"個性"ゴキブリ    作:ゴッキー

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終焉

 

 

 

「もうすぐ、ホークスが来ますね。」

 

 窓の外を見ながら男、富沢は言う。その言葉に少女は頷いた。

 

「ええ、そらそろお別れですね。ボス、あなたのおかげで私は生き甲斐を手に入れました。ありがとう。」

 

 少女はそう言った。その言葉に富沢は小さく頷いた。

 

「いえ、こちらこそあなたには助けられてばかりだ。チーフ、ラブ、へべれげ、スメイル。みんなの犠牲は無駄にしない。闇の帝王、AFO(オールフォーワン)からみんなを護る」

 

「いや、へべれげと、スメイルは無事っすよ?」

 

 少女、チーフは苦笑いを浮かべながらそう言った。この富沢という男は真面目なのか、ボケてるのかわからない不思議な男だ。家族を愛しているかと思えば平気に裏切り、騙して無理やり仲間にした相手を本気で心配する。

 チグハグでぶれぶれな男だが、しかし、その狂気は本物だ。だからこそ、チーフは彼の仲間になるて本気で良かったと思っていた。

 "個性"による人生略奪、この性質で自分の人生を持たなかったが、しかし、チーフは彼の狂気、約束が指針で全てなのだ。

 

「………そうでした。では、お願いします。」

 

「ええ……。じゃ!ちょっと調整が大変だけど、頑張っちゃいます!」

 

 富沢はそう言った瞬間、ぐにゃりと世界が歪んだ。自分の今までの人生が遠くなっていく感覚。その瞬間、自分の人生と"個性"を荷物のように待たされた。

 そして、気がつくと目の前に自分がいた。下を見ると、少女の身体だ。一瞬違和感があったが、すぐにそれが自分の身体だと認識してしまい、違和感は無くなる。

 『彼女』の中で過去の富沢という人生と、今の命という少女の人生、その両方が両立していた。

 

「2つの人生、なるほど、たしかに装飾品みたいだ。チーフ、今までこんな……」

 

 少女の言葉には返答せず、目の前の富沢は笑った。

 

「では、私を殺してください。そうすれば公安は手に入る。どうか、闇と光、両方を守ってください。」

 

 

 

 

——代価を払え

 

 ホークスの脳内に響く。口が渇き、心臓がバクバクと鳴る。

 

(やめろ、言うなら)

 

 頭では分かっている。だか、思考が縛られ、逆らえない。普通科の心操、(ヴィラン)のステイン、彼らのように条件が揃って仕舞えば抗えない"個性"なのである。

 

「あ、ああ」

 

「ふふ、逆らえないでしょ? その為にお膳立てをした!約束を守る為に犠牲、コストを払えば払うほど、破った時の求められる代価は大きくなる。約束の為に公安は何人死んだ?一般人の犠牲は? これだけコストを払ったのに約束を果たせなかった。ホークス、この代価は重いよ。」

 

「…………俺には権限がない。無理だ。」

 

 絞り出すようにホークスは言う。これが彼が出来た最低限の拒否だった。

 

「そうだね。じゃあ、出来る人のところに連れてって。」

 

 その言葉には逆らえない。ホークスはあくまでもヒーロー、言ってしまえば公安内の権力はそんなにない。だからそれを理由にして逆らえた。だが、トップならどうだ? 目の前の少女に従い、傀儡という形でなら、代価として近い返答はできてしまう。

 

——-どうする? 

 

 奥歯を噛ましめた。

 その時、突如、重圧が、いや"個性"が消えた。

 

「………ちっ」

 

 少女の舌打ちが短く響く。

 そして、音もなく黒い影が少女とホークスの間に入る、

 オールマイトやエンデヴァー がヒーローの中のエースだとするなら、彼はジョーカー。"個性"による相性や戦略を無視できる存在。

 抹消ヒーロー、イレイザーヘッドだ。彼は捕縛布を掴む、しかし、それと同時に少女は手榴弾のピンを抜く。

 

(手榴弾………いや、閃光弾か!)

 

 閃光弾から強い光が放たれる。その空間全てが照らされ、相澤はたまらず目を瞑ってしまう。そんな全てが照らされる中、ホークスだけは感知できる。彼はたとえ目に見えなくても"個性"により人の位置を知る事ができる。

 

「ホークス、私を助けなさい。対価を払うまで私を守れ」

 

 相澤が目を瞑った事で"個性"が復活し、その言葉にホークスは逆らえない。無数の羽が相澤を襲った。ホークスもギリギリのところで命令に抗い、殺しはしていない。それでも動けない程度のダメージを与えた。

 さらに、羽は相澤の捕縛布をうまく絡めて顔を隠し、見えないようにしてしまった。

 

「………すんません。イレイザーヘッド、それでも、約束を守れなかったのは公安だ。」

 

 ホークスはそう言った。それに対して相澤は応えない。その様子の2人を見て少女は残酷に言う。

 

「殺しなさい。」

 

「………….断る。それは、……流石に無理だ。」

 

