"個性"ゴキブリ    作:ゴッキー

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ヒーローの仕事編
働け!かぶり!


 

 

 

「マジですか?」

 

 ホークス事務所の一室に、かぶりとホークスの2人が話していた。ホークスはニンマリと笑い、かぶりは唖然とした表情をしている。が、かぶりは何となくだが、その笑顔の裏に悲しそうな、何かを我慢しているかのような気がした。

 

「……マジだよ。BB、君に表側のヒーローとしての活動も増やして欲しい。……裏の方も変わらずあるから凄く忙しくなるけどね。」

 

「……………………鬼ですか?………けど、何でいきなり?」

 

「俺が忙しくなるからね。その分、君には表の仕事もやってほしい。(ヴィラン)はこっちの都合なんて考えてくれないしね……」

 

 ホークスは後進育成に興味はない。かぶりの面倒を見ているのは、大人としての責任や、同情に近い感情から来ているものだった。けれど、今回に限ってはかぶりの成長、将来を広げてあげたいという思いからくるものである。

 公安直属ヒーローという立場、本来は(ヴィラン)だということは変えられない。しかし、それでもヒーローとしての成長、将来や可能性を少しは広げてあげられるだろう。

 

(……らしくないかな)

 

 ヒーローインターンとして少しの間だけ来た常闇踏陰という少年を思い出し、小さく笑った。

 

「真面目な話、君もヒーローになって数ヶ月経つでしょ?そろそろ、裏以外の仕事も一通りこなせるようになった方が良い。ま、殺しの有無くらいでやることは変わらないよ。出来る仕事が増えればサイドキックとしての基本給も増やすしさ。君にとっても悪い話じゃないでしょ。」

 

「そういうことなら……。」

 

 と、かぶりは頷いた。公安ヒーローとはなかなか忙しい。給料は十分すぎるほど貰っているが、その分忙しい。その上で表のヒーローをやるのはかなりしんどい。

 しかし、ホークスのサイドキック、つまりは部下という立場上、断れなかった。さらに、響香達が目指しているヒーローに近づいて、いつか表のヒーローとして一緒に戦えればなぁ、という、淡い光景を想像した。

 何はともあれ、こうしてかぶりは表のヒーローとしての仕事が正式に開始した。

 

 

「次は駅前のコンビニで強盗が発生してるんで、BBは後処理お願いします!」

 

 気絶したひったくり犯をかぶりに渡してホークスは飛び去る。

 

「早すぎる?!」

 

 彼女のツッコミに応える者はおらず、ホークスは飛び去ってしまった。ウェストポーチからスマホを出して警察に連絡を取る。

 

「BB!ホークスは?」

 

 遅れて駆けつけてきた他のサイドキック達。彼らかま遅いわけでなくホークスが早すぎるだで、むしろ優秀だ。なにせ、裏の仕事をこなし、街から離れがちなホークスの代わり、普段は街を守っているのだ。

 

「駅前のコンビニで強盗が発生したので、先に向かうと……。この(ヴィラン)は私が警察に引き渡します。先輩達は先にホークスのところへ向かってください。」

 

「大丈夫か?」

 

 サイドキックの1人はかぶりに声をかける。その様子は少しよそよそしい。というのも、かぶりがホークスのサイドキックになって数ヶ月だが、基本的には裏の仕事をこなしていた。そのため、彼らも挨拶くらいはした事があるが面識はないに等しい。

 その上で、サイドキック達の目線だとかぶりは数ヶ月に渡りホークス直々に指導を受けていたことになり、見方によればかぶりはホークスのお気に入りで、距離感が掴めないでいた。

 

「はい、問題ありません。すでに警察に連絡済みですし、仮に目が覚めて対処可能です。」

 

 淡々と(ヴィラン)を拘束具で縛りながら、器用にサイドキック達に頭を下げた。もとより彼女のコミュニケーション能力はそんなに高くない。一度親しくなれば、ぐいぐい出るがそれまでの壁は意外と高いのだ。

