"個性"ゴキブリ    作:ゴッキー

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合流

 

 

 

 

 

 ヒーロー公安委員会本部、

 そのビルの前に1人の少女がいた。いや、少女というには幼い、およそ年齢が2桁無いだろう幼女だ。道行く人はそんな幼子が1人でふらついている事に疑問を持つが声をかける事はしない。

 

——-きっと、ヒーローが助けてくれる

 

——-誘拐犯だと間違われたく無いし

 

———いや、警察の目の前だし……

 

 その思考には悪意はない。ただ、他者への関心がないだけだ。けれど、その無関心によりこの場の人達は救われたのだ。

 

「……君、どうしたの? パパとママは?」

 

 ヒーロー公安委員会、その内情の闇は深い。しかし、その深さは社会秩序を守らんとする故だ。それを思えば当然だった。公安職員の1人が、たった1人で彷徨う少女に声をかけるのは、至極、当たり前のことだった。

 

「……………ごめんなさい……」

 

 少女は泣きそうな顔でそう呟いた。公安職員、とは言っても見た目は制服警官の男は、首を傾げた。彼にも娘がいるが、それでも子ども相手の対応に慣れる事は無かった。

 

(子どもも子どもなりに考えてるんだ。ちゃんと聞かないと)

 

 膝をついて目線を合わせる。

 

「……謝らなくても大丈夫だよ? お名前、言える?」

 

 その言葉に少女は首を振る。

 

「ごめんなさい……。でも、やくそく、だから……」

 

 その瞬間、警察官には少女の目が光ったように見えた。その光はあたかも世界そのものように錯覚し、警官の五感全てを奪った。そして、気がつくと、()()()()()()()()がいた。

 

「え? どうして……。」

 

 口から出た言葉は幼い少女のものだった。周りを見ると全てが大きい。いや、自分自身が縮んでいる。

 

(違う、俺は、おれは……。)

 

 頭を抑えると、長い髪の毛が手に絡まった。身体を見ると幼い少女のものになっている。そこで、ようやく身体が入れ替わっているものだと気がついた。

 

「かえして!からだをかえしてよ!」

 

 警察官、いや、少女は叫んだ。その様子に大人らしさは無く、ただ感情をぶつけている子どものようだ。

 

「ごめんね。約束なんだ。だから、あなたの人生、貰うね。」

 

 警察官はそう言う。その言葉に少女は反論する。

 

「ヒーローに、オールマイトにいってやる! おれはオールマイトとはかおみしり、なんだから!」

 

「嘘は良く無い、()()オールマイトと仕事したことがある。けど、君は無いだろ? だって君はただの幼稚園児だ。」

 

「ちがうもん! ()()()()けーさつかんだもん!」

 

 少女は地団駄を踏みながら答える。その様子に警察官は笑みをこぼした。

 

「じゃあ、パパとママは思い出せるかな?」

 

「え? パパとママ?」

 

 その言葉に少女、ナナミは唖然とした。

 思い出せない。警察官、いや、男として過ごした30年以上の年月がまるでボヤけた幻のように、ハッキリとしない。それどころか、ナナミという少女としての記憶がドンドン溢れてきて塗りつぶされていく。

 

「ちがう、ナナミはナナミじゃない……。」

 

 涙が溢れてくる。

 自分の人生が別のものに塗り替えられていく。自分が自分ではなくなる。その恐怖、その違和感は果てしない。

 

「かえして、ナナミの、じんせい、かえしてよ〜。うわぁぁあああーん!!」

 

 既に、かつての記憶なんて無い。ただ、大切なものを無くしてしまった喪失感だけが()()の中にあった。それを求めるように涙を流し、泣き叫んだ。

 そんな彼女の横で警察官は慣れた手つきで無線機を操作して迷子の少女を保護したことをマニュアル通りに報告し、担当部署へと引き渡した。その時にはすでに、かつての人生のことを忘れただの迷子の女の子になっていた。

 

(俺の人生も書き変わった……。やっぱりピーキーだぜ俺の"個性")

 

 "個性"人生略奪。

 相手と自分の人生を交換する"個性"だ。しかし、人生を交換すると言う事は、それまでの記憶も、感情も、人格も、その全て入れ替わると言う事。一度交換して仕舞えば、前の人生での出来事は思い出せないし、人格も今の人生のものに変わってしまう。ただ残るのは、()()()()()()()()()()()()という漠然とした確信だけである。

 そのため、側から見ると入れ替わった事に誰も気がつかないし、本人も証明できない。

 

(だが、そんな俺でも残ってる。約束だけは、しっかりと分かる!)