 その様子に少女は小さくため息をついた。彼女の対価も万能では無い。対象の意思の強さによっては断られてしまう。それを分かっているからこそ、少女は深く追求しない。

 

「………約束さえ成立すれば抹消できない……はず。コイツが回復する前に早く公安委員会会長ところに案内しなさい。」

 

「……分かりました。」

 

 ホークスはそういうと、少女を抱え、翼を広げた。既に少女は勝ち誇ったように笑っていた。ホークスというNo.2ヒーローを事実上仲間にした。そして、公安が約束を守れなかった今、公安委員会ですら縛ることが出来るだろう。対価という形で公安を手に入れられる。

 もう、勝ち確だ、と、安心し切っていた。しきってしまった。

 ()()()()()()ならば油断無かった。だが、女子高生の人生となった今、富沢の精神は明らかに未熟になっていた。

 

 その隙は大きかった。

 

「あ、」

 

 ホークスは呟いた。その様子に少女はホークスの顔を見た。それに対してホークスは応える。

 

「…………いや、気のせいですわ。」

 

 違和感を気のせいということにした。何か感じた、いつもなら調べたかもしれない。だが、今回は気のせいだと思い込むことにした。  

 無理やり思い込んだ。

 

 

 バン

 

 

 乾いた音。

 そして、同時に少女の頭に風穴が空き、だらりとホークスの腕の中に倒れた。その直後、"個性"による効果が綺麗さっぱり無くなった。

 

「先生、ホークス。大丈夫ですか?……………殺す相手は間違えては無いですよね……?」

 

 天井からかぶりが現れた。その他には拳銃が握られている。その様子にホークスは優しく少女を床に寝かせて応えた。

 

「ああ、助かった。ありがとう。」

 

 そう言うと、ホークスは"個性"を使い瞬時に周囲を制圧してしまった。既に約束は無く、へべれげや薫と言った強敵はいない。ここまで倒せれば彼にとっては消化試合のようなものだった。

 

 

 

 

 

 

 数日後

 とあるカラオケ店にかぶり達3人が集まっていた。響香と才子はそれぞれの学校の制服なのに対して、かぶりは黒い長袖のワンピースを着ている。

 

「………なんか、ヌルッと終わったね。」

 

 響香は頬の包帯で飲みにくそうにコーラを一口飲んで呟いた。その言葉に疲れが感じ取れる。それに対して、かぶりはドリンクバーで自作したクリームソーダを突きながら返す。

 

「ま、公安の仕事はそんなもんだよ……。そもそも()()()()()()()()()()()ことにしたんだ。それ以上の追求もあるはずないんだ。………いや、『上』は暫くは()()()()()()なんだと思うけど……。」

 

 現状、3人は完全に公安から放置されている。ホークスや公安委員会会長からは()()()()()()を受け取ったが、しかし、それだけだ。

 ヒーローを管理する公安が支配されかけたというスキャンダルは、人々の不安を煽り、ヒーローへの信頼を壊しかねない。それはヒーローへの信頼を前提としている今の秩序を壊しかねないのだ。それを恐れ(保身もあるあるだろうが)この事件は無かったことになったのだ。

 そんな状況はなんとなく理解している才子は頷いた。

 

「そうね。それに、これ以上は関わらせたくないって事でしょう。良心的な意味でも、機密的な意味でも……。けど、かぶりも公安に復帰できて、私たちも監視装置も外されたし、今は喜びましょう。」

 

「そうそう、耳郎さん。今は楽しもう」

 

 かなりの大きな事件に巻き込まれた。

 響香と才子は目が覚めたら病室にいて、相澤先生から主犯は死亡し、薫は刑務所に収容された事実だけを知らされ、それ以上の何も無かったのだ、

 かぶりもいつのまにかかぶりは公安に戻ることになったし、才子と響香の怪我も車に撥ねられたことになっていたのである。

 相澤先生も「これ以上、巻き込まないための配慮だらう。今は高校生として学べばいい」と、言ってそれ以上話してはくれなかった。

 

(たぶん、沖もなにか知っててウチらに話してないこともある)

 

 釈然としない。

 けど、

 

「……そうだね。………とりあえず、今日は打ち上げと行きますか!」

 

 響香はいろんな思いを飲み込んで、持ってきたベースを持ち上げた。その様子にかぶりは慣れた手つきでカラオケ機にコードを刺していく。

 

「………………何をしているのでして?」

 

 端末で曲を選ぼうとしていた才子は首を傾げた。その様子にかぶりも首を傾げ、響香は何か気がついたように応えた。

 

「あ、そうだった……。ウチらカラオケに来る時って楽器演奏してたんでその癖で……。」

 

「………かぶりも、耳郎さんも、楽器持ってたので不思議でしたが……。それより、カラオケをそんなに弄っていいのかしら?」

 

「ここは問題ない部屋です。予約した時に確認したんで」

 

「え?カラオケって普通音楽全般できるんじゃないの?」

 

 そんな、会話をしながら3人はなんだかんだで、薄氷の上の日常を噛み締めるように、楽しいひと時を過ごした。

 

 

 




次回、原作に戻るぞ!
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