"個性"ゴキブリ    作:ゴッキー

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遅くなりました。
かぐや様を大人買いをしたのが理由です


ガチンコバトル 前編

気がついたら、騎馬戦で3位でした。以上。

 

かぶりには()()としか言いようが無かった。なんとなく騎馬戦に参加したようなふわふわした記憶はあるが、まるで霧がかかっているようで、何も分からない。夢の記憶を思い出そうとしているようだ。

 

「ご苦労様」

 

そう口にして去る心操の背中を見た。彼は同じ騎馬戦のチームで唯一混乱しておらず、さも当然のように振る舞っている。そこで、ふと最後にハッキリと覚えているのは彼の言葉に返事をした時だと思い至った。

 

(そうか、もしかしたら……)

 

「……………あ、青山くん。」

 

かぶりは同じチームだった事になっている青山の方を見た。彼も混乱しているのか周りをキョロキョロと見ている。もう1人、おそらくB組の人もいるが、かぶりにはバイト中ならともかくとして知らない人に話しかけられるほど勇気はない。

 

「な、なんだい?」

 

「そ、その、もしかして青山くんも気がついたら終わってたのかなって?」

 

その質問に青山も心操に話しかけられたタイミングで記憶が途切れているという。その後、自ら話に入ってきたB組の庄田二連撃も同じだと言う。そこから3人はおのずと同じ結論に至った。

 

(人を操る系の"個性"……。多分、トリガーは返事をすること。)

 

初見殺しにも程がある強"個性"だ。

気がついたら何もかも終わっていた。そんな悔しさが心の底から込み上げてきた。次に進めるのは上位4チームのみだが、進む資格なんてない。そんな思考がかぶりによぎるが、しかし、この場はチャンスだ。

体育祭で活躍すれば、ヒーローとしてデビューする前から名前が売れるし、有名なヒーローのサイドキックとして経験も積めるかもしれない。

こんなチャンスわざわざ捨てることなんて出来ない。

 

「……ずるいなぁ。私」

 

そのかぶりの呟きはプレゼントマイクの昼休憩を告げる放送にかき消された。

 

 

ともあれ、昼休憩となったため1年A組の控室でお弁当を食べる事にした。控室に着くとすでにA組メンバーは響香しか居なかった。おそらく他の人は昼食を食べに行ったのだろう。

 

「あ、沖、最終種目出場おめでとう。」

 

「うん、ありがとう……。」

 

しかし、おめでとうと言われてもかぶりにとって何をした訳でもない。ただ気がついたら終わっていただけだ。最終種目に出場すること自体に罪悪感を感じているのだから素直に喜べるわけが無く、明らかに暗い表情で返した。

そんな様子のかぶりに響香は少し心配になった。そもそも、騎馬戦で青山はともかくとして全く知らない2人とチームを組んでいた事が意外だったのだ。()()()()()

それに相まって今の様子だ。何かあったんじゃ無いかと心配になってしまった。

 

「なにかあったの?」

 

響香のその言葉にかぶりはギクリとした。しかし、別段隠している事でも無いので、騎馬戦のことを一通り話した。その話を聞いて耳郎は少し微妙な表情をした後に口を開いた。

 

「………確かに手放しで喜べないね。」

 

「………うん。何もしてないのに、………出場して良いのかなって思っちゃうんだ。みんな、頑張っているのに……。ズル、見たいで……」

 

その話を聴き響香は、確かに仮に自分も同じ立場ならそう考えると思った。何もしてないのに次に進めるなんて、ズルをしているみたいで嫌だろう。しかし、人というのは不思議なもので友人という立場だと全く別の答えになってしまう。

 

「でも、出るべきだよ。こんなチャンス、なかなか無いし。それに、うまく言えないけど、負けたウチからすると、せっかく手に入れたチャンスを自分から捨てる方がズルい、気がする。運でもなんでも、勝ち残ったんだから出るべきだよ。」

 

響香の言葉は紛れもない本音だった。偶然とは言え手に入れたチャンスを捨てるなんて、負けた側である彼女からしたら我慢ならなかった。しかし、それ以上に友人としてかぶりには晴れ舞台に出て欲しかった。

