"個性"ゴキブリ 作:ゴッキー
響香は雄英高校の自室のベットで寝転がって、手に嵌めた無骨なリストバンドを見た。公安が彼女を監視するために付けられたこのアイテムはすでに彼女の手では外すことが出来ない手錠のようなものだ。だが、それと同時に彼女が陽の光を浴びれるためのものである。
(ウチは……、どうすれば……。)
沖かぶりのために彼女が出来ることは現状無いに等しい。「ボス富沢」「反乱」「死穢八斎會」という3つの単語だけでは響香は何も分からなかった。対して才子は何か思いついているようだった。
(…………ウチだって……。)
無力感が襲われる。親友のために立ち上がった。法も破った。それなのに出来ることが何も無い。そんな自分が嫌で堪らない。もっと、もっと強くならなければ、何かに怯えるように駆り立てられた。
そんなおり、こんこん、と、ノックの音が響いたあと、A組の副委員長である八百万百の声が扉越しに聞こえた。
「はい」
「耳郎さん。相澤先生がお話があるようで、一階まで来て欲しいそうです。」
「わかった。ありがとう、ヤオモモ……。」
努めて明るく返す。
足音を聞いて八百万が立ち去った後にベットから起き上がった。正直な話、相澤先生に呼び出される覚えは無かった。かぶりが
(公安とのことがバレた?)
そんな事が脳裏に過るが、しかし、たとえ相澤先生に何を言われてもこの道を違える気は無い。階段を降りて、一階の共有スペースに入る。そこには既に相澤先生がおり、2人組の警官と話していた。その代わり、他のメンバーはおらず、いつもなら誰かしら見知った顔がいるため、響香は変な感じがした。
「先生……」
響香が話しかけると警官2人はペコリと頭を下げた。それをみて相澤先生は静かに口を開けた。
「耳郎、今日、大学の文化祭で殺人事件が起きたのは知っているか?」
「……ええ、まぁ。」
返事をしながら頭を回す。
あの自分達が起こした事件。アレは公安によって揉み消されたが、無くなった訳ではない。当然、世間での記憶には残っているし、何も知らない警察官は捜査している。公安が真実を隠すために、警察官は辿り着くはずのない真実を探し続けているのが現状である。
「……実は、その事件現場であなたを見たって目撃証言が多くありまして……。」
警官の1人の言葉に響香はゆっくりと返す。
(変に嘘はつかない方が良いか……。)
「………はい。行きました。」
その回答に相澤先生は誰にも気づかれない程度にため息を吐いていた。彼はかぶりが亡くなったことによる響香が完全に立ち直ったとは思っていなかった。一見、前を見て進んでいるように見えるA組はその実、全員が多かれ少なかれ、ずっと引きずっている。
(大学か……。ヒーローを諦めるのも彼女のも選択か………)
彼としては立派なヒーローになって欲しいという思いはある。それでも諦めて別の道に進むのも生徒の選択だと思い、もし、その道を選ぶのなら、教師としてできる限りのサポートしようと決めている。
そんな相澤をよそに警官は少し高圧的に話を続ける。
「なぜ?あなたはヒーローになるのだから大学見学とは無縁でしょう?」
警察官のその無遠慮な問いに相澤先生は少し目を細めた。彼としては生徒が疑われている時点でいい気がしないし、その高圧的な態度の警官を強く不快に思っていた。そもそも、ヒーロー科から一般の大学に行く人は一定数存在する。
しかし、世間一般的に高圧的な警官は多くいるし、これからヒーローになるならない関係なく、このくらいでへこたれるようにはなって欲しくないと考え、あえて相澤先生は口を挟まなかった。
「……………いえ、最近、進路に悩んでましてて……。はは、頑張って入学したのに変な話ですよね。」
と、響香は誤魔化すように笑った。あの事件を隠すために取り繕っているのだが、そのぎこちなさが相澤先生には全く別のものに見えた。そして、小さく息を吐いてから相澤先生は一歩前に出た。
「……ということです。しかし、もう夜も遅いですし続きは後日でよろしいですか?」
