"個性"ゴキブリ    作:ゴッキー

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正体

 

 

 とある一室に4人は集まっていた。3人は全身包帯状態でベットに腰掛けており、1人は黒いゴム袋から頭だけ出している。

 

「…………ふぅ」

 

 ベットに腰掛けている1人である相澤先生は短く息を吐いた。ホークスが用意した救急車に乗り運ばれたここは病院のようだが、しかし、明らかに病院では無い。まず、人が少なすぎるし、手当と治療をしてくれた人も今はもう姿を見せない。

 

(明らかに作為を感じる)

 

 ホークスの言動を思い出す。明らかに不自然だった。彼らしく、と、言えるほど相澤先生はホークスと親しくないが、明らかにトップヒーローらしくなかった。

 そして何よりも、ホークスが連れてきた少女だ。ゴム袋から頭だけ出した彼女は光の無い、死んだ魚のような目で相澤先生の方を見ていた。ホークスが言った通り、袋の中は粘着性があり彼女の髪や顔ははベトベトで、光沢を持っていた。

 

(…‥嫌な予感がする。)

 

 無意識に最悪な想像に蓋をする。脳裏によぎるある考え、それに気がつく前に思考を止めた。

 

「………。君は印照才子だったか? 妹の、沖の担任だった相澤消太だ。葬式で一度会っているが……」

 

 相澤のその言葉に彼の向かいのベットに腰をかける才子が応えた。

 

「ええ、覚えています。ご無沙汰しております。イレイザーヘッド………。」

 

 軽く会釈をしてそのまま言葉を続けようとした才子だが、相澤はそれを遮り口開いた。

 

「まず、お前達の知っている事を話せ。………()()話せ。この意味は分かるだろ?………」

 

 その言葉に才子はチラリとかぶりの方を見た。その様子に相澤は眉間に皺を寄せた。

 脳裏に警笛が鳴る。

 その意味を理解する寸前で足が止まる。だが、ちゃんと()()と、現実を()()()()と、心が叫ぶ。しかし、そんな心情を表には出さずに相澤は早く話すように促した。

 

「……………。」

 

 しかし、才子は話さない。それどころか響香が話そうとすると手で静止させた。それを見て、響香は何となく理解した。自分たちは公安により監視されている。ホークスの目的はどうあれ、それが良くないのだ。

 しかし、ホークスがこの場所に連れてきたことには意味があるはずだ。そして、あそこで語らなかったということは、きっと大きな事情があるのだろう。それを汲み取れは前に行動するのはマズイ。

 

「…………。先生。障子は、どうですか?」

 

 響香はそう言いながら、"個性"のイヤホンジャックで腕輪を指した。それだけで、相澤には何となく意味が分かった。

 

(彼女達は監視されているのか? あの腕輪で監視している?いや、それだとここも危ないかもしれない。いや、ホークスを信じるか?)

 

 相澤はホークスが言ったことを考える。公安について触れた時、ホークスは「だからこそ」と答えた。おそらく公安自体に問題があるのだ。ならば、この場所にも公安による監視システムがある可能性も高い。

 

「……だ、大丈夫なはず。ここには、カメラとかも無い。」

 

 そう答えたのはかぶりだった。その声に3人は彼女の方を見るが、死んだ目で淡々と言葉を続ける。

 

「ここは公安が表沙汰に出来ない事をする為の場所。だから、ここで何が起きたのか記録しては行けない。ここでは()()()()、そもそも存在しない場所として扱われている。ホークスがわざわざここに運んだってことは、()()()()()()なんだと思う。ここにいる間はなにも記録しない。」

 

 その言葉に相澤は短くため息をついて口を開いた。

 

「何でそんな事を知っている?」

 

「私は公安直属のヒーローだから……。違うかな、多分、()()()()()()()の方が正しい。ヒーローの時、ここでも仕事をした」

 

「どんな?」

 

「拷問、殺害、死体の処理、あと趣味で色々」

 

「……………。」

 

——聞くな、聴いてはいけない

 

 相澤の脳裏に響く警笛。嫌な予感。たった一つの質問をしたいだけなのに、ドロっとしたような嫌な気分となる。だが、ここで聴かなくてはヒーローとして、教師として生徒たちに顔向けができない。そんな予感がしたのだ。

 

「———-いつから、公安に?」

 

「今年の8月中旬ごろ?」

 