 

 "個性"の影響か、()にとって自己というものがあやふやで、アクセサリーのようなものだ。

 確かに()には"個性"を使っても以前の記録は残る。しかし、それはまるで他人事のようなものであった。本を読んでいるかのようなもので、かつての自分と今の自分に連続性を全く感じられないのである。

 だから、彼は流れるままに、その都度、人生を切り替えてきた。

 時には良き夫として人生を謳歌し、

 時にはスポーツ選手として名を馳せて、

 時には妻として愛する人に添い遂げた。

 

 まるで他人の日記を見るかのように以前の自分達を思い出す。

 全員が他人で、たまたま()()を持っているだけで、繋がりなんてない。しかし、漠然とした寂しさがあった。

 この"個性"の中にあるか細い自己は、他人の人生の中で、本当の自分自身を求めていた。

 

 だが、今は違う。

 

「約束を果たさないと」

 

 約束。人生を変えても消えないその想い。これがとある人の"個性"によるものだろうことは、分かっていた。しかし、たとえ人生を変えても残り続ける、常に自分の中に存在するソレは、生まれて初めて経験するモノだった。まるで炎のように心を滾らせる想いに彼は陶酔し、コレを夢と呼ぶことにした。

 

(ボスの存在を知るのは、あー、彼女か……)

 

 ()()に電話をかける。元々は上司だったが、何度か飲みに行ってるうちに、つい一線を超えてしまい流れて付き合うようになった相手。流れから始まったとはいえ、既にその恋は本物になっており、互いに結婚を約束した。奪った人生とはいえ、すでにこの思い出も、感情も全て自分のものだ。だからこそ、自分自身を殺すよりも、これからすることは苦しいが、それはそれだ。

 

(約束は果たさないと……)

 

 変わらない約束の為に、この人生を使い切る。

 

「どうした? 今、最上愛の信徒が女の子1人襲ってヤバいんだけど?」

 

 パンツタイプのダークスーツを着てる彼女は、一見、冷たそうに見えるがその実、かなり心配そうなのが恋人である()には分かった。

 

「ごめん。君のことは愛しています。これは、本当です。だけど、約束の為なんだ」

 

 "個性"を使い、身体、いや、人生が入れ替わる。

 新たな身体を見る。先ほどまでとは違う丸みを帯びた女体を軽く触る。柔らかい感触に違和感を感じたが、すぐに馴染んだ。違和感なく彼女の記憶も読み取れるし、既に目の前で唖然としてる(こいびと)の記憶は思い出せない。

 

「うそ、なんで、俺は……。あなたは誰?」

 

「誰って……。君の恋人で上司だよ。どうした?呼び出したのか君じゃないか。」

 

「え? ああ、そうだけど……。あれ?なんだっけ?」

 

「大丈夫? 今日は休んだ方がいいんじゃない?」

 

「いや、でも、ちがう。俺は……。私?」

 

 混乱する男の姿を見て、可愛い、という感情が芽生えた。このまま抱きしめてしまいたい。頭を撫でて思いっきり甘えて来てほしい。そんな下世話な感情が溢れて来る。しかし、そんなものは()()と比べたら大した事はない。

 

「………重症ね。とりあえず、落ち着くまで、休憩室で休んでなさい。私は仕事があるから……。」

 

 そう言って男と分かれる。

 この"個性"の弱点として今までの自分の()()は思い出すことができる。つまり、今の人生が経験していた記憶を思い出して、自分としては記憶しておけば、次の人生でも思い出すことはできる。

 しかし、別の人生になった場合、覚えていた分は忘れない限りは思い出せるが、新たに思い出す事はできない。だから、慎重に記憶を探る。自分にとって有益な記憶を思い出して覚えておく。

 

(ボスのパスコードは……)

 

 慣れた手つきでパスコードを入力して部屋に入る。

 

「ボス。約束通り迎えに来ました。」

 

 部屋の中には1人の中年の男がいた。男は突如入って来た警官に驚いたがすぐに誰だか分かった。

 

「おお、シーフですか。久しぶりですね。待っていましたよ。」

 

 男、富沢福代はにこやかに笑い、女警官を迎えた。彼女は部屋の鉄格子の鍵を開け、富澤の拘束を外していく。

 