 仮に仲良くなれば、「これで縛ってやろうか?」程度の軽口を仕事中でも平気で吐くのだが、こうもお互いに距離感が掴めていないと距離は縮まらないだろう。

 

「そ、そうか。なら、俺たちは先に行く!」

 

「よろしくお願いします!」

 

 走ってホークスを追うサイドキック達を見送ると、かぶりは倒れる(ヴィラン)を椅子代わりに腰を下ろし、空を見上げた。

 

(合わないなぁ)

 

 警察との連携、他サイドキックとのやり取り、どうも合わない。公安での仕事は上からの指示を聞くだけだったが、ここにきて色々と覚えることが増えた。

 

(サクラゴゼン……エッジショット達は元気してるかなぁ)

 

 ふと職場体験のことを思い出した。当時は大変だなぁと思うだけだったが、事務所の運営、(ヴィラン)を倒す以外の業務はどうも合わないと今になって思う。

 

(仕事だし、選り好みなんて出来ないんだけど……。)

 

 サイレンが聞こえてくるとかぶりは立ち上がった。警察達に(ヴィラン)を引き渡し、書類に目を通す。簡単な雑務だし、裏時代も書類仕事はあったが、未だに慣れない。

 

「えっと……、ここにサインして……。」

 

「ホークスのところの新人さんですか?」

 

 書類に四苦八苦していると警察官の1人が話しかけてきた。そちらに目をやると犬のような顔の老年の警官が立っていた。その様子にかぶりは少し考えた後に答えた。

 

「は、はい。今日、はじめて、任せて貰えまして……」

 

「そうなんですね。ちょっと見せて」

 

 警官はかぶりがもつタブレットを覗き込むと、確認項目を教えてくれた。ひと通り確認が終わるとかぶりはタブレットを警官に返し、頭を下げた。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「ははは、そんな硬くならなくていいよ。僕たちは仲間なんだからさ」

 

「仲間?」

 

「そうそう。じゃあ、僕たちはこれで」

 

 警官は敬礼をすると、部下達に指示を出し護送車に乗って去っていた。それを見送ると、かぶりは先に向かったサイドキック達を追い、地面を這う。その日はその繰り返しで日が暮れていった。

 

 

 その日の夜

 

 

「というわけで!歓迎会ぃいいいい!」

 

 鳥のような黄色い仮面をかぶったサイドキックが叫んだ。

 ホークスヒーロー事務所の1番広い部屋に十数人が集まっている。(ヴィラン)は夜にも出る為、事務所の全員が集まっているわけではないが、それでも多くの人数がいる。

 また、ホークスは参加しておらず、どこかにふらっと出かけてしまった。

 

「数ヶ月前からホークス直属として動いていたヒーロー名black beetleが、正式に事務所に配属された!というわけで!事務所総出ってわけにはいかないが、歓迎会を開く!」

 

 彼は既に酔っ払っており、片手に持ったビールを飲みながら叫んでいる。

 

「というわけで、BB!自己紹介!」

 

「へ?!」

 

 唐突に振られたかぶりは思考を停止させる。そして、「あ、苦手なやつだ」と遅れて考える。

 その困った様子に、「後輩が困ってるぞー」「前振りが下手すぎー」というヤジが飛ぶが、しかし、それでもかぶりの下にマイクが回ってくる。マイクは軽くプラスチックで出来たプレゼントマイク風のオモチャであるが、部屋の広さから少し声を張れば問題ないだろう。

 

(苦手だ!!けど、馴染む為だし、先輩達も私のために開いてくれたんだ!)

