"個性"ゴキブリ 作:ゴッキー
朝5時、かぶりと薫は起きる。
薫はすぐに着替えや化粧などの身支度をはじめ、かぶりは洗濯機を回して朝食の準備をする。準備とは言ってもタイマーによりご飯は炊き上がっているし、味噌汁もそこまで手の込んだものは作らない。さらに薫は決まって卵かけご飯を食べるためすぐに出来てしまう。
また、並行して2人分の弁当も作るがメニューは決まって巨大おにぎり一個ずつだ。具材はいつも違うが、今回は昨晩の残りのひじきの煮物だ。
それらが完成する頃には薫はビシッと準備を終えている。かぶりと出会った頃と違い、スーツも着なれており様になっている。
「薫お姉ちゃん。言っちゃアレだけど、毎日卵かけご飯で飽きない?」
かぶりは納豆をかき混ぜながら言った。しかし、彼女がこう思うことは仕方がないことだ。薫は驚くべき事に出会ってから毎日、必ず、朝食は卵かけご飯を食べている。そこに何かこだわりのようなものを感じてしまう。
「? そういえば毎日卵かけご飯だね。いや、特にこだわりもなければ、飽きもしないだけなのだけど。」
その薫の言葉は本心だ。というよりも薫はかなりの偏食というか食へのこだわりが薄いだけで、それなりの味で腹が満たされればそれでいいという考えなのである。
(そういば、はじめてここに来たときも同じカップ麺ばかりだったみたいだからなぁ)
もしかしたら自分がここにこなければ、身体を壊していたのでは? と、かぶりは勘ぐった。居候の身として現在この家の家事全般はかぶりが担っている。そのため、値段的に栄養満点とは言えないし、味も良いとは言えないが、カップ麺よりかはマシだ。
「そういえば、こないだ、報道陣が雄英に入り込んだらしいけど、大丈夫だった?」
そういう薫にかぶりは納豆をご飯にかけながら答えた。
「えっと。友だちと教室でお昼食べてて、急に警報鳴って気がついたら解決してたよ。……教室にいる時に警報が鳴ったら動かずに待機って、生徒手帳にも書いてあったし。………合理的判断?」
かぶりは出久たちのようにパニックになっている現場には居合わせなかった。そのため、文字通り
そのため、彼女の言葉で薫は大したことなかったんだなって思った。というよりも、軽く出てきた
しかし、それと同じくらい普段、彼女が使わない単語が気になってしまった。
「合理的?」
「今、クラスでプチ流行してる言葉なんだ。せ、先生の口癖?」
他にも
「先生の口癖が流行って………。いや、私たちも似たようなことやってたけど……。ごちそうさま。」
そう言う頃には薫は全て食べ終えていた。いつものことながら、どんなに会話が中途半端でも食べ終わったら話は終了という暗黙の了解が2人の中にはあった。これは、仲が悪いとかそう言うのではなく、単純に時間がないからである。朝は1分1秒が惜しいのだ。
薫は歯を磨いて、少し化粧を直して飛び出るように家を後にした。それを見送るとかぶりは食器洗いや、風呂掃除、洗濯物を干す、掃除機をかけるなど、家事をする。それらが終わると、その日の授業の予習を淡々と進める。かぶりは勉強は出来るが、要領がいいわけではない。
こう言った予習復習を重ねることでようやく雄英の授業についていけているのが現状である。
(あ、もうこんな時間か……。)
そう呟くと、制服へと着替えて身だしなみを整える。しかし、化粧も含めてそこまでおしゃれに興味がない彼女は髪を梳いて寝癖を治す程度だ。
(そういえば、白髪無くなったなぁ)
数年前まで、かぶりの髪の毛には、円を書くように白い毛が混じっていた。だが、今では無くなり全部茶色く染まった。これが何を意味するのか彼女には分からないが、特に気にしていない。
(そういえば、昔はもっと黒かった気も……)
そんなことを考えながらスクールバックを持ち家を出た。
家から雄英高校までは地下鉄とバスでおよそ40分ほどだ。その間も無駄にすることはない。響香から借りた(新しいのに買い替えるため響香としては完全に譲ったつもりだ)ウォー○マンを使い元々入っていた曲を聞きながら、予習をする。
余談だが、この世界ではスマホの機能が向上し基本的に音楽はスマホで聴くようになってしまった。それに伴い多くの企業が携帯用音楽プレイヤーを販売終了、もしくは縮小してしまった。生き残ったのは音質を極めたウォー○マンくらいである。