「………………いえ、これから署の方で詳しい話を伺いたいです。」
警官は短く言う。その言葉に相澤先生は響香を守るように、2人の間に移動した。
「任意同行ということですか?」
「ええ、まぁ。明日でも構わないのですが、捜査はスピード命なんです。イレイザーヘッドさんなら、分かりますでしょう?」
「……ええ、まぁ……。」
相澤先生の心情的に夜遅くに生徒を出歩かせたくなかった。しかし、警察官の言っていることも、一見はもっともである。捜査は時間が経てば経つほど難しくなるのである。そこで響香の方を見ると、彼女はスマホを触っていた。その様子に眉間に皺を寄せたが特に何も言わなかった。
「……ウチ……、いえ、私は今からでも構いませんよ?」
「……………私も同伴します。構いませんよね?」
相澤先生は少し圧をかけて言った。
その表者は既に教師のそれと同時にヒーローとしての側面が見え隠れしている。
「……はい、構いません。」
警官達はため息を吐きながら答えた。
◆
4人(警官2人、相澤先生、響香)はパトカーに乗り雄英高校を出た。車内は静かで重い空気に満ちておりエンジン音だけが響いている。そんな中、相澤先生は口を開いた。
「耳郎、取り調べ中は部屋の出入りは自由だ。警官に止められるかもしれないが、部屋の出入りを止める権限は警察には無い。俺は部屋の外で待っているから定期的に相談に来い。」
その言葉に響香は頷いた。相澤先生は一見冷たそうであるが、かなり優しい生徒思いの先生である。その優しさと心強さに響香は少し罪悪感を持った。
(先生、ごめんなさい、それでもウチは……)
"個性"のイヤホンジャックを挿したスマホを握りしめた。画面を見ると、通話中となっており、才子へと繋がっていた。
『……耳郎さん。ここは真実を軸に嘘を交えましょう。状況はあなたは1人で大学見学へ行ったということ。私との関係はかぶり関係で知り合った友人ということにしましょう。制服の違いは突っ込まれるまで答えなくて構いませんが、雄英高校だと目立つから私から貸した事にします。私が持っていたのは趣味だと答えて下い。』
才子から一方的に飛ばされる指示を記憶しながら響香は外の景色を見た。雄英から少し離れた道、ここはヒーロー事務所も交番もない人通りの少ない場所だ。ちょうどこの辺りの喫茶店で才子からかぶりの話を聞かされたのだ。
「イレイザーヘッド、あなたを巻き込む気は無かった。」
唐突に運転している警察官の1人は言った。その言葉に相澤先生は目を細め、息苦しいのか首に巻かれた布を手でずらした。警官はその様子をミラー越しに見るとさらに続ける。
「そもそも、私はこんな事したくない。けど、仕方ないんだ。
瞬間、車は爆発した。
◆
「———っ、耳郎さん!聞こえていまして? 耳郎さん!合図を!」
聖愛学院の学生寮にて才子は1人携帯に向けて叫んでいた。先ほどまで聞こえていた響香達の会話は突如発生していた爆音以降聞こえず、そのまま途切れてしまった。
(………何があったの?)
思考を回す。
これからの事を考える。すでにホークス達公安には連絡済みだ。すぐに彼女たちの元に向かうだろう。
(心を乱すな。あの子以外、余分は捨てなさい)
自分自身に言い聞かせ、水筒に入れていた紅茶を一口飲む。
巡る思考の中、数多の可能性を導き出しては消していく。存在しうる仮定を当て嵌めては消す。
(約束……、警官がそんなこと言っていた、どういう事?)
警察の目的が分からない。
耳郎響香を狙う理由。五戒組か、それとも最上愛か、はたまた別口からか……。
才子は思考の渦に沈む。ぐるぐると巡る思考の中、余分な水流はどんどんと消えていき綺麗な流れとなっていく。そして、スッキリとした真実の輪郭が見えてくる。
その時、ドカンッ!と、何かが爆発したかのような音が響いた。
「……っ!」
咄嗟に席を立ち、思考を切り替えて状況を整理する。ここまでは仮にもヒーロー科で鍛えられた授業通りの行動だ。
(何が起きた? 耳郎さんに続いて、私狙い?)