 その言葉を聴いた相澤は深く、凄い深く息を吐いた。

 何かを呑み込むように、吐き出すように、静かに口を開いた。

 

 

「        」

 

 

 小さい声が部屋に響いた。なんて言っているのか聞き取れないほどの小声だ。そして、その余韻を掻き消すように相澤は言葉を繋げる。

 

(……切り替えろ。)

 

「……おそらく、公安内部になんらかの問題が発生した。そして、その発生には君たちが関係している。何に巻き込まれていた? ………彼女の話を信じるのなら、ここで話しても問題ないはず。いや、信じるしか無いのが現状だ。」

 

 相澤のその言葉に応えたのは才子だった。

 

(……………彼が自分で言うまでは……。)

 

「———-分かりました。私と耳郎さんは大学の文化祭に参加し、そこでとある事件に巻き込まれました。五戒組、イレイザーヘッドならば知っているかと思いますが、死穢八斎會の下部組織です。

 事件の概要をまとめると、大学に五戒組の幹部メンバーの1人、最上愛が通っていて、最上への復讐の為に集まった数人の男が最上を殺そうとした。と言う内容です。その後、私は公安によって保護され、事情聴取を受けて解放されました。………。彼女も最上の犠牲者の……。」

 

「いい、わ、私が説明する。」

 

 才子の言葉を遮り、かぶりが口を開いた。心配そうな才子と響香の視線に対して「大丈夫」と、答えた後にこれまでの経緯を相澤に説明をした。

 運送会社を調べていたこと、その会社が五戒組に脅されていたこと、公安は運送会社の社長を保護して、人質に取られた妻子を救出しようとしたが、妻は殺されてしまったこと、

 そして、かぶり自身は最上の"個性"で操られ、公安を裏切ったこと、大学で最上が襲われた際に下手人を殺したこと、

 これらを淡々と、まるで他人事のように語った。

 

「そして、私はご主人様、最も愛している筈の人を殺しました。」

 

 小声で「楽しかったなぁ」と続け、響香と才子は一瞬、目を伏せた。相澤は表情を変えずに口を開く。

 

「今回の一件はタイミングから見て、まず間違えなく五戒組関連だ。なんらかの事情があり公安は身動きが取れなくなった。公安で何が起きているのか?そこを調べる必要がある。………確か、約束とホークスは言っていたが……。」

 

 その言葉に響香は口を開いた。

 

「それ、ウチに会いにきた警官も言っていたはずです。パトカーの中で先生も聴いてましたよね?」

 

 その言葉に相澤は頷いた。約束、この言葉に意味があるのか? 公安という巨大組織を動かすナニカがそこにあるのだろうか? 思考を巡らせる中で才子が呟いた。

 

「………人を操る"個性"が敵にいる。私はそう考えています。」

 

 その言葉に全員が才子を見た。

 

「あ、そうか……。……………()()()()()()()()()()()()()。あの人も操られていたけど、おk……。最上愛のそれとは違った。」

 

 響香は才子の言葉で閃いたことをそのまま口にした。その言葉に相澤は目を細め、「どういうことだ?」と促した。それに対して響香が答えた。

 

「公安は1人、五戒組の構成員を捕まえているんです。私たちも接したのは一瞬ですが、何かに取り憑かれているように自殺をしようとしていました。そんな中、情報を求め話をすると、『ボス富沢』『反乱』『死穢八斎會』の3つの単語だけを発しました。ウチはこの人も最上愛に操られていると思っていましたが……。しかし、冷静になってみれば様子が違いすぎます。最上愛による支配はあくまでも好意を操作するもの、しかし、あの様子はまるで……。」

 

「感情に関係なく、無理やりやらされているようだった、と?」

 

「……単純な印象になってしまいますが……。そして、あの言葉は"個性"に頑張って抗ったんだと思います。」

 

「いや、目撃者の第一印象やイメージが重要だ。何か思い出したことがあったら気にせず言ってくれ。だが、仮に人を操る"個性"か、そうなると、公安の主要な人材は操られている……?」

 

 相澤のその言葉を聴くと才子は口を開いた。

 思考を切り替えたのか、大袈裟に身振り手振りをしながら語る。

 

「私も最上の他にもう1人、他人を操る"個性"を持った人がいると思ってましてよ。耳郎さんと同時刻、私は最上の信奉者に襲われていまして、その時、彼ら仲間全員で私を襲っていると。その言葉が真実ならば、公安の異変は最上の"個性"ではないということでしてよ。」