 

「…………大丈夫か? 無理なら付き合う必要はない。だが、悪く思わないでほしい。みんな君と仲良くなりたい一心なんだ。」

 

 全身黒いボディスーツに包んだサイドキックが口を開く。

 

「はい、分かってます。」

 

 かぶりは頷いた。こういうノリは苦手だが、嫌いではない。というよりも、むしろ身内しかいなければ悪ノリする側だ。

 だからこそ、こういう場を用意してくれたこと自体は嬉しい。

 

(芦戸さん、元気かなぁ)

 

 何故かかつての友人を思い出す。そして、事務所に馴染む為、こういう場を開いてくれた先輩達の為に最高にイカした自己紹介を速攻で考える。

 

「えー、()()紹介………。ひ、ヒーロー名、black beetle……。長いのでBBと呼んでください。本名は、えー、()()()()()。こないだ買ったばかりのバイクが事故って大破しました!以上、()()紹介でした!!」

 

 事務所内に静寂が流れた。

 

(帰りたい。)

 

 ◆

 

 

 ヒーロービルボードチャートJP、

 事件解決数・社会貢献度・国民の支持率などを集計し毎年2回発表される現役ヒーロー番付だ。オールマイトが事実上の引退をし、繰り上がりとして事実上のNo. 1ヒーローとなった男、エンデヴァー 。彼は今回でようやく、名実ともにNo. 1になれた。

 だが、今年に限りオールマイト引退という節目ということもあり、トップヒーローを集めて祭典を開いた。つまり、ホークスはこの地にいないのだ。

 (ヴィラン)からすれば狙い目だ。とはいえ、もとより公安の仕事で事務所を不在にしがちのホークスである。彼がいなくても事務所はなんだかんだで回るようにはなっている。

 しかし、ここに来てかぶりという戦力が加わり、戦力は盤石となった。

 

「こちら、BB異常なし!」

 

インカムで定期連絡をしつつ、かぶりはパトロールをする。ビルの合間を這い回り、空を滑空する。一見すると害虫のようだが、これでもヒーローの端くれだ。

 

「アレは?」

 

 爆走する軽トラックを見つけた。

 運転手が1人おり、荷台に中からお金がはみ出ている大きな袋を乗せて走っている。荷台には2人おり1人は袋を支え、もう1人は口から黄色い粘液を道路に吐き出している。

 その粘液を踏んだ車はスリップしてしまっている。

 

(早く片付けないと危険すぎる。というか、なんでこんなので逃げられると考えてる?)

 

「まぁ、とっとと捕まえれば問題無い!!」

 

 (ヴィラン)退治はスピード勝負だ。相手がどんな作戦を立てようと、どんな"個性"を持っていようと成り立つ前に潰して仕舞えば問題無い。

 建物の上を走り気が付かれないように車を追う。彼女はインゲニウムに比べればそんなに速く無い。軽トラックは法定速度なんて無視してどんどん加速していき、少しずつだか、離されていく。

 だが、彼女の速さは直線のトップスピードでは無い。

 

(このまま行けば……)

 

 彼らが走っている道は真っ直ぐでは無く、ちよっと急なカーブがあるのだ。そこに差し掛かれば、必然的に軽トラックのスピードは急激に落ちる。さらに、(ヴィラン)達はかぶりが追跡しているなんて、気がついておらず完全に油断している。

 

(今!)

 

 ゴキブリの壁に貼り付く能力。それを応用した小回り、スピードを殺さない方向転換、それが彼女の持ち味だ。それを生かし、(ヴィラン)がカーブでスピードが落ちた瞬間にかぶりは全力で加速する。

 

「———ぐっ」

 

 無理な方向転換に彼女の足が悲鳴を上げる。だが、この程度のダメージならば問題無い。全身の筋肉を使い加速、そして軽トラックを一息に追い越す。

 

(まずは!止める!)

 

 そして、街灯に飛び移り、全身の筋肉を使い再度急転回する。急激な動きに全身に痛みが走り、街灯は軋み変形する。だが、それでも、一息にトラックのサイドウィンドウに突撃した。

 窓を砕き、破片が衣服を傷つける。だが、ゴキブリの外骨格は傷つかない。

 

「なっ!」

 

 かぶりは裏拳で運転手は反応する間もなく気絶させる。幸いなことに運転手はシートベルトはしていなかったため、力任せに助手席に転がせ、急ブレーキをかけて停車させる。

 急ブレーキの反動で、ゴトッと荷台で何かが転がる振動が車内に響く。

 

(次!)