思考を回す。
緊急事態を示すサイレンが鳴る。ここは雄英とは異なり、そこまで強固なセキュリティは存在しない。
(けど、なんだか腑に落ちない)
窓から飛び降りる。ここは3階だが、草木をクッション代わりにして着地。そのまま校内を走る。校内には申し訳程度に監視カメラがついており、敢えてそこを通る。校内は意外にも人がいないところを除けばいつも通りである。
(授業が終わってるし、あの手のサイレンが鳴ったら寮から出るなってのがルール。だから、生徒がいない事は分かるけど……)
「教師がいないのが不思議か?」
その声に振り返るとそこには15人の男女がいた。年齢も性別もバラバラで、才子が知っている人はいない。ただ1人を除いて……
「ごきげんよう。校長先生。なるほど、先生方はあなたが始末した、と?」
才子がよく知る男、この学校の校長が彼らを先導するように立っていたのだ。その様子に才子は状況を推察して行く。
(狙われてるのは私だ。かぶりを狙ったのと仲間?いや、違う。手口が別すぎる。だったらなんで? 公安との接触?)
「私が狙いようでしてね?」
才子はあえて挑発するように笑いながら、辺りを見渡す。彼女の服装は幸いにも学校指定のジャージで比較的動きやすい。しかし、反面、動きやすいだけで武器はない。
彼女の"個性"は正面戦闘には圧倒的に向かないのだ。数で抑えられて仕舞えばひとたまりもない。
(って、思っているでしょう。事実、その通り!例え殺されるにしても、やる事だけはやらないと!)
腕に嵌められたブレスレットを見て、ポケットから一本の6色ボールペンを取り出し右手で握り校長に向けた。
「ここまで、人数に狙われる覚えはありませんでしてよ?」
そう言いながら大袈裟に挑発的に笑って見せる。あたかも全てが分かった上で馬鹿にしているような表情だ。まさに虚勢。しかし、その様子に才子を囲っていたうちの1人が声を荒げた。
「何が覚えがないだ!お前ぇだろ! お前が!最上様を殺したんだろ!」
その男の声に感化されたのか、さらに他の人達も数人、声を荒げた。
「そーだ!お前が殺したんだ!」
「最上様はお前を警戒していた!」
「あぁ!仇だ!仇を取ってやる!」
その声には憎しみと怒りしか込められていなかった。彼らに残された行き場のない愛情が、見当違いな方向へと暴走した結果である。すでに彼らには理性的な考えはなく、ただ、最上愛が最後に警戒をした人物であるということだけで、犯人だと決めつけられたのだ。
(フフ、けど、そっちの方が都合がよくてよ?)
不敵に笑う。
「…………ええ、そうね。そうかもしれないわね? けど、最上愛のお仲間、全員で来なくてもよかったのかしら?」
大袈裟に両手を広げる。その様子に、周囲の1人が驚きの声を上げる。
「ここにいるのが全員よ!あんたの妹に殺されてんのよ!あの裏切りもの!」
(…………かぶりが……。まさか、全員殺して自分も死ぬなんてやらないよね?……落ち着きなさい。印照才子、今はこれで全員だと分かっただけでも良しとするしかない)
分析する。
この力づくのようなやり口は、響香を襲った犯人とはかけ離れている。と言うよりも、警察としての立場を利用するなら、もっとスマートなやり方をとるはずだ。
(犯人は別?いや、それよりも)
小さく息を吸う。
「そう、けど、とりあえず。あなた達に襲われるのは、御免でしてよ!」
手に持った6色ボールペンは形を変え、一本のレイピアへと形を変える。
———デトネラット社製サポートアイテム、コンパクトレイピア
「さぁ、いきましてよ。」
瞬間、才子の眼前で爆発が起き数メートル吹き飛ばされた。その先には、ゴリラのような見た目の男がおり、頭を掴まれ地面に叩きつけられた。
「-------っ!」
意識が飛びそうになるほどの激痛が襲う。だが、才子は意識を保ち目を開き、耳を澄まし、五感の全てを研ぎ澄ませる。
投げ飛ばされる、岩石の腕で殴られ、髪の毛の鞭に打たれ、空気の弾丸を喰らい、爆破される。まさにリンチだ。さらに、ただのリンチでは無い。校長による先導があったとはいえ、仮にもヒーロー科の教師陣を一網打尽にしたのだ。その連携、その強さはそれなりのものだ。
(………けど、その要は校長先生でしてね……。なら!)