それはともかく、かぶりは8時過ぎには学校に到着した。朝のHRまで30分ほどあるが、それでも登校している人はかなりの人数がいる。というよりも、1番登校してくる生徒が多い時間かもしれない。
「あはよう、沖」
「あ、おはよう。」
音楽を聴きながら校門をくぐると三奈に出会った。
話すのが苦手なかぶりではあるが三奈や響香など、仲良くなった人たちとは気にせず話せるようになっていた。今までそんな人居なかった彼女にとってはかなり、喜ばしいことだ。
「あ、ウォー○マン。飯田に怒られるよ? 学校に関係ないもの持ってるなって」
三奈はウォー○マンの電源を切っているかぶりを見てそう言った。先日学級委員となった天哉は真面目すぎるところがあり、融通が利かない。そのため、少しでも勉学に関係ないものを持ってくるとかなり怒られるのである。
「う、うん。昨日も怒られた。けど、相澤先生がえっと……。『それくらい良いだろ、合理的に』って言ってたから、良くなった」
イヤホンや携帯用音楽プレイヤー程度の持ち込みは黙認されている高校も多い。雄英高校でも基本的に(授業中は別だが)黙認されている。そもそも、取り締まる立場のプレゼントマイクがコスチュームではなく本物のヘッドホンで音楽を聴きながら通勤しているため、教師陣も何もいうことが出来ないのである。
「へぇ、って、流石に合理的に考えて、そこで合理的って言わないでしょ。それに、その声真似、合理的に考えて似てないよ。」
「で、でも、合理的に頑張ればこの物真似も
中身のあるようで無い下らない話をしながら教室に向かっていると、打ち消すように静かな男の声が背後から響いた。
「沖、芦戸」
地の底から響くような声。かぶりの探知にかからなかったのは周囲の人が多いからか、それともプロヒーローともなれば掻い潜ることも可能なのかは分からない。だが明らかに背後に1人の男がいた。
その声に2人は足を止めてゆっくりと振り返った。
「「オハヨウゴザイマス。相澤先生」」
背後に現れた男は捕縛布に手をかけた。
◆
通常授業はつまらないが、普通に難しく進むスピードも早い。予習復習をしっかりとやった上でも、かぶりは着いていくのがやっとである。
もし、一度でも居眠りや欠席をしてしまえば、もうどうなるか分からない、そんなレベルである。しかし、聴いてみれば三奈もそのような感覚らしく(出来るや出来ないのボーダーラインは本当に人それぞれ)、この高校の難易度が窺える。
そんな授業が終わると、昼食となる。
最近では響香も弁当を持参するようになり、教室で食べるようになっていた。たまに、三奈も混ざるが基本的に2人での昼食だ。
2人の会話はもっぱら音楽関連が多い。最近かぶりは薫が昔使っていたいうアコースティックギターを譲ってもらい練習に励んでいる。最近では消音グッズも進歩してきているためアパートでも演奏することが出来るのだ。
それでも、思いっきり弾きたい時は公園に出向いてはいるが……。
「お、いいじゃん! すごいよ! たった数日でこんなに弾けるなんて……。」
「そう、かな?」
「そうだ、沖、今度ウチに来なよ。一緒に何か弾こう。」
かぶりが弾いた曲の録音を聴き響香はそう言った。友人の家になんて行ったことのないため、かぶりはその誘いに目を輝かせた。とはいえ、実はかぶりも最近気がついたが、響香が好むロックよりもヒップホップの方が好きだったりする。しかし、友人との時間は無条件で楽しいためそんなことは些細なことだ。
対して嬉しそうなかぶりに、響香は友人というよりもなんだか妹みたいな気分になっていた。
さて、昼食が終われば午後の授業である。午後は曜日によってヒーロー基礎学のような特殊なものから、通常の一般的な内容のものまでまちまちだ。中には普通の体育なんて日もあり、"個性"なしで球技に興じる日もある。
本日はヒーロー基礎学の日である。A組メンバーは1回目の授業の影響でド派手なバトルな印象を持ってしまったが、毎回あんな特殊な授業では無い。
例えば、2人1組となったミット打ちなどによる基礎的な身体の動かし方や、"個性"なし(異形型などの