せっかく掴んだチャンスを捨てないで欲しいという、友人として当たり前の思いだ。

 

「確かに、沖が辞退すれば別の人が出れるかもしれない。けど、それだって沖と同じただの運だよ。だったら私は沖に勝って欲しい。」

 

「………そう、だね。うん、ありがとう。」

 

1人で悩んではいたが響香から出るべきだと言われ、気持ちがずっと楽になった。確かにズルのようだが、勝ち取ったのだから、たとえ運でも誰かを負かしてここにいるのだから、せめて最後まで全力で戦おうとかぶりはそう思った。

 

と、その時、控室の扉が勢いよく開かれ、A組の副委員長である八百万百が入ってきた。

 

「お二人とも、良かった。ここにいらしたのですね? 実は……」

 

そこで百は衝撃的な事を言い放った。

 

 

 

『どうした?A組女子!』

 

プレゼントマイクによる盛大なツッコミが放たれた。それもそのはずだ、なんとA組の女子達全員がもれなくチアガールの格好をしているのだ。

 

「………何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの……」

 

崩れ落ちる百の言葉でA組メンバーはだいたいのことを察した。元々は百から、午後は応援合戦をやるからチアガールになる必要があると聞いてこの格好となった。

しかし、それは全て峰田と上鳴による嘘だったのである。この2人はチアガールがみたいがためだけに、こんな手の込んだ悪戯をしたのである。本当にアホである。

 

「いいじゃん!やったろ!」

 

意外にもノリノリな葉隠を見て、かぶりは小さく息を吐いた。

 

(…………。出ると決めたんだ。悩んでも仕方ない!)

 

「………うん、や、やったろ!」

 

緊張をほぐすためにポンポン振り始めると、時間になったのかプレゼントマイクの声が響いた。

 

『最終種目は総勢16名によるトーナメント形式のガチバトルだ!』

 

最終種目は1対1のガチバトルである。組み合わせはくじ引きにより決まる。種目自体はレクリエーションの後におこなわれ、最終種目参加者はレクリエーションへの参加は自由だ。

 

「それじゃあ、1位チームから順番にクジを引いてちょうだい」

 

ミッドナイトの言葉で順番にクジを引き始めた。この組み合わせはかなり重要だ。苦手な"個性"の人と序盤に当たるのと、最後まで当たらないのとで天と地ほどの差がある。仮に勝己などなら『どっちにしろ倒せば問題ねぇ』などと言いそうなものだが、かぶりも含めた大多数の人にとってそうではない。

しかし、参加者の中で1人だけ全く別のことを考えている生徒がいた。かぶりと同じ騎馬戦のチームだったB組の庄田である。彼も彼女と同じように出場自体に罪悪感を覚えており、本当に参加すべきなのか悩んでいた。しかし、そのまま昼休憩が終わってしまったのだ。

仮にチームメイトの()()が辞退を口にしていればそれに便乗していただろう。けれども誰もそんなことはせずに、彼は悩んだままくじを引いた。

 

「組はこうなりました!」

 

ミッドナイトの声と共にトーナメント表が公開された。かぶり達、心操チームの第一試合は、

心操vs出久

かぶりvs上鳴

庄田vs切島

青山vs芦戸

である。

 

(上鳴くんの"個性"は、不味いな絶対に回避出来ない。発動前に倒すか、気合いで耐えるか……。耐えれるかな?)

 

そう思考を巡らせていると、心操が出久に近づいていることに気がついた。かぶりは心操の"個性"を言いふらすつもりはない。確かに思うところはあるが、それはそれとして、彼も全力で勝ちに来ているだけだとも分かっている。しかし、試合前から仕掛けるのは良くないと彼女は思ったのだ。

 

「し、心操くん!」

 

かぶりは出久と心操の間に割って入った。その行動に、心操は少し驚いた表情をして、出久は何が起きているのか理解していないため急に現れた2人にただ驚いているだけだ。

 

「………あなたの"個性"について、わざわざ、彼に、伝えたりは、しません。でも、まだ、試合は始まっていません。」

 

その言葉で心操はため息をついて去っていった。それを見てかぶりもその場を後にした。

 

(えぇ、なんだったんだ?)