腹をアッパーカットのように殴られ、天井まで吹き飛ばされる。そして、そのまま、ゴムボールのように天井から跳ね返り床へと叩きつけられた。
「ガッ!」
潰れたカエルのような声を才子は上げた。その様子を見て校長が手を挙げると周囲の人たちが静止した。
「………では、印照さん。最上様を殺した。その罪を認め、我らに謝罪し、贖罪のために生きると誓いますか?」
静かな問い。
才子はその問いに答えることはない。代わりに「フフフ」と、静かに笑い声を漏らしながらフラフラと立ち上がった。
「………思った、通り、でした。」
レイピアを持ち直して立ち上がる
賭けだった。最上愛の"個性"では大好きにさせられても、その信念までは変えられない。どんな極悪人でも、死は逃げであり、生きて罪を償うべき。たとえ償えない罪でも、贖罪はさせるべきだ。そう力強く語っていた校長の信念を信じて賭けたのだ。
そして、その賭けは勝った。例え、無罪であることを無視した歪んだ形であっても、校長にはヒーローとしての信念は残り続けていた。
「………フフフ、私の勝ちでしてよ。」
フラフラになりながら笑う。
その様子に最上愛の信奉者たちは一瞬、たじろいだ。
「勝ち、ですか……。確かにあなたの成績はオール5だ。肉弾戦もそつなくこなせる。しかし、あなたのこの状況での正面戦闘は無理でしょう?さぁ、罪を認めなさい。」
校長は静かに言う。
確かに、才子にとって戦闘は不得意だ。彼女の"個性"はどこまで行っても頭脳だけだ。
だが、そのことは既に才子も知っている。ニヤリと口角が上がった口元を見せる。そこには茶色い飴玉のようなものがあり、それを噛み砕いた。
「………サポートアイテム。知恵の果実……。確か、先日、申請許可を出した覚えがあります。しかし、紅茶をカプセルに入れ、飲みやすくしただけのもの。幾らIQが上がった所で、この場では意味がありません。そんなこと、印照さん。あなたなら、分かるはず。さぁ、罪を認めなさい。」
静かにそう言う校長に対して才子は顔を左手で多い笑うだけだ。
「ククク、ハハハはははははは!」
そして、大声で笑い出した。
その様子は異様だった。ズタボロで、全身から血を流し、フラフラな状態で声高らかに笑う。正しく異常だ。
「……狂いましたか、いえ、仕方ありません。」
その言葉に校長が手を伸ばす。それを合図にしたように、才子が
「ハハッ、仕方がないって、魔女裁判みたいな問答して、善人ヅラですか?悪意が無い悪行が1番タチ悪いんだよ。頭ン中は19世紀ですか?」
才子は笑いながらそう言う。その間にも爆発が襲うが、平然の歩きながら全てかわす。タイミング、場所、全てがまるで分かっているかのようだ。
「くそガァ!」
才子の背後から男が殴りかかる。才子は振り返りもせずにレイピアを肩に担ぐように後ろに向ける。たったそれだけで、切先が拳に刺さる。
女の人がビームを放つ。当たる直前にしゃがみ込み回避、反対側にいた別の人に当たる。
レイピアを振るう、それだけで相手は慌てて回避し、他の仲間の動きを阻害する。
「ハハは!」
才子は笑いながら、レイピアを振るう。その様は、まさにオーケストラの指揮者である。しかし、本来、才子の"個性"にはこんな力はない。確かに頭脳に裏打ちさせた彼女の予測はピカイチだ。作戦立案もプロにも引けを取らない。しかし、こんな、未来予知のような能力はあるはずがない。その違和感に校長は気がついた。
「………この"個性"、ありえない。こんなこと……。まさか、"個性"増幅薬ですか!」
校長のその言葉に才子はニヤリと笑を溢しながら、黒ずんだ舌を見せた。それは数年前に流行した違法薬物、
「ああ、そう言う事でしたか……。愚かな……。」
それを見て、校長は全てを察した。事実、才子か呑んだ薬には厳密には別物だが、
名付けるなら、違法サポートアイテム、禁断の果実、だろう。
「……愚かですか、そんなの、自分でも!分かってましてよ!」
数多な攻撃を見ずにかわす。そして、校長の元へと一気に駆ける。相手の連携は全て校長を中心として回っている。ヒーロー科の校長なだけあり、司令塔としてかなりの実力だ。
(けど、裏を返せば、校長さえ倒せば連携は瓦解する)
真横からくるビーム攻撃をかわし、地面を蹴る。
(取った!)
