"個性"ゴキブリ 作:ゴッキー
ヒーロー科も当然、通常の高校と変わらない授業も行われる。その授業はプロのヒーローが担当し、入学前は「いったいどんな内容になるんだろう?」と、皆が想像していた。
しかし、
「えー、この問題が解ける人〜。」
普通なのだ。
プロヒーローの授業はどう言った内容なのだろうか?という期待に胸を膨らませていた生徒達全員をなんだか微妙な雰囲気にさせた。
それくらい、授業は普通だった。
そして昼休み。プロヒーローランチラッシュが手がける最高クラスの料理をリーズナブルな値段で楽しむことができる。とはいえ、それでも一番安くても約300円くらいしてしまう。そんな無駄なお金はかぶりと薫の家計では捻出する事はできない。当然、彼女はお弁当を持参することになる。しかし、そんなことを知らない響香は午前の授業が終わるとかぶりを昼ごはんに誘った。
「沖、学食行かない?」
その誘いはかぶりはとても嬉しく、少ないお小遣いを切り崩して今日くらいは贅沢しても良いかもしれない。と、思ってしまった。
しかし、寸前なところで踏みとどまった。
というか、説明会の時に学食は休み時間では食事以外にも読書や自習にも使われて良いとされていた。それなら、注文しなくてもお弁当を食べても問題ないのでは? となったのだ。
「わ、私。お弁当なんだけど、だ、大丈夫かな?」
カバンから白い無骨なタッパーを取りだしながらかぶりは言った。その言葉に響香は少し悩んだ後に答えた。
「良いんじゃない? ウチの親も音大の学食でコンビニ弁当食べてたらしいし」
大学の学食と高校の学食を比べるのは微妙な話だが、2人は学食へと向かった。雄英高校の学食は思ったよりも広く、彼女達の考え通りお弁当を食べている人も何人かいた。さらに、響香が買いに行っている時に一足早く場所取りが出来るため座席の確保もしやすく、はじめての場所だが意外とスムーズであった。
響香がハンバーグ定食を買って席に着くと、かぶりはタッパーの蓋を開けた。せっかく2人で食べるので買ってくるのを待っていたのだ。
「ウチも明日から弁当にしようかなぁ。」
響香は友人を待たせてしまったことなどが申し訳なく感じていた。また、弁当なら教室で食べれるから楽なんじゃないか?という考えが浮かんでしまった。しかし、毎日弁当を作るのも大変だ。頼めば親が作ってくれるだろうか?と、色々脳裏によぎった。
「お弁当も、慣れると、楽だよ。タッパーだと洗うの楽だし。」
タッパーの中からソフトボールくらいの大きさのお握りを取り出しながらかぶりは言った。通常おにぎりならラップか何かに包まれていそうだが、直にタッパーに入っていたようだ。
また具材は昨日の夕飯の残りである豚の生姜焼きが入っている。
「……なんか、ワイルドだね……」
おにぎりを見た響香の感想は仕方がないものだ。ただでさえ大きなおにぎりなのに小柄なかぶりが持つと余計に大きく見えてしまう。なんだかサイズ感が合わずに不恰好だ。それが何だか面白くて耳郎は笑ってしまった。
「?」
さて、そんなこんなで昼食が終わると、午後からはヒーロー基礎学だ。
雄英高校ヒーロー科の根幹となっていると言っても過言では無い授業で、A組の生徒全員が楽しみにしていた。
「私が、普通にドアから来た!」
そして、この日の担当はオールマイトだ。無論オールマイトは全クラスを順番に回るため初めの授業で彼に教えてもらえるのは偶然である。
しかし、それでも、初めてのヒーロー基礎学で、誰もが憧れるオールマイトに教えてもらえるのだ。A組全員のテンションが上がっていた。
(凄い!画風が違う!)