 

そして、その場には全く状況を理解できないままの出久だけが残された。

とはいえ、束の間の休息が始まった。最終種目に参加する人たちはそれぞれ、様々な時間を過ごしていた。

休息したり、精神統一をしたり、ひととき緊張を忘れたり色々だ。

もっぱら、かぶりは緊張を忘れようとしていた。

チアガールの格好は恥ずかしいのか響香などは座り込んでしまっていたが、かぶりはその傍で楽しげにポンポンを振る。お茶子や三奈のように思いっきり踊ってみたいとも思うが、さすがにそれは恥ずかしい。

 

(あ、踊るコンドル寝込んどる。……いや、意味わからないか)

 

とはいえ、束の間の休息は一気に過ぎ去り最終種目となった。1戦目の出久と心操の戦いでは、危ない面もあったが"個性"の暴発で洗脳を解いて出久の勝利。

2戦目の轟と瀬呂の戦いでは、轟の圧勝だった。

 

そして、3戦目はかぶりと上鳴の戦いだ。彼の"個性"は回避不能の広範囲攻撃だ。かぶりにとって苦手な相手である。

 

(だめだ、色々考えたけど、ゴリ押ししか思い浮かばない!)

 

上鳴の放電対策を考えたが結局思い浮かんだのは

 

1.使う前に倒す。

2.使われたら根性で耐える

 

の2つだけである。

というか、そもそも、彼女は作戦なんて練ったことなんてなく、USJの時も結局はゴリ押しで勝っている。いきなり作戦なんて考えても思い浮かぶはずがない。

 

『なんか、目立たないが地味に好成績! 沖かぶり! (バーサス) スパーキングキリングボーイ! 上鳴電気!』

 

壇上に登るとプレゼントマイクによる紹介が入る。それを聴きながらかぶりは体操着の上着を脱ぎ捨て四つん這いとなる。歓声が響き渡るが、今の彼女の耳には入っていない。

 

「そうだ、沖。体育祭終わったら飯とかどうよ?」

 

少し余裕そうに話しかけてくる上鳴にかぶりは、確かに自分の勝ち目は薄いかもしれないと思った。彼の放電は強力だ。実際、先にブッパされればそれでおしまい。ゴキブリの生命力でも耐えられるか分からない。耐えられるかもしれないが、絶対にダメージは次へ持ち越されるだろう。

しかし、こうも余裕でいられると幾らかぶりでも気分は良くないものだ。

 

「…………()()、奢ってくれるなら」

 

「お、いいぜ!」

 

(A組全員誘ったら泣くかな? 耳郎さんと、芦戸さんくらいにしとこう……。)

 

と、そんなことを考えていたのを中断し、全神経を初動だけに集中させる。

単純な長距離の移動速度だけでいえば、スピードが乗って仕舞えば飯田の足には敵わないし、身体が温まり汗をかいた爆豪にも負ける可能性がある。

だが、ゴキブリの素早さは移動速度ではない、敏捷性、瞬発力である。

 

『スタート!』

 

瞬間、かぶりは上鳴の目の前にいた。

 

「うりゃああ!!」

 

「へ?」

 

そして、全力で顎を蹴り上げた。上鳴はガードすることも出来ずに宙を舞う。上鳴は全力で放電を放とうとするが、すでに彼女は目の前に追いついており顔面に目掛けて回し蹴りを放った。

上鳴は放電しながら弧を描いて場外へと飛んでいった。

 

瞬殺だ。

 

あまりの光景に会場は静寂が訪れた。その静寂を破ったのは実況のプレゼントマイクである。

 

『瞬殺!もはやあの加速はズルイな!って、おい沖!なんだその頭!?』

 

かぶりの髪の毛は毬栗のように逆立っており、パチパチと帯電してしまっていた。彼の全力でないが電撃を浴びてしまったせいだ。

それを手櫛で直そうとするが、全く直らない。

 

(危なかった……。後少しでも遅かったらもっと強い電撃を喰らってた?)

