"個性"ゴキブリ    作:ゴッキー

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耳郎響香②

 

 「うん、確かにもうすぐ来るね。けど、耳郎響香も強化されてるけど……、戦いには向かない、索向きだ。だから、私がさくって倒してくるから任せて」

 

 かぶりはボロボロの才子を背に地面を蹴り、薫目掛けて突撃した。かぶりはまだ薫にまだ気がついておらず、彼女は完全に戦闘モードだ。

 

「……うそ」

 

 対して薫は気がついてしまった。かぶりに、大切な守りたい存在だと気がついた。だが、薫は約束を破る事はできない。今にも泣きそうな顔で銃を撃った。

 かぶりは容易く弾丸を交わし、包丁を薫に振るう。が、首で寸前で止まった。

 

——-薫お姉ちゃん!?

 

 2人の視線が交差する。一瞬にも満たない刹那の時間だが、かぶりには一生にも感じた。中学での暮らし、雄英での出来事、そして、公安。様々な出来事がフラッシュバックした。

 

「————ぐぎゃ」

 

 かぶりの腹に膝蹴りが入った。かぶりの思考が追いつく前に、薫は続けで顔面を銃のグリップで殴り飛ばした。

 

(なんで……?)

 

 理解できない。 

 いつもなら問題なく対処できた。しかし、それすら出来ないほど、彼女の思考は乱れていた。

 かぶりにとって薫とは恩人で、帰るべき場所、帰ってはいけない場所だった。ヒーローでも、(ヴィラン)でもない日常の象徴。迷惑をかけてはいけない存在だ。

 それが自分を傷つけているのだ。それどころか才子を襲ったのは薫であることくらい分かっている。分かってしまう。

 

「薫お姉ちゃん、なんで?」

 

 顔から血を流しながら、そう聞かずにはいられない。

 

「………ごめん、ごめんね。…………けど、逆らえないんだ。」

 

 薫は涙を流した。

 それを見て、かぶりはきっと、薫もこんなことしたくないんだ、と、察した。

 

(そうだ。才ねぇは、相手は人を操る"個性"がもう1人いるって言ってた)

 

 つまり、薫は誰かに操られている被害者なのだ。確かに薫の"個性"が強力だ。きっと、そこを狙われたのだろう。それに、サポートアイテムというヒーローと繋がりやすい商品を取り扱ってる会社だった。

 

(………助けたい。)

 

 薫は恩人だ。そんな人が操られている。苦しんでるのだ。助けたいに決まっている。後ろをチラリと見る、そこには倒れてる才子がいる。まだ、戦いは続くのだ、あれもこれもと全てを助けられるわけではない。

 

「……ごめん、薫のお姉ちゃん」

 

 罪悪感、怒り、悲しみ、様々な感情が巡る。だが、それらを上回る、愉悦が心を満たし、恍惚な、愛おしそうなものを見るよに笑った。

  

「————ひっ」

 

 そんな、かぶりの笑顔に薫は恐怖した。才子との会話を思い出した。

 

 ——-ああ、そうか、どうしようもなく、かぶりは狂っているんだ。

 

「ははは!薫お姉ちゃん!殺すね!」

 

 笑顔で地面を蹴る。大切な人を殺したくないという思いと、殺してみたいという愉悦、その天秤が、()()()()()()()()という理由で簡単に傾いた。

 

「はははは!」

 

 包丁を振う。薫もかわそうとするが、既にその動きは感知している。避けた先に既に左手の包丁が向かっている。目指すは薫の首、動脈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——-嫌な予感がする

 

 耳郎響香は全力で走っていた。

 公安やヤクザ達の戦闘音が響く中、聴いた微かな音。間違いなくかぶりが移動している。

 

———胸がざわつく

 

 沖かぶり。何故、自分が彼女にここまで執着しているのか響香本人にも分からない。夢も将来も命さえ捨ててこの場で頑張っているのか。自分で自分が分からない。

 

