"個性"ゴキブリ 作:ゴッキー
その日、街からヒーローが消えた。
「壮観壮観」
ヒーローのいない街並みを背の高いビルのてっぺんから少女が見ていた。人々はヒーローがいないことを不思議に思いながらもいつも通りの日常を送っている。
その光景に少女、かぶりは不思議と口角が上がる。あそこに飛び降りて人を殺す。今日はヒーローが少ない、来るまでに何十人殺せるだろうか?
スマホを取り出して時間を確認する。もう直ぐ時間だ。
今日はヒーローが
日程はスパイ活動をしているホークスがエンデヴァー経由で伝えられ、ほぼ全てのヒーローが参加することになっている。
(戦争、戦争か)
メールを見ると響香や才子などの学生達も後衛で参加している。学徒動員、歴史の授業で習った嫌な言葉が思い浮かんだ。
というよりも、学生達が参加してる時点でヒーローサイドは後手に回っている証拠だ。少しでもミスをすればきっと取り返しのつかない事態となるだろう。
とはいえ、今、この瞬間はヒーローとして響香や才子達と同じ作戦に参加している。それだけは嬉しかった。
「来た。」
報告にあった車を確認。望遠鏡で確認すると1人の男が乗っている。名前は四ツ橋力也、リ・デストロだ。
「こちらBB、四ツ橋を確認。作戦を開始します。」
無線で伝え、ビルの上から車を追跡する。車はまっすぐヒーロー公安委員会本部の駐車場へと入っていった。
「四ツ橋様、お待ちしておりました。」
公安職員の1人が四ツ橋を迎えに出た。
「ご丁寧にどうも。」
四ツ橋はその様子に楽しげに挨拶をする。彼が公安に呼ばれた理由は商談だ。公安にデトネラット社という自身の仕事を認められる形となっており普通に気分が良いのである。
「はい、では早速ですが会議室へと案内いたします。」
その様子をかぶりは遠くから観察する。彼女の得意分野は戦闘でも回避でも無く、潜伏だ。四ツ橋達の動きを感知して見つからないように動き後をつけていく。
「予定通り、本部へと入りました。」
本部の外壁をつたい、通気口を通り中へと入る。振動を感知して周囲を探る。予定通りだ。すでに本部内には公安直属のヒーローが多数潜伏している。さらに公安警察も武装している。
通気口の中を通り天井の下を歩く四ツ橋を追う。目視はできないが振動を感知して状況を掴む。
「会長、まもなくです。」
インカムで伝える。返事は聞こえないがそういうものだ。
(落ち着け)
深呼吸をして意識を探知へと集中する。四ツ橋は公安職員の案内のもと1番大きな会議室へと入る。かぶりも進み、会議室の上へと移動する。敢えて停止している換気扇から下を除く。
「四ツ橋様、お待ちしておりました。」
公安会長が頭を下げる。それに対して四ツ橋も頭を下げる。
「いえ、私こそお時間を頂きありがとうございます。お互い、有意義な時間を目指しましょう。」
ビジネスライクだが和やかな会話が始まる。四ツ橋は側近を1人だけ連れている。対して会長は背後に目良を含めた数人おり全員が黒スーツを着ている。
「ええ、御社のサポートアイテムは携帯性に優れており……」
「その通り、この変形は他社では真似できない……」
小難しい話は続く。かぶりは話の内容の理解を放棄して出番を待つ。すでにかぶりの他にも何人ものヒーローたちが待機している。隣の部屋、窓の外、床の下、異空間、透明化、何人ものヒーローが各々隠れている。
その配置は予定通りで問題ない。
「いえいえ、我々も頑張ってきた甲斐があります。」
四ツ橋の緊張はすでほぐれ、口が軽くなっている。
「……ゴホゴホッ、失礼します。」
会長は咽せたふりをして左手でお茶を飲んだ。
(合図だ。)
かぶりはダクトから飛び出して、非戦闘員である会長と目良の前に着地し2人を小脇に抱える。その様子に四ツ橋は驚いたが、もう遅い。6人のヒーローが上下左右前後からそれぞれビームを放った。
公安職員に扮していたヒーローが指先から稲妻を正面から、
窓の外で待機していたヒーローが口からエネルギー波を背後から
左右の部屋からは拳の形をした真っ黒いエネルギーの塊が壁を突き破り、
下からは床を突き破りビームの刃が無数に出現し、
上からは目には見えない力場が叩きつけるようにその他を無視して四ツ橋のみを襲う。
全方位からの同時攻撃だ。
建屋は耐えられず壁や天井、床が崩れる。周囲にいた公安職員は各々の"個性"や身体能力で身を守り、かぶりは両脇に会長と目良を抱えて瓦礫を回避する。
その他の戦闘員達もそれぞれ身を守り、追撃へと移ろうとしている。
「——-は?」
床が崩れ、2人を抱えて落下しつつ、かぶりは間抜けな声を上げた。
全方向の攻撃、それらによるエネルギーの余波で感知は機能しない中、目視した。
四ツ橋は体を肥大化させ、黒いエネルギーを全身から放ち、ヒーロー達の攻撃を受け止めて、そして吹き飛ばした。その嵐のようなエネルギーは四ツ橋を中心とし放射状へと広がり全てを破壊する。
ヒーロー達を吹き飛ばし壁や天井、床さえも全てを吹き飛ばす。
「っ!」
かぶりは会長と目良を自身の背に庇い攻撃を受ける。悲しいかな、かぶりの身体では盾としては不十分で2人の下半身は衝撃の中に晒される。
衝撃を受け、3人は破壊された下の階へと叩きつけられるように吹き飛ばされる。
「この!」
吹き飛ばされる中、かぶりは体を捻り自身が下になることによりクッションとなった。
「会長!目良さん!」
かぶりは起き上がり2人に声をかける。その声に反応したのは目良だった。
「………BB!自分は良いから会長を!」
目良の声にかぶりは歯を噛み締める。
元よりかぶりの任務は離脱だ。公安の攻撃が開始と同時に2人を連れて逃げる。それが果たせないのならせめて公安のトップだけでも。
「はい。」
息はあるが、既に意識のない会長を抱える。そんなおり、目の前に大男が降ってきた。四ツ橋だ。黒いエネルギーを纏い、肥大化した腕を構えている。
(集中しろ!)
空気の動きを探知する。
方向転換し、会長を抱えて走る。かぶりの全力は四つん這いなため、気絶した会長を抱えては全力で走らない。それでも走る。
——不可塊
爆音が空間を満たすのを感知した。
四ツ橋から放たれたエネルギーの球は2人を目指して放たれる。
(どうする?)
刹那の思考。
壁は遠く、吹き荒れるエネルギーの波。すでに回避は不可。
(会長を見捨てる?)
1人ならば回避可能だ。
悲しいかなかぶりの"個性"はゴキブリだ。自分が生き残る為の力だ。誰かを助けるようには出していない。
(それでも)
それは姉や親友の夢で、自分のものではない。始まりもただ、なんとなく自由になりたいと思っただけだった。けれども、それでも、2人と同じ場所に立ちたいと思った。
そして、ヒーローが暇を持て余す世界、そんな世の中を見てみたいと思った。
「ヒーローになりたいんだ。」
足を止めて会長の上に覆い被さり全力で身体を硬化させた。その直後、かぶりは吹き飛ばされていた。
全身に広がる痛みを感じながら、四ツ橋の
(助けて………)
先日の母娘を思い出した。
あの時は常闇や先輩サイドキック達によって助けられた。けど、今は、失敗した。
「………耳郎さん、才ねぇ……」
無力感に襲われながら、かぶりは気絶した。