないようにされた上で猿轡をさらている。鼻にはチューブを通され、点滴を打たれている。彼女の股のあたりから太めのチューブが伸びているが、それはあまり触れない方が良いだろう。

 

「彼女は?」

 

 響香はあまりの様子に眉を顰めたが、ネットで囁かれているタルタロスの噂を思い出して()()()()()()()()()だと納得させた。対して才子は驚きのあまり数秒フリーズしてしまっていた。

 

「インテリジェンスは知ってる人みたいだね」

 

 ホークスの言葉で才子は口を開いた。

 彼女は震えていた。そこに映る彼女はある意味ではかぶりにとっての地雷である。

 才子がかぶりにとってどんなに迷惑をかけても許される存在、であるなら、画面に映る彼女は、絶対に迷惑をかける訳にはいかない存在なのだ。そんな人が捕まっている。そんなこと、かぶりが知ったら? そんな妄想に才子が身震いした。

 

「……し、知ってます。彼女は加世薫、かぶりの、はとこで、保護者だった人。あの子を助けた恩人です。 けど、なぜ、彼女が?」

 

「………彼女は富沢の娘を奪取する際に現れた(ヴィラン)で、最上愛と同じく五戒組の組員だ。しかし、なんらかの"個性"で操られているようで、何も話さないし、すぐに自殺しようとする。」

 

 そのことを聞いて、響香も才子もかぶりを助けることと五戒組が繋がるかが分かった。かぶりはそもそも精神的にかなり不安定である。さらに今は最上愛のせいで、おそらく限界を超えている。そんな彼女に恩人の現状を見せたらどうなるのか、想像すら出来ない。

 

「…………。かぶりに、薫さんの現状を悟られずに確保する。そういうこと()()()?」

 

「その通り。それしか助ける道はない。」

 

「………五戒組と行動してたら沖に薫さん?って人のことが知られてしまう……。時間との勝負ってことですか?」

 

「そうだ。だが、本気で隠れたBBを捉えることは難しい。捕まえるには罠を張るしか無いが……」

 

 本気で隠れているかぶりを見つけるのは至難だ。(ヴィラン)狩りを捕まえたのだって罠に嵌めたからであり、今回、ホークスが遭遇できたのも最上愛を張っていたからである。速すぎた男と呼ばれるホークスでさえ、罠を張らなければかぶりを捕まえることは出来ないのである。

 

「だから、まずは五戒組を叩く。それがおそらく沖かぶりに近づく確実な方法だ。」

 

 ホークスがそう言うと、ホークスのスマホが鳴った。彼は2人に一言断ったのちに出た。そして、2、3、言葉を交わすと彼の表情は一気に暗くなった。

 

「………確かですか?………分かりました。……はい。分かっています。作戦はそのまま継続します。」

 

 電話を切って一泊おいた後にホークスは言った。

 

 

 

「最上愛が殺された。」

 

 

 

 

「そして、犯人は(ヴィラン)狩り、沖かぶりである可能性が高いそうだ。」

 

 

 その言葉に3人の中に静寂が流れたが、それを破ったのは響香だった。

 

「……それって、沖にかかった洗脳が解けるんじゃ……」

 

 "個性"を発動した者が亡くなった。ならば、その影響も無くなるのでは? という至極当たり前の発想だ。しかし、その考えは無慈悲にも打ち消される。

 

「いや、その可能性まず無い。最上愛や、その犠牲者は、すでに事情を知らせずに()()()()()()()()()()もらった事がある。しかし、影響は無くならなかった。つまり、そういうことだ」

 

 例えば、八百万が創造したもの、轟が出した氷、これらは一度出せばイレイザーヘッド、相澤先生の"個性"では消すことができない。それらと同じように最上愛の"個性"は一度、発動すればずっと残り続けるタイプなのである。

 

「…………厄介な……」

 

 才子は無意識に親指の爪を噛んだ。そう、厄介なのだ。愛する人を自分の手で殺した。そして、その相手を今もなお愛し続けている。そんな訳のわからない感情、ただでさえ不安定なかぶりの精神をさらに悪化させるだけだ。