まるで、バストアップ一回でペン先を2本使い潰してしまうほどの迫力だ。ただ、そこにいるだけで圧倒的な安心感と存在感を与える最強のヒーロー。そんな彼はにこやかな笑顔と共に『battle』と書かれたカードを出した。
「早速だが今日はこれ!戦闘訓練!」
その言葉の反応は、勝己のようにテンションを上げるものや、不安に思うものなど多種多様だ。しかし、その空気を断ち切るようオールマイトは言葉を繋げる。
「そして入学前に送ってもらった"個性"届と要望に沿って、あつらえたコスチュームに着替えたらグラウンドβに集まるんだ!」
その言葉とともにオールマイトは出ていき、それの後を追うようにA組の生徒達も更衣室へと向かっていった。
(コスチューム……。やっと着られるんだ。)
被服控除、という制度が雄英高校にはある。
"個性"や要望に応じて学校と提携した会社が、サポートアイテム・コスチュームを用意してくれるというものだ。かぶりは幼い頃からヒーローコスチュームは色々と妄想をしていた。衣服に関して頓着というかオシャレなんてする余裕のなかった彼女のセンスは、正直言って小学校低学年レベルで止まっているのだが、それでも数多なデザインを妄想していた。しかし、彼女の
(もう少し、ミルコっぽくして欲しかったけど……。これはこれでカッコいいからいいかな?)
彼女に用意されたコスチュームは、一言で表せば真っ黒いジャンプスーツだった。かなり身体にフィットしており、ぱっと見はMt.レディなどが着ているぱつぱつスーツに近い。しかし違いとして、服に前開きのチャックがついていることと、背中に大きな穴が空いている。手足には衣服と同色の手袋とハイカットのスニーカーを履いている。どちらも細かな穴が空いており"個性"の邪魔をしない。
また、腰には少し大きめのベルトがあり左右に3個ずつ野球ボールほどの黒い玉を装備している。
何というか、ミルコのような武闘派というよりは暗殺者のような出立ちである。
(確かに、私の"個性"は
「あ、沖のコスチューム、かっこいいね!なんだか、ダークヒーローって感じ?」
コスチュームに着替え終えると、三奈に話しかけられた。彼女のコスチュームはかぶりに比べて肌を多く露出しており、ソレがかぶりの目に映る。そして、自身の体躯を見下ろす。そして、三奈のソレに視線を戻す。
「ん?」
「な、なんでも、ない。け、けど、みんなそれぞれ違うね。」
コスチュームは皆、それぞれ大きく異なる。響香のような、言っては申し訳ないが地味目な人から、肌を大きく露出した人まで様々だ。彼女たちを見渡し、またもや自分の体躯を見下ろす。そこには幼児体型な残念な身体。
(せめて、耳郎さんレベルでも成長したい……。)
とはいえ、ここで落ち込んでいても仕方がないので急いでグラウンドβへと移動した。グランドに集まっても男子女子問わずに少しソワソワしていたが、しかし、出会ってまだ間もなく仲はあまり深まって無いため一部を除いてあまり会話は無い。
(あれは、緑谷くん?自分で用意したのかな?)
出久のヒーロースーツもかぶりと同じくジャンプスーツではあるが素材が見るからに異なっていた。彼女の素材はサポートアイテム用に編まれた特殊なもので伸縮性も通気性も耐久性も桁外れだ。しかし、出久のものは一般的な素材であるようだ。値段というか材質の違いが見た目に出ている。
「君らにはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう。」
一方、オールマイトは生徒が全員来ていることを確認すると言った。
事実、内容も彼らにはまだかなり難しいものだ。
状況設定として
また、チーム分けはくじ引きで決まるため"個性"や人間関係の相性などは全く考慮されることはない。
一戦目は勝己と天哉コンビと、お茶子と出久のコンビだった。
この勝己と出久の対決にかぶりは嫌な予感しかしなかったが、その予感通りの結果となった。
オールマイトが止めるほどの勝己の大規模攻撃に、出久の大怪我。はじめての授業とは思えないレベルの対決はかぶりも含めたA組にはいい意味でも悪い意味でも衝撃を与えた。
また、授業としても学べるものが多かった。
屋内での大規模攻撃の危険性、あくまでもハリボテは核兵器であるなど、『ただ戦えばいいわけでは無い』という、ヒーロー、
そして、二戦目はかぶりの順番となった。
「よろしくね、沖ちゃん!」
かぶりのチームメイトは葉隠透だった。彼女の"個性"は透明化で、言ってしまえば透明人間である。また、手袋と靴だけという倫理的にアウトなコスチュームのため、かなり存在感が薄い。
しかし、持ち前の明るさにより、不思議と和の中心に居たりする。
(ちゃん?)
「よ、よろしく……。」
挨拶をしつつ、かぶりはふとコスチュームについて疑問に思った事が出来た。『コスチュームの露出における規定法案』である。18禁ヒーローミッドナイトが奇抜すぎるコスチュームを着たせいで生まれた法律だが、文字通りにヒーローの露出について決めている法律だ。
透のコスチュームはほぼ全裸であるため、どう考えても抵触している。
しかし、この服で要望が通ったということはセーフなのである。
(まさか、見えないからセーフなの? 嘘、そんなガバガバなの?)