 

 サイドウィンドウから素早く這い出る。荷台には先ほど荷台にいた男が2人が転んでおり、起きあがろうとしていた。彼らを見て素早く優先順位をつける。

 小柄な男は口から粘液を出す"個性"だ。粘液はおそらく車がスリップさせるようなものだ。かぶりにとっては相性は良くない。しかし、もう1人、袋を支えていた大男の"個性"は未知数だ。

 2人は何が起きたのか理解出来ていないのか、「何があった!」と、運転手に向けて叫んでいる。

 

「だったら!」

 

 かぶりは彼らの間に瞬時に移動する。男達はそこでかぶりの存在に気がついた。だが、遅い。すでに2人の(ヴィラン)を捕捉している。

 かぶりはジャンプし、身体を空中で捻る。脚を180度広げ、捕捉した2人の(ヴィラン)を横回転で同時に蹴り飛ばす。

 

踵蟲輪(ゴキリング)ってね。」

 

 気絶した2人を見てかぶりは伸びをしたあと、インカムに触れた。

 

『BB!銀行強盗が発生した!』

 

 先輩サイドキックの言葉にかぶりは気の抜けた返事をする。

 

「………銀行強盗?多分、今、倒しました。警察への連絡、お願いできますか?」

 

『早っ!さすがホークスかお気に入り!』

 

「いや、お気に入りじゃないですよ。私はただ……」

 

 そんな通話をした数分後、警察と黒いボディスーツのサイドキックがやってきた。

 

「先輩!どうですか?スピード解決!被害も最小限!」

  

 と、誇らしげに言うかぶりにサイドキックは頭を押さえて小さく息をついた。そして何かを考えながらかぶりに近づく。

 

「よくやった……と、言いたいが、独断専行がすぎる!」

 

 サイドキックはかぶりのデコピンを放った。「痛い」と小さく悲鳴を上げながらかぶりは涙目でオデコを押さえる。

 

「何するんですかー。解決したし、被害も無い!万々歳ですよ!」

 

「確かに、それは評価されるべきだ。だが、それとこれとは話は別だ。報連相をしろって言っているんだ。特に今回は、連絡出来なかったわけでもないんだろ?」

 

 ヒーロー活動とはチーム戦だ。今回は結果として上手くいったが良いが、バックアップが出来るかどうかで、もしもの時の被害が大きく変わる。ホークスも周りを置き去りする行動をするが、それは彼の実力が抜きに出ているから成り立っている彼独自のチームプレイだ。 

 対してかぶりのそれは、ただ報連相をサボっただけの独断専行。下手をすれば大きな被害を生む許されざる行為だ。

 

「………ごめんなさい。」

  

 正論にかぶりは下を向くことしか出来なかった。だが、怒られたことは凹むが、それはそれとして不快な気持ちにはならなかった。むしろ、なぜか相澤先生のことを思い出し、懐かしい気持ちになる。

 

「次は気をつけろよ。ま、くよくよしててもしゃーないし、切り替えて飯でも行こうぜ。」

 

 サイドキックは軽くかぶりの肩を叩いた。そのおかげでかぶりの気持ちは軽くなり、いつも通りに返した。

 

「なら!焼肉、奢ってくださいよ。」

 

「えー、しおらしくなったかと思ったら、現金なやつだなぁ。食べ放題でいい?」

 

「仕方ないですねー。食べ放題で我慢して………痛い痛い痛い痛い!」

 

 サイドキックに頭を掴まれ、アイアンクローを受けるかぶり。しかし、裏での仕事だけでなく、表の仕事も充実して、こんな暮らしも悪くないな、と、思い始めていた。

 

 

 

 





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