 

 とはいえ、全員集まったと言いながら、(彼らの目的もあっただろうが)沖かぶりという信奉者が残っているため信憑性は薄い。しかし、響香の発言と合わせれば、()()1()()()()()()()が存在する可能性はかなり高いと、才子は考えている。

 その言葉に相澤頷いた。

 

「……しかし、そうなると耳郎への犯行と、印照への襲撃、これらが同時ということ偶然では無いだろう。」

 

「ええ、狙っていたのでしょう。私と耳郎さんは公安から監視……保護されていましてよ? そんな2人を同時に襲えば、公安に多かれ少なかれ揺らぎがでるでしょう?事実、ホークスを引っ張り出せた。そして、その隙に公安に対して攻撃を行う。これが五戒組の狙いだったのでしょう。そして、それは見事、的中し、()()()()()()()。」

 

「…………確かに大きな矛盾は無いな。」

 

「ええ、襲撃された時点で公安が攻撃されるまでは計算できてました。」

 

 そう言うと才子はかぶりの前に立ち目線を合わせた。

 

「……。だから、()()()()に戦ってくれる?」

 

 才子の言葉にかぶりは小さく頷いた。

 

 

 翌日、相澤達3人は(ヴィラン)は入院という事で学校を休むことになった。ホークスの手腕なのか、すでに学校には病院に入院ということになっていた。

 

「……………俺の推測が正しければ()()(ヴィラン)狩りだろ?」

 

 午前10時ごろ、響香、才子、相澤の3人は昨日と同じベットに腰をかけていた。というよりも、3人とも大怪我をしており節々がボロボロである。

 

「ええ、その通り。彼女は(ヴィラン)狩り、公安にスカウトされた元(ヴィラン)のヒーローです。………本人は()()()()()と表現してましたし、元・元(ヴィラン)のヒーローで現(ヴィラン)なのかもしれませんが……」

 

真面目なのか、ふざけているのか分からない才子の返しを相澤は無視して、端的に自分の気持ちを口にした。

 

「………彼女を信じられるのか?」

 

 その言葉に才子は詰まった。相澤の言葉に明確に返すことが出来なかった。才子はかぶりを信じている。かぶりは自分には誠実な筈だ、と、確信している。

 たとえ、()()()()()()()()ソレは変わらない。何度、騙され、傷つけられてもかぶりを信じ続ける。それが才子だ。

 だから、才子は相澤の問いに返すことが出来ない。納得させるだけの言葉が分からない。計算的な論理的な返しを才子は出来なかった。

 しかし、才子の代わりに響香が応えた。

 

「ええ、ウチは信じてますよ。彼女は印照さんの言葉に頷いた。だから、大丈夫。見て話して確信しました。彼女は約束を果たしてくれる。そもそも、あの子はウチを助けに来てくれたんですよ。じゃなきゃホークス相手でも捕まらない。だから大丈夫です。」

 

 響香の言葉に相澤は何も言えなかった。

 確かにかぶりあの場に居たのは響香を助ける為である。元々は最上の信奉者達が才子を襲うとききつけ現場に駆けつけた。その際に才子がかぶりに()()()()内容により、響香の元に駆けつけることになったのだ。

 才子と響香、2人が同時に襲われた事により強く動揺し、ホークスに捕まった。それがことの真相だ。

 

(だが、だからと言って……。あいつは……。(ヴィラン)だ。)

 

(全く合理的じゃない)

 

 小声で言った後、相澤は響香へ返した。

 その時、相澤のスマホが鳴った。画面を見るとオールマイトと書かれている。

 

「相澤です。」

 

『私が電話した!ってね。それより、今、電話大丈夫かな?』

 

「例の件ですか?」

 

『うん。公安で起きてる異常事態を調べて欲しいって曖昧なお願いだったが、君が私を頼るなんて…………』

 

 相澤は才子と響香とアイコンタクトをして、スマホをスピーカーへと切り替えた。理由は直接聴いた方が合理的だからだ。

 

「お願いします。」

 

『…………あ、うん。私のツテを使って調べたところ、留置所から、麻薬密売ルートを仕切っていた富澤という男と、名前が分からないが、五戒組の構成員が1人、計2人が脱獄したらしい。また、富澤の娘を保護していたが彼女も行方不明……。公安は富澤とその娘は五戒組に誘拐されたと見て、今日の夜、五戒組の事務所に総攻撃をかけるらしい』