 全て捨てて逃げてしまいたい。

 

 そんな考えは確かに脳裏にはいつもある。辞めたい、帰りたい、全て忘れて普通科に編入するのもありだろう。しかし、そんな考えを無視して彼女の身体は限界を超えて走る。

 

「邪魔!」

 

 周囲にいるヤクザだか公安だか分からない人達を倒す。攻撃を何発も受け、血だらけになるが無視して走る。一呼吸ごとに血の味が口に広がる。

 そして、たどり着いた。

 包丁を構えるかぶり、そして、その先には薫がいる。

 

(まずい!)

 

 考える前に身体は動く。思考に反して身体は心が動かし続けている。

 かぶりは精神的に不安定だ。これ以上、大切な人を殺してしまっては均衡が保てないだろう。

 

 ———何故、こんなことをしているのか?

 

 響香も分からない。ただ、一つ、分かっていることは……

 

「沖ッ!待ってっ!」

 

 響香はかぶりと薫の間に割って入る。

 

「っ!」

 

 いつもなら感知できただろう。しかし、薫が相手というのはかぶりの精神を色々な意味で追い詰め、さらに、薫の"個性"の影響もあり、本調子ではなかったため、探知が出来なかった。

 

(間に合わなっ)

 

 勢いよく振られた包丁にかぶりは攻撃を止められない。頭で分かっていても身体がついてこない。ザクリと響香は顔を斬られた。

 薫対策のガスマスクは落ち、右頬を横一文字に斬ら、破けた頬から血に濡れた奥歯が見える。

 

「じ、耳郎さん?なんで?」

 

 震える声でかぶりは言う。

 ガチャリと弾倉を交換しているのを感知。かぶりは響香を抱え距離をとった。

 

「沖、あの人は、殺しちゃダメ……。」

 

 頬から血を流しなが響香は立ち上がるが、薫の"個性"によりフラリと倒れ膝をついた。響香は咳き込み、ゼーゼーという呼吸となり、40度を超える発熱となった。

視界がぐるぐる回るような眩暈に襲われ、思考が纏まらない。それでも、言葉は続く。

 

「……沖は………ちゃんと、殺す相手は選ばないと。」

 

 絶え絶えにいう響香にかぶりは応えた。

 

「耳郎さん?なんで?」

 

 その問いに響香は薄れる意識の中、考える。

 

——-なんで、こんなことしてるんだろう?

 

 しかし、自然と言葉が出た。

 

「……ウチは、沖と、ヒーローをやりたいんだ。だから、公安として、殺す相手は、ちゃんと……」

 

 たとえ、公安や裏の仕事だとしても、一緒にヒーローになりたい。

 友達と同じ夢を追いたい。そんな我儘で自分勝手な本音。こんなくだらないもののために響香はここまで来てしまったのだ。

 薫を殺したらかぶりはきっと後戻りができなくなってまう。ヒーローとして活動できたくなってしまう。そんな、自分本位な我儘。

 だが、そんな事を言われたかぶりは自然と笑ってしまった。

 

「はは、耳郎さんって結構アレだよねッと!」

 

 放たれ銃弾を響香を抱えながらかわす。

 不思議と昂っていた心は鎮まり、思考はクリアとなった。

 

「薫をお姉ちゃん。私も今更、ヒーローを目指すことになっちゃったみたい。復職出来るかな?」

 

 視界の端に誰かがいた気がしたが、何も言わずに居なくなる。

 ああそうだ。殺意は姉に、夢は友達に、これを指針としよう。

 

 だから、もう、迷わない。

 

「——-いくよ。」

 

 響香を地面に寝かせ、一気に駆ける。

 薫は苦しそうに眉間に皺を寄せながら銃を放つ。かわそうとするが、後ろにいる響香がいる。下手をすると彼女に当たる。

 

(………ならっ)

 