「最上愛が亡くなりました。」

 

「……そうですか……。残念です。彼女は我々のために全てを尽くしてくれました。」

 

「あなたの約束は私たちに人生を示してくれます。あなたの為に散る事ができるなら本望です。きっと、最上愛も、きつと……。」

 

「そうだと、良いのですが……。彼女は愛に飢えていた。彼女が探す、本当の愛を見つけられたでしょうか? いえ、追悼するのは、目的を果たした後ですね。ここには私の娘もいます。お願いできますか?」

 

「はい。既に手は打ってあります。」

 

「さすがですね。」

 

「いえ、最上愛の信者とあなたの手勢のおかげです。」

 

 ()()がここまでやってこれた理由の一つに、現在、公安が混乱しているからである。公安が秘密に協力関係になった女子高生2名に対して突如起きた予想外の出来事、それによりトップがごたついていたのだ。 

 普通だったら大して問題にならないが、しかし、彼女の個性の前でその小さなスキで十分だった。

 

「それを上手く使ったのはあなたでしょう?では、公安には約束を破っていただきましょう。」

 

 

 

 

 

 

 全身を駆け巡る痛みと、地面の硬さ、けたましい騒音を感じながら耳郎響香は目を覚ました。寝ぼけた頭で身体を見る。焦げた衣服に焼けた肌、血が流れる裂傷。手で頭を押さえるとべっちょりと生暖かい液体を感じた。慌てて手を見ると真っ赤に染まっている。

 

(……………っ。そうだ、あの時、車が爆発して……。)

 

 記憶を辿り、立ち上がる。だんだんと寝ぼけていたような思考が晴れいき、状況を飲み込めていく。

 

(それで………)

 

 轟々と燃える車。そして、身体の半分が焼け爛れた警察官2人を背に見知らぬ男と戦う先生の姿を見る。詳細は分からない。しかし、先生が自分達を車から助けてくれて、現在、あの男に襲われている。それだけは分かった。

 

(どうする?)

 

 痛みを無視して起き上がる。すでに左腕は焼け爛れ、片足も傷がひどい。しかし、そんな事はどうでもいい。先生の怪我の方が明らかに重症だ。

 相澤先生は右半身に酷い火傷を負っている。肉は焼け爛れた、動けているのが不思議なくらいだ。火傷を負っていない場所も裂傷が酷く常に血を流している。

 

「流石だなぁ。イレイザーヘッドぉ……。まさか、ここまで追い込まれても、倒し切れないなんて、ハハ。」

 

「………ッ」

 

 ニヤニヤと笑う男に相澤は奥歯を噛み締めた。目の前の相手は大して強くはない。筋力は確かにそれなりだが、それだけだ。体の動かし方も、攻撃のセンスも全くなっていない。

 だが、それでも倒し切れない。それほどまで、相澤はダメージを負っていた。空気に触れるだけで肌は痛み、脚を体重をかけるだけで肉体は悲鳴を上げる。それでも、彼は戦いを辞める選択は無い。

 チラリと相澤先生は響香を見た。そして、何かを考えるそぶりをした後に口を開く。

 

「………。耳郎!期末試験!」

 

 短い指示。しかし、それだけで、響香には伝わった。

 期末試験の内容は強大な(ヴィラン)との戦いであり、そこで学んだ()()()という選択。誰かを助けるために、離脱して仲間を呼ぶ。闘うための逃るという選択だ。

 

「……っ!はい!」

 

 救援を呼ぶ、その為に響香は痛む身体に鞭を打ち走りだす。

 男はその動きの意味を数秒遅れて気がついたが、その時点で既に間に合わない。

 

「……クソ、何してんだアイツら!」

 

 男は逃した響香の背を見ながら叫んだ。その言葉を相澤先生は聞き逃さった。言葉からして、男には仲間がいて連携出来ていないことがわかる。

 

「約束が違うじゃねぇか!」

 

(………約束?)