 

場外でピクピクしている上鳴を見て、かぶりは息をついた。一見すると瞬殺で余裕そうに見えるが、意外とギリギリな闘いであった。後ほんの少しでも上鳴が早ければ全力の放電をかぶりは喰らっていた。おそらく、それを理解できた人は2人の"個性"を知り、プロとしての視点を持っている相澤先生だけだろう。

 

「でも、勝てた。」

 

「2回戦進出! 沖さん!!」

 

ミッドナイトの声を聴きながらかぶりは小さくガッツポーズをした。

客席に戻ると耳郎が待っておりかぶりの分の席を確保してくれていた。

 

「お疲れ様。2回戦進出おめでとう」

 

「ありがとう………。芦戸さんは?」

 

「控室。飯田(これ)の次だから。」

 

トーナメント表を見ると、飯田と発目の次が三奈と青山との闘いだ。今頃、控室で精神統一をしているのだろうか?と、かぶりは思った。

 

「それにしても、上鳴のやつ……。手も足も出ないで……ププ…」

 

「その言い方酷くね?!」

 

楽しそうに笑う耳郎に、いつのまにかやって来ていた上鳴が盛大にツッコミを入れた。彼の顎には大きな絆創膏が貼られている。

 

「か、上鳴くん。もう大丈夫……。なの?」

 

「おお! もう問題なし!」

 

そうこうしているうちに次の試合が始まった。

しかし、試合というか宣伝みたいなものだった。発目が作ったアイテムを飯田を使って紹介する。まるで、通販番組だ。しかし、彼女の扱うアイテムは全て素人から見たら凄いもので、飯田が完全に振り回されている。もしかしたら、彼女が本気で闘っていればかなり良い成績を残せるのではないだろうか? かぶりはそう思ったが、宣伝が終わると発目は満足げにリタイアして試合が終わった

 

「…………宣伝?」

 

耳郎の呟いはおそらく、会場全員が共感するだろう。

その後、戦いは順調に進んだ。

三奈と青山の戦いは三奈がベルトを壊して、顎に一発入れてKO勝ち。

八百万と常闇の戦いは常闇の圧勝であった。

切島と庄田の対決では、切島が硬化を解いたタイミングで()()()を起こしたりしたが、切島が硬化し続けてゴリ押しで勝った。

勝己対お茶子は、善戦するも勝己が勝った。この時の彼のヒールっぷりは流石にかぶりも可哀想になった。試合中に相澤先生の言った通り、力を認めるからこその全力なのだ。かぶりからしてみれば、先の八百万と常闇の戦いのように身体を気遣われるよりも、全力で潰しに来てくれた方が嬉しい。全力で戦うのだから、全力で応えてほしいと思うのは当然のことだ。

そうして、直前の轟と出久の試合が始まるタイミングで控室に移動し、1人で対策を練りはじめた。元々、1人でいることが多かったせいもあるのか、集中したい時は1人になりたいのである。

 

(飯田くん、スピードを出すと小回りは効かない)

 

というよりも、全速力を出しているときの急停止や、急な方向転換はかぶりのオハコである。それと比べられては流石の飯田もたまったものではないだろう。

 

(けど、スピードに乗せたらダメだ。)

 

最高速度は飯田の方が速い。というか比較にならない。そのため、スピードに乗せてしまえば小回りとか以前に速さで上から殴られかねない。

相手をスピードに乗せずに戦う。これが彼女が考える飯田に勝てる方法だ。

 

「………時間だ。」

 

フィールドへと向かうと、かぶりはすざましい歓声に包まれた。前の試合で上鳴を瞬殺したかぶりと、ヒーロー一家の一員である飯田、この2つのカードは意外にも注目を集めていた。

しかし、前の試合同様に歓声を気にしている余裕はない。全神経を飯田に集中させる。

 

『どちらもスピードタイプ! どんな戦いになるか?! 沖かぶり(バーサス)飯田天哉!!』

 

飯田はいつでも走り出せるように、かぶりも四つん這いとなり動けるように構える。会場全体に緊張が走る。

 

『スタート!』

 

プレゼントマイクの声と共に両方同時に動いた。速いのは明らかにかぶりだ。ゴキブリの瞬発力である。しかし、先に攻撃を仕掛けたのは飯田であった。

それは、かぶりの動きを予想しての動きで、彼女が目の前に来るタイミングに合わせて蹴りを放ったのだ。しかし、かぶりは急停止することでタイミングをずらして回避した。

 

(………この蹴りっ、不味い!)