しかし、幾ら考えてもそれくらいしか思い浮かばなかったので、後で(ヒーロー関連なら詳しそうなため)出久に聞いてみることにした。
「私、ちょっと本気出すね!」
そういうと透は手袋と靴を脱いでしまった。全裸である。
(寒く無いのかな? いや、でも、コレ、結構相性良いかも?)
「は、葉隠さん。わ、私の"個性"は、空気の振動を感知できます。だから、透明でも何をしようとしているのかなんとなく、分かります。」
「それなら、後ろ弾気にしなくて良いんだね。」
「……う、後ろ弾って。……まぁ、そ、そういうことです。」
お互いに相手のことを知らないし、作戦を練れるほど戦いに慣れていない。何をすればいいのか、何をしてはいけないのか、そんなこと分からない2人には作戦なんて作れるはずがなかった。
しかし、ふと、かぶりの脳裏にはある案が浮かんだ。
「葉隠さん。やお、八百万さんが、コレが本物の核兵器だとしたらって言って、ましたよね。 それって、つまり……。」
「なんか、ズルいね。」
かぶりの案はヒーローとしてかなりズルいものだった。だが、授業として
無論、作戦として肉付けしようとしたが、基礎も何も知らない2人にはどうすればいいのか分からず、また、時間も足りなかったため時間稼ぎの最終手段とすることにした。
「はじめ!」
オールマイトの通信越しの声で戦闘訓練が始まった。
しかし、驚くべきことに戦闘が始まっているとは思えないほどの静けさに包まれた。
その時、急激に空気が
(誰かが空気を吸っている?それとも冷やされている? そうか、轟くん、体力テストで氷使ってた!)
「葉隠さん! 何か来る!」
かぶりは慌てて声を上げたが、その時には既に床が凍り始めていた。
(氷? 避けないと)
慌てて天井へと跳び移る。
だが、天井も瞬く間に凍りついていく。
逃げ場も、時間もない中の一瞬の行動。空気の振動から凍ってない場所を見つけて跳び移る。そこがどこなのかなんて判断している余裕は無く、
「ご、ごめん、葉隠さん。助けられなかった。」
核兵器の上に跳び移ったかぶりは、足が凍りつき身動きの取れない透に謝った。
「謝るのは私の方だよ。私も動けないや。ごめん!」
最悪の状況だ。
氷の上ではかぶりも思うように動けない。さらに、透はもう戦うことはおそらく出来ない。正攻法ではもう勝てない。
(どうする? どうする? どうする? こういう時は!)
「葉隠さん、隠れるから、私、いない事にして!」
そう言うとかぶりは核兵器の後ろに隠れた。小柄な彼女は大きなハリボテの後ろにすっぽりと隠れて見えなくなった。その位置ではかぶり本人も周囲の様子なんて見えないがかぶりには関係ない。
「分かった。」
透はそう頷くと、コツコツとゆっくりと足音が近づいてきた。そして、音の主、轟焦凍は部屋の中を覗くと口を開いた。
「動いてもいいけど足の皮剥がれちゃ満足に戦えねぇぞ」
その言葉は勝ちを確信してるように聴こえた。
「お、沖ちゃんはどうしたの?」
透はここに1人しかいない事を強調するためにそう言った。しかし、チーム同士ならインカムにより通話ができるのだからこんな質問をするのは変だ。だが、勝利が目前に迫っていた焦凍はそんな疑問を持つことはなかった。
「身動き取れないでいるんじゃねぇか?」
そう言いながら焦凍は核兵器へと手を伸ばす。
(今!)
ギリギリのタイミングで跳び出した。このタイミングなのは特に理由はなく、ただ、周囲が急激に冷やされたせいで気流が生まれ、乱れて振動が読みづらいためである。だから、慎重に焦凍がある程度近づくまで待っていたのだ。
(取った!)
頭上からの全力の踵落とし。入試の際に数多のロボットを屠ってきたかぶりの勝ちパターンだ。
だが、その程度では轟焦凍には敵わない。
踵落としをバックステップでかわす。眼前を振り下ろされた足が通り過ぎ、あと数ミリの所で当たっていたように見えるが、実際のところはそうではない。次へと繋がるためわざとあまり離れずにかわしたのだ。
(え?)