そして放課後
「い、……いらっしゃいませ! 3名様ですね! 空いてる席へお座りください!」
かぶりはラーメン屋でバイトをしていた。
雄英高校でアルバイトをしている者は少ない。家が裕福だからとかそういう理由もあることにはあるが、最も大きな理由はバイトなんてしている余裕がないからだ。通常授業もトップクラスで毎日の予習復習は欠かせないし、ヒーロー科ともなれば常軌を逸したカリキュラムが待っている。それはもう、1日の授業だけでボロボロだ。夏休み等の短期期間ならまだしも、平日のバイトなんてやってる余裕は普通はない。だが、そんなこと言っている余裕はかぶりにはない。
林間合宿というものがヒーロー科には存在している。
参加は悲しいことに義務ではなく、修学旅行などと同様に別口でお金がかかる。それら学校行事に参加するためには薫の給料では難しい。
その他にも文房具やその他雑費、交通費さらには最近覚えてしまった音楽関係の趣味にも使いたいことは多々ある。
「ご飯はセルフサービスとなっておりますので、ご自由にどうぞ。
彼女のキャラに合わない大声を上げ、厨房へと食券を運ぶ。
そもそも、彼女は接客業なんてしたくないし向いていない。けれど、いつまでも人との会話が苦手だなんて言っていられない。ヒーローになれば他ヒーローとの連携は無論なことインタビューなども受けなくてはいけない。憧れのミルコのように、とはいかないまでもせめて普通に話せるようにはなりたい。そういう思いから、接客業を選んだのだ。
(でも、学校でのインタビューは逃げちゃったし、まだまだだ)
先日、校門の前にマスコミが集まり生徒に対してインタビューを手当たり次第にしていた日があった。そのさい、彼女はインタビューが怖くて、人混みに紛れ、マスコミから隠れて学校に入った。ある意味反応としては普通なことかもしれないが、それでもヒーローとして変えなきゃいけないことだと彼女は強く思っていた。
しかし、接客という知らない人との会話もマニュアル通りではあるがこなせるようになってきている。忙しさと仕事中というスイッチが入っているからという理由もあるが、彼女も成長してきているようだ。
(ああ、
9時過ぎまで働いて、賄いで貰える餃子を薫と食べて風呂に入って寝るまで予習復習をする。まさに順風満帆な高校生活だ。
だが、悪意はそんなこと気にしてはくれない。
「今回は
その日のヒーロー基礎学は人の命を救う救助訓練だった。ヒーローといえば
(災害救助……。瓦礫の下とか、狭いところなら結構自信ある。)
ゴキブリの"個性"は結構な汎用性の高さを秘めている。とはいえ、救助と言われても実際何をすれば良いのかなんて、いまいちピンとこない。
1番に思い浮かぶのはオールマイトのデビュー動画だが、かぶりは数回しか見たことがないため『HAHAHA』という笑い声しか思い出すことは出来なかった。
「今回はコスチュームの着用は自由。移動はバスを使用する。以上、準備開始。」
その言葉と共に生徒たちはコスチュームを持って更衣室へと移動した。自由とは言ってもほとんどの生徒はコスチュームを着用するつもりのようだ。
「かぶりちゃん、私、思ったことなんでも言っちゃうの。」
「はい、なんでしょう。蛙吹さん。」
着替え中に突然話しかけられたかぶりは、手を止めて蛙吹梅雨の方を見た。彼女は蛙という異形型"個性"の持ち主だ。長い舌と、蛙ならではの動きによる中・近距離戦が得意とする少女だ。そんな彼女はしどろもどろになっているかぶりの目を見てマイペースに話す。
「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの"個性"ってなんなのかしら? 探知系のようにも見えるし、身体能力も高いわ。見たところ異形型みたいだけど……。」
その言葉にその他の女子も反応した。特に響香はかなり興味がある様子だ。
「あ、ウチも気になってた。」
そう言って話に加わる響香を見て小さく息をついた。別段隠している訳ではないが、それでもなんとなくだがゴキブリという"個性"にコンプレックスを覚えてしまう。
「……え、えっと、あー。ご、ゴキブリです。ゴキブリっぽいことならだいたいできます。」