 

そこで、その蹴りがかぶりの動きを止める為の布石であることに気がついた。飯田は既にかぶりの背後に回り込み、背中から両腕で羽交い締めにしようとした。

 

「——っ!」

 

だが、かぶりは一気に再加速して飯田から逃れ、距離を取った。そして、一度息を吐いてから叫んだ。

 

「……い……飯田くん! 今の、拘束じゃ、なくて、攻撃なら間に合ったんじゃない? た、多分、蹴りなら回避、間に合わなかった。」

 

あのタイミングで蹴りを放たれていれば回避不可能でモロに喰らっていた。しかし、飯田は攻撃しなかった。明らかに不自然である。それが、無性に腹が立った。

ふつふつと溢れる想いを堪えつつ言葉を続ける。

 

「………まさか、女の子相手だから、全力で攻撃できないとか考えてる?」

 

「…………っ」

 

かぶりの言っていることは図星だった。例え試合でも女の子相手に暴力を振るうのは憚られたのだ。これは彼の正義感からくる想いであり、尊重すべき素晴らしいものだ。

だが、かぶりが発する言葉の一つひとつに、今までの彼女からは考えられない怒気が込められていた。それだけで、彼の行動を彼女がどう感じたのか明白である。

 

「私だってヒーローを目指してる! ここに立ってるんだから対等のはずだ!」

 

「……っ」

 

そう言葉を続けるかぶりに、飯田は頭をハンマーで叩かれたかのように感じた。確かに()()だ。対等なのだ。それなのに身体を慮るという理由で本気で攻撃しなかった。本来、そんなことはあってはならない。本気で挑んでくる相手には、本気で返すべきなのだ。

 

(そうか、だから、爆豪くんは……)

 

飯田はふと、勝己と麗日の戦いを思い出した。勝己が相手の思いを汲み取ったりしていたかは微妙なところというか、ほぼ間違いなく有り得ないことだが、確かに麗日にとっては手を抜かれるより嬉しかっただろう。

 

「申し訳ない!君のいう通りだ! 僕は自分の考えだけで、君の想いを考えていなかった。」

 

飯田はそう叫んで深々と頭を下げた。そして、続いてミッドナイトの方に身体を向けた。

 

「というわけで、もう一度試合をやり直していただきたい!沖くんもそれで良いかな?」

 

「え?は、はい」

 

(あれ? そうなるの?)

 

自分で言い出しておいてかぶりはいきなりの展開についていけなくなった。本気を出して貰えるのは嬉しいし、手を抜かれるのに腹が立っていたのは事実だが、試合のやり直しは予想外だ。

 

(けど、咄嗟に返事しちゃったけど、試合のやり直しなんてできるの?)

 

「好み!! 許可します!!」

 

(良いんだ!)

 

ミッドナイトのまさかの許可にかぶりは驚いたが、飯田は頭を下げてお礼を言っていた。ともかくとして、試合は仕切り直されることになった。開始と同じ位置に戻りお互いに構え直す。

 

「沖くん! 君の本気に応えるために、僕も全力で行く! 10秒だ!この試合の全てを10秒にかける!」

 

「はじめ!」

 

ミッドナイトが鞭を振り上げた瞬間、飯田はかぶりの目の前に移動し、蹴り飛ばしていた。上鳴とかぶりの試合を彷彿とさせる展開だが、そのスピードはまるで違う。

 

——レシプロバースト

 

飯田の"個性"であるエンジンの回転数を操作し、爆発的な加速をする技だ。しかし、およそ10秒間しか維持することができず、過ぎるとエンストしてしまう。

 

(探知出来ても間に合わない!)

 

かぶりは飯田の速度にほとんど対応出来ないでいた。

蹴りにより吹き飛ばされたかぶりは咄嗟に羽をばたつかせて、反動を殺して着地する。しかし、既に飯田はかぶりの目の前に移動している。

 

(蹴られる!)