 ゴキブリの外骨格。左手の皮膚の硬化させて弾丸を受ける。だが、彼女の硬化は雄英高校の切島や鉄哲ほどの強度は無い。左手に受けた弾丸は硬化で勢いは殺され、体内で止まった。

 少なく無いダメージだが、頭に受けるよりマシだ。

 

「これで!終わり!」

 

 銃弾を受けながらもスピードは殺さず、一気に薫の目の前に移動し、急停止。そして、薫の顎を蹴り上げようとするが、薫は左手でガードする。

 だが、その動作は感知済みだ。蹴りを寸前で軌道を変え、右足は薫の眼前へと移動する。そして、そのまま、踵落としを放ち、薫を地面へと叩き落とした。

 

「———っ」

 

 薫は痛みで踠くも、かぶりは手を止めない。トドメとして、薫の首筋に蹴りを放ち気絶させた。

 

「………鎮圧完了。………」

 

 気絶している薫を見る。雄英での日々を思い出す。

 

(ヒーロー……か、けど今は……)

 

 色々思う事はある。だが、それ以上にやるべきことがある。

 

「耳郎さん!才ねぇ!大丈夫?」

 

倒れている2人にかぶりは駆け寄った。

 

 

 

 

 

 同時刻

 

 ホークスは肩で息をして、足元で倒れるへべれげをみおろしていた。彼は全身アザだらけで、ボロボロだ。

 

「はぁはぁ、よし、次だ」

 

 ホークスは散らばった羽を背中は集め、目的の場所に向けて一直線に飛翔した。彼はエンデヴァーに次ぐ、ヒーローだ。へべれげのような存在が居なければすぐに移動できる。

 周囲にいるヤクザ達、五戒組の人たちがホークスを狙うが、ホークスには関係ない。真っ直ぐにビルの最上階に辿り着き、窓を突き破り入る。

 

「遅かったですね。」

 

 そこには1人の金髪の少女がいた。彼女は一言でいえばギャルだ。学生服をかなり際どく着崩し、そして、その手には拳銃が握られている。

 

「————-っ」

 

 彼女の足元を見てホークスは奥歯を噛み締めた。なんと、そこには救助対象である富澤とその娘が倒れていた。2人とも胸に何発も撃たれた痕があり息はもうないだろう。

 

「………あなた方は富沢との約束を違えた。その代価を払わらなければない。」

 

その言葉には不思議と威圧感があった。今すぐ膝をついてこうべを垂れるべきだ、と、ホークスの本能が訴えかける。

 

「あなたは何者ですか?」

 

 ホークスは言う。その言葉に少女はニヤリと笑いながら言う。

 

「……私は富沢の後継者。名前は元気 命(げんき みこと)よろしくね。」

 

「………何が目的です?」

 

「さっきも言ったでしょう?代価を貰うことです。あなたがたは公安は富澤と、その家族を守ると約束し、そして果たせなかった。だから、その代価を貰う。ええ、命の代価は大きいですよ?」

 

 その言葉一つ一つが重く、まるで、ホークスの心、命を直接掴んでいるようだ。

 

(……………これは、"個性"による支配!)

 

 ホークスも(ヴィラン)の中に『約束を強制的に果たさせる"個性"』がある事も、そして、自分達が『富澤との()()を果たすように強制されている』ことも分かっている。だが、一度してしまった約束を無かったことには出来ないし、"個性"を無効化することは出来ない。

 逆らう事なんて出来ない。

 

「………だが、約束したのは富澤のはずだが」

 

「ええ、だから、私は富澤の後継者。富澤2号みたいなもの……。それに、私に代価を払うべきだと、約束の"個性"が示してませんか?」

 

 彼女の言葉は事実だ。富澤が亡き今もなお、約束がホークスを彼女に従えと、代価を払えと縛っている。

 

「富澤もその娘も死んだ。その代価として、公安を私に下さい。」

 

 その一言で、ホークスの思考は完全に縛られた。

 

 

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