「「「「「「…………」」」」」」
更衣室に微妙な空気が流れた。
原因は一生涯分からないままとなるが、その後いつまでもA組女子がかぶりの"個性"名を直接口にすることはほとんど無かったという。
「ここは、ありとあらゆる事故や災害を想定して作った、
「USJだ!」
A組のメンバーはスペースヒーロー・13号が設計した、災害救助を目的とした演習施設『
広大な敷地内に「水難ゾーン」「山岳ゾーン」「火災ゾーン」「倒壊ゾーン」「土砂ゾーン」「暴風大雨ゾーン」などがあり、どんな災害救助も実習可能な施設である。まるで遊園地のようである。
USJみたいという誰かの感想を耳にしたかぶりは「USJってなんだろう?」というかなり外れた事を考えていた。
(ヒーロー関連かな? 今度、緑谷くんに聞こうと)
しかし、この思考になって本当に聞いたためしは殆どない。
「えー、始める前にお小言を1つ、2つ、3つ……。」
増えるお小言。だが、その内容はかぶりたちにとって大切なことだった。
"個性"を用いれば簡単に人を傷つけられる。無論、かぶりのもそうだ。背後から近づき蹴り飛ばせば、おおよその人は大怪我を負うだろう。下手をすれば殺せる。
一歩間違えれば簡単に人を傷つけて殺せる。そして、今回はその力では如何にして人を助けられるか学んでほしいという。
13号は小言が終わると、深々と頭を下げた。
その演説にA組のメンバーは拍手をしたが、かぶりは改めて言われると少し恐ろしくなった。何に対する恐怖なのかは分からない。
それでもかぶりは、力が恐ろしかった。
(………誰もが、人を殺せる。)
「!」
ソレに1番初めに気がついたのは相澤先生だった。そして、生徒たちも次々に気がついた。だが、慌てる相澤先生とは裏腹に生徒たちのほとんどは状況を理解出来ないでいた。
「一塊になって動くな! 13号は生徒を守れ!」
叫ぶ相澤先生と、迅速に戦闘態勢をとる13号。
しかし、それを見ても生徒たちは理解できない。
当たり前だ。ここにいる多くは
だが、この日、かぶりたちはヒーローが何と戦っているのか目の当たりにすることになった。
「オールマイトがいないなんて……。子どもを殺せば来るのかな?」
——途方もない悪意だ。
「動くな! アレは
相澤先生の叫びで、生徒達はようやく理解出来た。しかし、理解出来ても何ができる訳でもない。だが、子どもとはいえ優秀な生徒だ。最低限の分析はできる。
学校のセンサーが反応していないこと、そして、現れた場所やタイミングなど、それらから相手が用意している事くらいは理解した。
「アホだが、バカじゃねぇ。用意周到に画策された奇襲だ。」
焦凍はそう評価を口にした。しかし、その口ぶりから焦っていることが伺える。しかし、そんな事は教師陣とて理解している。
そして、だからこそ焦っているのだ。
どうすれば生徒を守れるのか?
相手がどれだけ準備しているのか?
相澤先生は無数の思考を一気に処理する。だが、思い浮かぶ案はどれも高いリスクがある。それでも、状況を打開するために静かに合理的に判断を下す。
「13号、生徒を頼む!」
そう叫ぶと相澤先生1人飛び出し、無数の
「皆さん。彼が時間を稼いでいる間に避難を!」
13号の声に従い生徒達は避難を開始した。しかし、黒いモヤが相澤先生の一瞬のすきをついて1-Aメンバーの進行方向に移動してしまった。
その突然の出現に反応できたのは13号を除けば爆豪と切島だけだった。2人はモヤに一瞬で詰め寄り攻撃を放つが、届かない。
それどころか、モヤはA組を包むように広がる。
「皆さん!」
13号の声が響く。だが、それだけだ。
視界は黒く染まり、そして、それが晴れるとかぶりは知らないところにいた。
(ここは? 火災ゾーン?)
周囲は普通の街並みだ。しかし、燃えていた。
大火災と言えばいいのか、熱く気流が乱れている。
かぶりの探知能力は著しく低下してしまう。
そして、
「へへへ、女か」
「あー、ガキじゃねぇか!」
「いや、高校の時点でそうだろ」
「それな」
かぶりを囲うように
かぶりのどうでもいい情報
髪は幼少期、白混じりの黒でした。
ラップとダジャレの区別がイマイチついていないが、なぜかフリースタイルラップは異様に上手い