次の瞬間、かぶりの視界がぐるりと回っていた。すぐに投げられた事は分かったがそれだけで、背中から地面に叩きつけられた。
ごく普通の背負い投げだ。それを反射速度や瞬発力が高いかぶりに対して簡単に決めた。それだけ、轟焦凍とかぶりとの間に大きな差があるのだ。
「………悪いな、勝たせてもらう」
それだけ言うと轟は"個性"を発動させて、かぶりの両手両足を凍らせた。完全敗北。それが決まろうとした瞬間、透の声が響いた。
「凍らせたら、核を爆発させるよ!」
ハッタリだ。
そもそもハリボテなのだから、爆発するはずがない。しかし、ヒーローならば止まらなくてはならない。
コレは「訓練だから出来た反則だ」と言われた一戦目を教訓にかぶりが思い付いた案だ。
単純だが、ヒーローの足止めをするには十分だ。
「…………スイッチは持っていないみたいだが?」
「わ、私の"個性"は、ひ、光を操れる。赤外線で、こう、操作できる!」
普通に嘘だ。
確かに透は少し光の屈折を変える事は出来るが、赤外線なんて出せない。しかし、そんなこと焦凍は知らないし、ヒーローとして動けない。
動揺する焦凍にかぶりは透に続いて言った。
「わ、私は
捕まるぐらいなら街ごと、吹き飛ばす!」
「………っ!」
そして、硬直状態が誕生する。
そもそも、かぶりか透がもっと早くこの案を実行していれば別の展開になっていたが、初めての実戦で理想通りに出来るわけがない。
かぶりも透も動けないし、焦凍も動けない。
この場にこの硬直を破れる存在はいない。焦凍に何か指示を強要すれば良いのだが、何をさせれば良いのか2人にはわからなかった。
基礎を知るための応用。オールマイトの言葉を身をもって思い知った。
しかし、
「ヒーローチーム!!WIN!!!!」
オールマイトの唐突なコールが響いた。
その声で、すぐにヒーローチームのもう1人を忘れていたのに気がついた。
「障子くん! 窓から?」
透の言葉に障子目蔵は肩から伸びた複製の口で述べた。
「ああ、"個性"で声を聞いてたからな。ビルの側面をよじ登ってバレないように核兵器に触ったんだ。」
「でも、それだと沖ちゃんの探知に引っ掛からなかった?」
透の疑問は最もだが、かぶりの"個性"を知らない2人はどう言うことか分からなそうだ。
「わた、私が探知できるのは……。あ、私は空気の振動を探知して、周囲の状況がある程度分かるんです。けど、今回みたいに冷やされたり、温められたりすると、空気の流れが乱れちゃって、た、探知できなくなってしまうんです…。」
それに加えて今回は倒れた状態で凍らされたせいで触覚が凍りついた地面に触れていた。そのため冷気の流れを直に拾い、かつ地面に触れていたせいで空気の振動以外のものも拾ってしまい探知の精度が著しく落ちていた。
特に説明しない理由はないが、話すのが苦手なかぶりは省いてしまった。
「……そういうことか、危なかったな」
障子のその言葉に焦凍は頷きながら自身の反省点を考えていた。
(そもそも、障子に行動させるなって迫られてたら負けていた。こんなんじゃ、ダメだ。アイツに……)
「今から氷を溶かす。少し待っててくれ。」
焦凍は個人的な憎悪には蓋をして凍りついて動けない2人にそう言い、障子とともにビルから降りた。そして、片手をビルの壁に着くと氷を溶かし始めた。
彼の"個性"は半冷半燃、右で凍らせて左で燃やす。どちらもかぶりの探知能力を阻害する力だ。
(熱と氷、めちゃくちゃ天敵じゃん……。氷は
溶けていく氷を見て、そう思ったが、しかし、ビルを一瞬のうちに凍らせられるほどの"個性"に勝てる人なんているのだろうか?と、思い至った。
そんなことを呑気に考えていたのも束の間だった。溶けた氷は当然、熱いお湯となりかぶり達に降り注いだ。そもそもかぶりは起き上がることも出来ないため熱湯に浸かっている状態だ。
「熱い!熱ち!」
「あっち、あつい!」
火傷はしないまでも、熱湯を浴びる2人の悲鳴は焦凍には届かなかった。
とりあえず、この仕返しはいつか絶対にしようと、かぶりは決めた。
ブラックウィドウまた延期らしいですね