 

「急ですね」

 

『ああ、公安らしくない。普段ならもっと慎重に捜査を重ねるはずだ。しかし、1番の違和感は公安職員は口を揃えて『約束』と言っていたらしい………。同じ言葉を全員が繰り返す。明らかに異常だ。』

 

「……約束………。それで、五戒組と富澤の関係は?」

 

『担当した構成員は報告書を作る前に殉職したらしく詳しくは分からないが、五戒組は富澤を狙ってらしい。正確には密売ルートと輸送力を欲していた。しかし、富澤は命の危機を感じ、娘と妻、そして自分を保護してもらうのと条件に自ら捕まったとのことだ。だが、妻は別のテロに巻き込まれて亡くなっている。』

 

「………それ以外に分かったことはあります?」

 

『今はこれだけだ。相澤くん。助けはいるかい?』

 

「いえ、今回は少人数で動いた方が良いと考えてます。ありがとうございます。」

 

 短い会話で電話は切れた。そして、相澤は口を開いた。

 

「人を操る"個性"であることは間違いない。だが、公安全員を一人ひとり操れるとは思えない。おそらく(ヴィラン)()()()()()()()()()()()を操っている可能性が高い。」

 

 その言葉に響香が反応した。

 

「それってつまり。心操みたいに一人ひとりに発動するんじゃなくて、()()()()()()()()操られてしまうってこと?それって、チート過ぎ?」

 

「ええ、しかも公安以外にも適用されたらまずい。ヒーロー、いいえ、日本人という条件で操られたら、もうこの国はお終いです。……………。流石にオールマイト、トップヒーローに応援をお願いした方が……?」

 

 才子のそう口にした。

 同時に相手の強大さに対してこちらの戦力を計算する。エンデヴァーと共に戦うのもアリだと考える。かぶりの扱いが難しくなるが、全員が操られるよりはマシだ。しかし、それに対して相澤は首を横にふる。

 

「現状、少人数がベストだ。相手の"個性"の詳細が分からない以上、あまり派手に動かない方が良い。条件が分からない以上、下手をすれば全員操られて終わりだ。だから、少人数での隠密行動にでる」

 

「隠密ですか?」

 

「ああ。元々、それが俺の戦い方だ。それに、だいたい人を操る"個性"の持ち主は勘だが、検討がついた。………印照、これから話す俺の考えに矛盾が無いか考えてくれないか? 下の自販機で紅茶と、あと4人分の食べ物と飲み物を適当に買ってきてくれ。」

 

 そう言って相澤はポケットから財布を取り出した。

 

 

 

 同時刻、同建物のシャワールームにかぶりはいた。

 熱すぎるくらいのシャワーを頭から頭から浴び、全身についたシャンプーとボディーソープが流れ落ちていく。全身くまなく洗ったはずなのに、至る所に『べとべと』がこびりついてあり、大きめのため息をついた後にもう一度、ボディソープを手に取った。

 

『今が逃げるチャンスだぞ』

 

 壁に埋め込まれている鏡にはかぶりではなくミルコが映っていた。そのミルコにかぶりは興味を示さず、全身を洗っていく。

 

『無視するのか? いいや、無視なんて出来ないはずだ。目を背けるな、私はお前だ!』

 

「………知ってるよ。けど、どーせ。ここから逃げても『逃げて良いのか?』とか言うんでしょ?」

 

『はっ、分かってるじゃないか! 私が何なのかようやく分かったのか!』

 

「うん、思い出した。君は私が自由を求める心だ。だけど、私には自由は無法すぎる。際限が無さすぎるんだ。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

『それで、誰かに従うと?公安の次は姉か?ハッ、それで我慢出来るのか?また、殺したくなるぜ。大好きな人を殺す快感。忘れらないだろ?』

 

「そうだね。その通りだ。アレはとても気持ちよかった。また味わいたくてたまらないよ。だけど、お姉ちゃんも、耳郎さんも、先生も、見てくれている。きっと、ここなら我慢できる。実際、公安にいた時は、なんだかんだで君はいなかった。だから、きっと、大丈夫。」

 

『そこには自由なんてないぞ』

 

「違うよ。これが、私の自由だ。』

 

『………そうかい、なら、せいぜい頑張りな。』

 

 その言葉を残すとミルコは姿を消した。

 その事を確認すると、かぶりは呟いた。

 

「やっと静かになった。」




後、2か3話くらい?
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