 そして、公安目線でも厄介この上ない。何人いるかも分からない最上愛の信奉者が統率を失ったのだ。今までは五戒組の同行から追えば、動きは予測できただろうし、最上愛を捕まえれは芋蔓式に捕まえられただろう。しかし、今は違う。行動が予測できないし、1人捕まえても意味がない。まるでいつ爆発するかわからない爆弾が公安に入り込んでるようなものだ。

 

「けど、今は沖を追わなきゃ。けど、そうなると……」

 

 響香の様子に才子は首を振った。

 

「いいえ、それでも五戒組が近道よ。もし、(ヴィラン)狩りに戻っているなら、まずは五戒組を狙うはず。と言うよりも、今はここしか手掛かりがない。………よろしくてよ!ホークス、薫さんに私たちを合わせてくれまして? 私なら何か分かるかもしれなくてよ?」

 

「…………はじめからそのつもりだ。もしかしたら、君たちなら話してくれるかもしれない。ついてきてくれ。」

 

 ホークスはそう言い立ち上がった。彼は真実の愛とか、涙が起こす奇跡を期待しているわけではない。だが、可能性はゼロではないと思っているのだ。もし、薫のかぶりへなんらかの想いがあるのなら、"個性"の制御に逆らって何かを話すかもしれない。そう思ったのだ。

 

(実例も無いわけじゃない。)

 

 事実、その手の奇跡はこの世界には存在している。

 例えば、まだ起こっていないが近い将来。相澤先生とプレゼントマイクはかつての変わり果てた親友と再会を果たす。その時、彼らの友情は、ヒーロー側へ有益な情報をもたらす奇跡を起こすことになる。

 このようにこの世界ではその手の想いと力は馬鹿にできないのである。

 

「ここだ。」

 

 公安本部の地下深くにその部屋はあった。ガラス張りの特別に作られた留置場に彼女は居た。あらかじめホークスから見せられた通りの状態でベットに縛り付けられている。

 そんな彼女と3人はガラス越しに対面する。

 

「2人とも頼みます。少しでも、情報を出して欲しい」

 

 ホークスのその言葉に嘘はない。

 

「無論でしてよ。どこまで話していいの?」

 

「任せる。ここの会話の記録は俺が預かる。()()()()()()()()()()()。」

 

「そう。」

 

 そして、2人はマイクの前に立ち、スイッチを押した。

 

「薫さん。聴こえる? 私は印照才子、久しぶりですね。」

 

 その言葉と共に薫は才子の方を向いた。ガラス越しで目が合った。薫の目は涙に濡れ、そして、どこまでも吸い込まれそうなほど黒かった。

 

「詳しくは言えないけど、かぶりは生きている。今、五戒組を襲おうとしてる可能性が高い。かぶりが危険なんです。だから、五戒組の情報が欲しい。」

 

 その言葉に薫は反応しない。

 ただ、才子を見ているだけだ。

 

「………………私はあの子を一度見捨てた。けど、もう、見捨てたくない。だから、あの子を助けるための力を貸して欲しい。あの子は五戒組と1人で戦おうとしている。それを止めるため、力を貸してください。」

 

 薫は才子を見てるだけだ。

 

「………はじめまして、ウチは耳郎響香と言います。沖の、沖かぶりの()()()()。」

 

 薫は響香を見る。

 

「あいつは今、苦しんでいるはずです。助けなきゃいけないんです。どうか、少しでも沖を思う気持ちがあるなら力を貸してください。沖のために!アイツのために必要なんです!どうか、五戒組の情報をください。」

 

 静寂が流れる。

 次の瞬間、薫が今までに無いくらい暴れ始めた。手足を縛るベルトが血で滲み始めている。その様子を見てホークスは制御用のパソコンを操作し、遠隔から薫がつけていた猿轡を外した。

 

「あ!ァアアア!!!!」

 

 瞬間、薫は声にならない悲鳴をあげ、直後、静止した。

 

 数秒か、数分か、肌をピリつかせるような静寂が流れ、それを割るように小さな声が響いた。

 

「ボス富沢」

 

「反乱」

 

「死穢八斎會」

 

 それだけ言うと、薫は電池が切れたかのように気絶してしまった。

 

 

 

 

 

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