 

探知は出来るが回避は間に合わない。ギリギリ両腕でガードをした。地面と脚を吸着させていたため、今度は吹き飛ばなかったが両腕が痺れた。

 

(負けたく無い!)

 

その想いとは裏腹にかぶりは防戦一方であった。飯田が放つ攻撃のほとんどは回避なんて出来ず、腕でガードするのがやっとだ。それどころか何発かモロに喰らってしまう。動きは分かるが間に合わない。

素早さだけで、上から殴られている状況だ。

そのせいで、身体のあちこちは痛み、両腕は痺れている。このままではジリ貧だ。

もう後は無い。あと数発も喰らわないうちに場外へと追い出されてしまうだろう。

 

(だったら!)

 

かぶりは防御と回避を諦めた。

足を地面に吸着させ、飯田の蹴りのタイミングに合わせて回し蹴りを放った。当然、飯田の方が速く、先にかぶりの顔面に直撃する。ノーガードで受けたそのダメージは大きく一瞬、かぶりの思考を停止させた。だが、その程度で彼女の動きは止まらない。

彼女の蹴りは飯田の脇腹へと直撃し、少しよろめかせた。かぶりはその隙に四つん這いとなり、一旦、距離を取ろうとする。

 

(もう時間が無い!)

 

しかし、飯田は()()()()()とすぐに追いかける。レシプロの制限時間は約10秒だ。もうほとんど残っていない。ここで距離を置かれれば勝ち目は無くなる。

 

「これで!!決める!!」

 

飯田はかぶりに追いつくと、脳天への踵落としを決める。モロに決まったその一撃で彼女は動かなくなった。しかし、飯田は今までの授業で彼女の異様なタフさを知っている。彼はこのまま場外へと持っていこうと彼女を抱えようとする。

 

その時、

 

「————っ!」

 

かぶりは飯田に足払いを放った。飯田はジャンプしてかわすが、空中では身動きが取れない。その隙に彼女は更に追撃を仕掛ける。飛翔して飯田の頭部目掛けた踵落とし。

 

——踵半蟲輪(ゴキアーク)

 

ミルコの技のオマージュ。その威力は入試のロボットを何体も倒したほどだ。飯田は回避も防御も間に合わないと、その攻撃に蹴りをぶつけた。

脚と脚がぶつかり2人は痛みと共にお互いに離れた位置に吹き飛ばされた。その時、飯田のエンジンは限界を迎えた。

 

(まだ!まだ動いてくれ!!)

 

しかし、それでも意地で脚を動かした。今にも止まりそうなエンジンを無理やり回転させる。かぶりも着地して飯田に向けて這うように駆ける。2人の距離はみるみるうちに縮まるが、それと同時に飯田の脚も遅くなり、ついには止めてしまった。その様子にかぶりも止まった。

 

「え?」

 

かぶりは突然の行動に驚きを隠せなかった。しかし、悔しそうな表情をしている飯田を見てなんらかの事情があるのだと思い至った。

 

(そういえば、10秒とか言ってたっけ?)

 

「……僕の、負けだ。」

 

そう言う飯田にミッドナイトは小さく頷くと、勝者としてかぶりの名前を叫んだ。その声を聴きながら飯田は膝から崩れ落ちた。

そんな彼にかぶりはなんて声をかけていいか分からず、見ていることしか出来なかった。

 

 





どうでもいい情報

かぶりの使える技

1. 踵半蟲輪(ゴキアーク)
全力の踵落とし。ミルコの踵半月輪(ルナアーク)の真似である。
ミルコのは、(ネタバレになるので詳しくは伏せるが)なんかゴツイ感じのポットというか、でっけー機械をぶっ壊すのに使った。

2. 蟲墜蹴(ゴキフォール)
自身の下に向けて放つ蹴り。
ミルコの月墜蹴《ルナフォール》のオマージュ。ミルコは一撃でハイエンド脳無の頭部を破壊した。

3.探知能力
空気の振動を探知する。
技名をつけるタイミングを逃してしまった。
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