 

 男の叫びは響香にも届いた。しかし、そんな叫びを聴いている余裕はない。まずはヒーローなら誰でも良い、助けを呼ばなくてはならない。携帯電話は壊れて使い物にはならない。ならば、どうする?雄英まで走るか?それとも、どこかで電話を借りるか……。

 

(いや、そんなのは必要ない………)

 

 

 腕輪が視界に入った。彼女の状況は常に公安によって監視されている。

 

 

 つまり、

 

 

「よっと!」

 

 

 この事態も筒抜けである。

 

 

 空から1人の男が落下するように現れ、軽く(ヴィラン)の首筋を殴り気絶された。

 

「……ホークス。」

 

 相澤先生は空から現れた男、ホークスの名前を短く呼んだ。その言葉に彼は頭をかきながら応える。

 

「お疲れ様です、イレイザーヘッド。すでに救急車の手配は済んでますんで、安静にしてて下さい。」

 

 ホークスはいつも通りの口調で言う。その様子に相澤先生は睨み返すように見ながら、路肩に座りこんだ。その横にはいつの間にか毛布が引かれ、さらに、ホークスの()()によって響香が運ばれ、座らされた。

 そして、周囲の至る所から(ヴィラン)と思われる人物が剛翼によって乱暴に連れて来られ、次々と道路に並べられていく。その人数は15人で、全員が大きな外傷は無く気絶している。

 

「……ホークス。救援感謝します。だが、まず、耳郎は、俺の生徒は何に巻き込まれているか、教えていただけますか?」

 

 相澤先生のその言葉は耳郎が何かに巻き込まれていて、そして、ホークスはそれを知っている。そのことを確信しているようだった。

 その様子にホークスはあらかじめ考えていた嘘を口にする。

 

「…………。現在、耳郎響香、そして印照才子は五戒組が起こしたとある事件に巻き込まれています。」

 

「……なぜ、その事を伝えなかったんです?知っていれば、こんな事態にはさせなかった。」

 

 相澤消太は静かに怒っていた。彼は冷たいようでいてかなり情に熱い男だ。生徒が傷つけられた。そして、それは明らかに守る事が出来たかもしれないのだ。

 

「すいません。こればかりは我々の判断ミスです。死穢八斎會の"個性"を消す弾丸の件もあり、慎重に動きたかったんです。」

 

 死穢八斎會の件は本当だ。一年A組の切島が遭遇した"個性"を消す弾丸、その流通ルートには死穢八斎會が関わっており、五戒組はその下部組織だ。そして、五戒組との遭遇は物流会社から始まった。繋がりがあると思って良いだろう。

 

「………………()()()()()()()()()()、話しますと、現状、五戒組の目的は不明です。何も考えずに暴れているようにしか見えない。だから、捜査状況は極秘に進めたかった。」

 

「………そういう事にしましょう。しかし、これからは俺も捜査加わらせてください。死穢八斎會とのこともありますし、その方が合理的だ。」

 

 そのセリフはホークスも想像していた通りだ。なので、それに対する答えも持っている。

 

「俺の一存じゃなんとも……。今回の事件は公安主導で動いているんです。流石に例の自爆事件は完全にテロですから……。」

 

 その言葉に相澤先生はため息をついた。その行為の意味は分からないが、複雑で強い想いが込められているのだろう。

 

「………公安主導? どう見ても彼らは警官だった。」

 

()()()()()()、イレイザーヘッド。これ以上、言わせないでください。俺にも()()()()()()()()。俺には時間が無い。………だから、彼女()を頼みます。」

 

 そう言うと黒いゴム製の袋に包まれた何かが剛翼によって運ばれてきた。中に人が入っており、外に出ようと必死に暴れている。しかし、そのゴムが頑丈なのか全く出ることが出来ない。

 

「誰かに心配事でも吹き込まれたのか、かなり慌てた様子で、珍しく探知がおざなりになっていたから、ようやく捕まえられた。彼女は我々のジョーカーです。()()()()()()()()、その子のこと頼んだよ。俺は公安の約束を果たさないといけないから………」

 

 その言葉で響香は何かに気がついた。

 まさか、この中にいるのは……?

 

「イレイザーヘッド……。俺は通常業務に戻ります。あと、そのゴム袋の内側は強い粘着性になってるから出す時は気をつけてください。」

 

 ニヤけた顔でそう言うとホークスは飛び立っていった。

 ホークスは上空でスマホをつけてヒーロー公安委員会の会長に電話をかけた。

 

「もしもし、ホークスです。今からそちらに向かいます。………ええ、彼女達は無事です。……我々だけみたいです。……………分かっています。………()()()()()()()。情けないが、彼女達に賭けるしかない。」

 

 電話を切るとホークスは深くため息をついた。

 

「本当に情けない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

——————-

5人揃って四天王

 

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