レイピアの切先を校長に狙いをつける。全身の力をバネのように利用し、一気に突きを放つ。
瞬間、才子の首は刎ねられた。
「……なるほど、離れた相手を切る。いいえ、おそらく、離れた場所に攻撃を反映させる"個性"、でしてね。」
「厄介でしてね。まずは、あの人から倒しましょう。」
才子は自分の死体を一瞥して、周囲を見渡しながら練り歩く。静止した人たち、一人ひとりの立ち位置を確認し、そして、少し考えた後に呟いた。
——-
世界が巻戻る。
「………フフフ、私の勝ちでしてよ。」
フラフラになりながら笑う。
その様子に最上愛の信奉者たちは一瞬、たじろいだ。
「勝ち、ですか……。確かにあなたの成績はオール5だ。肉弾戦もそつなくこなせる。しかし、あなたの"個性"でな正面戦闘は無理でしょう?さぁ、罪を認めなさい。」
才子にとって、もう何度目になるか分からないやり取りを再演させる。ここでの出来事は全て才子の脳内シミュレーションだ。しかし、今の才子にかかれば、再現度はほぼ100%、その性能は未来予知に等しい。
——-
同じようなことを微妙に条件を変えて繰り返す。
それでも、結果は大きく変わる。
「……… 死んだ!死んだぞ!印照才子!」
炎に燃えて焼け死んだ。
——-
学校が崩れて生き埋めにされた。
——-
無限に等しい組み合わせを脳内で繰り返す。
爆破、逮捕、隷属、
最悪な結果を避け、最善になるように計算する。
——-
——-
——-
そして、何千、何万回の演算の結果、ついに答えを導き出す。
「ハハハは!私の勝ちでしてよ?」
気絶する最上愛の信徒達。その中には取り返しのつかない怪我をしている者もいるが、仕方ながないことだ。最悪、話さえ出来れば情報は取れる。
「………私は!愛様に捧げ!ッッ!」
手を翳す校長の顎を蹴り上げて気絶させる。もしかしたら、良くないダメージがいっているかも知れないが気にしない。
「ハハハ!」
——
目を開ける。
そこには何度も計算してきた光景が広がっている。
「………フフフ、私の勝ちでしてよ。」
フラフラになりながら笑う。
その様子に最上愛の信奉者たちは一瞬、たじろぐ。それは、何度も見た光景だ。しかし、ここは計算ではなくて現実である。
一瞬にも満たない刹那に、未来予知にも等しい予測を無数に繰り返し、最善の結果に至る道筋を見つける。これが彼女の必殺技。
◆
戦いは一方的だった。
全ての動きは計算済みで、それをトレースするだけで才子は勝利した。残るのは血まみれの倒れた人だけだ。
「はぁ、はぁ。痛い……。薬の効果が切れてきました。だめ、考えを口に出さないと思考が纏まらない。」
信徒達を倒した才子は頭を押さえながら壁にもたれかかるように床に座った。"個性"の反動か、薬の副作用なのか、女帝の時間を使用すると彼女の脳は一時的に機能不全を起こしてしまうのである。
「まずは、私と同時期に襲われた耳郎さんが心配だ。担任の先生も一緒だったから、おそらく無事だと思う。雄英は一流のヒーローだ。公安ももう着いてるころでしてね。信徒たちは私を襲った人たちで多分全員。あの言葉には嘘はないと思いたい。彼らはここで倒した。となると、耳郎さんを襲ったのは別。じゃあだれ? 耳郎さんを狙うのは、雄英狙い、
機能不全になった彼女の脳の思考力は著しく低下する。
しかし、だからといって、
(勝利の方程式は、もう……)
口角を上げながら、才子は睡魔に負けて目を閉じた。
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女帝の時間
実はかぶりが体育祭で色々やってる時には考えていた才子の必殺技。当時は日の目を見ることになるとは思っていなかった。